概要
ヒトアルギニノスクシネートシンテターゼ欠損症は、尿素回路の構成酵素であるアルギニノスクシネートシンテターゼ(argininosuccinate synthetase; ASS)の欠損または活性低下によって生じる先天代謝異常症です。本酵素の機能障害によりアンモニアを尿素として解毒・排泄する経路が遮断され、高アンモニア血症を呈し、中枢神経系を中心に重篤な障害を引き起こします。
本疾患は重症新生児発症型から軽症遅発型まで臨床的スペクトラムが広く、同一遺伝子変異であっても発症時期・重症度には大きな個人差が認められます。
疫学
世界的に稀な疾患であり、発生頻度は出生約1/50,000〜1/100,000と推定されています。日本を含む世界各地で報告されており、男女差は認められません。常染色体劣性遺伝形式をとります。
新生児マススクリーニングの導入により、無症候期に診断される症例も増加しています。
原因
原因
本疾患は ASS1遺伝子の病的変異 により引き起こされます。ASS1遺伝子は9番染色体短腕(9q34.1)に位置し、アルギニノスクシネートシンテターゼをコードしています。
酵素機能
本酵素は尿素回路の第3段階を担い、シトルリンとアスパラギン酸からアルギニノスクシネートを合成します。この反応が障害されることで:
- アンモニアの解毒が停止
- 血中アンモニアおよびシトルリンが蓄積
- 神経毒性による脳浮腫・意識障害が生じる
と考えられています。
遺伝形式は 常染色体劣性遺伝 です。
ASS1遺伝子は当院のN-advance FM+プラン・N-advance GM+プランで検査可能です。
症状
発症時期と臨床像
新生児発症型(重症型)
生後数日以内に以下を呈します。
- 哺乳不良、嘔吐
- 嗜眠、低体温、呼吸障害
- けいれん、意識障害、昏睡
迅速な治療が行われない場合、致死的となることがあります。
遅発型・軽症型
- 成長障害
- 発達遅滞、学習障害
- 行動異常、易刺激性
- 繰り返す頭痛・嘔吐・意識変容
臓器別障害
- 中枢神経系:意識障害、脳浮腫、知的障害
- 消化器:嘔吐、食欲不振
- 精神神経:情緒不安定、錯乱、精神症状
診断
1. 生化学的診断
- 血中アンモニア高値
- 血中シトルリン高値
- 尿中オロト酸低値(OTC欠損症との鑑別)
2. 新生児マススクリーニング
血中アミノ酸分析により高シトルリン血症として拾い上げられます。
3. 遺伝子診断
ASS1遺伝子解析による確定診断が行われます。家族内保因者診断、出生前診断の検討にも有用です。
治療
根治療法はなく、高アンモニア血症の予防と急性発作の管理が治療の中心となります。
慢性期管理
- 低タンパク食
- 窒素捕捉薬(フェニル酪酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム)
- アルギニン補充
急性期治療
- 緊急透析によるアンモニア除去
- 高カロリー輸液による異化抑制
根治的治療
- 重症例では肝移植が検討されます。
まとめ
ヒトアルギニノスクシネートシンテターゼ欠損症はASS1遺伝子異常による尿素回路障害であり、高アンモニア血症による神経障害を呈する先天代謝異常症です。遺伝子診断と新生児期からの管理が予後改善に極めて重要です。
