概要
サラー病は、リソソーム膜に存在するシアル酸トランスポーター「シアリン(sialin)」の機能低下により、リソソーム内に遊離シアル酸(free sialic acid)が蓄積することで発症する 遊離シアル酸蓄積症(Free sialic acid storage disorder:FSASD) の軽症型に位置づけられる遺伝性疾患です。FSASDは重症の乳児型からサラー病まで臨床スペクトラムを形成し、サラー病は比較的緩徐進行である一方、乳児期から小児期にかけて神経発達の遅れが明らかになります。 (NCBI)
疫学
FSASD全体で報告例は300例未満とされ、サラー病は特にフィンランドおよびスウェーデン系で多く、サラー病としては約150例が報告されているとされています。 (MedlinePlus)
一方、世界各地から散発例も報告されており、遺伝形式は常染色体劣性遺伝です。 (NCBI)
原因
サラー病は SLC17A5遺伝子 の病的変異により生じます。SLC17A5はリソソーム膜輸送体である**シアリン(sialin)**をコードし、リソソーム内外のシアル酸輸送に関与します。シアリン機能が低下すると、リソソーム内に遊離シアル酸が蓄積し、主に中枢神経系の機能障害(白質障害など)へつながると考えられています。 (NCBI)
遺伝形式は 常染色体劣性遺伝 で、両親からそれぞれ1つずつ病的変異を受け継いだ場合に発症します。 (MedlinePlus)
SLC17A5遺伝子は当院の該当プランで検査が可能です。
症状
発症時期は乳児期〜幼児期が多く、初期には以下が目立ちます。
- 筋緊張低下(hypotonia)
- 運動発達遅滞(座位・歩行の獲得遅れ)
- 言語発達遅滞/知的障害 (MedlinePlus)
成長に伴い、以下を伴うことがあります。
- 運動失調(ataxia)、協調運動障害
- 眼振(nystagmus)
- 痙縮、アテトーシス様不随意運動
- てんかん発作 (UMIN Plaza)
画像所見として、脳MRIで白質形成不全/脳萎縮・小脳萎縮などが報告されています。 (UMIN Plaza)
診断
診断は臨床像に加え、生化学検査と遺伝子検査を組み合わせて行います。
- 臨床評価:乳児期からの筋緊張低下、発達遅滞、運動失調などの経過
- 生化学的検査:尿・培養細胞などでの遊離シアル酸の増加(FSASDを示唆) (NCBI)
- 画像検査:脳MRIで白質異常などを評価 (UMIN Plaza)
- 遺伝子診断:SLC17A5遺伝子解析による確定診断 (NCBI)
治療
現時点でサラー病に対する確立した根治療法はありません。治療は対症療法および発達支援が中心です。
- てんかんに対する抗てんかん薬
- 理学療法・作業療法・言語療法などのリハビリテーション
- 栄養管理、呼吸器感染予防を含む全身管理
- 生活支援(福祉サービス、教育的支援、低視力・運動補助など) (NCBI)
近年、SLC17A5の代表的変異を標的とした遺伝子編集(塩基編集)などの研究も報告されており、将来的治療開発が検討されています(現時点では研究段階)。 (Cell)
参考文献元
- Adams D, et al. GeneReviews®: Free Sialic Acid Storage Disorder. NCBI Bookshelf. (NCBI)
- MedlinePlus Genetics: Free sialic acid storage disorder(FSASD)/ Salla disease. (MedlinePlus)
- Orphanet: Free sialic acid storage disease (ORPHA:834) / SLC17A5 gene information. (orpha.net)
- 遺伝性白質疾患ガイドライン(UMIN): Salla disease(SD)概説. (UMIN Plaza)
- Tarailo-Graovac M, et al. Orphanet Journal of Rare Diseases (2017): SLC17A5変異とシアル酸蓄積症の分子機序。 (Springer)
- Harb JF, et al. Molecular Therapy – Nucleic Acids (2023): サラー病の共通変異を標的とした塩基編集研究。 (Cell)
