先天性筋ジストロフィー(CMD)

医者

先天性筋ジストロフィー、あるいはCMDという診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「筋肉の病気です」「生まれつきの筋ジストロフィーです」と説明を受け、さらに「福山型」や「ウルリッヒ型」といった聞き慣れない病型名を告げられて、計り知れない不安と戸惑いの中にいらっしゃることと思います。特に、生まれたばかりの赤ちゃんや、まだ小さなお子さんにこのような診断がついた場合、これからどう成長していくのか、歩けるようになるのか、どんな生活が待っているのかと、心配で胸がいっぱいになっているかもしれません。

先天性筋ジストロフィーは、生まれたとき、あるいは生後間もない時期から、筋肉の力が弱かったり、関節が硬かったりする症状が現れる遺伝性の筋肉の病気の総称です。

「筋ジストロフィー」という名前は聞いたことがあっても、「先天性」がつくとどう違うのか、疑問に思われる方も多いでしょう。

一般的な筋ジストロフィー(デュシェンヌ型など)が幼児期以降に症状が目立ってくるのに対し、先天性筋ジストロフィーは乳児期から症状があるのが最大の特徴です。

日本においては、福山型先天性筋ジストロフィーというタイプが最も多く、全体の半数以上を占めています。その他にも、ウルリッヒ型やメロシン欠損型など、原因となる遺伝子によって様々なタイプに分類されており、それぞれ症状の出方や経過が異なります。

非常に専門的な病気であり、インターネット上には難しい医学用語が並んでいることも多いため、理解するのが難しいと感じることもあるかもしれません。

しかし、近年は遺伝子検査の技術が進歩したことで早期に確定診断ができるようになり、それぞれのタイプに合わせた適切な管理法やリハビリテーションが確立されてきています。また、根本的な治療を目指した研究も世界中で活発に行われています。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来のすべてを決めるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、ゆっくりでも確実に成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

疾患の定義

先天性筋ジストロフィーとは、骨格筋すなわち体を動かすための筋肉の変性や壊死が、胎児期または乳児期早期から進行する病気のグループの総称です。

英語ではCongenital Muscular Dystrophyと表記され、頭文字をとってCMD(シーエムディー)と呼ばれます。

「フロッピーインファント」との関係

この病気のお子さんは、生まれた直後や乳児期に、体が柔らかく筋肉の張りが弱い状態、いわゆるフロッピーインファントとして気づかれることが多くあります。

抱っこをしたときにグニャッとした感触があったり、首のすわりが遅かったり、手足の動きが少なかったりすることで、検査が進められるケースが一般的です。

筋肉以外の症状

「筋ジストロフィー」という名前ですが、タイプによっては筋肉だけでなく、脳や目などの中枢神経系に症状が現れることもあります。

特に日本人に多い福山型では、脳の形成異常を伴うことが特徴的です。

代表的な病型分類

先天性筋ジストロフィーは一つの病気ではなく、原因となる遺伝子の違いによっていくつもの型に分けられます。日本では主に以下の3つの型が多く見られます。

  1. 福山型先天性筋ジストロフィー
    日本人に特有の型で、国内の患者さんの約半数以上を占めます。
  2. ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー
    コラーゲンというタンパク質の異常によって起こる型で、日本でも比較的多く見られます。
  3. メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー(LAMA2関連型)
    欧米では最も多い型ですが、日本でも見られます。

これらの型の違いについては、後ほど詳しく解説します。

主な症状

先天性筋ジストロフィーの症状は、病型や個人差によって異なりますが、多くの患者さんに共通してみられるサインと、特定の型に見られる特徴的な症状があります。

1. 共通する身体的な症状

筋力低下と筋緊張低下

これが最も基本的な症状です。

筋肉の力が弱いため、重力に逆らって手足を動かすのが苦手だったり、首を持ち上げるのが難しかったりします。

また、筋肉の張りが弱いため、抱き上げたときに体が滑り落ちそうになるような柔らかさを感じることがあります。

関節拘縮(かんせつこうしゅく)

筋肉が弱いのと同時に、関節が硬くなって動かしにくくなる症状が見られることが多いです。

これを関節拘縮と呼びます。

特に肘、膝、足首、股関節などが硬くなりやすく、生まれたときから関節が曲がった状態で固定されていることもあります。

運動発達の遅れ

首すわり、寝返り、お座り、ハイハイ、つかまり立ちといった運動のマイルストーンが、一般的な時期よりも遅れます。

独歩(一人歩き)ができるようになるかどうかは、病型や重症度によって大きく異なります。

呼吸障害

呼吸をするための筋肉(横隔膜や肋間筋など)も弱くなるため、呼吸が浅くなったり、咳をする力が弱くなったりすることがあります。

風邪をひいたときに痰が出せずに肺炎になりやすかったり、睡眠中に呼吸が弱くなったりすることがあるため、注意深い観察が必要です。

哺乳・嚥下障害

ミルクを吸う力や、飲み込む力が弱いことがあります。

体重が増えにくかったり、飲み込むときにむせたりすることがあります。

2. 福山型の特徴的な症状

日本で最も多い福山型には、筋肉の症状に加えて以下の特徴があります。

中枢神経症状

脳の表面のシワがうまく作られない多小脳回などの脳形成異常を伴います。

これにより、知的発達の遅れや、てんかん発作が見られることがあります。

知的発達の程度は、言葉をいくつか話せる方から、コミュニケーションには支援が必要な方まで様々です。

性格は愛嬌があり、人懐っこいお子さんが多いと言われています。

顔貌の特徴

頬がふっくらとしていて、口をポカンと開けているような、愛らしいお顔立ちが見られることがあります。

3. ウルリッヒ型の特徴的な症状

過伸展と拘縮の混在

この型では、肘や膝などの大きな関節は硬くて伸びにくい(拘縮)一方で、手首や指などの末梢の関節は柔らかすぎて反対側に反り返ってしまう(過伸展)という、独特の特徴が見られます。

皮膚の特徴

皮膚がビロードのようにきめ細かくて柔らかい一方で、かかとなどが突出していたり、手術の傷跡などが盛り上がりやすかったりするケロイド体質が見られることがあります。

4. メロシン欠損型の特徴的な症状

脳の白質病変

MRI検査をすると、脳の白質という部分に変化が見られますが、福山型とは異なり、脳の機能(知的な発達)は比較的保たれる傾向があります。

言葉の理解や学習能力は正常範囲であることも多く、会話でのコミュニケーションが可能です。

てんかん発作

メロシン欠損型でも、てんかんを合併することがあります。

医療

原因

なぜ、筋肉が弱くなったり、関節が硬くなったりするのでしょうか。その原因は、筋肉の細胞を支える構造の不具合にあります。

筋肉の構造と細胞外マトリックス

私たちの筋肉は、筋繊維という細長い細胞の束でできています。

この筋繊維が動く(収縮する)ときには、細胞の中の骨組みと、細胞の外にある膜(基底膜)や結合組織(細胞外マトリックス)がしっかりと連結している必要があります。

この連結がうまくいかないと、筋肉を動かすたびに細胞膜が壊れやすくなり、筋肉が徐々に痩せていってしまいます。

遺伝子の変異

先天性筋ジストロフィーの多くは、この「細胞の中と外をつなぐタンパク質」や、「タンパク質に糖の鎖をつける酵素(糖鎖修飾)」を作る遺伝子に変異が起きることで発症します。

  • 福山型: 第9番染色体にあるFKTN(フクチン)という遺伝子の変異が原因です。この遺伝子は、アルファ・ジストログリカンというタンパク質に糖鎖をつける役割をしています。この糖鎖がうまくつかないと、筋肉の細胞が外側の組織とうまく手をつなげなくなります。
    日本では、遠い祖先の一人に起きた遺伝子の変化が広まったため、この型が特に多いと考えられています。
  • ウルリッヒ型: 6型コラーゲンを作る遺伝子(COL6A1, COL6A2, COL6A3)の変異が原因です。コラーゲンは細胞の外側の環境を作る重要な成分です。
  • メロシン欠損型: LAMA2という遺伝子の変異が原因です。この遺伝子は、ラミニンアルファ2(メロシン)という、筋肉の細胞を包む膜の成分を作っています。

遺伝について

多くの先天性筋ジストロフィー(福山型やメロシン欠損型など)は、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)という形式をとります。

これは、ご両親がそれぞれ変異した遺伝子を1つずつ持っている(保因者である)場合に、お子さんがその両方を受け継ぐと発症するという仕組みです。

ご両親は保因者であっても発症せず健康であるため、親戚に同じ病気の人がいなくても、突然お子さんが発症することがあります。

ウルリッヒ型については、常染色体潜性遺伝の場合と、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の場合があります。顕性遺伝の場合は、突然変異で発症することも多いです。

遺伝子の変化は、誰のせいでもありません。妊娠中の生活習慣やストレスなどが原因で起こるものではないことを理解しておくことが大切です。

診断と検査

診断は、症状の観察、血液検査、画像検査、そして遺伝学的検査などを組み合わせて行われます。

1. 血液検査(CK値)

筋肉の細胞が壊れると、中にあるクレアチンキナーゼ(CK)という酵素が血液中に漏れ出てきます。

先天性筋ジストロフィーでは、このCK値が高くなることが診断の最初のきっかけになります。

ただし、ウルリッヒ型など一部の型では、CK値があまり高くならないこともあります。

2. 画像検査(MRI・CT)

脳のMRI検査は、病型を特定するために非常に重要です。

福山型では特徴的な脳の形成異常が見られ、メロシン欠損型では白質の変化が見られます。

また、全身の筋肉のCTやMRIを撮ることで、どの筋肉が痩せているかを確認し、診断の参考にします。

3. 遺伝学的検査

確定診断のために行われます。

血液を採取し、DNAを解析して、原因と考えられる遺伝子(FKTN、COL6Aなど)に変異があるかを調べます。

最近では、複数の遺伝子を一度に調べるパネル検査なども行われるようになり、診断にかかる時間が短縮されています。

4. 筋生検(きんせいけん)

遺伝子検査で診断がつかない場合や、詳しい病態を調べる必要がある場合に、筋肉の一部を手術で採取して、顕微鏡で調べる検査です。

筋肉の細胞の状態や、特定のタンパク質(フクチンやメロシン、コラーゲンなど)がきちんとあるかどうかを確認します。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して筋肉を元通りにする根本的な治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療やケアを行うことで、合併症を防ぎ、お子さんの持っている能力を伸ばし、生活の質を高めることは十分に可能です。

これを対症療法および支持療法と呼びます。

1. リハビリテーション(療育)

先天性筋ジストロフィーのお子さんにとって、リハビリは生活の一部とも言える重要なケアです。

関節拘縮の予防

関節が硬くなるのを防ぐために、理学療法士(PT)と一緒にストレッチを行います。

ご家庭でも、お風呂上がりなどに優しく関節を動かすマッサージを行うことが推奨されます。

運動機能の維持・向上

お座りや立ち上がりなどの動作を練習します。

無理な筋力トレーニングは逆に筋肉を傷める可能性があるため、遊びの中で楽しみながら体を動かす方法を取り入れます。

足に合った装具や、座位保持装置(座るための椅子)、車椅子などを作成し、移動や姿勢の保持をサポートします。Shutterstock詳しく見る

2. 呼吸管理

呼吸機能の維持は、生命予後に関わる最も重要なポイントです。

呼吸機能の評価

定期的に呼吸機能検査を行い、肺活量や咳をする力をチェックします。

排痰補助(はいたんほじょ)

風邪をひいた時などに痰を出しやすくするために、カフアシストという機械を使ったり、用手圧迫といって手で胸を押して咳を助けたりする方法を学びます。

呼吸サポート(NPPVなど)

呼吸が弱くなってきた場合や、睡眠中に呼吸が浅くなる場合には、マスクを使った人工呼吸器(NPPV)を導入します。

早期から呼吸ケアを行うことで、体調を安定させ、元気に過ごせる時間が長くなります。

3. 栄養と嚥下の管理

体重が増えにくい、食べるのに時間がかかるといった場合は、栄養管理が必要です。

食事の形態をとろみ食やミキサー食にして飲み込みやすくしたり、高カロリーの栄養補助食品を利用したりします。

口から食べるのが難しい場合や、誤嚥性肺炎を繰り返す場合は、鼻からチューブを通したり、胃ろうを造設したりして、安全に栄養を摂る方法を選択します。

胃ろうは「食べる楽しみを奪うもの」ではなく、「食べる楽しみを続けるための安心材料」として捉えられることが多くなっています。

4. 整形外科的治療

側弯症(背骨の曲がり)が進行すると、呼吸や座る姿勢に影響します。

コルセットを使用したり、進行した場合は背骨をまっすぐにする手術を行ったりします。

股関節脱臼などに対しても、状況に応じて手術や装具による治療が行われます。

5. 合併症の管理

福山型などでてんかん発作がある場合は、抗てんかん薬を使用して発作をコントロールします。

心臓の機能に影響が出るタイプもあるため、定期的な心エコー検査なども行います。

まとめ

先天性筋ジストロフィー(CMD)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: 生まれつき筋肉を支える構造に遺伝的な変化があり、筋力低下や関節拘縮が見られる病気です。
  • 主な種類: 日本では福山型が最も多く、次にウルリッヒ型、メロシン欠損型などがあります。それぞれに特徴的な症状があります。
  • 症状: 筋力低下、体の柔らかさ、関節の硬さが主な症状ですが、呼吸や飲み込み、中枢神経(脳)の症状を伴うこともあります。
  • 診断: 血液検査(CK値)、画像検査、遺伝子検査などを組み合わせて確定診断を行います。
  • 治療: 根本治療は研究段階ですが、リハビリテーション、呼吸ケア、栄養管理などの支持療法によって、生活の質を大きく向上させることができます。

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