「Metaphyseal Dysplasia with Maxillary Hypoplasia with or without Brachydactyly」という、非常に長く、そして聞き慣れない診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による骨の病気です」と説明を受け、さらに「上顎が小さい」や「骨の形が変わっています」といった専門的な話をされて、まだ具体的なイメージが湧かずに戸惑っていらっしゃるかもしれません。
特に、この病気は世界的に見ても報告数が少ない非常に希少な疾患(ウルトラ・レア・ディジーズ)の一つです。そのため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、「これからどうなってしまうのか」「他に同じ病気の人はいるのか」という孤独や不安を感じていらっしゃるかもしれません。
この長い病名は、医学的な特徴をそのまま記述した正式名称ですが、英語の頭文字をとってMDMHB(エムディーエムエイチビー)症候群と呼ばれることがあります。
この病気は、骨を作るために重要な役割を果たすRUNX2(ランクスツー)という遺伝子に、特定の変化が起きることで生じる生まれつきの体質です。
主な特徴は、上あご(上顎骨)の成長が控えめであること、手足の骨の端っこ(骨幹端)の形が変わっていること、そして指が短い場合があることなどです。また、鎖骨が太くなるというユニークな特徴も持っています。
希少な病気ではありますが、近年遺伝子検査の技術が進歩したことで、原因が特定され、少しずつこの病気の正体が明らかになってきました。
鎖骨頭蓋異形成症という比較的知られた骨の病気と、原因となる遺伝子は同じですが、変化の仕方が異なる「兄弟」のような関係にあることもわかっています。
この記事では、MDMHB症候群について、どのような病気なのか、全身に現れる特徴、原因となるRUNX2遺伝子の仕組み、治療や生活での注意点、そしてこれからの生活で何に気をつければよいのかを、専門用語を言葉の中に溶け込ませて詳しく解説します。
まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を閉ざすものではないということです。
適切な管理とサポートがあれば、お子さんはその子らしく元気に成長していくことができます。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この非常に長い病名がどのような意味を持っているのか、そしてどのような病気なのかを理解しましょう。
病名の意味と分解
この病名は、主な3つの身体的特徴を組み合わせたものです。
- 骨幹端異形成(Metaphyseal Dysplasia):
「骨幹端」とは、腕や足にある長い骨の両端、関節に近い部分のことです。ここの形が広がっていたり、構造が変わっていたりすることを指します。レントゲンを撮ると、骨の端がラッパのように広がって見えることがあります。 - 上顎低形成(Maxillary Hypoplasia):
上あご(上顎骨)の成長が弱く、顔の中央部分が少し奥まっている状態です。これにより、特徴的なお顔立ちになります。 - 短指を伴う、あるいは伴わない(with or without Brachydactyly):
「短指」とは、指の骨が短いために指全体が短く見えることです。この病気では、指が短い患者さんもいれば、短くない患者さんもいるため、このような表現になっています。
これらをまとめて、MDMHB症候群と呼びます。
骨系統疾患の一つ
この病気は、骨や軟骨の成長に影響が出る「骨系統疾患」というグループに属します。
骨系統疾患には数百種類以上の病気がありますが、MDMHBはその中でも非常に稀なタイプです。
骨が弱くなりやすかったり、身長が伸びにくかったりすることがありますが、知的な発達には基本的に影響がないと考えられています。
鎖骨頭蓋異形成症との関係
この病気を理解する上で、鎖骨頭蓋異形成症(CCD)という病気のことを知っておくと役立つことがあります。
CCDは、ドラマの題材になったりして比較的知名度がある病気で、肩幅が狭く(鎖骨がない、または小さい)、頭の骨が閉じるのが遅いといった特徴があります。
実は、MDMHBの原因遺伝子であるRUNX2は、CCDの原因遺伝子と同じです。
しかし、CCDが「遺伝子の機能が失われる」ことで起きるのに対し、MDMHBは「遺伝子の機能が強まりすぎる(増える)」ことで起きると考えられています。
そのため、症状が対照的になる部分があります。例えば、CCDでは鎖骨が小さいのに対し、MDMHBでは鎖骨が太く大きくなる傾向があります。
主な症状
MDMHB症候群の症状は、骨や歯、顔立ちに現れます。
症状の程度には個人差があり、一見してわかる場合もあれば、レントゲンを撮って初めて気づくような軽度の場合もあります。
1. 顔貌と口腔内の特徴
ご家族が「少し顔つきが特徴的かな?」と感じたり、歯医者さんで指摘されたりすることが多い症状です。
上顎低形成(中顔面低形成)
上あごの骨の成長がゆっくりなため、顔の真ん中あたりが少し平坦に見えたり、窪んで見えたりすることがあります。
相対的に下あごが出ているように見えることもあります(受け口)。
鼻と上唇の間(人中)が短かったり、上唇が薄かったりすることもあります。
鼻筋が少し盛り上がって、鷲鼻のような形(Beaked nose)になることも報告されています。
歯の異常
歯のエナメル質が薄かったり、形成が不完全だったりすることがあります。
そのため、歯が黄色っぽく見えたり、虫歯になりやすかったりすることがあります。
また、歯の生え変わりがうまくいかなかったり、歯並びが悪くなったりすることもあります。
歯科的なケアは、この病気の管理において非常に重要です。
2. 骨格と体格の特徴
全身の骨に特徴的な変化が見られます。
低身長
身長の伸びが緩やかで、同年代の平均よりも低くなる傾向があります。
これは、骨の成長する部分(骨幹端)の異常により、骨が長く伸びる力が弱いためと考えられます。
鎖骨の肥大
これはMDMHBに非常に特徴的なサインです。
鎖骨、特に首に近い内側の部分が、通常よりも太く大きくなっています。
見た目でわかることもあれば、レントゲンで初めてわかることもあります。
鎖骨頭蓋異形成症(CCD)では鎖骨が欠損したり細くなったりするのと正反対の特徴です。
骨幹端の拡大(Flaring)
大腿骨(太ももの骨)や脛骨(すねの骨)などの長い骨の端っこが、フラスコやラッパのように広がっていることがあります。
これにより、膝の関節が大きく見えたり、X脚気味(外反膝)になったりすることがあります。
骨皮質の菲薄化
骨の外側にある硬い層(皮質骨)が薄くなっていることがあります。
これにより、骨の強度が少し弱くなり、骨折しやすくなる可能性があります(骨粗鬆症様の変化)。
3. 手足の特徴
指の変化
病名に「伴う、あるいは伴わない」とある通り、患者さんによって異なりますが、手の指や足の指が短い短指症が見られることがあります。
特に、手の小指の中ほどの骨(中節骨)や、手の甲の骨(中手骨)が短いことが多いです。
爪の形が少し変わっていることもあります。
4. その他の特徴
痛みや疲労感
骨の変形や関節の噛み合わせの問題から、関節痛が出たり、長時間歩くと疲れやすかったりすることがあります。
知的な発達
基本的に、知的な発達には遅れがないとされています。
通常の学校に通い、社会生活を送ることが可能です。
ただし、骨の病気全般に言えることですが、聞こえ(聴力)に問題が出ることが稀にあるため、念のため注意が必要です。

原因
なぜ、骨の形が変わったり、上あごが小さくなったりするのでしょうか。その原因は、骨を作る指令を出す「司令塔」となる遺伝子の働きすぎにあります。
RUNX2遺伝子の役割
この病気の原因は、第6番染色体にあるRUNX2(ランクスツー)という遺伝子の変化です。
RUNX2遺伝子は、骨を作る細胞(骨芽細胞)が成熟するために必要不可欠な、「マスター転写因子」と呼ばれる非常に重要な遺伝子です。
簡単に言うと、体の細胞に対して「骨になりなさい」「骨を硬くしなさい」という命令を出す総監督のような役割をしています。
何が起きているのか(遺伝子の重複)
MDMHB症候群では、このRUNX2遺伝子の一部(特定のエクソンを含む領域)が重複しています。つまり、遺伝子のコピーが増えてしまっている状態です。
通常、遺伝子は2つで1セットですが、この病気の患者さんでは、RUNX2遺伝子の重要な部分が増えているため、RUNX2タンパク質が過剰に作られたり、働きすぎたりしていると考えられています。
これを専門的には「機能獲得型変異(Gain of function)」と呼びます。
骨を作る命令が強すぎる、あるいはタイミングがずれて過剰に出されることで、骨の端っこが広がりすぎたり、鎖骨が太くなりすぎたり、逆に上あごの成長バランスが崩れたりすると考えられています。
(参考:逆にRUNX2遺伝子が壊れて機能しなくなると、骨を作る命令が出せなくなり、鎖骨が作られなかったり頭の骨が閉じなかったりする「鎖骨頭蓋異形成症」になります。)
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のRUNX2遺伝子に重複などの変化があれば発症します。
親から子への遺伝
ご両親のどちらかがMDMHB症候群である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。
症状には個人差があるため、お子さんが診断された後にご両親を調べてみたら、実は親御さんも軽度の症状を持っていたことが判明するケースもあります。
突然変異
ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースもあります。
これは、受精卵ができる過程で偶然に起きた変化であり、誰のせいでもありません。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察、レントゲンなどの画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
非常に稀な病気であるため、診断がつくまでに時間がかかることもあります。
1. 臨床診断と画像検査
医師は、顔立ちや体つきの特徴に加え、全身の骨のレントゲン撮影(骨サーベイ)を行って以下の点を確認します。
- 鎖骨の内側が太くなっていないか。
- 長い骨の端(骨幹端)が広がっていないか。
- 骨の皮質が薄くなっていないか。
- 上あごの骨が小さいか。
特に「鎖骨の肥大」と「骨幹端の拡大」の組み合わせは、この病気を疑う大きな手がかりになります。
似たような骨の病気であるパイル病(Pyle disease)などとの区別も重要です。
2. 遺伝学的検査
確定診断のために最も確実な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してRUNX2遺伝子に重複(コピー数の変化)があるかを調べます。
通常の遺伝子配列を読む検査(シーケンス解析)だけでは、重複のような量の変化は見逃されることがあるため、MLPA法やマイクロアレイ検査など、コピー数の変化を検出できる特殊な検査が必要になることがあります。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の重複を治して病気を根本からなくす治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療やケアを行うことで、生活の質を高め、健康を維持することは十分に可能です。
治療は、歯科、整形外科、形成外科などが連携して行います。
1. 歯科治療(非常に重要)
MDMHBの患者さんにとって、歯のケアは生活の質(QOL)に直結する重要な課題です。
歯のエナメル質が弱かったり、噛み合わせが悪かったりすることが多いため、早期からの歯科管理が推奨されます。
- 虫歯予防: 歯が弱くなりやすいため、フッ素塗布やシーラントなどの予防処置を積極的に行います。
- 矯正治療: 上あごが小さいために歯並びが悪くなったり、受け口になったりする場合は、矯正治療を行います。上あごを広げる装置などを使うこともあります。
- 補綴治療: 歯の色や形が気になる場合は、被せ物などをして見た目や機能を回復させます。
2. 整形外科的ケア
骨の変形や低身長に対してフォローアップを行います。
- X脚の治療: 膝の変形が強く、歩行に支障がある場合は、装具を使ったり、成長期に骨の成長をコントロールする手術(エイトプレートなど)を行ったりすることがあります。
- 骨折予防: 骨がやや弱い可能性があるため、激しいコンタクトスポーツなどは注意が必要な場合がありますが、適度な運動は骨を強くするために大切です。主治医と相談しながら活動レベルを決めましょう。
- 成長のフォロー: 身長の伸びを確認します。必要に応じて内分泌科でホルモンの検査などをすることもありますが、基本的には体質的な低身長として経過を見守ることが多いです。
3. 形成外科的ケア
上あごの低形成が強く、噛み合わせや呼吸、見た目に大きな影響がある場合は、骨切り術などの手術によってあごの位置を整える治療が検討されることもあります。これは成長がある程度終了してから行うのが一般的です。
4. 日常生活での注意点
痛みへの対応
関節痛がある場合は、無理をせず休むことや、湿布などの対症療法を行います。痛みが続く場合は整形外科を受診しましょう。
社会生活
知的な遅れはないため、通常の学校生活や仕事が可能です。
ただし、身長のことや顔立ちのこと、歯のことなどで悩みを持つことがあるかもしれません。
家族や周囲が気持ちに寄り添い、必要であればカウンセリングなどを利用して心のケアを行うことも大切です。
まとめ
短指を伴う、あるいは伴わない上顎低形成を伴う骨幹端異形成症(MDMHB症候群)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: 骨を作る司令塔であるRUNX2遺伝子の重複により、骨の形成プロセスが過剰あるいは不均衡になる先天性の骨系統疾患です。
- 主な特徴: 上あごが小さい、鎖骨が太い、手足の骨の端が広がっている、歯が弱いなどが特徴です。
- 鎖骨頭蓋異形成症との関係: 原因遺伝子は同じですが、遺伝子の機能の変化の仕方が逆であるため、症状も一部対照的(鎖骨が太いなど)になります。
- 管理の要点: 丁寧な歯科ケア、整形外科的な骨のチェック、そして自信を持って生活できるような心理的サポートが中心となります。
- 予後: 適切な管理を行えば、健康な人と変わらない社会生活を送ることができます。
