この記事のまとめ
NIPTで陽性と分かったとき、多くの親御さんが「上の子(きょうだい児)に我慢をさせてしまうのではないか」という不安を抱きます。きょうだい児とは、病気や障害のある子の兄弟姉妹を指す言葉で、幼いうちから「よい子」を演じてしまう傾向が支援の現場で報告されています。ただし感じ方や育ち方には個人差が大きく、必ず苦労するとは限りません。大切なのは、親だけで抱え込まず、レスパイトケア・相談支援専門員・きょうだい支援団体といった公的・民間の仕組みにつながることです。この記事では、きょうだい児への具体的な関わり方から、親自身の休息、経済的支援、夫婦関係、将来の備えまでを、家族全体を支える視点で解説します。
この記事でわかること
- 「きょうだい児」という言葉の意味と、心理的傾向として報告されていること
- きょうだい児への具体的な関わり方と、「きょうだい会」などの居場所
- 親自身の心身を守るレスパイトケアと、相談支援専門員という伴走者
- 就労継続・夫婦関係・「親亡き後」を見据えた経済的支援と成年後見制度
「きょうだい児」とは?NIPT陽性後に家族が向き合う新しい視点
「きょうだい児」とは、病気や障害のある子どもの兄弟姉妹を指す福祉分野の言葉です。NIPTで陽性と分かったとき、「赤ちゃん自身のこと」だけでなく「上の子や下の子にどんな影響があるか」を心配する親御さんは少なくありません。この不安自体は自然なもので、恥ずかしいことではありません。
きょうだい児というテーマは近年、社会的な関心が高まっている分野です。2026年7月には、NHK北海道が「病気や障害がある兄弟姉妹を持つ子ども『きょうだい児』伝えたい気持ちとは」という特集を放送しました。@nhk_hokkaidoの告知投稿でも、きょうだい児本人が抱える気持ちに焦点を当てた番組内容が紹介されていました。当事者の声に光が当たる機会が増えていることは、家族にとって心強い変化だといえます。
誤解しないでいただきたいのは、「きょうだい児だから必ず苦労する」わけではないという点です。きょうだいとの関係の築き方や感じ方は一人ひとり違い、成長の過程できょうだいへの理解を深め、豊かな人間関係を育む例も数多く報告されています。大切なのは、家族だけで抱え込まず、支援の存在を早めに知っておくことです。
知的障害のある子の育児全般に関する制度や心構えはダウン症児の支援制度に関する記事でも整理しています。まずは全体像をつかんだうえで、本記事ではきょうだい児への配慮と家族支援に焦点を絞って解説します。
きょうだい児が抱えやすい心理的傾向と「よい子」を演じてしまう理由
きょうだい児は、幼いころから親の忙しさや疲れを間近で見ているため、「自分は迷惑をかけてはいけない」と感じやすい傾向が支援団体の調査で報告されています。これは子ども自身の性格の問題ではなく、置かれた環境から生まれる自然な適応反応だと理解しておくことが出発点になります。
具体的には、寂しさや甘えたい気持ちを言葉にせず、親の前では平気なふりをする「よい子」を演じてしまうケースがあります。自分の感情を抑え込む状態が長く続くと、思春期以降に自己肯定感の低下や対人関係の悩みにつながる場合があると、きょうだい児支援に関する研究報告でも指摘されています。
一方で、こうした傾向を早期に理解し、意識的に関わり方を工夫することで、きょうだい児が安心して自分の気持ちを表現できるようになった例も数多くあります。障害のある兄弟姉妹との関係を考えるメディア「soar」も、弁護士でありきょうだい児の当事者でもある藤木和子さんの言葉を紹介していました。「人からどう見られるかではなく、自分が納得できれば基本的には全部正解です。自分を犠牲にしない家族との関わりをきょうだいには選んでほしい」という@soar_worldの発信は、きょうだい児本人の人生の選択を尊重する視点として、多くの親御さんの参考になる考え方です。
親ができる関わり方——きょうだいデー・伝え方・役割の線引き
きょうだい児への関わりで意識したいのは、「あなたも主役」と伝わる時間を作ること、正しい情報を隠さず伝えること、そして将来の役割を押し付けないことの3点です。特別なことをする必要はなく、日常の中でできる工夫が中心になります。
まず、月に一度でもよいので、障害のある子をレスパイトケア(ショートステイなど)に預け、きょうだい児と親だけで過ごす「きょうだいデー」を作る方法があります。「今日はあなたが主役」というメッセージを言葉だけでなく行動で示すことが、自己肯定感を守る土台になります。
次に、年齢に応じた言葉で兄弟姉妹の障害について正しく伝えることです。「あなたのせいではない」「うつる病気ではない」と伝え、「障害があっても大切な家族である」ことを共有します。隠すことは、かえって子どもの不安や誤解を大きくしてしまいます。
最後に、「お兄ちゃんだから面倒を見てね」「将来はよろしくね」といった言葉を、軽い気持ちでかけないようにすることも大切です。こうした言葉は子どもにとって想像以上に重い責任として受け止められることがあります。私自身、遺伝カウンセリングの相談の場で「下の子に負担を背負わせたくない」と涙ぐみながら話す親御さんに何度も出会ってきました。彼らには彼らの人生があることを、まず親が言葉にして認める姿勢が、子どもの安心につながります。
| 関わり方の工夫 | 具体的な行動 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| きょうだいデー | 月1回、きょうだい児と親だけで過ごす時間を確保する | 「あなたも主役」という実感を持てる |
| 正しく伝える | 年齢に応じた言葉で障害について説明する | 不安や誤解、タブー視を防ぐ |
| 役割を任せない | 「将来よろしくね」等の言葉を避ける | 過剰な責任感を背負わせない |
「きょうだい会」という居場所とピアサポートの力
きょうだい児同士が本音を語り合える「きょうだい会」は、親では埋められない孤独感を和らげる大切な居場所です。親には言いにくい複雑な感情を、同じ立場の仲間となら安心して分かち合えます。
NPO法人しぶたねをはじめとするきょうだい支援団体では、病気や障害のある子のきょうだいを対象にしたワークショップやキャンプ、交流イベントが各地で開催されています。「恥ずかしい」「嫌いだと思ってしまう」「でも大好き」といった、相反する気持ちを言葉にできる場があることは、きょうだい児にとって大きな救いになります。詳しい活動内容はNPO法人しぶたねの公式サイトで確認できます。
また、きょうだい児が担う家事や見守りの負担が大きくなりすぎると、いわゆる「ヤングケアラー」の状態と重なることもあります。こども家庭庁もヤングケアラー支援の枠組みで、家族のケアを担う子どもへの相談窓口や周知活動を進めています。子どもが担う役割が過度になっていないかは、家族だけで判断せず、学校や自治体の窓口にも相談してみてください。詳しくはこども家庭庁 ヤングケアラー支援のページで確認できます。
知的障害のある子との将来的な社会参加や共生のイメージを具体的に知っておくことも、きょうだい児への説明をしやすくします。あわせて知的障害者の社会参加と共生に関する記事もご覧ください。
親の心と体を守るレスパイトケアと相談支援専門員という伴走者
障害児育児で最も大切な鉄則は「支援者である親が倒れてはならない」ということです。親の心身の健康こそが、きょうだい児を含む家族全員の安全基地になります。
「レスパイト(Respite)」とは「一時休止」「息抜き」を意味する言葉です。かつては「親が休むなんて」という考え方もありましたが、現在は医学的・福祉的な観点から、親のレスパイトは育児を継続するために欠かせない権利として位置づけられています。短期入所(ショートステイ)は、親の病気や冠婚葬祭だけでなく、「旅行に行きたい」「ゆっくり眠りたい」という理由でも利用が推奨されている制度です。日中一時支援は、美容院に行く、きょうだい児の学校行事に参加するといった日常の用事のためにも活用できます。厚生労働省も障害児支援施策のなかでこうした在宅支援の充実を進めています。詳細は厚生労働省 障害児支援施策で確認できます。
遺伝カウンセリングの相談を重ねるなかで、こうしたレスパイトケアの存在を知って初めて肩の力を抜けた、と話す親御さんに何人も出会ってきました。「休むこと」に罪悪感を持つ必要はまったくありません。
福祉サービスを利用するには「計画相談支援」が必要になり、ここで登場するのが「相談支援専門員」です。家族の困りごとや希望(「働きたい」「きょうだいとの時間が欲しい」など)を聞き取り、最適なサービスを組み合わせた計画を作成してくれる、いわばケアマネージャーのような存在です。自分たちだけで情報を探し回る必要はなく、プロの伴走者が家族のライフステージに合わせて調整してくれます。相談支援の具体的な流れはNIPT陽性後の計画相談に関する記事で詳しく解説しています。
専門家のアドバイスに加え、同じ境遇にある先輩親の言葉には、何にも代えがたい説得力があります。各自治体や親の会が実施する「ペアレント・メンター」制度では、研修を受けた障害児の親が相談員となり、自身の経験に基づいて共感的なサポートを行います。「NIPTで陽性だったときのショックをどう乗り越えたか」「きょうだいへの伝え方をどう工夫したか」といった、専門職には聞きにくいリアルな悩みも、メンターとなら分かち合えます。
就労とキャリアを諦めないための制度活用
「障害児が生まれたら親のどちらかが仕事を辞めなければならない」という図式は、過去のものになりつつあります。経済的な安定は家族全体の精神的な安定に直結するため、就労継続は重要なテーマです。
共働き家庭にとって心強い味方が「放課後等デイサービス」です。小学生以上の障害児が放課後や長期休暇に通う施設で、「障害児の学童保育」と呼ばれることもあります。学校や自宅への送迎サービスを行う事業所も多く、親が働いている間の安全な居場所と療育を提供してくれます。
育児・介護休業法にもとづき、子の看護休暇(年間5日、対象児が2人以上なら10日)と介護休暇(同様の日数)を時間単位で取得することも可能です。企業によってはフレックスタイムやリモートワークを導入しており、療育の時間に合わせて柔軟に働く親御さんも増えています。
手当面では、20歳未満の障害児を養育する保護者に支給される特別児童扶養手当(1級:月額約5.5万円、2級:月額約3.6万円、所得制限あり)や、重度の障害児に支給される障害児福祉手当(月額約1.5万円)があります。金額や要件は年度により改定されるため、最新の制度はe-Gov法令検索の特別児童扶養手当等の支給に関する法律や、お住まいの自治体窓口で確認してください。これらの手当は、通院の交通費や療育グッズの購入、将来への貯蓄に充てられます。生活設計全体の考え方はNIPT陽性後の支援・療育・お金に関する記事にまとめています。
夫婦関係を守るチーム育児という視点
NIPTの陽性判定は、時に夫婦間の価値観の違いを浮き彫りにし、関係に負荷をかけることがあります。障害のある子を育てる家庭は、そうでない家庭に比べて夫婦関係に緊張が生じやすいという指摘もあり、早い段階からの対話が鍵になります。
「障害」への向き合い方は人それぞれです。母親は「産んで育てたい」と考える一方で、父親は「経済的に難しい」と感じる、あるいはその逆が起こることもあります。生まれた後も、障害を受け入れていくプロセスの速さには男女差や個人差があるため、一方が前向きに動き出しているのに、もう一方はまだ気持ちが追いついていない、というズレが孤立感を深める原因になりがちです。
ここで重要な役割を果たすのが第三者の介入です。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーは、医学的な情報提供だけでなく、夫婦間の意思決定支援も行います。夫婦だけで抱え込まず専門家のカウンセリングを受けることで、お互いの不安の正体を言葉にし、建設的な話し合いができるようになります。
「ママがケア担当、パパが稼ぐ担当」という固定的な役割分担は、不満がたまる温床になりやすいものです。療育への付き添い、きょうだいの世話、行政手続きを「チーム」としてどう分け合うか。時には外部サービス(ヘルパーなど)を取り入れ、夫婦だけの時間を作ることも、長く続く育児生活を支える大切な「メンテナンス」です。
「親亡き後」への備え:成年後見制度と将来設計

家族支援の最終的なゴールは、親がいなくなったあとも子どもが安心して暮らせる仕組みを整えておくことです。同時に、きょうだい児に過度な負担が集中しない体制を、早いうちから考えておくことも欠かせません。
知的障害により判断能力が十分でない場合、親に代わって契約や財産管理を行う「成年後見人」を選任する制度が成年後見制度です。親が高齢になった段階で申し立てを行い、司法書士や弁護士、あるいは市民後見人にバトンタッチできます。制度の詳細は法務省 成年後見制度・成年後見登記制度で確認できます。この制度を活用する最大の利点は、将来の財産管理や契約行為を「きょうだい児本人だけの責任」にしないで済むことです。
「特定贈与信託」などの金融商品を利用すれば、親が残した資金を信託銀行が管理し、定期的に子どもへ渡す仕組みを作れます。一度に大きな金額を渡してトラブルになることを防げます。グループホームなどの住まいの確保とセットで考えることで、「親がいなくても、地域の人や専門職に見守られながら生きていく」体制を整えられます。住まいの選択肢や費用の目安は『親亡き後』の住まいに関する記事で詳しく紹介しています。
こうした将来設計を早めに具体化しておくことは、きょうだい児に「自分がすべてを背負わなければならない」と思わせないための、親からの明確な意思表示にもなります。
まとめ:「助けて」と言えることが、家族全員を守る
NIPTの結果、障害のある子を家族に迎えることになったとしても、それは「家族の自由や、きょうだい児の未来がなくなる」ことを意味しません。本記事で紹介したように、日本には多層的な家族支援のネットワークが存在します。
順を追って整理すると、休息の面ではレスパイトケアで親自身が自分の時間を持つこと、きょうだいの面では心理的ケアと居場所づくりで自己肯定感を守ること、就労の面では放課後等デイサービスなどを活用してキャリアを諦めないこと、経済の面では手当や年金制度で家計を安定させること、そして仲間の面ではペアレント・メンターや親の会で孤独感を解消すること。これらが組み合わさることで、家族全員が無理なく前へ進めます。
「助けて」と言うことは、弱さではありません。それは、子どもと家族全員を守るための、賢明で愛情深い行動です。NIPTで早期にリスクを知ることは、こうした支援情報を事前に集め、地域とのつながりを作り、きょうだい児を含む家族全員が無理なく迎え入れられる体制を準備するための時間にもなります。
すべてを家族だけで背負う必要はありません。この事実を知っているだけで、きょうだい児を含めたご家族全員の未来の景色は、大きく変わっていくはずです。
よくある質問
Q. 「きょうだい児」とはどんな子どものことですか?
病気や障害のある子どもの兄弟姉妹を指す福祉分野の言葉です。幼いころから親の大変さを間近で見ているため、自分の気持ちを抑えて「よい子」を演じてしまう傾向が報告されています。ただし感じ方や育ち方には個人差が大きく、必ず苦労するとは限りません。早めに支援団体や相談窓口の存在を知っておくことが安心につながります。
Q. NIPT陽性できょうだいへの影響を心配していますが、実際どうなりますか?
影響の出方は家庭ごとに異なり、一概には言えません。ただし、親が意識的に「きょうだいデー」を設けたり、障害について年齢相応の言葉で正しく伝えたりすることで、きょうだい児の不安や誤解を減らせることが分かっています。心配な場合は、出産前から遺伝カウンセリングや相談支援専門員に相談し、利用できる支援を一緒に整理してください。
Q. きょうだい児にはいつ・どう伝えればいいですか?
年齢に応じた言葉で、「あなたのせいではない」「うつる病気ではない」という点を明確に伝えることが基本です。障害を隠すことは、かえって子どもの不安や誤解を大きくします。伝えるタイミングに迷う場合は、療育や相談支援の専門職、あるいはペアレント・メンターに相談すると、家庭の状況に合わせたアドバイスを受けられます。
Q. きょうだい児の「よい子症候群」を防ぐために親ができることは何ですか?
「今日はあなたが主役」と伝わる時間を定期的に作ること、将来の役割(介護など)を安易に押し付けないこと、そして子どもの寂しさや不満を否定せずに受け止めることが基本です。きょうだい児同士が本音を語り合える「きょうだい会」などの居場所につながることも、自己肯定感を守る助けになります。
Q. 親自身が息抜きできる制度はありますか?
「レスパイトケア」と呼ばれる制度があります。短期入所(ショートステイ)は数日間の宿泊預かり、日中一時支援は日中の一時的な預かりに対応しています。旅行や休息目的での利用も推奨されており、親の心身の健康を守るための正式な福祉サービスとして位置づけられています。利用には計画相談支援を通じた手続きが必要です。
Q. 将来「親亡き後」にきょうだいへ負担が集中しないようにするには?
成年後見制度を活用し、財産管理や契約行為を親族以外の専門職(司法書士・弁護士など)に任せられる体制を早めに作っておくことが有効です。特定贈与信託やグループホームの確保とあわせて検討することで、「きょうだい児本人がすべてを背負う」状況を避けられます。家族信託や年金制度も含め、早いうちに専門家へ相談してください。
Q. 経済的な不安がある場合、どこに相談すればいいですか?
まずは自治体の福祉窓口や相談支援専門員に相談してください。特別児童扶養手当や障害児福祉手当など、申請しないと受け取れない公的な手当が複数あります。あわせて放課後等デイサービスの利用で就労を継続する方法や、税制上の控除・割引制度も確認すると、経済的な見通しを立てやすくなります。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
