Alexander Disease

医療

アレキサンダー病(Alexander Disease: AxD)は、星状膠細胞(アストロサイト)の主要な中間径フィラメントであるGFAP(線維性星状膠細胞原線維タンパク)をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる、極めて稀な進行性白質変性症です。

本症の最大の特徴は、アストロサイトの細胞質内に「ロゼンタール線維(Rosenthal fibers)」と呼ばれる嗜銀性の封入体が広範に形成されることにあります。これによりアストロサイトの機能が破綻し、結果として二次的な脱髄や脳白質の変性が進行します。かつては乳幼児期の重篤な疾患としてのみ認識されてきましたが、近年の遺伝子診断の普及により、成人期に発症する多様な表現型が存在することが明らかとなりました。

本稿では、アレキサンダー病の分子病態、最新の臨床分類、画像診断の特徴、および現在期待されている治療研究の最前線について詳述します。

1. 分子病態学:GFAP変異とロゼンタール線維

アレキサンダー病の根本原因は、第17染色体(17q21.31)に位置するGFAP遺伝子の変異です。

機能獲得型変異による毒性

本症は常染色体顕性(優性)遺伝形式をとりますが、多くは突然変異(de novo mutation)によるものです。この変異は「機能喪失」ではなく、変異タンパク質が細胞に対して毒性を持つ「機能獲得型(Gain-of-toxic-function)」の性質を有しています。

  1. タンパク質の凝集: 変異したGFAPタンパク質は正常に重合できず、細胞内で異常な凝集を起こします。
  2. ロゼンタール線維の形成: 凝集したGFAPに、熱ショックタンパク質(HSP27やアルファB-クリスタリン)が結合し、ロゼンタール線維が形成されます。
  3. アストロサイトの機能不全: 封入体の蓄積により、血脳関門の維持やグルタミン酸のリプレイクといったアストロサイト本来の機能が失われ、神経環境が悪化します。

2. 臨床分類:発症時期による多様なスペクトラム

アレキサンダー病は、発症年齢と臨床症状に基づき、主に以下の3つの型(または大きくタイプIとタイプII)に分類されます。

乳幼児型(Infantile form)

生後から2歳までに発症する最も頻度の高い型であり、予後は極めて厳格です。

  • 主症状: 進行性の頭囲拡大(大脳症)、けいれん、運動発達の遅滞または退行、痙性麻痺。
  • 経過: 脳圧亢進症状を伴いやすく、多くは数年以内に死に至ります。

若年型(Juvenile form)

2歳から14歳頃に発症します。

  • 主症状: 球麻痺症状(嚥下障害、構音障害)、運動失調、進行性の痙性。
  • 特徴: 知能は比較的保たれるケースもありますが、運動機能の悪化が進行します。

成人型(Adult form)

10代後半から高齢期まで幅広く発症します。

  • 主症状: 錐体路徴候、小脳失調、自律神経障害。
  • 誤診のリスク: 症状が多発性硬化症(MS)やパーキンソン症候群、脊髄小脳変性症に酷似しているため、遺伝子検査が行われるまで診断がつかないケースが多々あります。
医者

3. 画像診断(MRI)の特徴的所見

アレキサンダー病の診断において、MRI検査は極めて特異性の高い情報を提供します。特に乳幼児型においては、以下の「Van der Knaapの診断基準」が有名です。

  1. 前頭葉優位の白質異常: T2強調画像で前頭葉の白質に広範な高信号域を認めます。
  2. 脳室周囲のバンド状構造: 側脳室周囲にT1強調画像で高信号、T2強調画像で低信号の層状構造が見られます。
  3. 基底核・視床の信号異常: 疾患の進行に伴い、これらの深部灰白質に変性が及びます。
  4. 脳幹の病変: 特に成人型では、延髄や上部頸髄の萎縮が顕著(小球蓋様萎縮)となるのが特徴です。

4. 治療とケアの現状:対症療法から分子標的薬へ

現時点において、アレキサンダー病の進行を完全に停止させる根本的な治療法は確立されていません。

現行の対症療法

  • 抗てんかん薬: 乳幼児型における頻回なけいれんをコントロールします。
  • 胃瘻・栄養管理: 進行性の球麻痺による嚥下障害に対し、経管栄養を検討します。
  • リハビリテーション: 関節拘縮の予防や、残存機能の維持を図ります。

研究開発の最前線(核酸医薬への期待)

近年、変異GFAPの産生を根本から抑制するアンチセンス核酸(ASO)療法の研究が急速に進展しています。

  • 機序: 変異したGFAP遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)に結合して分解し、毒性タンパク質の蓄積を防ぐアプローチです。
  • 展望: 動物モデル(マウス)においては、ASOの投与によりロゼンタール線維が消失し、運動機能が改善することが報告されています。現在、ヒトに対する治験も進行中であり、本症における初の根本的治療薬としての期待が高まっています。

5. まとめ:希少疾患における早期診断の意義

アレキサンダー病は、かつての「原因不明の進行性白質脳症」から、GFAP遺伝子という明確なターゲットを持つ疾患へと理解が進みました。

特に成人型においては、他の神経変性疾患との鑑別が困難なため、MRIでの脳幹萎縮や家族歴に留意し、早期に遺伝子診断を検討することが重要です。早期診断は、適切な合併症管理だけでなく、現在開発が進んでいる新規治療法へのアクセスの可能性を広げることにも繋がります。

アストロサイトという「神経系の守護者」の病態を解明することは、アレキサンダー病のみならず、より一般的な神経変性疾患の理解にも寄与する可能性を秘めています。

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