正中線脳欠損を伴う、または伴わない発達性およびてんかん性脳症85型(Developmental and epileptic encephalopathy 85 with or without midline brain defects)

赤ちゃん

医師からDevelopmental and epileptic encephalopathy 85 with or without midline brain defectsという非常に長く、複雑な診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは乳児期のお子様に、このような難しい病名が告げられ、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても報告数が少なく、希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝、脳神経の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない、比較的新しい疾患概念です。

この長い診断名を日本語に訳すと、正中線脳欠損を伴う、または伴わない発達性およびてんかん性脳症85型となります。医療現場では、頭文字をとってDEE85(ディー・イー・イー・ハチジュウゴ)と呼ばれることが一般的です。また、原因となる遺伝子の名前をとってSMC1A関連脳症と呼ばれることもあります。

この病気は、重いてんかん発作と発達の遅れに加え、脳の形が作られる段階での特徴的な変化、具体的には脳の左右がうまく分かれない全前脳胞症などの正中線欠損を伴うことがあるのが大きな特徴です。

脳症という言葉や85型という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、重症度を表す数字ではありません。

原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。

概要:どのような病気か

正中線脳欠損を伴う、または伴わない発達性およびてんかん性脳症85型(DEE85)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の形成と神経細胞の働きに影響が出る疾患です。

まず、この長い病名を3つのパートに分けて理解しましょう。

1つ目は、発達性およびてんかん性脳症です。

発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。

てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。

脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。

2つ目は、正中線脳欠損を伴う、または伴わないという部分です。

正中線とは、体の中心を通る線のことです。脳においては、右脳と左脳を分ける真ん中のラインを指します。

この病気では、お母さんのお腹の中で脳が作られる時期に、左右の脳がうまく分離しなかったり、真ん中にあるべき構造が欠けていたりすることがあります。これを正中線欠損といいます。ただし、伴わないとある通り、すべての患者さんにこの脳の形の変化があるわけではありません。

3つ目は、85型という分類です。

これは、SMC1Aという特定の遺伝子の変異によって引き起こされるタイプであることを示しています。

つまり、DEE85はSMC1A遺伝子の変化により、てんかん発作や発達の遅れが生じ、場合によっては脳の形にも特徴が現れる病気です。

このSMC1A遺伝子は、以前からコルネリア・デ・ランゲ症候群という別の病気の原因としても知られていましたが、DEE85はその中でも特にてんかんや脳の構造異常が目立つ、より重度なタイプとして区別されています。

主な症状

DEE85の症状は、てんかん発作、脳の構造的な問題、発達の遅れ、そして身体的な特徴の四つに大きく分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。

1. てんかん発作

多くの患者さんにおいて、生後数ヶ月以内の乳児期早期にてんかん発作が始まります。

発作のタイプ

発作の形は様々ですが、以下のようなタイプが報告されています。

点頭てんかん(ウエスト症候群):一瞬頭をカクンと下げるような動作を、数秒おきに繰り返す発作です。シリーズ形成といって、一度始まると何度も繰り返すのが特徴です。

焦点発作:体の一部がピクピク動いたり、視線が偏ったりする発作です。

強直発作:手足が突っ張って硬くなる発作です。

難治性

DEE85のてんかん発作は、一般的な抗てんかん薬が効きにくい難治性であることが多いです。複数の薬を組み合わせても発作を完全に止めることが難しい場合があり、発作をゼロにすることだけを目指すのではなく、生活の質を保ちながら発作の頻度や強さをコントロールしていく視点が必要になります。

2. 正中線脳欠損(脳の構造異常)

この病気の大きな特徴として、脳の形に変化が見られることがあります。

全前脳胞症(HPE)

脳は最初、一つの塊として作られ、それが左右に分かれて右脳と左脳になります。この分離がうまくいかない状態を全前脳胞症といいます。

完全に分かれない重度のものから、一部だけがつながっている軽度のものまで様々です。これにより、運動機能や知的な発達に影響が出ます。

脳梁欠損

右脳と左脳をつなぐ神経の束である脳梁がなかったり、薄かったりすることがあります。

これらの脳の形の変化は、MRI検査によって確認されます。ただし、病名に「伴う、または伴わない」とあるように、脳の形には明らかな異常がない患者さんもいます。

3. 発達と神経の症状

発作と並んで、重度の発達の遅れが見られます。

重度の知的障害と運動発達遅滞

首のすわり、お座り、歩行といった運動面の発達が非常にゆっくり、あるいは獲得が難しいことがあります。

また、言葉によるコミュニケーションが難しい最重度の知的障害を伴うことが多いです。しかし、ご家族の声かけに反応して微笑んだり、心地よい感覚を楽しんだりすることは可能です。

筋緊張低下

赤ちゃんの頃に、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることが非常に多いです。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。

小頭症

生まれた時の頭の大きさは正常範囲内でも、成長とともに頭囲(頭の大きさ)の増え方が緩やかになり、相対的に頭が小さくなる小頭症が見られることがあります。

4. 身体的な特徴(顔つきなど)

DEE85のお子さんには、コルネリア・デ・ランゲ症候群と一部共通するような、特徴的なお顔立ちが見られることがあります。

顔貌の特徴

眉毛がつながっている(連眉)、眉毛が濃くアーチ状になっている、まつ毛が長い、鼻が短く上向きである、人中(鼻の下の溝)が長い、上唇が薄いといった特徴が報告されています。

その他の身体症状

口唇裂・口蓋裂:上唇や口の中の天井部分が割れていることがあります。これは脳の正中線欠損に関連して、顔の中心部分の形成もうまくいかなかったために起こります。

手足の小ささ:手足が小さかったり、指が短かったりすることがあります。

原因

なぜ、脳の形が変わったり、てんかんが起きたりするのでしょうか。その原因は、染色体という遺伝子の乗り物を管理するリングの故障にあります。

SMC1A遺伝子の役割

DEE85の原因は、X染色体にあるSMC1A(エス・エム・シー・ワン・エー)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、コヒーシン複合体という、細胞の中で働く重要なリング状のタンパク質の一部を作るための設計図です。

コヒーシン複合体は、細胞分裂の際に複製された染色体をつなぎ止めておく役割や、DNAが立体的に折りたたまれる構造を調整する役割を担っています。

特に重要なのが、DNAの立体構造を調整することで、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする働きです。これを転写調節といいます。

遺伝子の変化による影響

SMC1A遺伝子に変異が起きると、このコヒーシン複合体の働きに不具合が生じます。

すると、脳の発達に必要な遺伝子や、顔の形成に必要な遺伝子など、数多くの遺伝子のスイッチの切り替えがうまくいかなくなります。

特に、脳が左右に分かれる時期や、神経細胞が増えて移動する時期に、必要な指令が正しく伝わらなくなるため、全前脳胞症のような構造異常や、神経回路の形成不全によるてんかんが引き起こされると考えられています。

遺伝について(X連鎖性)

SMC1A遺伝子は、性別を決める性染色体の一つであるX染色体上にあります。

通常、X連鎖性の病気は男性に重く出ることが多いですが、DEE85に関しては、女性の患者さんが多く報告されています。

これは、SMC1A遺伝子の特定のタイプの変異が、女性において優性阻害効果(変異したタンパク質が、正常なタンパク質の邪魔をしてしまう現象)などを引き起こすためではないかと考えられていますが、詳細なメカニズムはまだ研究段階です。

多くのケースは、ご両親から遺伝したのではなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起きた新生突然変異(de novo変異)によるものです。

つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

診断と検査

診断は、症状の観察、画像検査、脳波検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。

1. 画像検査(MRI)

脳の構造異常を確認するために、MRI検査は非常に重要です。

全前脳胞症(脳が左右に分かれていない)、脳梁欠損、脳のしわ(脳回)の異常などがないかを詳しく調べます。これらの所見は、DEE85を疑う大きなきっかけになります。

2. 脳波検査

てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために不可欠な検査です。

DEE85のお子さんの脳波では、ヒプスアリスミアと呼ばれる点頭てんかんに特徴的な乱れた波形や、脳全体の電気活動が抑制されたり突発波が出たりする異常が見られることがあります。

3. 遺伝学的検査

確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。

近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)が行われることが一般的です。

これは、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分を網羅的にすべて解読する検査です。DEE85は非常に稀な病気であり、コルネリア・デ・ランゲ症候群など他の病気との区別も難しいため、この網羅的な遺伝子検査を行って初めてSMC1A遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースがほとんどです。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。

1. てんかんの治療

てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。

バルプロ酸、レベチラセタム、クロバザム、トピラマート、ゾニサミドなど、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。

点頭てんかん(ウエスト症候群)のパターンの場合は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法やビガバトリンといった特殊な治療が行われることもあります。

お薬だけで発作が止まらない場合は、ケトン食療法という脂肪分を多くする食事療法が検討されることもあります。

2. 脳の構造異常に伴う合併症の管理

全前脳胞症などの脳の構造異常がある場合、ホルモンの司令塔である視床下部や下垂体にも影響が出ていることがあります。

内分泌(ホルモン)の検査を行い、尿崩症(おしっこが止まらなくなる病気)や甲状腺機能低下症、成長ホルモン分泌不全などが見つかった場合は、ホルモン補充療法を行います。これにより、体調を安定させ、成長を促すことができます。

3. 摂食・嚥下と栄養管理

口唇裂や口蓋裂があったり、飲み込む力が弱かったりして、口から十分に栄養が摂れない場合は、様々なサポートを行います。

口蓋裂の手術を行ったり、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保します。胃ろうは、誤嚥のリスクを減らし、お子さんとご家族の食事時間のストレスを軽減するための有効な手段です。

4. 発達支援と療育(リハビリテーション)

早期からの療育が、お子さんの生活の安定にとって非常に重要です。

理学療法(PT)

体の柔らかさや、筋肉の突っ張りに対して、楽な姿勢が取れるようにクッションを調整したり、関節が硬くならないようなマッサージを行ったりします。

作業療法(OT)・言語聴覚療法(ST)

感覚へのアプローチや、食べる機能(摂食嚥下)の訓練を行います。コミュニケーションについては、言葉だけでなく、表情やスイッチなどを使った意思表示の方法を探っていきます。

5. 呼吸と感染症の管理

筋緊張が弱く、呼吸の力が弱いお子さんは、風邪をこじらせて肺炎になりやすい傾向があります。

必要に応じて吸引器や吸入器を使用し、呼吸を楽にするケアを行います。また、RSウイルスやインフルエンザなどの予防接種を計画的に受けることが大切です。

まとめ

正中線脳欠損を伴う、または伴わない発達性およびてんかん性脳症85型(DEE85)についての重要なポイントを振り返ります。

病気の本質

SMC1A遺伝子の変異により、コヒーシン複合体の機能に影響が出て、脳の形成や神経の働きに不具合が生じる先天性の疾患です。

主な特徴

乳児期からの難治性てんかん、重度の発達遅滞、全前脳胞症などの脳の構造異常(正中線欠損)、特徴的な顔貌などが見られます。

てんかん

薬が効きにくいことが多いですが、ACTH療法や様々な薬の組み合わせ、食事療法などの選択肢があります。

原因

X連鎖性の遺伝子変異ですが、多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。

ケアの要点

発作のコントロールに加え、ホルモン異常のチェック、栄養管理、呼吸管理など、全身をトータルでケアすることが大切です。

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