ランガー・ギデオン症候群(LGS)について:特徴・原因・生活のサポートまで

医者

お子様が「ランガー・ギデオン症候群(Langer-Giedion Syndrome)」、あるいは「毛髪・鼻・指節骨症候群 II型(TRPS II)」と診断されたご家族の皆様へ。 聞き慣れない病名に、大きな不安や戸惑いを感じていらっしゃるかもしれません。

このページでは、この病気がどのようなものなのか、どのような症状が現れるのか、そしてこれからどのように向き合っていけばよいのかを、医学的な情報を噛み砕いて詳しく解説します。この情報が、お子様の理解とこれからの生活の一助となることを願っています。

1. 概要:ランガー・ギデオン症候群とは

どのような病気ですか?

ランガー・ギデオン症候群(LGS)は、生まれつき特定の遺伝子の一部が失われている(欠失している)ことによって起こる病気です。

医学的には**「隣接遺伝子症候群(りんせついでんししょうこうぐん)」**の一つに分類されます。これは、染色体上の隣り合っているいくつかの遺伝子がまとめて失われることで、それぞれの遺伝子が担当していた機能に影響が出ることにより、複数の特徴的な症状が同時に現れる状態を指します。

別の呼び方

  • TRPS II(Trichorhinophalangeal Syndrome Type II)
    • 日本語では「毛髪・鼻・指節骨(もうはつ・び・しせつこつ)症候群 II型」と呼ばれます。
    • この名前は、特徴的な症状が出る場所(髪の毛、鼻、指の骨)を表しています。

頻度について

非常に稀な疾患(希少疾患)であり、正確な頻度はわかっていませんが、世界中で報告例が蓄積されています。性別による発症率の差はほとんどありません。

2. 原因:なぜこの病気が起こるのか

染色体の変化

私たちの体を作る設計図である「染色体(せんしょくたい)」の、8番染色体の一部に変化があることが原因です。 具体的には、8番染色体の長腕(長い方の腕)の「q24.1」という場所にある遺伝物質が微細に欠失(なくなってしまうこと)しています。

2つの重要な遺伝子

この欠失範囲には、LGSの主な症状に関わる2つの重要な遺伝子が含まれています。これらが同時に失われることで、LGS特有の症状が現れます。

  1. TRPS1 遺伝子
    • 役割: 髪の毛や顔の形成、骨の成長に関わります。
    • 影響: この遺伝子が欠失すると、薄い髪の毛、特徴的な顔立ち、指の骨の変化などが現れます。
  2. EXT1 遺伝子
    • 役割: 骨の表面にある軟骨の成長を制御する役割があります。
    • 影響: この遺伝子が欠失すると、「多発性外骨腫(たはつせいがいこつしゅ)」と呼ばれる、骨のこぶのようなものができやすくなります。

遺伝するのでしょうか?

多くのケースでは、両親からの遺伝ではなく、受精卵ができるときや初期の細胞分裂のときに偶然起こる変化(突然変異)です。これを医学用語で**「de novo(デ・ノボ)変異」**と呼びます。 したがって、ご両親のどちらかが悪いわけでも、妊娠中の過ごし方が原因でもありません。 ただし、稀に親御さんが同じ染色体の変化を持っている場合もあるため、次の妊娠を考える際などは、遺伝カウンセリングで相談することが推奨されます。

3. 主な症状:身体的特徴と発達

LGSの症状は個人差が大きく、すべてのお子様にすべての症状が出るわけではありません。ここでは代表的な特徴を挙げます。

① お顔と髪の毛の特徴(TRPS1遺伝子の影響)

生まれたときから、あるいは成長とともに、愛らしい特徴的なお顔立ちが見られるようになります。

  • 髪の毛: 量が少なく、細いことが多いです(疎毛)。成長とともに改善することもあります。
  • 眉毛: 特に外側(耳に近い方)が薄くなる傾向があります。
  • 鼻: 鼻先が少し丸く、小鼻がしっかりしている形状(梨状鼻:りじょうび)が特徴です。
  • 人中(じんちゅう): 鼻の下から上唇までの溝が長く、平坦なことがあります。
  • 耳: 耳が大きく、少し立ち耳のように見えることがあります。

② 骨と関節の特徴

骨の成長に関わる症状は、LGSの最も大きな特徴の一つです。

  • 多発性外骨腫(たはつせいがいこつしゅ):EXT1遺伝子の影響
    • 概要: 骨の表面に、良性の「骨の出っ張り(こぶ)」ができる症状です。
    • 時期: 通常、生後すぐには目立たず、幼児期から学童期(5歳前後~)にかけて徐々に現れ始めます。
    • 場所: 肋骨、肩甲骨、手足の長い骨の端などによくできます。
    • 影響: ほとんどは良性ですが、こぶが大きくなると、痛みが出たり、関節の動きを制限したり、神経を圧迫したりすることがあります。
  • 指の骨の変化(円錐骨端:えんすいこったん)
    • 手のレントゲンを撮ると、指の関節部分の骨が三角形(円錐状)に見える特徴があります。
    • これにより、指が少し短くなったり、関節が曲がったりすることがあります。
  • 低身長
    • 同年代のお子さんと比べて、身長の伸びが緩やかなことが多く、小柄な体格になる傾向があります。

③ 発達と知的な面

  • 知的発達: 軽度から中等度の知的障害を伴うことが多いとされていますが、その程度は非常に幅広いです。言葉の遅れが見られることが一般的です。
  • 運動発達: 筋肉の張りが弱い(低緊張)ことがあり、首のすわりや歩き始めが少しゆっくりになることがあります。

④ その他の症状

  • 皮膚: 皮膚が余っているように見えたり、たるみやすかったりすることがあります。
  • 関節: 関節が柔らかく、可動域が広い(過伸展)ことがあります。
  • 聴覚: 難聴を合併することがあります。
  • 腎臓・尿路系: 稀に、尿管の構造などに特徴が見られることがあります。

4. 診断と検査

診断は、身体的な特徴の確認と、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。

身体所見の確認

医師が、特徴的な顔立ち、髪の毛の様子、耳の形などを丁寧に診察します。

画像検査(レントゲン)

  • 手足のレントゲン: 指の骨の特徴的な形(円錐骨端)がないかを確認します。
  • 全身の骨: 幼児期以降であれば、外骨腫(骨のこぶ)の有無を確認します。

遺伝学的検査

確定診断のために行われます。血液を採取して、染色体や遺伝子を詳しく調べます。

  • 染色体マイクロアレイ検査(CMA): 現在、最も一般的に行われる検査です。染色体の非常に細かい欠失(マイクロ欠失)を見つけることができます。8番染色体のq24.1領域に欠失があることが確認されれば、診断が確定します。
  • FISH法(フィッシュほう): 特定の領域の欠失をピンポイントで調べる検査です。

5. 治療と管理:これからのサポート

現在の医学では、失われた遺伝子を元に戻す治療法はありません。 しかし、現れる症状の一つひとつに対して適切なケアを行う「対症療法(たいしょうりょうほう)」を行うことで、お子様が快適に生活し、持っている力を最大限に伸ばすことができます。

① 整形外科的な管理(骨のケア)

これが最も重要になります。

  • 定期的なチェック: 外骨腫ができていないか、大きくなっていないか、痛みはないかを定期的にレントゲンなどで確認します。
  • 手術: 外骨腫が大きくなりすぎて痛みが出たり、関節の動きを邪魔したり、神経を圧迫したりする場合は、その部分を取り除く手術を行うことがあります。手術によって生活の質(QOL)は大きく改善します。

② 発達のサポート(療育)

お子様の発達段階に合わせたサポート(療育)を早期から始めることが推奨されます。

  • 理学療法(PT): 体の使い方を練習し、運動発達を促します。
  • 作業療法(OT): 手指の細かい動きや、日常生活動作の練習を行います。
  • 言語聴覚療法(ST): 言葉の理解や発語を促すサポートをします。難聴がある場合は、補聴器の使用なども検討します。

③ 定期的な健康診断

  • 聴力検査: 知的発達や言葉の発達に影響するため、定期的に聴力をチェックします。中耳炎などを繰り返す場合は早めに治療します。
  • 視力検査: 視力に問題がないか確認します。
  • 歯科検診: 歯並びや歯の数に特徴がある場合があるため、定期的なケアが大切です。

④ 心理・社会的サポート

成長とともに、自分の外見や、周りの友達との違いが気になる時期が来るかもしれません。

  • 学校や園と連携し、お子様が得意なこと、苦手なことを共有して、過ごしやすい環境を整えます。
  • 必要に応じて、スクールカウンセラーや心理士などの専門家に相談できる体制を作っておくと安心です。
赤ちゃん

6. 家族へのメッセージ

診断を受けたばかりの今、ご家族は「なぜうちの子が?」「将来はどうなるのだろう?」と、出口の見えないトンネルにいるような気持ちかもしれません。ここで、いくつか心に留めておいていただきたいことをお伝えします。

お子様の「個性」を見てあげてください

医学書やネット上の情報(この記事も含めて)は、あくまで「全体的な傾向」をまとめたものです。 ランガー・ギデオン症候群のお子様は、一人ひとり全く違います。症状が軽い子もいれば、特定のサポートが必要な子もいます。 病気の特徴は、お子様を構成するほんの一部に過ぎません。まずは目の前にいるお子様の笑顔や、昨日よりできるようになったことに目を向けてあげてください。

一人で抱え込まないでください

希少疾患であるため、身近に同じ病気のお子様を持つ家族を見つけるのは難しいかもしれません。しかし、今はインターネットを通じて、患者会や家族会とつながることができます。 また、主治医、看護師、遺伝カウンセラー、ソーシャルワーカー、療育センターのスタッフなど、多くの専門家がチームとしてお子様とご家族を支えます。不安なことや困ったことは、遠慮なく相談してください。

「長期戦」の視点を持つ

成長に伴って、注意すべき点は変化していきます。幼児期は言葉や運動の発達、学童期は骨の管理や学習、思春期は心のケアなど、ステージごとに課題は変わります。 焦らず、その時々の課題に対して、医療チームと相談しながら一つひとつ対応していくことが大切です。

適切な医療管理で、豊かな生活を

適切な整形外科的なフォローアップや療育を受けることで、多くのお子様が自分らしく、豊かな人生を送っています。 外骨腫などの身体的な課題はありますが、医学的な管理を行うことでコントロールが可能です。

7. まとめ

  • ランガー・ギデオン症候群(LGS)は、8番染色体の一部微細欠失による疾患です。
  • 主な原因はTRPS1遺伝子(顔貌・髪・指)とEXT1遺伝子(外骨腫)の欠失です。
  • 特徴的な顔立ち、薄い髪、多発性外骨腫(骨のこぶ)、知的発達のゆっくりさなどが主な症状ですが、個人差が大きいです。
  • 根本的な治療法はありませんが、症状に合わせた管理(特の骨の管理)と療育が非常に有効です。
  • 定期的な受診を続けることで、合併症を予防・管理し、お子様の健やかな成長を支えることができます。

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