ロイス・ディーツ症候群2型という、おそらく初めて耳にするような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による血管の病気です」と説明を受け、さらに「大動脈が膨らみやすい体質です」や「定期的な検査が欠かせません」といった話をされて、計り知れない不安と戸惑いの中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は2005年に確立された比較的新しい疾患概念であり、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が少なく、マルファン症候群などの似た病気の情報と混ざってしまい、何が正しいのかわからずに混乱されているかもしれません。
ロイス・ディーツ症候群は、アメリカのハリー・ディーツ博士とベルギーのバート・ロイス博士によって報告された、全身の結合組織に影響が出る先天性の疾患です。
結合組織とは、骨、血管、皮膚、筋肉など、体を形作り支えるための組織のことです。
この病気は、原因となる遺伝子の違いによって1型から6型(あるいはそれ以上)に分類されていますが、今回解説する2型は、TGFBR2(ティージーエフ・ビーアールツー)という遺伝子に変化があるタイプです。
2型の大きな特徴は、大動脈などの血管が弱くなりやすく、動脈瘤や動脈解離といった命に関わる状態になりやすいリスクを持っていることです。また、のどちんこが割れている口蓋垂裂などの特徴的な身体所見が見られることもあります。
血管の病気と聞くと非常に怖いイメージを持たれるかもしれませんが、この病気は知っていれば防げる病気でもあります。
この病気の発見により、以前はマルファン症候群だと思われていた方々の中から、より厳重な管理が必要なグループが見つかり、適切な時期に手術を行うことで、多くの患者さんが天寿を全うできる時代になっています。
まず最初にお伝えしたいのは、正しい知識と定期的な管理が、あなたやお子さんを守る最強の盾になるということです。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。
病気の定義と分類
ロイス・ディーツ症候群(LDS)は、TGF-ベータという細胞の増殖や組織の維持に関わる信号伝達経路に異常が生じることで発症する疾患群です。
原因となる遺伝子によって以下のように分類されることが一般的です。
1型:TGFBR1遺伝子の変異
2型:TGFBR2遺伝子の変異
3型:SMAD3遺伝子の変異
4型:TGFB2遺伝子の変異
…など
今回取り上げる2型は、TGFBR2遺伝子の変異によって引き起こされるタイプです。
1型と2型は、ロイス・ディーツ症候群の中でも最も典型的な症状を示すグループであり、症状や管理方法は非常によく似ています。
結合組織の病気とは
私たちの体は、細胞と細胞をつなぎ合わせたり、血管に弾力を持たせたりするために、結合組織という物質を必要としています。
ロイス・ディーツ症候群2型では、この結合組織の強さや弾力性を維持するシステムに変化が起きているため、全身の様々な場所に症状が現れます。
血管が風船のように伸びやすかったり、骨が過剰に成長して背が高くなったり、皮膚が薄くて透けやすかったりするのは、すべてこの結合組織の問題が根底にあります。
マルファン症候群との違い
ロイス・ディーツ症候群は、マルファン症候群と非常によく似ています。
どちらも高身長、長い手足、大動脈瘤といった共通の症状を持ちます。
しかし、ロイス・ディーツ症候群には、マルファン症候群ではあまり見られない特徴があります。
それは、のどちんこが割れている口蓋垂裂や、両目の間隔が離れている眼間開離といった顔の特徴、そして血管が蛇行する(くねくね曲がる)といった特徴です。
また、マルファン症候群に比べて血管が解離を起こす(裂ける)リスクが少し高いため、より早めの手術が推奨されるという点も大きな違いです。
発生頻度
非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、ロイス・ディーツ症候群全体を含めても数万人に1人程度と考えられています。
性別による差はなく、男の子も女の子も同じように発症します。
主な症状
ロイス・ディーツ症候群2型の症状は、血管、骨格、顔立ち、皮膚など、全身の様々な場所に現れます。
症状の程度には個人差が大きく、重い症状が出る方もいれば、大人になるまで気づかないほど軽度の方もいます。
1. 心臓血管系の症状(最も重要)
ご家族と医療チームが最も注意深く管理しなければならないのが、血管の問題です。生命予後を左右する最大の要因です。
大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)
心臓から全身に血液を送る一番太い血管である大動脈が、こぶのように膨らんでしまう状態です。
特に、心臓から出てすぐの根元の部分である大動脈基部(バルサルバ洞)が拡大しやすい傾向があります。
血管の壁が弱くなっているため、血圧に耐えられずに徐々に広がっていきます。
大動脈解離(だいどうみゃくかいり)
大動脈瘤が進行すると、血管の内側の膜が裂けてしまう大動脈解離を起こすリスクが高まります。
これは突然の激しい胸や背中の痛みを伴う緊急事態であり、命に関わります。
ロイス・ディーツ症候群の特徴として、血管の径がそれほど太くなっていなくても解離を起こすことがあると言われており、これが早期手術が推奨される理由です。
動脈の蛇行
血管がまっすぐではなく、くねくねと曲がっている蛇行している様子が、首の動脈や頭の中の動脈、お腹の動脈などで見られることがあります。
これはMRIやCT検査で見つかることが多く、ロイス・ディーツ症候群を疑う重要なサインの一つです。
その他の血管病変
大動脈以外の血管、例えば脳動脈や腹部の動脈などにも瘤ができることがあります。
2. 顔貌と口の中の特徴
2型では、顔や口の中に特徴的なサインが見られることが多いです。これらは病気を見つける手がかりになります。
口蓋垂裂(こうがいすいれつ)
のどちんこ(口蓋垂)が二つに割れている状態です。
また、のどちんこの根元が幅広くなっているだけのこともあります。
これは一見すると分かりにくいですが、ロイス・ディーツ症候群の特徴的なサインです。
口の中の天井部分である口蓋が高くアーチ状になっている高口蓋も見られます。
眼間開離(がんかんかいり)
両目の間隔が少し離れている状態です。
頭蓋骨癒合症(ずがいこつゆごうしょう)
頭の骨の継ぎ目が通常よりも早く閉じてしまうことで、頭の形がいびつになることがあります。
1型や2型で見られることがありますが、すべての人にあるわけではありません。
3. 骨格と体型の特徴
外見から気づかれやすい特徴です。
高身長と長い手足
年齢平均に比べて背が高く、胴体に比べて手足がすらりと長い特徴があります。
指も長く、クモ状指と呼ばれることがあります。
胸郭の変形
胸の真ん中が凹んでいる漏斗胸や、逆に前に突き出ている鳩胸が見られることがあります。
脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)
背骨が左右に曲がってしまう状態です。
成長期に進行することがあるため、定期的なチェックが必要です。
頸椎の不安定性
首の骨(頸椎)が不安定なことがあり、手術の際の麻酔導入時などに首を反らせる動作に注意が必要な場合があります。
4. 皮膚の特徴
皮膚が薄く、血管が透けて見えることがあります。
また、ビロードのような手触りであったり、傷が治りにくかったり、手術の跡が広がりやすかったりすることもあります。
あざができやすい易出血性が見られることもあります。
5. その他の症状
アレルギー体質
喘息や食物アレルギー、湿疹などのアレルギー症状を持つ患者さんが比較的多いことが知られています。
消化器症状
便秘や下痢、腹痛などの消化器症状が見られることもあります。

原因
なぜ、血管が弱くなったり、骨が伸びすぎたりするのでしょうか。その原因は、細胞への命令を伝えるシステムの変化にあります。
TGFBR2遺伝子の役割
ロイス・ディーツ症候群2型の原因は、第3番染色体にあるTGFBR2(ティージーエフ・ビーアールツー)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、TGF-ベータ受容体2型というタンパク質を作る設計図です。
TGF-ベータシグナル伝達経路
私たちの体の中では、TGF-ベータという物質が細胞の外から細胞の中へと情報を伝える手紙のような役割をしています。
この手紙を受け取るポストの役割をしているのが、TGF-ベータ受容体(TGFBR1やTGFBR2)です。
このポストが手紙を受け取ると、細胞は「組織を成長させなさい」「血管の壁を維持しなさい」「炎症を起こしなさい」といった様々な活動を行います。
ロイス・ディーツ症候群では、このポスト(受容体)の形が変わってしまっているのですが、不思議なことに、結果としてTGF-ベータによる信号(シグナル)が、通常よりも過剰に伝わってしまう状態になっていると考えられています。
信号が強すぎるために、組織の成長が止まらずに骨が伸びすぎたり、血管の壁を壊す酵素が活性化されて動脈瘤ができたりすると考えられています。
「受容体が壊れているのに、なぜ信号が強くなるのか」という点については、まだ研究途中ですが、体が異常を感知して無理やり信号を増やそうとする代償作用などが関係していると言われています。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のTGFBR2遺伝子に変異があれば発症します。
親から子への遺伝
ご両親のどちらかがロイス・ディーツ症候群2型である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。
突然変異
患者さんの多く(約75パーセントとも言われます)は、ご両親はこの病気ではなく、ご本人の代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異によるものです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 臨床診断と画像検査
医師は、以下のような特徴がないか全身を診察します。
- 大動脈の拡大や蛇行があるか(心エコー、CT、MRI)。
- のどちんこが割れているか(口蓋垂裂)。
- 骨格の特徴や皮膚の特徴があるか。
特に、血管の評価は診断の要です。
心エコー検査だけでなく、頭から骨盤まで全身の血管をCTやMRIで撮影し、隠れた動脈瘤や蛇行がないかを調べることが推奨されます。
2. 遺伝学的検査
確定診断のために最も確実な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してTGFBR2遺伝子に変異があるかを調べます。
似たような症状を持つマルファン症候群(FBN1遺伝子)や、他の型のロイス・ディーツ症候群(TGFBR1など)と区別するためにも、遺伝子検査は非常に重要です。
最近では、関連する複数の遺伝子を一度に調べるパネル検査が行われることが一般的です。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、血管の状態を厳重に管理し、適切なタイミングで治療を行うことで、命を守り、健康な生活を長く維持することができます。
1. 心臓血管系の管理(薬物療法)
血圧のコントロール
血管への負担を減らすために、血圧を低めに保つことが極めて重要です。
激しい運動を避けるだけでなく、降圧薬(血圧を下げる薬)を服用します。
ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
ロサルタンやイルベサルタンなどのARBという種類の薬は、単に血圧を下げるだけでなく、原因となっているTGF-ベータの過剰なシグナルを抑える効果が期待されています。
そのため、ロイス・ディーツ症候群の治療薬として第一選択で使われることが多いです。
ベータ遮断薬
心臓の拍動を穏やかにして、血管への衝撃を和らげる薬です。ARBと併用されることもあります。
2. 定期的な画像検査と手術
大動脈の監視
半年に1回から1年に1回程度、CTやMRI、心エコー検査を行い、大動脈の太さをミリ単位で監視します。
予防的手術(大動脈基部置換術)
大動脈瘤が破裂したり解離したりする前に、太くなった血管を人工血管に取り替える手術です。
ロイス・ディーツ症候群では、マルファン症候群よりも早めの段階、つまり血管の径がまだそれほど太くなっていなくても手術を検討することがガイドラインで推奨されています。
具体的には、大動脈弁輪の径が成人で40mmから42mmを超えたあたりで手術を考慮することが多いですが、家族歴や個人の体格、遺伝子型のリスクなどを総合的に判断して決定されます。
自分の弁を残して血管だけを取り替える自己弁温存基部置換術(デービッド手術など)が選択されることも増えています。
3. 整形外科的ケア
脊柱側弯症の治療
軽度の場合は経過観察ですが、進行する場合はコルセット(装具)を使ったり、重度の場合は手術を検討したりします。
首の骨(頸椎)の安定性を確認することも大切です。
4. 日常生活での注意点
運動制限
大動脈解離のリスクを避けるため、体同士が激しくぶつかるコンタクトスポーツ(ラグビー、柔道など)や、急激に血圧が上がるような運動(重量挙げ、懸垂、全力疾走などのアイソメトリック運動)は避けるべきです。
一方で、適度な有酸素運動(ウォーキングや軽い水泳など)は心肺機能を保つために推奨されます。
具体的にどの程度の運動なら大丈夫かは、血管の状態によって異なるため、必ず主治医と相談して決めてください。
禁煙
喫煙は血管に悪影響を与え、肺気胸のリスクも高めるため、絶対に避けるべきです。
妊娠・出産
女性患者さんの場合、妊娠中は循環血液量が増え、ホルモンの影響で血管が柔らかくなるため、大動脈解離のリスクが高まります。
妊娠を希望する場合は、事前に大動脈の太さを確認し、必要であれば先に手術を行うなどの計画的な管理が必要です。
リスクの高い妊娠となるため、専門医のいる病院での管理が不可欠です。
アレルギーの管理
アレルギー症状がある場合は、適切に薬を使ってコントロールし、体へのストレスを減らすことが大切です。
まとめ
ロイス・ディーツ症候群2型(LDS2)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: TGFBR2遺伝子の変異により、TGF-ベータシグナルが過剰になり、結合組織(特に血管)に影響が出る病気です。
- 主な特徴: 大動脈瘤や動脈解離のリスク、口蓋垂裂などの顔の特徴、血管の蛇行などが特徴です。
- 最大のリスク: 大動脈解離が生命に関わりますが、これは定期検診と血圧管理、予防的手術で防ぐことができます。
- 管理の要点: ARBなどの内服治療、定期的な画像検査、激しい運動の制限が生活の柱となります。
- 希望: 早期発見と適切な管理により、予後は劇的に改善しており、多くの患者さんが通常の社会生活を送っています。
