てんかんを伴う、または伴わない発達遅滞(Developmental delay with or without epilepsy)

医療

医師から「Developmental delay with or without epilepsy」という、病名というよりは状態の説明のような診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

お子様の発達がゆっくりであることや、けいれん発作が起きたことをきっかけに、長い検査の末にようやくたどり着いた診断かもしれません。しかし、この診断名は日本語に訳すと「てんかんを伴う、または伴わない発達遅滞」となり、非常に曖昧に聞こえるため、「結局、何の病気なのかわからない」「これからどうなるのか」という不安を抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

実は、近年の遺伝子解析技術の進歩により、これまで「原因不明の発達遅滞」とされていたお子さんたちの中から、新しい原因遺伝子が次々と見つかっています。

この「Developmental delay with or without epilepsy」という診断名は、特定の遺伝子の変化によって引き起こされる、疾患概念が確立されたばかりの新しい病気のグループを指すことが多く、その代表的な原因の一つにCNOT3(シー・ノット・スリー)という遺伝子が挙げられます。

医学的には「CNOT3関連神経発達障害」や「NEDWE(ネドウィー)」と呼ばれることもありますが、診断書には英語の症状記述がそのまま書かれることもあります。

「伴う、または伴わない」という言葉が示す通り、てんかん発作が起きるお子さんもいれば、起きないお子さんもおり、症状の個人差が大きいのが特徴です。

概要:どのような病気か

この病気は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳や神経の発達に影響が出る体質です。

世界的に見ても患者数はまだ少なく、希少疾患(レアディジーズ)の一つに数えられます。

まず、診断名の意味を整理しましょう。

Developmental delay(デベロップメンタル・ディレイ)は、発達遅滞のことです。言葉や運動の発達が、同年代のお子さんと比べてゆっくりであることを指します。

With or without epilepsy(ウィズ・オア・ウィズアウト・エピレプシー)は、てんかんを伴うこともあれば、伴わないこともあるという意味です。

つまり、主な特徴は「発達の遅れ」であり、そこに「てんかん発作」が合併する可能性がある病気、ということです。

この診断名がつく場合、多くのケースで遺伝子検査(全エクソーム解析など)が行われており、その結果としてCNOT3などの特定の遺伝子に変異が見つかったことを意味しています。

CNOT3遺伝子の変異によるものは、2010年代後半から報告され始めた非常に新しい疾患単位です。そのため、日本語の教科書にはまだ載っていないことが多く、医師であっても専門外であれば詳しく知らないことも珍しくありません。

しかし、原因が遺伝子にあることが分かったため、これからの見通しや、気をつけるべき合併症についての情報が少しずつ整理されつつあります。

主な症状

この病気の症状は、発達の面、神経の面、そして身体的な特徴の面に現れます。お子さんによって症状の出方や重さは異なりますが、代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。

1. 発達と知的な特徴

この病気の中心となる症状です。ほとんどの患者さんに何らかの発達の遅れが見られます。

運動発達の遅れ

首がすわる、お座りをする、ハイハイをする、歩き始めるといった運動のマイルストーンに到達するまでに、平均よりも時間がかかります。

歩き始めが2歳から3歳頃になることもありますが、多くのお子さんは成長とともに歩行を獲得します。歩けるようになってからも、少しバランスが悪かったり、不器用さが見られたりすることがあります。

言葉の遅れ

言葉を理解する力や、自分から話す力(表出言語)の発達がゆっくりです。

言葉が出るまでに時間がかかることが多く、ジェスチャーや絵カードなどを使ったコミュニケーションが有効な場合もあります。一度言葉が出始めると、その子なりのペースで語彙が増えていくことが多いです。

知的障害

軽度から重度まで幅広いですが、多くのお子さんに知的な発達の遅れ(知的障害)が見られます。新しいことを覚えるのに時間がかかったり、複雑な状況判断が難しかったりすることがあります。

しかし、人懐っこく、周囲の人との関わりを楽しむことができるお子さんが多く、穏やかな性格であることも多いです。

2. てんかん発作(神経の症状)

診断名に「てんかんを伴う、または伴わない」とある通り、てんかん発作はこの病気の重要な要素ですが、全員に必ず起きるわけではありません。報告によると、約半数から7割程度の患者さんにてんかん発作が見られます。

発作の時期とタイプ

発症時期は乳幼児期から学童期まで様々です。

発作のタイプも多様で、全身がガクガクと震える発作(強直間代発作)や、一瞬意識が飛ぶような発作(欠神発作)、体が一瞬ビクッとする発作(ミオクロニー発作)などが見られます。

また、熱が出た時にけいれんを起こす熱性けいれんを繰り返すこともあります。

多くの場合、抗てんかん薬による治療で発作をコントロールすることができますが、中には薬が効きにくい難治性のケースもあります。

3. 行動面の特徴

発達障害に似た行動の特徴が見られることがあります。

自閉スペクトラム症(ASD)の傾向として、視線を合わせにくかったり、こだわりが強かったり、特定の手の動きを繰り返したりすることがあります。

また、注意欠如・多動症(ADHD)の傾向として、じっとしているのが苦手で、衝動的に動いてしまうことがあります。

不安を感じやすく、新しい場所や環境の変化に敏感なこともあります。

4. 身体的な特徴

筋緊張低下

赤ちゃんの頃に、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることがよくあります。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。これが運動発達の遅れの一因ともなります。

顔つきの特徴

この病気のお子さんには、いくつか共通したお顔の特徴が見られることがあります。

おでこが広い、眉毛が薄い、鼻筋が通っている、耳の位置や形に特徴があるなどが報告されています。

ただし、これらは「奇形」というような目立つものではなく、非常にマイルドな特徴であることが多いです。ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどで、専門医が注意深く診察して初めて気づく程度のものです。

眼科的な問題

斜視(目の位置がずれる)や、遠視、近視などの屈折異常が見られることがあります。視力の問題は発達にも影響するため、早期の発見とケアが大切です。

親子

原因

なぜ、発達が遅れたり、てんかんが起きたりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを詳しく見ることで理解できます。

CNOT3遺伝子の変異

Developmental delay with or without epilepsyという診断がつく場合、その代表的な原因として第19番染色体にあるCNOT3(シー・ノット・スリー)という遺伝子の変異が挙げられます。

(※これ以外にも、似たような病名の原因遺伝子は存在しますが、ここでは最も代表的なCNOT3について解説します)

人間の体は、たくさんの遺伝子という設計図をもとに作られています。CNOT3遺伝子は、CCR4-NOT複合体という、細胞の中で非常に重要な役割を果たすチームの一員です。

このチームは、他の遺伝子から作られたメッセージ(mRNA)を分解したり調節したりすることで、遺伝子のスイッチを適切なタイミングでオフにする役割を担っています。

言ってみれば、CNOT3は細胞の中の「お掃除役」や「調整役」のようなものです。

脳の発達には、必要な遺伝子を働かせるだけでなく、不要になった遺伝子の働きを止めることも同じくらい重要です。CNOT3遺伝子に変異があると、この調整機能がうまくいかなくなり、脳の神経細胞の発達やネットワーク形成に影響が出ると考えられています。

遺伝について

多くのご家族が親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。

しかし、この病気のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。

これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にCNOT3遺伝子に変化が起きたことを意味します。

つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

診断と検査

診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。

1. 臨床診断の難しさ

発達の遅れや筋緊張低下は、多くの病気で見られる一般的な症状です。そのため、症状だけでこの病気を特定することは非常に困難です。以前は「原因不明の発達遅滞」や「知的障害」として経過観察されることが多くありました。

2. 脳波検査

てんかん発作の疑いがある場合や、発達の遅れの原因を調べるために行われます。

てんかんの発作波(脳の電気信号の乱れ)が見つかれば、てんかんの診断がつきます。また、明らかな発作がなくても、脳波に少し乱れが見られることもあります。

3. 画像検査(MRI)

脳のMRI検査を行うことがあります。

多くの患者さんでは、脳の形に大きな異常は見られません(正常所見)。

しかし、一部の患者さんでは、脳梁(右脳と左脳をつなぐ部分)が薄い、脳室が少し拡大しているといった軽微な所見が見られることがあります。これらは他の病気を除外するためにも重要な検査です。

4. 遺伝学的検査

確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。

近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)が行われることが一般的です。

これは、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分を網羅的にすべて解読する検査です。この検査によって初めてCNOT3などの特定の遺伝子に変異が見つかり、診断が確定します。

この診断がつくことで、「原因不明」という不安から解放され、将来の見通しを立てやすくなります。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、健康で豊かな生活を送ることは十分に可能です。

1. 発達支援と療育(リハビリテーション)

早期からの療育が、お子さんの成長にとって非常に重要です。

理学療法(PT)

体の柔らかさやバランスの悪さをカバーするための訓練を行います。体幹を鍛えたり、足首を支える装具(インソールや靴型装具)を作ったりして、安定した歩行を目指します。

作業療法(OT)

手先の不器用さを改善するために、遊びを通じて手と目の協調運動を練習します。また、着替えや食事などの日常生活動作をしやすくする工夫を学びます。感覚統合療法を取り入れて、感覚の偏りを調整することもあります。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対するアプローチです。言葉での表現が難しい場合でも、サイン(ジェスチャー)や絵カード、タブレット端末などの代替コミュニケーション手段(AAC)を活用することで、意思疎通ができるようになります。「伝わる喜び」を知ることは、言葉の発達を促す上でも非常に大切です。

2. てんかんの治療

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。

バルプロ酸やレベチラセタムなど、発作のタイプに合わせたお薬が処方されます。

多くの場合、お薬で発作をコントロールすることができますが、定期的な脳波検査や血液検査を行いながら、その子に合ったお薬と量を見つけていきます。

発熱時などに発作が起きやすい場合は、発熱時の対応(解熱剤や予防薬の使用など)について主治医とあらかじめ相談しておくと安心です。

3. 眼科的ケア

斜視や視力の問題は、発達に大きく影響します。

定期的に眼科検診を受け、必要に応じて眼鏡を作成したり、アイパッチによる治療を行ったりします。見え方が改善すると、運動や手先の動きもスムーズになることがあります。

4. 教育と生活環境

就学に際しては、お子さんの理解度や特性に合わせた環境を選びます。

地域の学校の特別支援学級や、特別支援学校など、少人数で個別のサポートが受けられる環境が適していることが多いです。

視覚的な情報処理が得意なお子さんが多いため、言葉だけでなく絵や写真を使ってスケジュールを示すなどの視覚支援を行うと、安心して活動できることがあります。

まとめ

てんかんを伴う、または伴わない発達遅滞(CNOT3関連など)についての重要なポイントを振り返ります。

  • 病気の本質: CNOT3などの遺伝子の変化により、脳や神経の発達に影響が出る先天性の体質です。
  • 主な特徴: 全般的な発達の遅れ(運動・言葉)、知的障害、筋緊張低下、そして約半数に見られるてんかん発作が特徴です。
  • てんかん: 伴う場合と伴わない場合がありますが、多くは薬でコントロール可能です。
  • 原因: 多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
  • 希望: 根本治療はありませんが、理学療法や言語療法などの療育によって、着実な成長と豊かな生活を送ることができます。

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