ジャクソン・ワイス症候群という、おそらく初めて耳にするような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「頭の骨の継ぎ目が早く閉じてしまう病気です」や「遺伝子の変化によるものです」と説明を受け、さらに「足の指に特徴があります」といった話をされて、まだ具体的なイメージが湧かずに戸惑っていらっしゃるかもしれません。
特に、頭の手術が必要になる可能性があるという話は、親御さんにとって非常に大きな心配事であり、小さなお子さんの体にメスを入れることに恐怖を感じるのも無理はありません。
ジャクソン・ワイス症候群は、1976年にジャクソン博士とワイス博士によって初めて報告された先天性の疾患です。
頭蓋骨縫合早期癒合症というグループに属し、頭の形や顔立ちに特徴が現れること、そして足の指、特に親指が幅広くなることが主な特徴です。
よく似た病気にクルーゾン症候群やアペール症候群がありますが、ジャクソン・ワイス症候群は手の指にはほとんど異常が見られないという点で区別されます。
非常に希少な疾患であり、日本語での詳しい情報はまだ多くありません。そのため、診断を受けても具体的な生活のイメージが湧きにくく、孤独を感じてしまうご家族も少なくありません。
しかし、形成外科や脳神経外科の技術は日々進歩しており、適切な時期に適切な治療を行うことで、お子さんは元気に成長し、社会生活を送ることができます。
知的な発達に関しては、多くの場合正常範囲内であることが知られています。
まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を閉ざすものではないということです。
お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。
頭蓋骨縫合早期癒合症とは
私たちの頭の骨すなわち頭蓋骨は、一つのヘルメットのような塊ではなく、いくつかのパーツに分かれています。
赤ちゃんの頭蓋骨は、パーツとパーツの間に縫合と呼ばれる隙間があり、ここが成長に合わせて広がることで、中の脳が大きくなるスペースを作っています。
通常、この縫合は脳の成長が終わる頃に閉じますが、何らかの原因で生まれる前や乳児期の早い段階で閉じてくっついてしまうことがあります。これを頭蓋骨縫合早期癒合症と呼びます。
縫合が早く閉じてしまうと、脳がその方向に大きくなれないため、圧力を逃がそうとして別の方向に伸びていき、結果として頭の形がいびつになったり、脳への圧力が高まったりすることがあります。
ジャクソン・ワイス症候群の特徴
頭蓋骨縫合早期癒合症には、全身の症状を伴う症候群性のものがいくつかあります。
ジャクソン・ワイス症候群もその一つで、以下の3つの要素が特徴です。
頭蓋骨縫合早期癒合症による頭や顔の変形。
足の異常として、足の親指が幅広かったり、内側に曲がっていたりする。
手の異常はほとんど見られない(ここが重要です)。
似ている病気との鑑別
この病気は他の症候群と非常によく似ています。
クルーゾン症候群は、顔の特徴は似ていますが、手足には異常がありません。
アペール症候群は、手と足の両方に、指同士がくっつく合指症などの重度の異常が見られます。
ファイファー症候群は、手と足の両方の親指が幅広くなる特徴があります。
ジャクソン・ワイス症候群は、足には異常があるけれど、手は正常であるという点が、これらの病気と見分けるための大きなポイントになります。
発生頻度
非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、数万人に1人から数十万人に1人程度と考えられています。
主な症状
ジャクソン・ワイス症候群の症状は、頭、顔、足に現れます。
症状の程度には個人差があり、重度の変形がある場合もあれば、非常に軽微で見過ごされそうな場合もあります。
1. 頭蓋骨と顔貌の特徴
最も目立つ症状であり、治療の対象となる部分です。
頭の形の変形
頭蓋骨の冠状縫合という、耳から耳へ頭のてっぺんを通るラインが早期に癒合しやすい傾向があります。
これにより、おでこが平らになり、頭のてっぺんが高くなる塔状頭や、頭の前後が短く横幅が広くなる短頭といった形になります。
おでこが前に突き出している前頭部突出が見られることもあります。
中顔面低形成(ちゅうがんめんていけいせい)
顔の真ん中あたり、つまり鼻や上あごの骨の成長が不十分になることがあります。
これにより、顔の中央が少し窪んだように見えたり、相対的に下あごが出ている受け口の状態になったりすることがあります。
上あごが狭いため、歯並びが悪くなり、歯が重なって生える叢生が見られることもあります。
眼球突出
目の周りの骨、眼窩が浅くなるため、眼球が前に出ているように見えることがあります。
また、両目の間隔が離れている眼間開離や、視線がずれる斜視が見られることもあります。
まぶたが閉じにくくなることがあり、目の表面が乾燥しやすいため注意が必要です。
頭蓋内圧亢進
頭の骨が早く閉じてしまうことで、脳が入るスペースが狭くなり、脳にかかる圧力が高くなる頭蓋内圧亢進が起きることがあります。
これが続くと、慢性的な頭痛や吐き気、あるいは視神経への圧迫による視力低下などを引き起こす可能性があるため、定期的な検査が必要です。
2. 足の特徴
ジャクソン・ワイス症候群を診断する上で、足を見ることは非常に重要です。
幅広の母趾(足の親指)
足の親指が太く、幅広くなっているのが最大の特徴です。
爪も平べったくなっていることがあります。
母趾の内反
足の親指が、体の内側に向かって曲がっていることがあります。
合指症
足の指同士、特に2番目と3番目の指の皮膚がくっついている皮膚性合指症が見られることがあります。
骨までくっついていることは稀です。
足根骨癒合
足首にある小さな骨同士がくっついていることがあり、足の動きが少し硬くなることがあります。
3. 手の特徴
基本的に正常です。
これがアペール症候群やファイファー症候群との決定的な違いです。
稀に軽度の変化が見られることもありますが、機能に影響するような重度の異常はありません。
4. 知的発達
多くの場合、知的な発達は正常範囲内です。
通常の学校に通い、社会生活を送ることが十分に可能です。
ただし、頭蓋内圧が高い状態が長く続いたり、水頭症を合併したりした場合には、発達に影響が出る可能性もあるため、適切な時期に治療を受けることが大切です。
また、難聴や視力の問題がある場合は、それが学習の妨げにならないようサポートする必要があります。
原因
なぜ、骨の継ぎ目が早く閉じてしまったり、足の指が太くなったりするのでしょうか。その原因は、骨の成長をコントロールする遺伝子のスイッチにあります。
FGFR2遺伝子の変異
ジャクソン・ワイス症候群の原因は、第10番染色体にあるFGFR2(線維芽細胞増殖因子受容体2型)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、骨や軟骨が成長するスピードや、細胞が分化する(特定の役割を持つ細胞になる)プロセスを調節するスイッチのような役割を果たしています。
何が起きているのか(機能獲得型変異)
通常、このスイッチは必要な時だけオンになりますが、ジャクソン・ワイス症候群では、遺伝子の変異によってスイッチの感度が高くなりすぎたり、入りっぱなしになったりしてしまいます。
これを機能獲得型変異と呼びます。
骨を作る細胞に対し、「もう成長を止めて骨になりなさい」「骨同士をくっつけなさい」という命令が、通常よりも早く、強く出てしまうのです。
その結果、本来ならまだ開いていなければならない頭蓋骨の縫合線が、早期に閉じて骨化してしまいます。
また、足の指の形成にもこの遺伝子が関わっているため、足の指の骨が太くなったり、分かれるべき皮膚がくっついたままになったりします。
なぜ手には影響が出にくいのかについては、遺伝子の変異する場所によって、体のどの部分に強く影響が出るかが異なるためと考えられています(遺伝型と表現型の相関)。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のFGFR2遺伝子に変異があれば発症します。
親から子への遺伝
ご両親のどちらかがジャクソン・ワイス症候群である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。
症状には個人差があるため、お子さんが診断された後にご両親を調べてみたら、実は片方の親御さんもごく軽度の症状を持っていた、ということが判明するケースもあります。
突然変異
ご両親は遺伝子変異を持っておらず、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異のケースも多くあります。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 臨床診断
医師は診察で、頭の形、顔立ち、そして特に足の形状を確認します。
頭蓋骨縫合早期癒合症があり、足の親指が幅広く、かつ手は正常である場合、ジャクソン・ワイス症候群が強く疑われます。
2. 画像検査(CT・3D-CT)
頭の骨の状態を詳しく調べるために、CT検査を行います。
特に、3D-CTという方法で頭蓋骨を立体的に画像化することで、どの縫合線が閉じているのか、頭蓋骨の変形がどの程度あるのかを一目で確認することができます。
また、脳の状態や、水頭症(脳室に水がたまる状態)などの合併症がないかを確認するために、MRI検査を行うこともあります。
足のレントゲンを撮り、骨の癒合や変形の状態を確認することもあります。
3. 眼科検査
眼底検査を行い、うっ血乳頭という所見がないかを確認します。これは頭蓋内圧が高くなっていることを示す重要なサインです。
また、視力や斜視の有無もチェックします。
4. 遺伝学的検査
確定診断のために最も重要な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してFGFR2遺伝子に変異があるかを調べます。
この変異が見つかれば、診断が確定します。
特に、クルーゾン症候群やファイファー症候群との区別が難しい場合に、遺伝子検査は非常に有用です。
ただし、ジャクソン・ワイス症候群で見られる変異と同じ変異が、クルーゾン症候群やファイファー症候群の患者さんで見つかることもあり、遺伝子だけで完全に病名を分けることは難しい場合もあります(これを遺伝的異質性といいます)。
そのため、最終的には遺伝子検査の結果と、患者さんの症状を合わせて総合的に判断されます。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療、特に形成外科や脳神経外科による手術を行うことで、機能と見た目を改善し、生活の質を高めることができます。
治療は長期的な計画に基づいて行われます。
1. 頭蓋形成術(頭の手術)
治療の中心となるのが、頭の形を整え、脳のスペースを広げる手術です。
手術の目的
頭蓋内圧亢進を防ぎ、脳の発達を守ることが第一の目的です。
同時に、頭の形を整えることで、整容面(見た目)の改善も図ります。
手術の時期
縫合癒合の程度や、頭蓋内圧の状態によって異なりますが、一般的には生後数ヶ月から1歳前後に行われることが多いです。
脳の成長が最も著しい時期にスペースを確保してあげることが重要だからです。
手術の方法
従来法(頭蓋形成術):頭の骨を一度切り離し、形を整えてからパズルのように組み直して戻す方法です。吸収性プレートなどで固定します。
骨延長術(ディストラクション法):骨に切り込みを入れ、延長器という装置を取り付けて、毎日少しずつ骨を広げていく方法です。皮膚をゆっくり伸ばしながら骨を広げられるため、大きな拡大が必要な場合に有効です。特に後頭部を広げる手術でよく行われます。
お子さんの状態に合わせて、最適な術式と時期が検討されます。成長に伴って追加の手術が必要になることもあります。
2. 中顔面の手術(顔の手術)
顔の中央部分の成長が悪く、呼吸が苦しい場合や、噛み合わせが悪い場合、目が飛び出している場合には、顔の骨を前に出す手術が行われます。
ル・フォー骨切り術という方法や、骨延長器を使って顔全体を前に引き出す手術が行われます。
これは通常、ある程度骨が成長した学童期から思春期に行われることが多いですが、呼吸障害が重度の場合などは早期に行うこともあります。
3. 足の治療
足の変形が軽度であれば、特別な治療は必要ありません。
幅広の靴を選ぶなどの工夫で対応できます。
変形が強く、靴が履きにくい場合や、歩行に支障がある場合には、骨を削ったり形を整えたりする手術が行われることがあります。
合指症がある場合も、機能的に問題があれば分離する手術を行いますが、足の場合はそのままでも生活に支障がないことが多く、手術しないこともあります。
4. その他の管理
眼科的ケア
眼球突出がある場合、寝ている間に目が完全に閉じず、角膜が乾燥して傷ついてしまうことがあります。
点眼薬や眼軟膏を使って目を保護します。視力の発達を助けるために眼鏡を使用することもあります。
聴覚・耳鼻科的ケア
中耳炎になりやすかったり、耳の通りが悪かったりして難聴になることがあります。
定期的な聴力検査を行い、必要に応じて鼓膜にチューブを入れる処置や、補聴器の使用を検討します。
また、鼻の通り道が狭くていびきをかいたり、睡眠時無呼吸になったりすることがあるため、睡眠検査を行うこともあります。
まとめ
ジャクソン・ワイス症候群についての解説をまとめます。
- 病気の本質: FGFR2遺伝子の変異により、頭の骨の継ぎ目が早く閉じてしまう頭蓋骨縫合早期癒合症の一つです。
- 主な特徴: 頭や顔の変形に加え、足の親指が幅広くなるのが特徴です。手の指は通常正常であり、これが他の症候群との違いです。
- 治療の柱: 脳を守り形を整えるための頭蓋形成手術が中心となります。成長に合わせて顔の手術を行うこともあります。
- 予後: 適切な治療を行えば、知的な発達は良好であることが多く、通常の社会生活を送ることができます。
- 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
