11p11.2欠失症候群(ポトッキ・シェイファー症候群)

赤ちゃん

お子様が「11番染色体p11.2欠失(Chromosome 11p11.2 deletion)」、あるいは「ポトッキ・シェイファー症候群(PSS)」という診断を受けたとき、聞き慣れない病名に、大きな不安と戸惑いを感じられたことでしょう。

「骨にコブができる?」「頭の骨に穴がある?」

医師から説明される症状は、一般的によく知られている染色体疾患(ダウン症など)とは少し異なる特徴的なものが多く、イメージが湧きにくいかもしれません。

この症候群は、隣り合っているいくつかの重要な遺伝子がまとめて失われることで起きる「隣接遺伝子症候群」の一つです。

現在は遺伝子の研究が進み、「どの遺伝子が足りないと、どの症状が出るか」がかなり詳しく分かってきています。つまり、「何に気をつけて、どう管理すればよいか」**という対策が立てやすい病気でもあります。

概要:どのような病気か

11p11.2欠失症候群は、ヒトの細胞にある46本の染色体のうち、「11番染色体」の一部が失われている(欠失している)ことによって起こる生まれつきの疾患です。

発見者の名前にちなんで、ポトッキ・シェイファー症候群(Potocki-Shaffer syndrome: PSS)と呼ばれることが一般的です。

染色体の「住所」を読み解く

この病名は、染色体のどこに変化が起きているかという「住所」を表しています。

  • Chromosome 11(11番染色体): ヒトの23対の染色体のうち、中くらいの大きさを持つ11番目の染色体です。
  • p(短腕): 染色体にはくびれがあり、短い方を「短腕(p)」、長い方を「長腕(q)」と呼びます。
  • 11.2(領域): 短腕の付け根に近い「11.2番」という区画が欠けていることを意味します。
  • Deletion(欠失): その部分の遺伝情報が抜け落ちている状態です。

「設計図」の数ページが抜けている状態

染色体を「全46巻の百科事典(体の設計図)」に例えるなら、この症候群は、**「第11巻のp11.2という章の、数ページがまとめて抜け落ちてしまっている」**状態です。

この数ページには、骨や頭蓋骨、脳の発達に関わる独立した遺伝子が並んで書かれています。これらがまとめて失われることで、複数の症状がセットで現れるのです。

主な症状と原因遺伝子

ポトッキ・シェイファー症候群には、「3つの大きな特徴」があります。これらは、欠失している範囲に含まれる「特定の遺伝子」と直接リンクしています。

1. 多発性外骨腫(たはつせい・がいこつしゅ)

原因遺伝子:EXT2

この症候群の最も代表的な身体的特徴です。

  • どのような症状か:
    骨の表面に、良性の骨の出っ張り(コブのようなもの)が複数できます。これを「外骨腫(がいこつしゅ)」と呼びます。
  • できる場所:
    手足の長い骨(腕や脚)、肋骨、骨盤などによくできます。
  • 影響:
    コブ自体は良性ですが、大きくなると神経や血管を圧迫して痛みが出たり、関節の動きを悪くしたりすることがあります。また、骨の成長を妨げて、手足の長さのバランスが悪くなることや、変形が生じることがあります。
  • 時期:
    生まれた時には目立たないことが多く、幼児期から学童期にかけて徐々に見つかることが多いです。

2. 頭頂孔開存(とうちょうこう・かいぞん)

原因遺伝子:ALX4

頭蓋骨の形成に関わる非常に特徴的な症状です。

  • どのような症状か:
    赤ちゃんの頭には「大泉門(だいせんもん)」という柔らかい部分がありますが、通常は成長とともに閉じます。
    しかし、この症候群では、頭のてっぺんの両サイド(頭頂骨)に、骨ができずに穴が開いたままの部分(孔)が残ることがあります。
  • 見た目:
    触るとペコペコしていたり、皮膚を通して脈打つのが見えたりすることがあります。
  • 影響:
    脳が直接皮膚の下にある状態に近い箇所があるため、頭をぶつけないように保護することが非常に重要になります。

3. 知的障害・発達遅滞・特徴的なお顔立ち

原因遺伝子:PHF21A

脳の発達や顔の形成に関わる遺伝子です。

  • 発達の遅れ:
    首のすわり、お座り、歩行などの運動発達や、言葉の発達が全体的にゆっくりになります。
  • 知的障害:
    軽度から中等度、時には重度まで個人差があります。
  • お顔の特徴:
    • 頭の形が前後に短い(短頭)。
    • おでこが広い。
    • 目が離れている(眼間開離)。
    • 鼻が短い、鼻先が上を向いている。
    • 口が小さい、など。
      これらは成長とともに変化し、その子らしい個性に馴染んでいきます。

4. その他の合併症

すべての患者さんにあるわけではありませんが、以下のような症状が見られることもあります。

  • 視覚の問題: 視神経の形成不全や、斜視、近視など。
  • 泌尿生殖器の異常: 腎臓の形の問題や、男児の停留精巣(金玉が降りてこない)など。
  • てんかん: けいれん発作を起こすことがあります。
  • 自閉スペクトラム症(ASD): こだわりが強い、コミュニケーションが苦手といった特性を持つことがあります。

原因:なぜ起きたのか

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、「ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではない」ということです。

1. 突然変異(de novo変異)

ポトッキ・シェイファー症候群の大多数は、「de novo(デ・ノボ)」と呼ばれる突然変異で起こります。

精子や卵子が作られる過程、あるいは受精後の細胞分裂の非常に早い段階で、偶然染色体の一部が切れてなくなってしまったものです。

誰にでも起こりうる、自然の確率的な現象であり、防ぐことは現代の医学では不可能です。

2. 親の染色体転座(まれなケース)

ごく一部のケースでは、ご両親のどちらかが「均衡型転座」という染色体のタイプを持っている場合があります。

  • 均衡型転座: 染色体の場所が入れ替わっているだけで、遺伝情報の量は変わらないため、親御さん自身は健康です。
  • しかし、お子様に染色体を受け渡す際に、バランスが崩れて「不均衡(欠失)」が生じることがあります。
    ※次のお子様を考えている場合など、必要に応じて遺伝カウンセリングで確認することができます。

3. ハプロ不全(Haploinsufficiency)

通常、遺伝子は父由来と母由来の2つがセットで働きます。しかし、片方が欠失してしまうと、残りの1つだけではタンパク質の量が足りず、正常な機能を果たせなくなります。

  • EXT2が半分 → 骨のコブができる。
  • ALX4が半分 → 頭蓋骨に穴が残る。
  • PHF21Aが半分 → 知的発達に影響が出る。
    このように、遺伝子の「量」が足りないことが直接の原因です。

診断と検査

通常、生まれた時の特徴(頭蓋骨の穴)や発達の遅れ、あるいは幼児期に骨のコブが見つかったことで医師が疑いを持ち、検査を行います。

1. マイクロアレイ染色体検査 (CMA)

現在、この症候群の確定診断に最も推奨される検査です。

従来の顕微鏡検査(G分染法)では、小さな欠失は見逃されることがありました。マイクロアレイ検査はDNAレベルで調べるため、「11p11.2のどの範囲が欠けているか」「EXT2やALX4などの重要遺伝子が含まれているか」といった正確な診断が可能です。

2. 画像検査(レントゲン・CT・MRI)

合併症を確認するために重要です。

  • 全身のレントゲン(骨格サーベイ): 外骨腫(骨のコブ)がどこにあるか、変形がないかを確認します。
  • 頭部CT/MRI: 「頭頂孔(頭の穴)」の大きさや状態を確認します。また、脳の構造に異常がないかも調べます。
  • 腹部エコー: 腎臓などの内臓を確認します。

3. 眼科検査

視力や目の奥(眼底)の状態をチェックします。

医者

治療と管理:これからのロードマップ

失われた染色体を元に戻す治療法(根本治療)は、現代の医療ではまだ確立されていません。

しかし、ポトッキ・シェイファー症候群は、症状ごとの対応策がはっきりしているため、適切な「管理(サーベイランス)」を行うことで、健康を守り、QOL(生活の質)を高めることができます。

1. 頭部の保護(頭頂孔への対策)

頭蓋骨に欠損がある(穴が開いている)場合、脳を衝撃から守る必要があります。

  • 保護帽(ヘルメット): 転んで頭をぶつけやすい幼児期などは、保護用のヘルメットや、クッション性のある帽子を着用することが推奨されます。
  • 生活指導: 激しいコンタクトスポーツなどは避ける必要がありますが、医師と相談しながら、安全に運動を楽しむ方法は見つけられます。
  • 手術: 欠損孔が大きく、自然閉鎖が難しい場合は、成長してから頭蓋骨を形成する手術を行うこともあります。

2. 多発性外骨腫の管理

  • 定期的なレントゲン: 骨のコブが大きくなっていないか、骨の変形が進んでいないか、定期的に整形外科でチェックします。
  • 手術: コブが神経を圧迫して痛む場合や、関節の動きを邪魔する場合、骨の変形が強い場合は、コブを切除する手術や、骨の形を治す手術を行います。
  • 悪性化の監視: ごく稀ですが、大人になってから外骨腫が悪性化(軟骨肉腫)することがあるため、生涯にわたる定期検診が大切です。

3. 早期療育(ハビリテーション)

脳や体の発達を促すために、専門家によるサポートを受けます。

  • 理学療法 (PT): 運動発達を促します。骨の変形がある場合は、負担のかからない体の使い方も学びます。
  • 作業療法 (OT): 手先の不器用さを改善し、遊びや生活動作を練習します。
  • 言語聴覚療法 (ST): 言葉の遅れに対してアプローチします。視覚的な手がかり(絵カードなど)も有効です。

4. 眼科・その他のケア

  • メガネ: 視力が弱い場合は、早期からメガネやコンタクトレンズを使用します。
  • てんかん: 発作がある場合は、抗てんかん薬でコントロールします。

日々の生活での工夫

ポトッキ・シェイファー症候群のお子様との生活で、ヒントになるポイントをまとめました。

  • 「痛み」のサインに気づく:
    言葉でうまく伝えられない場合、特定の動きを嫌がったり、不機嫌になったりするのは、骨のコブが当たって痛いからかもしれません。「わがまま」と捉えず、体のどこかが痛くないか確認してあげてください。
  • 安全な環境づくり:
    頭を守るため、家の中の家具の角にクッション材を貼るなどの工夫が有効です。
  • スモールステップ:
    周りの子と比べず、「半年前のこの子」と比べてください。発達はゆっくりですが、確実に進んでいきます。

よくある質問(FAQ)

Q. 寿命に影響はありますか?

A. 一般的に、重篤な合併症(腎不全など)がなければ、生命予後(寿命)は良好であり、成人して生活している方もいらっしゃいます。ただし、外骨腫の管理や頭部の保護など、生涯にわたるケアは必要です。

Q. 頭の穴(頭頂孔)は塞がりますか?

A. 小さなものであれば、成長とともに自然に閉鎖したり、目立たなくなったりすることがあります。しかし、大きなものの場合は残ることがあるため、医師による経過観察が必要です。

Q. 次の子に遺伝しますか?

A. 親御さんの染色体検査の結果によりますが、両親が正常(de novo変異)であれば、次のお子様が同じ病気になる確率は一般と同じく非常に低いです(1%以下)。親御さんが均衡型転座を持っている場合は確率が変わります。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. 11p11.2欠失(ポトッキ・シェイファー症候群)は、複数の遺伝子欠失による隣接遺伝子症候群です。
  2. 3大特徴は、多発性外骨腫(EXT2)、頭頂孔(ALX4)、発達遅滞・顔貌特徴(PHF21A)です。
  3. 最重要事項は、頭部の保護と、骨の定期的なチェックです。
  4. 原因の多くは突然変異であり、親の責任ではありません。
  5. 診断にはマイクロアレイ検査が有効で、レントゲンやCTも重要です。
  6. 治療は、整形外科的な管理と、早期からの療育が中心となります。

家族へのメッセージ

診断名を聞いた直後、ご家族は「骨のコブ」「頭の穴」といった聞き慣れない症状に、大きなショックを受けているかもしれません。

「普通にスポーツはできるのかな」「学校生活は大丈夫かな」と、将来を案じるお気持ち、痛いほど分かります。

しかし、ポトッキ・シェイファー症候群のお子様たちは、適切なサポートがあれば、笑顔いっぱいに過ごすことができます。

ヘルメットはお子様を守る「鎧」となり、定期検診はお子様の成長を見守る「マイルストーン」となります。

骨の特徴や発達のゆっくりさはありますが、彼らは独自の感性で世界を楽しみ、家族に愛と気づきを与えてくれる存在です。

一人で抱え込まないで

希少疾患ゆえに、近所に同じ病気の子を見つけるのは難しいかもしれません。しかし、インターネットを通じて、世界中の家族とつながることができます。

医師、看護師、理学療法士、義肢装具士。あなたの周りには、お子様を支える「チーム」を作るための専門家がいます。

分からないことは聞き、辛い時は吐き出し、周りを頼ってください。

焦らず、一日一日を大切に。

お子様の笑顔を守るために、今日できるケアを一つずつ積み重ねていきましょう。私たちも、その歩みを応援しています。

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