常染色体顕性知的発達障害36型(MRD36/BCL11A関連知的障害)

赤ちゃん

遺伝子検査の結果報告書に記された「Intellectual developmental disorder, autosomal dominant 36(MRD36)」という長い英語の診断名、あるいは「BCL11A遺伝子の変異」という結果を見て、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「言葉の発達がゆっくりになります」や「血液検査で少し特徴が出ています」といった話をされて、聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。

特に、「36型」という番号がついた診断名は、医学的な分類のための名称であり、一般的な病名として耳にすることはまずありません。インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、海外の専門的な論文ばかりが出てきて、途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。

まず最初に、言葉の整理をさせてください。

この「常染色体顕性知的発達障害36型」は、近年では原因となる遺伝子の名前をとってBCL11A関連知的障害(BCL11A-related intellectual disability)、あるいはディアス・ローガン症候群(Dias-Logan syndrome)という名前で呼ばれることが一般的になってきています。

これは、第2番染色体にあるBCL11A(ビーシーエルイレブンエー)という遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。

全体的な発達の遅れや、特に言葉の遅れ、そして「胎児ヘモグロビン」という血液中の成分が大人になっても残っているという非常にユニークな特徴を持ちます。

非常に希少な疾患ですが、近年の遺伝子解析技術、特に全エクソーム解析などの進歩により、これまで原因不明の発達遅滞とされていた方の中に、この病気の方が含まれていることがわかってきました。そのため、診断される患者さんの数は世界中で少しずつ増えています。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病名の意味と「優生(優性)」について

検索されたキーワードに「優生遺伝」とありましたが、これは医学用語の「優性遺伝」のことだと思われます。

現在、日本医学会では差別的な意味合いや、「優れている」という誤解を避けるため、「優性遺伝」を顕性遺伝(けんせいいでん)、「劣性遺伝」を潜性遺伝(せんせいいでん)と言い換えるようになっています。

したがって、この病気の正式名称は「常染色体顕性知的発達障害36型」となります。

ここでの「顕性」とは、「優れている」という意味ではなく、「両親から受け継ぐ2つの遺伝子のうち、片方に変化があれば症状として現れる(隠れずに表に出る)」という遺伝の形式を表しているに過ぎません。

つまり、「知的発達障害を引き起こす遺伝子変異の中で、36番目に登録された顕性遺伝のタイプ」という意味です。

全体的な特徴

MRD36の原因遺伝子はBCL11Aです。

この遺伝子は、脳の発達と、血液中の赤血球の成分であるヘモグロビンの種類の切り替えに関わる重要な役割を持っています。

脳の発達においては、神経細胞の成長や移動に関わっており、ここがうまく働かないことで全体的な発達の遅れや言葉の遅れが生じます。

また、血液においては、胎児の時期に使われる「胎児ヘモグロビン」から、大人の「成人ヘモグロビン」への切り替えスイッチの役割をしています。このスイッチがうまく入らないため、成長しても胎児ヘモグロビンが残り続けるという、診断の大きな手がかりとなる特徴が現れます。

主な症状

知的発達障害36型(MRD36)の症状は、発達の特徴、身体的な特徴、そして血液検査で見つかる特徴の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

1. 神経発達と知的な特徴

ご家族が最初に「あれ?」と感じ、病院を受診するきっかけとなるのがこの発達の遅れです。

全般的な精神運動発達遅滞

首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

歩き始めが1歳半から2歳以降になることもあります。

筋肉の張りが弱い筋緊張低下が見られることもあり、全体的に体が柔らかく、姿勢を保つのが苦手な場合があります。

しかし、多くのお子さんは成長とともに歩行を獲得し、活発に動けるようになります。

言語発達の遅れ

この疾患において、比較的目立つ症状の一つです。

言葉が出始めるのが遅く、話し始めても発音が不明瞭だったり、文章をつなげるのが苦手だったりすることがあります。

こちらの言っていることを理解する力(受容言語)に比べて、自分で言葉を話す力(表出言語)がより強く影響を受ける傾向があります。

口腔機能の不器用さ(口腔顔面失行)がある場合もあり、舌や唇をうまく動かせないことが発音の不明瞭さにつながっていることもあります。

知的障害

軽度から重度まで、幅広い程度の知的障害が見られます。

新しいことを学習するのに時間がかかったり、抽象的な概念を理解するのが苦手だったりします。

しかし、視覚的な情報処理が得意なお子さんも多く、絵や写真を使うことで理解が進むことがあります。

2. 身体的な特徴

MRD36には、ダウン症候群のような誰が見てもわかるような強い顔つきの特徴はありません。

しかし、詳しく観察すると、以下のような特徴が見られることがあります。

小頭症

頭囲すなわち頭の周りの長さが、同年代の平均に比べて小さい小頭症が見られることがあります。

生まれた時から小さい場合もあれば、成長とともに頭の大きさの伸びが緩やかになる場合もあります。

顔貌の特徴

目立った特徴はありませんが、以下のような特徴が報告されています。

上唇が薄い。

鼻の先が少し下を向いている。

耳の形が少し変わっている。

眉毛が濃い。

これらは個性の範囲内であることが多く、成長とともに目立たなくなることもあります。

関節の弛緩性

指の関節などが柔らかく、反り返りやすいことがあります。

扁平足(土踏まずがない足)が見られることもあります。

その他の身体的特徴

斜視や遠視などの目の問題が見られることがあります。

てんかん発作を合併することがありますが、頻度はそれほど高くありません。

3. 行動面・精神面の特徴

脳の発達の違いは、行動や感情のコントロールにも影響を与えます。

自閉スペクトラム症(ASD)の傾向

視線が合いにくい、名前を呼んでも反応が薄い、特定の遊びにこだわる、変化を嫌うといった特徴が見られることがあります。

人との関わりに関心が薄いように見えることもありますが、慣れた人には笑顔を見せるなど、その子なりの社会性を持っています。

手をパタパタさせたり、体を揺らしたりする常同行動が見られることもあります。

4. 血液検査での特徴(胎児ヘモグロビン持続症)

これはご家族が生活の中で気づく症状ではありませんが、診断において非常に重要な、MRD36特有の特徴です。

通常、赤ちゃんはお腹の中にいるときは「胎児ヘモグロビン(HbF)」を使って酸素を運んでいますが、生まれてから数ヶ月の間に「成人ヘモグロビン(HbA)」に切り替わります。

しかし、BCL11A遺伝子に変異があると、この切り替えがうまくいかず、大人になっても胎児ヘモグロビンが高い値のまま残り続けます。

これを「遺伝性胎児ヘモグロビン持続症」と呼びます。

重要なのは、これが残っていても貧血になったり体調が悪くなったりすることはなく、健康上の問題はないということです。あくまで「診断の手がかりになるサイン」です。

医者

原因

なぜ、言葉が遅れたり、血液の成分が変わったりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを調節する重要な「スイッチ係」のようなタンパク質の不具合にあります。

BCL11A遺伝子の役割

この病気の原因は、第2番染色体にあるBCL11A(B-cell lymphoma/leukemia 11A)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、転写因子と呼ばれるタンパク質を作る設計図です。転写因子とは、他の遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする司令塔のような役割を持っています。

脳と血液での二役

BCL11A遺伝子は、体の中で大きく2つの場所で重要な働きをしています。

脳(神経系)での役割

脳の神経細胞が正しい場所に移動したり、神経細胞同士がつながってネットワークを作ったりする過程をコントロールしています。

特に、大脳皮質と呼ばれる脳の表面の部分や、言葉や学習に関わる部分の発達に重要です。

血液(赤血球)での役割

赤血球の中で、胎児ヘモグロビンを作る遺伝子のスイッチを「オフ」にする役割を持っています。

通常は、生後すぐにBCL11Aが働き出し、胎児ヘモグロビンの生産を止めて、成人ヘモグロビンの生産に切り替えます。

何が起きているのか(ハプロ不全)

MRD36では、2つあるBCL11A遺伝子のうちの片方が変異して機能しなくなることで、作られるタンパク質の量が半分になってしまいます。これをハプロ不全と呼びます。

脳では、司令塔が足りなくなることで、神経細胞の発達や移動がスムーズにいかなくなり、知的障害や言葉の遅れにつながります。

血液では、胎児ヘモグロビンを止めるための「オフ」スイッチが弱くなるため、胎児ヘモグロビンが作られ続けてしまいます。

遺伝について(顕性遺伝と突然変異)

この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のBCL11A遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、この病気の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査、そして血液検査によって確定されます。

1. 臨床診断の難しさ

発達の遅れや小頭症は、他の多くの病気でも見られる症状です。

また、特徴的な顔つきなどが目立たないことも多いため、見た目だけでBCL11A関連障害と診断することは不可能です。

そのため、これまでは「原因不明の知的障害」や「自閉スペクトラム症」と診断されていることが多くありました。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してBCL11A遺伝子に変異があるかを調べます。

特定の遺伝子を狙って調べる検査もありますが、最近では次世代シーケンサーという技術を使って、発達障害に関連する多くの遺伝子を一度に網羅的に調べる全エクソーム解析や遺伝子パネル検査が行われることが増えています。

これにより、偶然BCL11A遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースが増えています。

3. 血液検査(HbFの測定)

もし遺伝子検査でBCL11A遺伝子の変異が見つかった場合、あるいは疑われた場合、一般的な血液検査でヘモグロビンの種類を調べる検査(ヘモグロビン分画)を行うことがあります。

この検査で、胎児ヘモグロビン(HbF)の値が通常よりも高いことが確認されれば、診断の強力な裏付けとなります。

これは、他の知的障害症候群には見られない、MRD36ならではの特徴です。

4. その他の検査

診断の補助や合併症のチェックのために、以下の検査が行われることがあります。

脳のMRI検査:脳の構造に大きな異常がないかを確認します。脳梁が薄い、小脳が小さいなどの所見が見られることがありますが、決定的な特徴ではありません。

脳波検査:てんかんの疑いがある場合に行います。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復してタンパク質の量を元通りにする根本的な治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

1. リハビリテーション(療育)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れや発音の不明瞭さに対して、コミュニケーションの支援を行います。

口の動きの練習をしたり、言葉の理解を深める遊びを取り入れたりします。

言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、写真、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。

「伝えたいことが伝わる」という経験を積み重ねることで、コミュニケーションへの意欲が育ちます。

理学療法(PT)

運動発達の遅れや筋緊張低下に対して、体の中心(体幹)を鍛え、バランス感覚を養う訓練を行います。

お座りや歩行などの基本動作の獲得をサポートします。

作業療法(OT)

手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。

日常生活動作として、スプーンを持って食べる、着替える、靴を履くなどの練習をします。

2. 教育と生活のサポート

環境調整

自閉的傾向やこだわりがある場合、落ち着いて過ごせる環境を作ることが大切です。

視覚的な情報処理が得意なお子さんが多いため、一日のスケジュールを絵や写真で示して見通しを持たせたりする工夫(構造化)が役立ちます。

学校選び

就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。

少人数のクラスで、丁寧にコミュニケーションの練習をすることが、お子さんの安心感につながります。

3. 合併症の管理

てんかん

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。

脳波検査の結果や発作のタイプに合わせてお薬を選び、発作をコントロールします。

視覚・聴覚のケア

定期的な眼科検診を行い、斜視や遠視があれば眼鏡などで矯正します。

視力に問題がなくても、視覚的な情報の捉え方に特徴がある場合があるため、見え方の検査をすることもあります。

まとめ

知的発達障害36型(MRD36/BCL11A関連知的障害)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: BCL11A遺伝子の変異により、脳の発達と血液の切り替えスイッチに影響が出る先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 全般的な発達の遅れ、特に言葉の遅れ、小頭症、自閉スペクトラム症の傾向などが特徴です。
  • ユニークな特徴: 血液検査で胎児ヘモグロビン(HbF)が高いまま維持されていることが、診断の大きな手がかりになります(健康上の害はありません)。
  • 原因: 親からの遺伝ではなく、突然変異によるものが大半です。「顕性遺伝」という形式をとります。
  • 治療: 根本治療はありませんが、言語聴覚療法などの療育、環境調整によって、コミュニケーション能力を伸ばし、生活の質を向上させることができます。
  • 予後: ゆっくりですが確実に成長します。多くの患者さんが、それぞれの方法で周囲との関わりを持っています。

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