偽性軟骨無形成症(ギセイナンコツムケイセイショウ)という診断名を聞き、あるいはその疑いがあると言われ、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
聞き慣れない、そして少し長い病名に戸惑っていらっしゃるかもしれません。「軟骨無形成症」という有名な病名に似ていますが、頭に「偽性(ぎせい)」とついているのはなぜだろう、と疑問に思われていることでしょう。
この病気は、骨や軟骨の成長に変化が現れる「骨系統疾患(こつけいとうしっかん)」の一つです。生まれた時は他の赤ちゃんと変わらない大きさや姿をしているのに、歩き始める頃から少しずつ成長のペースや歩き方に特徴が出てくるのがこの病気の特徴です。
お子さんとご家族が、これからの生活を前向きに歩んでいくための手助けとなれば幸いです。
概要:どのような病気か
偽性軟骨無形成症(Pseudoachondroplasia:PSACH)は、全身の骨、特に関節の軟骨の形成や成長に障害が起こる疾患です。
名前の由来
「Pseudo(シュード)」は「偽の」「似て非なる」という意味です。「Achondroplasia(アコンドロプラジア)」は「軟骨無形成症」のことです。
つまり、「軟骨無形成症に似ているけれど、異なる病気」という意味で名付けられました。
昔は見た目の特徴から区別がつかず混同されていましたが、現在では原因となる遺伝子も全く別物であることがわかっています。
発生頻度
正確な統計は難しいですが、およそ3万人から6万人に1人の割合で生まれると言われています。骨系統疾患の中では比較的頻度の高いものの一つです。
軟骨無形成症との決定的な違い
ご家族が一番気になる点かと思います。
顔立ち:軟骨無形成症では頭が大きく、おでこが出ているなどの特徴がありますが、偽性軟骨無形成症では「顔立ちは正常」です。頭の大きさも標準範囲内であることがほとんどです。
発症時期:軟骨無形成症は生まれた時にすでに手足の短さなどの特徴がありますが、偽性軟骨無形成症は「生まれた時は身長も体型も正常」です。2歳から3歳頃になって初めて、成長の遅れや歩き方の変化に気づかれます。
指定難病
日本では国の指定難病(骨系統疾患の一つとして)および小児慢性特定疾病に指定されており、重症度に応じて医療費の助成などのサポートを受けることができます。
主な症状
症状は生まれた直後には見られず、歩行が安定してくる幼児期(2歳〜4歳頃)から徐々に明らかになってきます。
1. 成長と体型の特徴
低身長
生まれた時の身長・体重は平均的です。しかし、2歳を過ぎたあたりから身長の伸びが緩やかになります。
最終的な身長は個人差がありますが、成人男性で120cm前後、成人女性で110cm〜116cm程度になることが多いとされています。
胴体の長さに比べて、手足(特に腕や太もも)が短い「四肢短縮型」の低身長となります。
顔立ち
先述の通り、顔貌(顔つき)や頭の大きさは正常です。知的な発達にも遅れは見られず、正常です。
2. 関節と骨格の症状
この病気で最も生活に影響を与えるのが、関節の問題です。
関節の緩さと硬さの混在
靭帯(骨と骨をつなぐバンド)が緩いため、手首や指の関節は通常よりも大きく反り返るほど柔らかい(過伸展)ことが多いです。
一方で、肘(ひじ)や股関節などは、十分に伸ばすことができない(伸展制限)状態になることがあります。例えば、腕をまっすぐ下に下ろしても、肘が少し曲がった状態になることがあります。
下肢の変形
歩き始めると、体重がかかることで足の変形が進むことがあります。
O脚(内反膝):膝が外側に開く。
X脚(外反膝):膝が内側に入る。
ウィンドスウェプト変形(Windswept deformity):片足がO脚で、もう片足がX脚になり、まるで風に吹かれているように両足が同じ方向に流れる変形が見られることもあります。
これらの変形により、歩くときに体を左右に揺らす「動揺性歩行(アヒル歩き)」が見られるようになります。
早発性の変形性関節症
軟骨がもろいため、関節に負担がかかりやすく、若い年齢(10代や20代)から関節の痛み(変形性関節症)が出ることがあります。特に膝、股関節、足首などに痛みが出やすいです。
3. 背骨の症状
背骨の変形
背骨の骨(椎体)の形がいびつになることがあります。
側弯症(そくわんしょう):背骨が左右に曲がる。
前弯症(ぜんわんしょう):腰が強く反る。
後弯症(こうわんしょう):背中が丸くなる。
環軸椎亜脱臼(かんじくついあだっきゅう)の可能性
首の骨の一番上(第1頚椎)と二番目(第2頚椎)のつなぎ目が不安定になることがあります。これは脊髄(神経)を圧迫するリスクがあるため、定期的なチェックが必要な重要なポイントです。
原因
なぜ、このような症状が現れるのでしょうか。原因は、軟骨を作るためのタンパク質に関わる「遺伝子」の変化にあります。
COMP遺伝子の変異
偽性軟骨無形成症の原因は、第19番染色体にある「COMP(コンプ)」という遺伝子の変異です。
COMPは、「軟骨オリゴマー基質タンパク質(Cartilage Oligomeric Matrix Protein)」というタンパク質の設計図です。
軟骨細胞の中で何が起きているか
通常、COMPタンパク質は軟骨細胞の外に出され、骨や軟骨の強度を保つためのネットワークを作ります。
しかし、遺伝子に変異があると、形のおかしいCOMPタンパク質が作られてしまいます。
この異常なタンパク質は、細胞の外に出ることができず、軟骨細胞の中にどんどん溜まってしまいます。
細胞の中にゴミが溜まるような状態になり、その結果、軟骨細胞が弱って死んでしまったり、新しい軟骨をうまく作れなくなったりします。これが、骨が伸び悩み、関節が痛む原因です。
遺伝について
この病気は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとります。
親から子への遺伝
ご両親のどちらかがこの病気である場合、お子さんに遺伝する確率は50%です。性別による違いはありません。
突然変異
しかし、多くの患者さんは、ご両親ともにこの病気ではなく、お子さんの代で初めて変異が起きた「突然変異(de novo変異)」です。
これは、受精卵ができる過程などで偶然に遺伝子の文字が書き換わってしまったものであり、ご両親のせいではありません。妊娠中の過ごし方などが原因でなるものでもありません。
この場合、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般の家庭とほとんど変わりません。

診断と検査
診断は、身体的な特徴の観察と、レントゲン検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
2歳〜3歳頃に「身長の伸びが悪い」「歩き方が気になる」といって小児科や整形外科を受診し、発見されるケースが多いです。
1. レントゲン検査(X線検査)
骨の形に特徴的な変化が現れます。これが診断の決め手になります。
骨端(こつたん)と骨幹端(こつかんたん)の変化
手足の骨の両端(関節に近い部分)がいびつな形をしていたり、ギザギザしていたりします。
骨盤の形や、背骨の椎体の形(舌のような突起が見えることがあります)にも特徴が出ます。
2. 身体所見の確認
顔立ちが正常であること。
手足の短さの程度。
関節の柔らかさと硬さ(可動域)のチェック。
これらを総合して、軟骨無形成症や他の骨系統疾患と区別します。
3. 遺伝学的検査
血液を採取し、DNAを解析してCOMP遺伝子に変異があるかを調べます。
レントゲン所見と症状でほぼ診断はつきますが、確定診断や、将来的な遺伝カウンセリングのために行われることがあります。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変異そのものを治して、骨を劇的に伸ばしたり軟骨を修復したりする根本的な治療薬はまだ実用化されていません。
しかし、症状を和らげ、機能を維持し、生活の質(QOL)を高めるための治療法は確立されています。主に整形外科的な管理が中心となります。
1. 下肢変形(O脚・X脚)への対応
足の曲がりが強くなると、膝や足首の痛みが強くなり、歩くのが大変になります。
装具療法
変形が軽度の場合や、年齢が小さい場合は、足底板(インソール)や夜間装具などを使って進行を遅らせることを試みます。
外科手術(骨切り術)
変形が強く、痛みが強い場合や歩行に支障がある場合は、骨を切って角度を矯正する「骨切り術(こつきりじゅつ)」を行います。
適切な時期に行うことで、膝などの関節にかかる負担を減らし、将来的な痛みを予防することができます。成長に伴って再発することもあるため、手術のタイミングは専門医とよく相談する必要があります。
2. 背骨の管理
側弯(横曲がり)や後弯(猫背)
定期的にレントゲンを撮り、進行していないかチェックします。進行する場合はコルセットを使用したり、稀ですが手術が必要になることもあります。
環軸椎亜脱臼(首の不安定性)
首のレントゲン(特に首を前後に曲げた状態)を撮り、神経を圧迫するリスクがないか確認します。
もし不安定性が強い場合は、激しい運動(マット運動やコンタクトスポーツ)を制限したり、場合によっては固定術を行ったりします。
3. 関節痛の管理(保存療法)
痛みは生活の質を大きく下げます。無理をしないことが大切です。
湿布や塗り薬、鎮痛剤の使用。
関節への負担が少ない運動(水泳や水中ウォーキングなど)で筋力を維持する。
体重管理(肥満は関節への負担を倍増させるため、適正体重の維持が非常に重要です)。
4. 成長ホルモン治療について
軟骨無形成症や一部の低身長症では成長ホルモン治療が行われますが、偽性軟骨無形成症に対しては、現在日本で保険適用とはなっていません。
また、COMP遺伝子の異常による軟骨の問題であるため、成長ホルモンを投与しても骨の伸びに対する効果は限定的であると考えられています。
まとめ
偽性軟骨無形成症についての解説をまとめます。
病気の本質
COMP遺伝子の変異により、異常なタンパク質が軟骨細胞に溜まり、骨の成長が阻害される病気です。
主な特徴
生まれた時は正常ですが、2歳頃から成長率の低下と歩行異常(O脚など)が現れます。顔立ちは正常で、知能も正常です。
軟骨無形成症との違い
顔の形が正常であること、発症が生まれた時ではなく幼児期であること、原因遺伝子が異なること。
治療の柱
足の変形に対する矯正手術、関節痛の管理、適正体重の維持、定期的な背骨や首のチェック。
予後
平均寿命は一般の人と変わりません。関節の痛みと付き合いながらも、多くの方が自立した社会生活を送っています。
