ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体欠損症

Pyruvate Dehydrogenase Deficiency, PDHB-related

概要

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体欠損症は、ミトコンドリア内でピルビン酸をアセチルCoAへ変換するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDH複合体)の機能障害により、乳酸の過剰産生とエネルギー産生低下を来す先天代謝異常症です。
PDHB遺伝子関連型は、PDH複合体のE1βサブユニットの異常により生じ、中枢神経系を中心とした重篤な代謝障害を引き起こします。

疫学

本疾患は非常に稀で、正確な有病率は不明ですが、世界的に数百例程度の報告にとどまります。男女差はほとんどなく、PDHB関連型は常染色体劣性遺伝形式をとります。

新生児期または乳児期早期に発症することが多いですが、軽症例では小児期以降に診断されることもあります。

原因

病因

本疾患は PDHB遺伝子の病的変異 により引き起こされます。PDHB遺伝子は3番染色体短腕(3p14)に位置し、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体E1βサブユニットをコードしています。

酵素機能

PDH複合体は解糖系とクエン酸回路を結ぶ要の酵素であり、ピルビン酸をアセチルCoAに変換する役割を担います。この反応が障害されることで:

  • ピルビン酸が乳酸へ過剰変換される
  • 乳酸アシドーシスが生じる
  • 脳や筋など高エネルギー消費組織が障害される

と考えられています。

症状

新生児・乳児期

  • 重度の乳酸アシドーシス
  • 哺乳不良、嘔吐、呼吸障害
  • 筋緊張低下、嗜眠
  • けいれん発作

小児期以降

  • 発達遅滞、知的障害
  • 運動障害、失調、筋力低下
  • 反復する意識障害、易疲労

症状の重症度には幅があり、軽症例では歩行可能な例もあります。

診断

1. 生化学的診断

  • 血中乳酸・ピルビン酸高値
  • 乳酸/ピルビン酸比の異常

2. 画像検査

  • 脳MRIでの基底核病変や白質異常

3. 酵素活性測定

  • 線維芽細胞や筋組織でのPDH活性低下

4. 遺伝子診断

PDHB遺伝子解析による確定診断が行われます。

治療

根治療法はなく、代謝負荷の軽減とエネルギー代謝の補助が治療の中心です。

  • ケトン食療法(糖質制限・脂質高比率)
  • チアミン(ビタミンB1)大量投与(反応例あり)
  • ジクロロ酢酸(乳酸低下目的)
  • けいれん・発達障害への対症療法

まとめ

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体欠損症はPDHB遺伝子異常によりエネルギー代謝が障害され、乳酸アシドーシスと神経障害を呈する先天代謝異常症です。遺伝子診断と早期の代謝管理が重要です。