「頭頂骨孔を伴う鎖骨頭蓋異形成症(とうちょうこつこうをともなうさこつとうがいいけいせいしょう)」という、非常に長く、聞き慣れない診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「頭の骨に穴が開いています」「鎖骨がありません(または小さいです)」と説明を受け、レントゲン画像を見せられたとき、大きな驚きと不安を感じられたことと思います。
特に、頭に骨がない部分があると言われると、「脳は大丈夫なのか」「普通の生活ができるのか」と心配になるのは当然のことです。
この病気は、骨ができるプロセスである「骨化」がゆっくり進む、あるいは一部が形成されないという特徴を持つ、生まれつきの体質です。これを医学的には先天性と呼びます。
名前は仰々しいですが、知的な発達には問題がないことが多く、適切な管理とケアを行えば、他のお子さんと変わらない学校生活や社会生活を送ることができます。
この記事では、この病気について、どのようなものなのか、頭や鎖骨、歯に現れる特徴、原因、そしてこれからの生活で何に気をつければよいのかを、専門用語をできるだけ噛み砕いて詳しく解説します。
まず最初にお伝えしたいのは、この病気を持つ方の多くが、元気に成長し、活躍されているということです。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この長い病名を分解して、どのような意味が込められているのかを理解しましょう。
病名の意味
- 頭頂骨孔(Parietal Foramina): 頭のてっぺんの両側にある「頭頂骨」という骨に、孔(あな)が開いている状態を指します。これは、骨が成長する過程で、本来なら閉じるはずの隙間が閉じずに残ってしまったものです。
- 鎖骨頭蓋異形成症(Cleidocranial Dysplasia): 鎖骨と頭蓋骨の形成に特徴がある状態を指します。これを略してCCDと呼ぶこともあります。鎖骨が小さい、あるいは全くないことや、頭の骨の継ぎ目が閉じるのが遅いことが特徴です。
つまり、この病気は「生まれつき、頭の骨の一部に穴が残っており、同時に鎖骨の形成不全や、その他の骨や歯の成長に特徴が見られる疾患」です。
一般的には「鎖骨頭蓋異形成症」という診断名が使われることが多いですが、その中でも特に頭頂骨の穴がはっきりと目立つ場合に、このように呼ばれることがあります。
どのような病気か一言で言うと
「骨を作るスピードがゆっくりで、特に頭のてっぺんと鎖骨、そして歯の成長に特徴が出る、遺伝性の骨の病気」です。
発生頻度
非常に稀な病気です。鎖骨頭蓋異形成症自体は100万人に1人程度の頻度と言われていますが、そこに顕著な頭頂骨孔を伴うケースはさらに少ないと考えられます。
主な症状
この病気の症状は、主に「骨」と「歯」に現れます。
内臓や筋肉には異常がないことがほとんどで、全身の健康状態としては良好な場合が多いです。
1. 頭と顔の特徴(頭蓋骨・顔貌)
生まれた直後から幼児期にかけて、ご家族が最初に気づくサインです。
- 頭頂骨孔(頭の穴)
頭のてっぺん、大泉門と呼ばれる部分の後ろあたりに、円形や楕円形の骨のない部分があります。これを骨欠損と呼びます。
触るとプヨプヨとしていて、脳がドクドクと拍動する動きを感じることがあります。
大きさは数ミリ程度の小さなものから、数センチに及ぶ大きなものまで様々です。
通常、年齢とともに少しずつ小さくなる傾向がありますが、大人になっても残ることがあります。 - 大泉門の閉鎖遅延
赤ちゃんの頭にあるペコペコした柔らかい部分を大泉門と言いますが、これが通常閉じる時期である1歳半頃よりも長く開いたままになります。大人になっても閉じないこともあります。 - お顔立ちの特徴
- おでこが広く、前に出ている(前頭部突出)。
- 目が少し離れている(眼間開離)。
- 鼻の根元が低い。
- 顔の中央部である中顔面が少し奥まっているため、相対的に下あごが出ているように見えることがあります。
これらは、頭蓋骨の成長パターンの違いによるもので、愛らしい特徴的なお顔立ちとなります。
2. 鎖骨と肩の特徴
この病気のもう一つの大きな特徴です。
- 鎖骨の低形成または欠損
鎖骨が通常よりも短い、一部が途切れている、あるいは全くない状態(欠損)が見られます。
鎖骨は、肩を支え、腕の動きを安定させる役割をしています。
鎖骨がない、または不完全であるため、肩の動く範囲である可動域が非常に広くなります。
典型的な例では、両肩を体の前でくっつけることができるほど肩が内側に入ります。
日常生活で困ることは意外と少なく、むしろ「体が柔らかい」と感じる程度の場合が多いですが、重い荷物を背負うのが苦手な場合があります。
3. 歯の特徴(生活の質に関わる重要な点)
ご本人とご家族にとって、最も長期的なケアが必要となるのが「歯」の問題です。
- 乳歯が抜けない(乳歯晩期残存)
大人の歯である永久歯が生えてくる時期になっても、乳歯の根っこが吸収されず、抜けずに残ってしまいます。 - 永久歯が生えてこない(萌出遅延・萌出不全)
永久歯自体はあるのですが、歯茎や骨の中に埋まったままで、なかなか生えてきません。 - 過剰歯(かじょうし)
本来の歯の本数よりも多く、余分な歯が骨の中にたくさん埋まっていることが多いです。これを過剰歯と呼びます。これが永久歯の邪魔をして、生えてくるのを妨げることがあります。
歯並びや噛み合わせに大きく影響するため、矯正歯科での専門的な管理が必須となります。
4. その他の骨格の特徴
- 身長: 平均よりもやや小柄な傾向があります。
- 手足: 指が少し短い、あるいは爪の形が短く丸いといった特徴的なことがあります。
- 骨盤: 骨盤の結合部分である恥骨結合が広いなどの特徴がありますが、歩行には影響しないことがほとんどです。
5. 知的発達・運動発達
- 知的発達: 通常、知能は正常です。学校の勉強や仕事に支障はありません。
- 運動発達: 頭が少し大きめで重く、鎖骨が不安定なため、首すわりや歩き始めが少し遅れることがありますが、最終的には正常に追いつきます。
原因
なぜ、骨の成長や歯の生え変わりにこのような変化が起きるのでしょうか。原因は、骨を作る指令を出す「遺伝子」の変化にあります。
RUNX2遺伝子とMSX2遺伝子
この病気の背景には、主に以下の2つの遺伝子が関わっていると考えられています。
1. RUNX2(ランクスツー)遺伝子
鎖骨頭蓋異形成症の主な原因遺伝子です。第6番染色体にあります。
この遺伝子は、骨や歯を作る細胞である「骨芽細胞」が成熟するために必要なマスター・スイッチのような役割をしています。
このスイッチがうまく入らないと、鎖骨や頭蓋骨が硬くなる「骨化」という現象が遅れたり、歯の生え変わりに必要なプロセスが止まってしまったりします。
2. MSX2(エムエックスツー)遺伝子
「頭頂骨孔」単独の原因遺伝子として知られています。第5番染色体にあります。
この遺伝子も頭蓋骨の形成に関わっており、変異があると骨の穴がふさがらなくなります。
「頭頂骨孔を伴う鎖骨頭蓋異形成症」の場合
多くはRUNX2遺伝子の変異による鎖骨頭蓋異形成症の一つの症状として、大きな頭頂骨孔が見られていると考えられます。
あるいは、非常に稀ですが、染色体の変化によって両方の遺伝子に影響が出ている可能性もあります。
いずれにしても、「骨を作るための設計図の一部に、書き間違いや欠落がある」状態です。
遺伝について
この病気は「常染色体顕性遺伝」という形式をとります。以前は優性遺伝と呼ばれていました。
- 親から子への遺伝
ご両親のどちらかがこの病気である場合、お子さんに遺伝する確率は50%です。性別による違いはありません。 - 突然変異
ご両親ともにこの病気の特徴がない場合でも、お子さんの代で初めて変異が起こる「突然変異」のケースも多くあります。これを専門的には「de novo変異」と呼びます。
これは、受精卵ができる過程で偶然に起きた変化であり、誰のせいでもありません。
「妊娠中の牛乳不足」や「怪我」などが原因ではありません。

診断と検査
診断は、身体所見の確認と、レントゲン検査によって行われます。
1. 身体所見の確認
医師が頭を触って穴、すなわち骨欠損を確認します。
肩の動きを確認し、両肩が前でつくかどうかを見ます。
顔立ちの特徴や、歯の生え方をチェックします。
これらの特徴が揃っていれば、臨床的に診断がつきます。
2. 画像検査(レントゲン・CT)
診断を確定させるために行います。
- 頭部レントゲン・CT
頭頂骨に穴が開いていることや、骨の継ぎ目である縫合が開いていることを確認します。また、過剰歯が埋まっていないかを確認するために、お口全体のレントゲン(パノラマレントゲン)も重要です。 - 胸部レントゲン
鎖骨が欠損しているか、あるいは途中までしかない、細いといった形成不全があるかを確認します。
3. 遺伝学的検査
血液を採取し、DNAを解析してRUNX2遺伝子などに変異があるかを調べます。
診断を確定させたり、ご家族への遺伝カウンセリングを行ったりするために有用ですが、必須ではありません。症状とレントゲンで診断がつくことが多いためです。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して骨を急に成長させるような根本的な治療法はありません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な対処を行う「対症療法」によって、健康を守り、生活の質を高めることができます。
1. 頭部(頭頂骨孔)の保護と管理
- 日常生活での注意
頭に穴が開いている部分は、脳が皮膚の下に直接ある状態です。そのため、転倒や衝突による怪我を防ぐ必要があります。
赤ちゃんがつかまり立ちをする時期や、活発に動く時期には、ヘッドギアやヘルメットなどの保護帽の着用が推奨されます。
学校生活では、頭にボールが当たるような球技や、ラグビーや柔道といった激しいコンタクトスポーツは避けるか、慎重に行う必要があります。 - 外科手術(頭蓋形成術)
穴が非常に大きく、自然に閉じる見込みがない場合や、脳の保護が不十分と判断された場合は、手術を検討することがあります。
自分の骨の一部を移植したり、人工骨を使ったりして穴をふさぎます。就学前に行うことが多いですが、必ずしも全員に手術が必要なわけではありません。
2. 歯科治療(最も重要)
この病気の方にとって、歯科治療は長期間にわたるプロジェクトになります。
- 定期検診
歯が生え始める前から、小児歯科や矯正歯科に通い、レントゲンで過剰歯の有無や永久歯の位置をチェックします。 - 過剰歯の抜歯
永久歯の邪魔をしている過剰歯を手術で抜きます。 - 矯正治療と牽引(けんいん)
埋まっている永久歯に装置をつけ、引っ張り出す「牽引」という治療が必要になることが多いです。また、乳歯をタイミングよく抜いて、永久歯の通り道を作ります。
あごの骨の成長に合わせた矯正治療を行い、きれいな歯並びと噛み合わせを作ります。
この治療は大人になるまで続くことがありますが、根気よく続けることで、ご自身の歯で噛めるようになります。
3. 耳鼻科領域の管理
- 中耳炎
頭蓋骨の構造上、耳と鼻をつなぐ「耳管」の働きが悪く、中耳炎になりやすい傾向があります。
繰り返すと難聴の原因になるため、耳鼻科での定期的なチェックが必要です。水がたまる滲出性中耳炎の場合は、チューブを入れる処置をすることもあります。
4. 整形外科領域の管理
特に治療を必要としないことが多いですが、骨密度がやや低い場合があるため、カルシウムの摂取や適度な運動を心がけ、骨を強くすることが大切です。
まとめ
頭頂骨孔を伴う鎖骨頭蓋異形成症についての解説をまとめます。
- 病気の本質: 骨や歯を作るスピードがゆっくりで、骨が硬くなる「骨化」が遅れる体質です。RUNX2遺伝子などが関わっています。
- 主な特徴: 頭のてっぺんの穴(頭頂骨孔)、鎖骨の低形成、乳歯が抜けず永久歯が生えにくい(歯の生え変わりトラブル)が三大特徴です。
- 知能・寿命: 知能は正常で、寿命にも影響はありません。
- 管理のポイント: 頭の怪我予防、長期的な歯科矯正治療、耳(中耳炎)のケアが柱となります。
家族へのメッセージ
診断を受けたばかりの今、赤ちゃんの頭に穴があることや、鎖骨がないことに、大きなショックと不安を感じていらっしゃるかもしれません。「普通に育つのだろうか」「いじめられないだろうか」と心配は尽きないでしょう。
しかし、この病気を持つお子さんたちは、とても賢く、元気に育っていきます。
頭の穴は成長とともに小さくなることが多いですし、髪の毛が生えれば見た目には全くわからなくなります。鎖骨がないことで日常生活に困ることもほとんどありません。むしろ「肩芸」として周りを驚かせて人気者になる子もいるくらいです。
一番の頑張りどころは「歯」の治療です。
小学生から高校生くらいにかけて、抜歯や矯正治療で痛い思いや辛い思いをすることがあるかもしれません。
その時は、ご家族が一番の応援団になってあげてください。「きれいな歯並びになったら、もっと素敵になるよ」と励ましてあげてください。
この病気は、適切な管理さえすれば、夢を諦める必要のない病気です。
スポーツ選手になった方もいれば、医師や教師、アーティストとして活躍している方も世界中にたくさんいます。
結婚して、お子さんを育てている方もいます(遺伝の可能性はありますが、病気を理解した上で幸せな家庭を築かれています)。
一人で悩まず、小児歯科医、形成外科医、小児科医といった専門医を頼ってください。
また、日本には「鎖骨頭蓋異形成症」の患者会なども存在します。同じ経験を持つ先輩や仲間とつながることで、具体的な生活の知恵や、将来への安心感を得ることができるはずです。
お子さんのペースで、一歩ずつ。
その個性的な成長を、どうか前向きに見守ってあげてください。
