ムエンケ症候群(Muenke Syndrome)

医者

ムエンケ症候群という診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「頭蓋骨縫合早期癒合症の一つです」や「遺伝子の変化によるものです」と説明を受け、初めて聞く病名に戸惑いや不安を感じていらっしゃるかもしれません。特に、赤ちゃんの頭の形の手術が必要になるかもしれないという話は、親御さんにとって非常に大きな心配事でしょう。

ムエンケ症候群は、頭の骨のつなぎ目が通常よりも早く閉じてしまうことで、頭の形や顔立ちに特徴が現れる生まれつきの体質です。

1990年代後半に、マクシミリアン・ムエンケ博士によって原因となる遺伝子の変化が特定され、独立した疾患として確立されました。そのため、比較的新しい病名であり、古い医学書には載っていないこともあります。

頭蓋骨縫合早期癒合症の中では比較的頻度が高いものの一つですが、症状の程度には非常に大きな個人差があります。

手術が必要な方もいれば、大人になるまで気づかずに過ごされる方もいるほど、幅が広いのが特徴です。

まず最初にお伝えしたいのは、適切な治療とサポートがあれば、多くのお子さんが元気に成長し、社会生活を送ることができるということです。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

頭蓋骨縫合早期癒合症とは

私たちの頭の骨、すなわち頭蓋骨は、一つのヘルメットのような塊ではなく、いくつかのパーツに分かれています。

赤ちゃんの頭蓋骨は、パーツとパーツの間に「縫合」と呼ばれる隙間があり、ここが成長に合わせて広がることで、中の脳が大きくなるスペースを作っています。

通常、この縫合は脳の成長が終わる頃に閉じますが、何らかの原因で生まれる前や乳児期の早い段階で閉じてくっついてしまうことがあります。これを頭蓋骨縫合早期癒合症と呼びます。

縫合が早く閉じてしまうと、脳がその方向に大きくなれないため、圧力を逃がそうとして別の方向に伸びていき、結果として頭の形がいびつになったり、脳への圧力が高まったりすることがあります。

ムエンケ症候群の位置づけ

頭蓋骨縫合早期癒合症には、クルーゾン症候群やアペール症候群など、全身の症状を伴う「症候群性」のものがいくつかあります。

ムエンケ症候群もその一つですが、他の症候群に比べて身体的な特徴がマイルドである場合が多いとされています。

かつては、症状が似ているためにクルーゾン症候群やファイファー症候群と診断されていたケースもありましたが、遺伝子検査の技術が進歩したことで、これらとは異なる独立した疾患であることがわかりました。

発生頻度

頭蓋骨縫合早期癒合症全体の中では比較的頻度が高く、およそ3万人に1人の割合で生まれると言われています。

これは、クルーゾン症候群などと同程度の頻度です。

主な症状

ムエンケ症候群の症状は、頭や顔だけでなく、耳や手足にも現れることがありますが、その程度は人によって全く異なります。

同じ家族内で遺伝した場合でも、症状が強い人とほとんど症状がない人がいることもあります。

1. 頭蓋骨と顔貌の特徴

最も特徴的な症状であり、診断のきっかけとなることが多い部分です。

頭の形の変形

頭蓋骨にはいくつかの縫合線がありますが、ムエンケ症候群では、耳から頭のてっぺんに向かって走る「冠状縫合」という部分が早期に癒合しやすい傾向があります。

両側の冠状縫合が癒合すると、頭の前後径が短くなり、横幅が広くなる短頭、いわゆる絶壁のような形になります。

片側だけが癒合すると、おでこの片方が平らになり、反対側が出っ張る斜頭という形になります。

また、おでこが高く盛り上がったり、頭頂部が尖ったりすることもあります。

お顔立ちの特徴

おでこが前に出っ張っていたり、両目の間隔が広く離れている眼間開離が見られたりすることがあります。

また、まぶたが下がっている眼瞼下垂や、頬の骨の発達が控えめであることによる中顔面低形成が見られることもあります。

しかし、これらの特徴は非常に軽微で、パッと見ただけではわからないことも少なくありません。

脳への影響(頭蓋内圧亢進)

頭の骨が早く閉じてしまうことで、脳が入るスペースが狭くなり、脳にかかる圧力が高くなる頭蓋内圧亢進が起きることがあります。

これが続くと、慢性的な頭痛や吐き気、あるいは視神経への圧迫による視力低下などを引き起こす可能性があるため、注意深い観察と定期的な検査が必要です。

2. 聴覚の症状

ムエンケ症候群の患者さんにとって、非常に重要なのが聴覚の管理です。

患者さんの多くに、難聴が見られます。

感音難聴

音を感じる神経の働きが弱いことによる難聴です。

ムエンケ症候群では、低音域から中音域の聞こえが悪くなるケースが多いと言われていますが、全音域にわたって聞こえにくい場合もあります。

難聴の程度は軽度から中等度であることが多く、日常生活では気づかれにくいこともあるため、聴力検査を受けることが大切です。

難聴は言葉の発達に直結するため、早期発見と補聴器などによる対応が重要になります。

3. 手足の特徴

手足の骨にも、軽度の変化が見られることがあります。

手足の骨の癒合

手首にある手根骨や、足首にある足根骨という小さな骨同士がくっついている(癒合している)ことがあります。

これにより、手首や足首の動きが少し硬くなることがありますが、日常生活に大きな支障をきたすことは稀です。

指の特徴

指が少し短かったり(短指症)、指の関節が曲がりにくかったりすることがあります。

アペール症候群のように指同士が完全にくっついてしまう合指症は、ムエンケ症候群では基本的には見られませんが、軽い皮膚の水かきのようなものが見られることはあります。

4. 発達と学習

知的な発達に関しては、多くのお子さんが正常範囲内です。

しかし、一部のお子さんには発達の遅れや、学習面での課題が見られることがあります。

発達の遅れ

言葉が出るのが少し遅かったり、運動発達がゆっくりだったりすることがあります。

これには、難聴が影響している場合もあるため、聴覚のチェックが欠かせません。

学習障害やADHDの傾向

知的な遅れがなくても、読み書きが苦手だったり、注意力が散漫で落ち着きがなかったりする注意欠陥・多動性障害のような傾向が見られることがあるという報告があります。

学校生活での配慮や環境調整が必要になる場合もあります。

原因

なぜ、骨の継ぎ目が早く閉じてしまうのでしょうか。その原因は、骨の成長をコントロールする遺伝子のわずかな変化にあります。

FGFR3遺伝子の変異

ムエンケ症候群の原因は、第4番染色体にあるFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3型)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、骨や軟骨が成長するスピードを調節するスイッチのような役割を果たしています。

Pro250Arg変異

ムエンケ症候群の最大の特徴は、原因となる遺伝子の変化が非常に特定的であることです。

FGFR3遺伝子の250番目のアミノ酸が、プロリン(Pro)からアルギニン(Arg)に変わるという、たった一箇所の変化(Pro250Arg変異)によって引き起こされます。

この変異が起きると、FGFR3というスイッチの感度が変わり、骨の継ぎ目にある細胞に対し、「もう成長を止めて骨になりなさい」という命令が通常よりも早く、あるいは強く出てしまうと考えられています。

その結果、本来ならまだ開いていなければならない縫合線が、早期に閉じて骨化してしまうのです。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のFGFR3遺伝子に変異があれば発症します。

親から子への遺伝

ご両親のどちらかがムエンケ症候群(あるいは症状がなくても遺伝子変異を持っている)である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。

突然変異

ご両親は遺伝子変異を持っておらず、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異のケースも多くあります。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

浸透率の影響

ムエンケ症候群では、「浸透率が不完全である」とか「表現型に幅がある」と言われます。

これは、同じ遺伝子変異を持っていても、症状がはっきり出る人もいれば、全く症状が出ない人もいるということを意味します。

そのため、お子さんが診断された後にご両親も検査を受けてみたところ、実は片方の親御さんも同じ変異を持っていたけれど、症状が軽すぎて気づいていなかった、ということが判明するケースもあります。

ハート

診断と検査

診断は、身体的な特徴の観察、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。

1. 臨床診断

医師は診察で、頭の形、顔立ち、手足の特徴などを確認します。

特に、頭蓋骨縫合早期癒合症の所見があり、かつ手足には重度の合指症などがない場合、ムエンケ症候群が疑われます。

2. 画像検査(CT・3D-CT)

頭の骨の状態を詳しく調べるために、CT検査を行います。

特に、3D-CTという方法で頭蓋骨を立体的に画像化することで、どの縫合線が閉じているのか、頭蓋骨の変形がどの程度あるのかを一目で確認することができます。

また、脳の状態や、水頭症などの合併症がないかを確認するために、MRI検査を行うこともあります。

3. 聴力検査

難聴の有無を確認するために、聴力検査は必須です。

赤ちゃんの場合は、眠っている間に音を聞かせて脳波の反応を見るABR(聴性脳幹反応)検査などが行われます。

ある程度大きくなったお子さんには、ヘッドホンをつけて音を聞く検査を行います。

4. 遺伝学的検査

確定診断のために最も重要な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してFGFR3遺伝子に特有の変異(Pro250Arg)があるかを調べます。

この変異が見つかれば、ムエンケ症候群であると確定診断されます。

これにより、クルーゾン症候群やサエトレ・ゼンツェン症候群といった、似た症状を持つ他の病気と区別することができます。

また、将来の見通しや治療方針を立てる上でも、確定診断は非常に重要です。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療、特に手術や療育を行うことで、健康を維持し、審美的にも機能的にも良好な状態を目指すことができます。

1. 頭蓋形成術(頭の手術)

ムエンケ症候群の治療の中心となるのが、頭の形を整え、脳のスペースを広げる手術です。

手術の目的

大きく分けて2つの目的があります。

一つは、頭蓋内圧亢進を防ぎ、脳の発達を守ることです。頭蓋内の圧力が高い状態が続くと、脳の機能や視力に影響が出る可能性があるため、スペースを広げてあげることが必要です。

もう一つは、頭の形や顔立ちを整える整容的な改善です。頭の形をきれいにすることは、お子さんの将来の心理的な発達にとっても大切です。

手術の時期

縫合癒合の程度や、頭蓋内圧の状態によって異なりますが、一般的には生後数ヶ月から1歳前後に行われることが多いです。

脳外科医と形成外科医がチームを組んで行うのが一般的です。

手術の方法

  • 頭蓋形成術: 頭の骨を一度切り離し、形を整えてからパズルのように組み直して戻す方法です。骨を固定するために、体内で溶けるプレートなどが使われます。
  • 骨延長術(ディストラクション法): 骨に切り込みを入れ、延長器という装置を取り付けて、毎日少しずつ骨を広げていく方法です。皮膚を伸ばしながら骨を広げられるため、大きな拡大が必要な場合に有効です。
  • 内視鏡下手術: 早期(生後数ヶ月以内)であれば、内視鏡を使って癒合した縫合を切除し、術後にヘルメット療法を併用して形を整える方法もあります。傷が小さく済みますが、適応は限られます。

お子さんの状態に合わせて、最適な術式と時期が検討されます。また、成長に伴って骨がまた戻ってしまったり、別の場所で問題が起きたりする場合があり、成長終了まで長期的なフォローアップが必要です。場合によっては、小学校入学前や思春期に追加の手術が必要になることもあります。

2. 聴覚の管理

難聴がある場合は、その程度に応じてサポートを行います。

軽度から中等度の難聴であれば、補聴器を使用することで言葉の聞き取りを改善できます。

滲出性中耳炎を合併して聞こえが悪くなっている場合は、鼓膜にチューブを入れる処置を行うこともあります。

言葉の発達を促すために、言語聴覚士による指導(言語療法)を受けることも有効です。

3. 発達と学習の支援

発達の遅れや学習の苦手さがある場合は、療育や学校での支援を活用します。

作業療法や理学療法を通じて、体の使い方や手先の器用さを高めることもあります。

学校生活では、難聴がある場合は座席を前にしてもらう、先生の口元が見える位置に座る、静かな環境で話を聞くなどの配慮が役立ちます。

注意力の問題がある場合は、集中しやすい環境作りや、短時間で区切った学習などを取り入れます。

4. その他の管理

眼科検診

頭蓋内圧亢進のサインであるうっ血乳頭がないか、斜視や弱視がないかを定期的にチェックします。

歯科検診

あごの発達や歯並びに影響が出ることがあるため、矯正歯科医などによる定期的なチェックと、必要に応じた矯正治療が行われます。

まとめ

ムエンケ症候群(Muenke Syndrome)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: FGFR3遺伝子の特定の変異(Pro250Arg)により、頭の骨の継ぎ目が早く閉じてしまう頭蓋骨縫合早期癒合症の一つです。
  • 主な特徴: 頭の形の変形(短頭や斜頭)、難聴、手足の骨の軽度な変化などが特徴ですが、症状の程度には大きな個人差があります。
  • 治療の柱: 脳を守り形を整えるための頭蓋形成手術と、難聴に対するケアが中心となります。
  • 予後: 適切な治療とサポートがあれば、多くのお子さんが通常の学校生活や社会生活を送ることができます。
  • 原因: 遺伝子の変化によるものであり、親のせいではありません。

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