概要
肢帯型筋ジストロフィー、2型(LGMD2D)は、肩甲帯および骨盤帯の近位筋を中心とした進行性の筋力低下と筋萎縮を特徴とする遺伝性筋疾患です。原因はSGCA遺伝子の変異で、α-サルコグリカン(α-sarcoglycan)という筋細胞膜タンパクの欠損または機能低下が生じます。α-サルコグリカンはジストロフィン関連糖タンパク複合体の一部として筋線維の構造安定性を保つ役割を持ち、この機構が破綻することで筋線維が傷つきやすくなり、慢性的な筋変性が進行します。
発症年齢は小児期から青年期が多く、進行速度や重症度には個人差があります。一般に知的機能は保たれ、症状は主に運動器系に限局します。
疫学
LGMD全体の有病率は約1〜9/100,000と推定されています。その中でSGCA関連(LGMD2D)は比較的頻度の高い病型の一つで、地域差はあるもののLGMD症例の数%〜十数%を占めると報告されています。男女差はなく、世界各地で散発例および家族内集積例が報告されています。
原因
病因
LGMD2DはSGCA遺伝子の病的変異により発症します。SGCAは筋細胞膜に存在するα-サルコグリカンをコードしており、このタンパクは筋線維を外部ストレスから守る構造的役割を担います。変異によりα-サルコグリカンが欠損または不安定化すると、筋線維膜が脆弱となり、反復する筋損傷と修復不全によって筋力低下と筋萎縮が進行します。
遺伝形式
常染色体劣性遺伝であり、両親からそれぞれ病的変異を受け継いだ場合に発症します。保因者は通常無症状です。
症状
主な症状は以下の通りです。
- 近位筋優位の筋力低下(太もも、殿筋、肩周囲)
- 階段昇降困難、走行困難、立ち上がり動作の障害(Gowers徴候)
- 歩行時の動揺、転倒しやすさ
- 進行に伴い拘縮、側弯、肩甲骨の突出(翼状肩甲)
- 血清CK値の上昇
- 心筋障害や呼吸障害は比較的まれだが、重症例では合併することがあります
知的機能障害は通常伴いません。
診断
診断は以下を総合して行われます。
- 臨床評価:近位筋優位の筋力低下、家族歴、進行性経過
- 血液検査:血清CK高値
- 筋画像検査(MRI):筋の脂肪変性・萎縮パターン評価
- 筋生検(補助):α-サルコグリカンの免疫染色で欠損を確認
- 遺伝子検査:SGCA遺伝子解析による病的変異の同定が確定診断となります
治療
現時点で根治療法はなく、治療は支持療法と合併症予防が中心です。
- リハビリテーション(関節拘縮予防、可動域維持)
- 装具・歩行補助具による転倒予防・移動能力維持
- 心機能・呼吸機能の定期モニタリング
- 疼痛管理、整形外科的介入(必要時)
- 遺伝カウンセリング
近年は遺伝子治療や分子標的治療の研究も進行中ですが、臨床標準治療としてはまだ確立していません。
参考文献元
- GeneReviews®: Sarcoglycanopathies — 病態、診断、管理の総説。
- MedlinePlus Genetics: Limb-girdle muscular dystrophy / SGCA gene — 遺伝子機能と臨床像。
- Orphanet: Alpha-sarcoglycan-related limb-girdle muscular dystrophy (LGMD2D) — 疫学・疾患概要。
- Bushby K, et al. Lancet Neurology 2014 — LGMDの分類・診断ガイドライン。
- Straub V, et al. Neuromuscular Disorders 2018 — サルコグリカノパチーの臨床レビュー。
