グレイグ頭蓋多指合指症候群(GCPS)

赤ちゃん

「グレイグ頭蓋多指合指症候群(GCPS)」という診断名を聞いたとき、そのあまりに長く複雑な名前に、多くのご家族は戸惑い、不安を感じられたことでしょう。

「頭蓋?」「多指?」「合指?」漢字からなんとなく想像はつくものの、具体的にどのような病気なのか、将来どうなるのか、インターネットで検索しても専門的な論文ばかりで、分かりやすい情報が少ないのが現状です。

まず安心してください。この症候群を持つ多くのお子様は、適切な治療を受けることで、運動機能も知能も問題なく成長し、通常の社会生活を送ることができます。

この記事では、この疾患について、医学的な背景から日々の生活、治療の流れまで、専門用語を噛み砕いて丁寧に解説していきます。

概要:どのような病気か

グレイグ頭蓋多指合指症候群(GCPS)は、生まれつき手足の形や頭の形に特徴が現れる先天性の疾患です。

名前が非常に長いですが、これは病気の特徴をそのまま組み合わせた言葉です。分解して理解すると、怖くありません。

名前の由来と意味

  • Greig(グレイグ): 1926年にこの病気を初めて詳しく報告した医師、David Middleton Greig(デビッド・ミドルトン・グレイグ)博士の名前です。
  • Cephalo(セファロ / 頭蓋): 頭の形に特徴があることを意味します(おでこが出ている、頭囲が大きめなど)。
  • Poly(ポリ / 多): 指の本数が多い「多指症(たししょう)」を意味します。
  • Syndactyly(シンダクティリー / 合指): 指同士がくっついている「合指症(ごうししょう)」を意味します。
  • Syndrome(シンドローム / 症候群): いくつかの特徴的な症状がセットで現れる病気のことです。

つまり、「手足の指が多くてくっついていて、頭の形に少し特徴がある病気」という意味です。

非常に稀な疾患(希少疾患)であり、正確な頻度は不明ですが、数万人に1人程度と考えられています。

主な症状

症状の現れ方は個人差が大きく、同じ家族内でも症状の重さが異なることがあります。ここでは代表的な3つの特徴について解説します。

1. 手足の特徴(多指症・合指症)

最も気づきやすい特徴です。

  • 多指症(たししょう):
    手や足の指が6本以上ある状態です。
    • 軸前性(じくぜんせい): 親指側に余分な指があるタイプ。GCPSではこちらが多い傾向にあります。
    • 軸後性(じくごせい): 小指側に余分な指があるタイプ。
  • 合指症(ごうししょう):
    隣り合う指同士が皮膚でくっついている状態です(水かきのような状態)。骨までくっついていることは稀で、多くは皮膚だけの結合(皮膚性合指)です。中指と薬指の間、または足の指の間によく見られます。
  • 幅広の親指:
    親指(または足の親指)が通常より少し太く、幅広に見えることがあります。

2. 頭部・顔貌の特徴

  • 大頭症(たいとうしょう):
    体のバランスに対して、頭のサイズ(頭囲)が少し大きめになる傾向があります。多くの場合、脳の機能には問題のない良性の大頭症です。
  • 前額部突出(ぜんがくぶとっしゅつ):
    おでこが広く、少し前に出ているような形をしています。
  • 眼間開離(がんかんかいり):
    両目の間隔が少し離れていることがあります。

3. 発達と知能(非常に重要)

ご家族が最も心配される点かと思いますが、GCPSの患者さんの知能は、通常は正常範囲です。

稀に軽度の発達の遅れが見られることもありますが、多くのお子様は普通級の学校に通い、社会人として自立した生活を送ります。

「頭が大きい」ことから脳の異常を心配されるかもしれませんが、重篤な脳奇形を伴うことは非常に稀です。

原因

「妊娠中の過ごし方が悪かったのではないか?」とご自身を責める親御さんがいらっしゃいますが、決して親のせいではありません。

GLI3遺伝子の変化

この病気の原因は、7番染色体にある「GLI3(グライ・スリー)」という遺伝子の変異(変化)であることが分かっています。

GLI3遺伝子は、胎児がお腹の中で成長する際に、手足の形を作ったり、頭の形を整えたりするための「指令役(転写因子)」として働く重要な遺伝子です。

この指令がうまく伝わらないことで、指の分離が不十分になったり、指が多く作られたりします。

遺伝のしくみ

  • 常染色体顕性遺伝(優性遺伝):
    性別に関係なく現れます。ご両親のどちらかがGCPSの場合、お子様に遺伝する確率は50%です。
  • 突然変異(de novo変異):
    ご両親は全くこの遺伝子変化を持っておらず、お子様の代で初めて偶然に変化が起きたケースも多く見られます。この場合、上の子や下の子(兄弟姉妹)に同じ病気が現れる確率は、一般の夫婦と同じく極めて低くなります。

診断と検査

通常、生まれた時の身体的特徴(手足や頭の形)から疑われ、以下のステップで診断されます。

1. 身体診察(臨床診断)

医師が手足の指の数や形、頭の大きさ、顔立ちなどを詳しく診察します。「多指」「合指」「大頭」の3つが揃っている場合、GCPSが強く疑われます。

2. 画像検査(レントゲン・MRI)

  • レントゲン:
    手足の骨の状態を確認します。余分な指に骨があるか、どの骨から分岐しているかなどを調べ、手術の計画を立てるためにも重要です。
  • CT・MRI:
    頭が大きい場合、念のため脳の中に水が溜まっていないか(水頭症など)、脳の構造に異常がないかを確認するために行われることがあります。多くの場合、「異常なし」または「良性の拡大」と診断されます。

3. 遺伝学的検査

血液を採取し、DNAを調べてGLI3遺伝子に変異があるかを確認します。これにより確定診断となります。

また、似たような症状を持つ他の病気(パリスター・ホール症候群やアクロカローザル症候群など)と区別するためにも役立ちます。

医者

治療と管理

GCPSの原因である遺伝子の変化そのものを治す治療法はありません。治療の目的は、「手足の機能を良くすること」「見た目を整えること」です。

1. 手足の手術(形成外科・整形外科)

多指症や合指症に対しては、手術による修正が行われます。

  • 多指症の手術:
    余分な指を切除し、残す指の形や機能を整えます。
    • 時期: 手の指の場合、指の機能発達が盛んになる前の1歳前後に行うのが一般的です。足の指の場合は、靴を履いて歩き始める時期(1歳頃)までに検討します。
    • 方法: 単に切り取るだけでなく、靭帯や筋肉のバランスを調整する繊細な手術になります。
  • 合指症の手術:
    くっついている指の間を切り離します。
    • 時期: くっつき方や指の長さの違い(成長に伴う変形のリスク)によりますが、1歳〜2歳頃から小学校入学前までに行われることが多いです。
    • 方法: 指の間の皮膚が足りないことが多いため、体の他の場所(足の付け根など)から皮膚を移植(植皮)することがあります。

2. 頭部のフォローアップ

定期的な健診で頭囲(頭の周りの長さ)を測定し、成長曲線に沿って大きくなっているかを確認します。

極めて稀ですが、水頭症などの兆候がある場合は脳神経外科的な対応が必要になることもありますが、ほとんどは経過観察のみで問題ありません。

3. 発達のサポート

基本的には発達は正常ですが、指の手術前後で手の使い方がぎこちない場合などは、作業療法(OT)などのリハビリテーションを行うことで、ボタンかけや鉛筆の操作などの微細運動をサポートします。

日々の生活での工夫

  • 靴選び:
    足に多指症がある場合、手術までの間は既製品の靴が窮屈で履けないことがあります。幅広の靴を選んだり、柔らかい素材の靴を選んだりする工夫が必要です。
  • 学校生活:
    手術の傷跡や指の形について、お子様自身が気にしたり、お友達から聞かれたりすることもあるかもしれません。
    「生まれつき、ラッキーで指がたくさんあったんだよ。今は手術して直したんだ」といったように、お子様が自信を持って説明できるようなポジティブな言葉がけを、ご家族で話し合っておくと良いでしょう。
  • 定期検診:
    手術が終わった後も、骨の成長とともに指が曲がってきたりしないか、成長期が終わるまで年1回程度の定期チェックを受けることが大切です。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  • GCPSは、GLI3遺伝子の変化による、手足の指の異常と大頭症を特徴とする先天性疾患です。
  • 主な症状は、多指症、合指症、おでこの突出、大頭症です。
  • 知能・生命予後は、一般的に良好で、通常通りの寿命と生活が期待できます。
  • 原因は遺伝子の変化ですが、親のせいで起こるものではありません。
  • 治療は、1歳前後を目安に行う手足の形成手術が中心となります。

家族へのメッセージ:未来は明るい

診断を受けた直後は、お子様の小さくて可愛い手足を見て、「手術なんて痛い思いをさせるのは可哀想だ」「将来いじめられないだろうか」と、胸が締め付けられる思いをするかもしれません。

しかし、形成外科や手外科の技術は進歩しています。適切な時期に手術を受けることで、手足の機能は十分に獲得でき、他の子と同じように絵を描き、スポーツをし、楽器を演奏することもできるようになります。

そして何より、この症候群のお子様たちの多くは、明るく元気に成長し、社会で活躍しています。

希少疾患であるため、身近に同じ悩みを持つ人がおらず、孤独を感じることもあるでしょう。

専門の医療機関(こども病院や大学病院の遺伝診療科・形成外科)には、たくさんの経験を持つ医師や看護師、遺伝カウンセラーがいます。不安なこと、些細な疑問は、遠慮なく相談してください。

お子様の「個性」の一部である手や頭の形。それを含めて、どうか今のありのままのお子様を愛してあげてください。

医療と家族の愛情があれば、お子様の未来は決して暗いものではありません。一歩ずつ、成長を見守っていきましょう。

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