神経繊維腫症-ヌーナン症候群という、二つの病名がつながった長い診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「神経繊維腫症の特徴と、ヌーナン症候群の特徴の両方を持っています」と説明を受け、ただでさえ聞き慣れない病名が二つも出てきたことに、大きな混乱と不安を感じていらっしゃるかもしれません。
「結局どちらの病気なのか」「二つの病気に同時にかかってしまったのか」といった疑問を持たれるのは当然のことです。
この病気は、名前の通り、神経繊維腫症1型、通称レックリングハウゼン病と呼ばれる病気に見られる皮膚の症状と、ヌーナン症候群に見られる顔つきや体つきの特徴を併せ持っている先天性の疾患です。
かつては、偶然二つの病気が重なったものなのか、それとも独立した別の病気なのか、医学者の間でも議論がありましたが、遺伝子研究が進んだ現在では、その正体がかなりはっきりとわかってきています。
多くの場合は、神経繊維腫症1型の原因遺伝子であるNF1遺伝子に変異があり、その症状の現れ方の一つとしてヌーナン症候群のような特徴が出ている状態だと考えられています。つまり、基本的には神経繊維腫症1型の一つのバリエーションと捉えられることが多いですが、両方の疾患に対する注意深い管理が必要になります。
まず最初にお伝えしたいのは、名前が複雑だからといって、必ずしも症状が倍になるわけではないということです。
現代の医療には、それぞれの症状に合わせてお子さんの成長を支えるための多くの手段があります。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして「神経繊維腫症」と「ヌーナン症候群」がどのように関わっているのかを理解しましょう。
二つの疾患の特徴
この病気を理解するためには、元となっている二つの疾患について知る必要があります。
神経繊維腫症1型
レックリングハウゼン病とも呼ばれます。
主な特徴は、カフェオレ斑と呼ばれる茶色いあざが体にたくさんできること、そして神経繊維腫という良性のこぶが皮膚や神経にできることです。
約3000人に1人という比較的高い頻度で見られる遺伝性の病気です。
ヌーナン症候群
主な特徴は、両目の間隔が広いなどの愛らしいお顔立ち、身長が低いこと、首の皮膚が余っている翼状頸、そして肺動脈弁狭窄症などの心臓の病気です。
こちらも約1000人から2500人に1人という頻度で見られます。
神経繊維腫症-ヌーナン症候群とは
この病気は、上記の二つの疾患の特徴を同時に持っている状態を指します。
具体的には、皮膚には神経繊維腫症の特徴であるカフェオレ斑があり、顔つきや体つきにはヌーナン症候群の特徴である離れた目や低い身長などが見られる場合、この診断名がつけられます。
医学的にはNFNSと略されることがあります。
この病気は独立した病気というよりは、RASオパチーという大きなグループに属する疾患の一つとして捉えられています。
RASオパチーとは、細胞の増殖や成長をコントロールするRAS/MAPK経路という情報の通り道に異常がある病気の総称です。神経繊維腫症1型もヌーナン症候群も、この同じグループの仲間であるため、症状が重なることがあるのです。
発生頻度
神経繊維腫症1型の患者さんのうち、数パーセントから十数パーセント程度が、このヌーナン症候群のような特徴を併せ持っていると言われています。決して極めて稀なケースというわけではありません。
主な症状
神経繊維腫症-ヌーナン症候群の症状は、二つの疾患の症状がミックスされた形で現れます。
患者さんによって、どちらの要素が強く出るかは異なります。
1. 皮膚の症状(神経繊維腫症の要素)
多くの患者さんで最初に見つかるサインであり、診断のきっかけとなる症状です。
カフェオレ斑
生まれた時、あるいは生後間もなくから見られる、ミルクコーヒーのような色をした平らなあざです。
体や手足に6個以上見られることが多く、大きさは子供で5ミリメートル以上、大人で15ミリメートル以上が目安となります。痛みやかゆみはありません。
雀卵斑様色素斑
わきの下や足の付け根などにできる、そばかすのような小さな茶色い斑点です。通常は幼児期以降に出てきます。
神経繊維腫
皮膚の表面や皮膚の下にできる、柔らかい良性の腫瘍です。
思春期以降に増えてくることが多く、数や大きさは人によって様々です。皮膚の表面にポコポコとできるものもあれば、皮下にぐりぐりとしたしこりとして触れるものもあります。
2. お顔立ちと体つきの特徴(ヌーナン症候群の要素)
顔や体の形には、ヌーナン症候群の特徴がよく現れます。
お顔立ち
両目の間隔が広く離れている眼間開離が見られることがあります。
まぶたが下がっている眼瞼下垂や、目が少し下がり気味になることもあります。
耳の位置が低く、後ろに傾いていることも特徴です。
これらのお顔立ちは、成長とともに変化し、大人になると目立たなくなっていくのが一般的です。
首と胸の特徴
首が短く、首の横の皮膚が水かきのように広がっている翼状頸が見られることがあります。
また、胸の形が特徴的で、真ん中が凹んでいる漏斗胸や、出っ張っている鳩胸が見られることもあります。
低身長
身長の伸びが緩やかで、同年代の平均に比べて低くなる傾向があります。
これはヌーナン症候群によく見られる特徴であり、神経繊維腫症1型単独の場合よりも、低身長の程度が強い傾向にあると言われています。
3. 心臓の症状
ここが管理上とても重要なポイントです。
神経繊維腫症1型では心臓の病気は比較的稀ですが、神経繊維腫症-ヌーナン症候群では、ヌーナン症候群と同じように心臓の病気を合併するリスクがあります。
肺動脈弁狭窄症
心臓から肺へ血液を送る血管の出口にある弁が狭くなる病気です。
ヌーナン症候群で最も多い心疾患であり、この病気でも見られます。
その他の心疾患
心房中隔欠損症などの穴が開く病気や、稀ですが肥大型心筋症と呼ばれる心臓の筋肉が厚くなる病気が見られることもあります。
4. 知的発達と神経系
発達に関しては個人差が大きいです。
言葉が出るのが遅かったり、運動発達がゆっくりだったりすることがあります。
学習障害として、読み書きや計算に苦手意識を持つお子さんもいます。
また、注意欠陥・多動性障害のような、落ち着きのなさや注意力の散漫さが見られることもありますが、知的な発達は正常範囲内であることも多く、通常の学校生活を送っているお子さんもたくさんいます。
5. その他の症状
眼の症状
虹彩小結節、別名リッシュ結節と呼ばれる、黒目の中の茶色い小さな点が現れることがあります。これは神経繊維腫症1型の特徴的な所見ですが、視力には影響しません。
骨の症状
背骨が曲がる側弯症や、稀にすねの骨が曲がる下腿弯曲などが見られることがあります。
原因
なぜ、二つの病気の特徴が同時に現れるのでしょうか。その原因は、細胞の中の信号伝達に関わる遺伝子の変化にあります。
遺伝子の変異について
神経繊維腫症-ヌーナン症候群の患者さんの大多数において、原因となっているのは「NF1遺伝子」の変異です。
これは、神経繊維腫症1型の原因遺伝子そのものです。
つまり、遺伝子的には「神経繊維腫症1型」なのですが、その変異の場所や種類、あるいは他の遺伝子との相互作用によって、症状として「ヌーナン症候群のような顔つきや体つき」が現れていると考えられています。
稀なケースとして、ヌーナン症候群の原因遺伝子であるPTPN11遺伝子の変異によって、神経繊維腫症のような色素斑が出ることもありますが、多くはNF1遺伝子が主役です。
RAS/MAPK経路の共通点
なぜNF1遺伝子の変異でヌーナン症候群の症状が出るのでしょうか。
それは、NF1遺伝子も、ヌーナン症候群の原因遺伝子(PTPN11など)も、どちらも細胞内の「RAS/MAPK経路」という同じチームに所属しているからです。
このチームは、細胞に対して「成長しなさい」「増えなさい」という命令を伝える役割を担っています。
チームのどのメンバーに不具合が起きても、結果として「成長の命令がうまく調節できない」という似たような状況が生まれるため、症状が重なり合うのです。
これを医学的には「表現型の重複」と呼びます。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝という形式をとります。以前は優性遺伝と呼ばれていました。
ご両親のどちらかがこの病気(または神経繊維腫症1型)である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。
しかし、患者さんの約半数は、ご両親はこの病気ではなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異のケースです。
これは、受精卵ができる過程で偶然に起きた変化であり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレスなどが原因で起こるものではありません。

診断と検査
診断は、皮膚の症状、顔や体の特徴、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 臨床診断
医師は診察で以下の点を確認し、診断基準に照らし合わせます。
6個以上のカフェオレ斑があるか。
わきの下や足の付け根にそばかすがあるか。
ヌーナン症候群に特徴的な顔立ち(離れた目、低い耳など)があるか。
低身長や胸郭の変形があるか。
肺動脈弁狭窄症などの心疾患があるか。
神経繊維腫症1型の診断基準を満たしつつ、ヌーナン症候群の特徴もあわせ持っている場合に、この診断が検討されます。
2. 画像検査・生理検査
心エコー検査
心臓の構造や動きを詳しく調べます。特に肺動脈弁狭窄症の有無は、治療方針に関わるため重要です。
頭部MRI検査
脳の構造や、視神経の腫瘍(視神経膠腫)がないかを確認するために行われることがあります。
レントゲン検査
背骨や胸の骨の形、手足の骨の状態を確認します。
3. 眼科検査
スリットランプという機械を使って、目にリッシュ結節がないか、視力に問題がないかを調べます。
4. 遺伝学的検査
確定診断のために行われます。
血液を採取し、DNAを解析してNF1遺伝子やPTPN11遺伝子に変異があるかを調べます。
これにより、根本的な原因がどちらの遺伝子にあるのか、あるいは別の稀な遺伝子が関わっていないかをはっきりさせることができます。
遺伝子が特定されることで、将来起こりやすい合併症の予測や、きめ細やかな健康管理が可能になります。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や管理を行うことで、健康を維持し、生活の質を高めることができます。
基本的には、神経繊維腫症1型とヌーナン症候群、両方の管理指針に基づいてケアを行っていきます。
1. 心臓の治療と管理
肺動脈弁狭窄症
軽度であれば、定期的な検査で経過を見ます。
狭窄が強く、心臓に負担がかかっている場合は、カテーテルを使って狭い弁を広げる治療や、外科手術が行われます。
適切な治療を行えば、予後は良好です。
2. 成長ホルモン療法
低身長があり、一定の基準を満たす場合は、成長ホルモンを注射で補充する治療が検討されます。
ヌーナン症候群に対しては保険適用がありますが、神経繊維腫症1型に対しては慎重な判断が求められることがあります(腫瘍への影響などを考慮するため)。
主治医とよく相談し、メリットとデメリットを理解した上で決定します。
3. 皮膚と腫瘍の管理
カフェオレ斑
見た目が気になる場合は、ファンデーションなどのメイクアップでカバーすることができます。レーザー治療は効果が一時的であったり、再発したりすることが多いため、慎重に検討します。
神経繊維腫
痛みがあったり、衣服に擦れて邪魔になったり、見た目が気になる場合は、手術で切除することができます。
定期的な観察を行い、急に大きくなったり痛みが出たりする変化がないかをチェックすることが大切です。
4. 発達支援と療育
発達の遅れや学習の苦手さがある場合は、早期から療育を受けることが推奨されます。
理学療法、作業療法、言語聴覚療法などを通じて、お子さんの持っている力を伸ばします。
学校生活においては、学習障害やADHD傾向に対して、先生と連携して環境調整を行うことが大切です。
「やる気がない」のではなく、「特性による苦手さ」であることを周囲が理解するだけで、お子さんのストレスは大きく減ります。
5. 定期的な全身管理
この病気は全身に症状が出る可能性があるため、定期的な「メンテナンス」のような通院が大切です。
小児科をベースに、必要に応じて眼科、皮膚科、循環器科、整形外科などを受診します。
年に1回程度の全身チェックを受けることで、変化を早期に見つけ、対応することができます。
ライフステージごとの見通し
乳幼児期
カフェオレ斑や顔立ちの特徴で診断されることが多い時期です。
心臓の検査や、発育・発達のチェックが中心になります。
言葉や運動の遅れがあれば、療育をスタートさせます。
学童期
学校生活が始まります。
学習面でのサポートが必要かを見極め、学校と相談します。
低身長が目立ってくる時期なので、成長の治療について相談することもあります。
あざや顔立ちについて、友達との関係で悩むことがあるかもしれません。心のケアも大切になります。
思春期・成人期
第二次性徴は通常通り訪れます。
この頃から皮膚の神経繊維腫が増え始めることがあります。
職業選択や結婚など、社会生活を送る上での相談も重要になります。
遺伝のことについて、ご本人が正しく理解できるように、遺伝カウンセリングを受けることも良い選択肢です。
まとめ
神経繊維腫症-ヌーナン症候群(NFNS)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: 神経繊維腫症1型とヌーナン症候群の両方の特徴を併せ持つ疾患で、多くはNF1遺伝子の変異によるRASオパチーの一つです。
- 主な特徴: カフェオレ斑などの皮膚症状と、特徴的な顔立ち、低身長、心疾患などが組み合わさって現れます。
- 管理の要点: 心臓のチェック、成長のサポート、皮膚・腫瘍の観察、そして発達支援など、全身をトータルで見ていくことが大切です。
- 予後: 定期的な管理を行えば、多くの方が自立した社会生活を送ることができます。
