「きょうだい児」はどうなる?NIPT陽性後の家族支援とメンタルケア

NIPTで陽性と分かった時、親御さんが抱えるのは「家族全体がどうなるか」という不安です。「上の子に我慢をさせるのではないか」「親が潰れてしまわないか」。 しかし、現代には障害児本人だけでなく、家族を支える「レスパイトケア(休息)」や「きょうだい支援」の仕組みが充実しています。本記事では、家族が犠牲にならず、共に生きていくための公的・私的支援とメンタルケアの全貌を解説します。

1. 親の「心」と「体」を守る:レスパイトケアと相談支援

障害児育児において、最も重要な鉄則があります。それは「支援者が倒れてはならない」ということです。親の心身の健康こそが、子供の最大の安全基地です。そのために存在する制度について解説します。

「レスパイトケア」という概念

「レスパイト(Respite)」とは、「一時休止」「休息」「息抜き」を意味する言葉です。

かつては「障害児の親が休むなんてけしからん」という精神論が一部にありましたが、現在は医学的・福祉的観点からも、親のレスパイトは「育児継続のために不可欠な権利」として認められています。

  • 短期入所(ショートステイ):
    障害児入所施設などに子供を数日預け、宿泊させるサービスです。親の病気や冠婚葬祭といった緊急時はもちろん、「旅行に行きたい」「ただゆっくり眠りたい」という理由での利用も推奨されています。
  • 日中一時支援:
    日中、一時的に子供を預かってくれるサービスです。放課後等デイサービスや専用の施設で行われます。美容院へ行く、兄弟の学校行事に参加する、あるいはカフェで一息つくために利用できます。

これらを定期的に利用することで、親は「介護者」としての役割から一時的に解放され、「自分自身」を取り戻す時間を持つことができます。NIPTで陽性となり、将来の育児負担を懸念されている方は、こうした「逃げ場所」が制度として用意されていることを知っておいてください。

相談支援専門員という「伴走者」

福祉サービスを利用するためには、「計画相談支援」が必要です。ここで登場するのが「相談支援専門員」です。

彼らは、家族の困りごとや希望(「働きたい」「兄弟との時間が欲しい」など)をヒアリングし、最適なサービスを組み合わせて「サービス等利用計画案」を作成してくれるケアマネージャーのような存在です。

自分たちだけで情報を探す必要はありません。プロの伴走者が、家族のライフステージに合わせて支援をコーディネートしてくれます。

ペアレント・メンターによるピアサポート

専門家のアドバイスも重要ですが、同じ境遇にある「先輩親」の言葉には、何にも代えがたい説得力と癒やしがあります。

各自治体や親の会が実施している「ペアレント・メンター」制度では、研修を受けた障害児の親が相談員となり、自身の経験に基づいて共感的なサポートを行います。

「NIPTで陽性だった時のショックをどう乗り越えたか」「告知を親族にどう伝えたか」といった、専門職には聞きにくいリアルな悩みも、メンターとなら分かち合うことができます。

2. 忘れられがちな主役:「きょうだい児」への支援と配慮

NIPTを受ける動機として、「上の子への影響」を挙げる方は非常に多いです。障害のある兄弟姉妹を持つ子供たちを、福祉の現場では「きょうだい児」と呼びます。彼ら特有の心理的課題と、親ができるケアについて深掘りします。

「よい子」を演じてしまう心理

きょうだい児は、幼い頃から親の大変な姿を見ているため、「自分は迷惑をかけてはいけない」「親を助けなければいけない」と無意識に感じ、過剰に適応してしまう(よい子を演じる)傾向があります。

自分の寂しさや甘えたい気持ちを抑圧し、親の前では平気なふりをする。これが積み重なると、思春期以降に精神的な不調をきたすリスクがあります。

親ができる具体的な関わり方

専門家は、きょうだい児に対して以下のような関わりを推奨しています。

  1. 「きょうだいデー」を作る:
    月に一度でもいいので、障害のある子をレスパイトケア(ショートステイ等)に預け、きょうだい児と親だけで過ごす時間を作ります。「今日はあなたが主役」というメッセージを行動で示すことが、自己肯定感を守ります。
  2. 障害について正しく伝える:
    年齢に応じた言葉で、兄弟の障害について説明します。「あなたのせいではない」「うつる病気ではない」と伝えること、そして「障害があっても大切な家族である」ことを共有します。隠すことは、かえって不安や誤解(タブー視)を生みます。
  3. 役割を押し付けない:
    「お兄ちゃんだから面倒見てね」「将来はよろしくね」という言葉は、子供にとって重すぎる呪縛になります。彼らには彼らの人生があることを、親がまず認める姿勢が重要です。

「きょうだい会」という居場所

近年では、きょうだい児同士が集まり、親には言えない本音(「恥ずかしい」「嫌いだ」「でも好きだ」)を語り合うワークショップやキャンプ(きょうだい会)が各地で開催されています。

「同じ気持ちを持っているのは自分だけじゃない」と知ることは、彼らにとって大きな救いとなります。

3. 親のキャリアと経済的安定:働き続けるための支援

「障害児が生まれる=親のどちらか(主に母親)が仕事を辞めなければならない」という図式は、過去のものです。経済的な安定は家族の精神的安定に直結するため、就労継続は非常に重要なテーマです。

放課後等デイサービスの活用

共働き家庭にとって最強の味方が「放課後等デイサービス」です。

小学生以上の障害児が、放課後や長期休暇(夏休み等)に通う施設で、「障害児の学童保育」とも呼ばれます。多くの事業所が学校や自宅への送迎サービスを行っており、親が仕事をしている間の安全な居場所と療育を提供してくれます。

これにより、フルタイム勤務を継続している保護者は年々増加しています。

企業の制度:看護休暇と介護休暇

育児・介護休業法により、以下の制度が利用可能です。

  • 子の看護休暇: 子供の病気や検診、予防接種のために、年間5日(2人以上なら10日)まで取得できます。時間単位での取得も可能です。
  • 介護休暇: 障害のある家族の介護や通院の付き添いのために、同様に年間5日(2人以上なら10日)まで取得できます。

また、企業によっては「フレックスタイム制度」や「リモートワーク」を導入しており、療育の時間に合わせて柔軟に働く親御さんも増えています。

経済的支援(手当)の再確認

前述の就労収入に加え、公的な手当も家計を支えます。

  • 特別児童扶養手当: 20歳未満の障害児を養育する保護者に支給(1級:月額約5.5万円、2級:月額約3.6万円 ※所得制限あり)。
  • 障害児福祉手当: 重度の障害児に対し支給(月額約1.5万円)。

これらの手当は、通院の交通費や療育グッズの購入、そして将来への貯蓄に充てることができます。

4. 夫婦関係の危機管理:パートナーシップを維持するために

NIPTの陽性判定は、時に夫婦間の価値観の違いを浮き彫りにし、関係に亀裂を入れることがあります。障害児育児における離婚率は、定型発達児の家庭より高いという統計もあります。

価値観のズレと受容のタイムラグ

「障害」に対する受け止め方は人それぞれです。

母親は「産んで育てたい」と思う一方で、父親は「経済的に無理だ」と反対する、あるいはその逆も起こり得ます。また、生まれた後も、障害受容(障害を受け入れるプロセス)のスピードには男女差や個人差があります。

一方が「前向きに頑張ろう」としている時に、もう一方が「まだ落ち込んでいる」というズレが生じると、孤立感が深まります。

遺伝カウンセリングの活用

ここで重要なのが、第三者の介入です。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーは、医学的な情報の提供だけでなく、夫婦間の意思決定支援(コミュニケーションの仲介)も行います。

NIPTを受ける前後、あるいは結果が出た後に、夫婦だけで抱え込まずに専門家のカウンセリングを受けることで、お互いの不安の正体を言語化し、建設的な議論ができるようになります。

「役割分担」から「チーム育児」へ

「ママがケア担当、パパが稼ぐ担当」という固定的な役割分担は、不満の温床になります。

療育への付き添い、兄弟の世話、行政手続き。これらを「チーム」としてどうシェアするか。時には外部サービス(ヘルパーなど)を入れて、夫婦だけでデートをする時間を作ることも、長い育児生活を走り抜けるためには必要な「メンテナンス」です。

5. 将来の「親亡き後」への備え:成年後見と財産管理

家族支援の最終的なゴールは、親がいなくなっても子供が幸せに暮らせる仕組みを作ることです。

成年後見制度

知的障害により判断能力が不十分な場合、親に代わって契約や財産管理を行う「成年後見人」を選任する制度です。親が高齢になった段階で申し立てを行い、司法書士や弁護士、あるいは市民後見人にバトンタッチします。

遺言と信託

「特定贈与信託」などの金融商品を利用すれば、親が残した資金を信託銀行が管理し、定期的に子供に渡すことができます。一度に大金を渡してトラブルになることを防げます。

また、グループホームなどの住まいの確保とセットで考えることで、「親がいなくても、地域の人や専門職に守られて生きていく」体制を整えることができます。

6. まとめ:支援につながることで、「家族」はもっと自由になれる

NIPTの結果、知的障害のある子を家族に迎えることになったとしても、それは「家族の自由がなくなる」ことを意味しません。

本記事で紹介したように、日本には多層的な家族支援のネットワークが存在します。

  • 休息: レスパイトケアで、親も自分の人生を楽しむ時間を持つ。
  • きょうだい: 心理的ケアと居場所作りで、兄弟姉妹の自己肯定感を守る。
  • 就労: 放課後等デイサービスなどを活用し、キャリアを諦めない。
  • 経済: 手当や年金制度を活用し、家計の安定を図る。
  • 仲間: ペアレント・メンターや親の会で、孤独を解消する。

「助けて」と言うことは、弱さではありません。それは、子供と家族全員を守るための、賢明で愛情深い行動です。

NIPTで早期にリスクを知ることは、こうした支援情報(リソース)を事前に集め、地域とのつながりを作り、盤石な体制で赤ちゃんを迎えるための「準備期間」になります。

「すべてを家族だけで背負わなくていい」。

この事実を知っているだけで、未来の景色は大きく変わるはずです。

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