ファイファー症候群という診断名を聞き、あるいは医師からその疑いがあると言われ、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
聞き慣れない病名に、戸惑いや不安を感じていらっしゃるかもしれません。特に、インターネットで検索して出てくる画像や、「難病」という言葉にショックを受けている方もおられるでしょう。
この病気は、生まれつき頭の骨や手足の骨の成長に特徴が現れる「骨系統疾患(こつけいとうしっかん)」の一つであり、その中でも「頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)」というグループに含まれます。
近年、形成外科や脳神経外科の医療技術は飛躍的に進歩しています。かつては難しいとされていた治療も、現在では安全に行われるようになり、お子さんの健やかな成長を支える体制が整ってきています。
まず最初にお伝えしたいのは、適切な治療とサポートがあれば、お子さんはその子らしい豊かな人生を送ることができるということです。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
ファイファー症候群は、1964年にドイツの遺伝学者ルドルフ・ファイファー(Rudolf Pfeiffer)博士によって初めて報告された先天性の疾患です。
どのような病気か一言で言うと
「頭の骨の継ぎ目が早く閉じてしまうことで頭の形が変わったり、顔の骨の成長がゆっくりだったり、手足の親指が幅広かったりする特徴を持つ、遺伝性の病気」です。
発生頻度
およそ10万人に1人の割合で生まれると言われています。性別による差はなく、世界中のあらゆる人種で見られます。
頭蓋骨縫合早期癒合症とは
赤ちゃんの頭の骨は、生まれた時はいくつかのピースに分かれていて、パズルのように組み合わさっています。骨と骨の継ぎ目のことを「縫合(ほうごう)」と呼びます。
通常、脳が急速に成長する乳幼児期には、この縫合は開いていて、脳の大きさに合わせて頭蓋骨も広がっていきます。
しかし、この病気では、縫合の一部または複数が、生まれる前や生まれた直後にくっついて(癒合して)しまいます。
その結果、頭の形がいびつになったり、脳が成長するスペースが狭くなったりします。
指定難病
日本では国の指定難病(指定難病182「ファイファー症候群」)に認定されており、重症度に応じて医療費の助成などのサポートを受けることができます。
主な症状と3つの病型
ファイファー症候群の症状は、患者さんによって程度が大きく異なります。
症状の重さや予後(将来の見通し)によって、医学的に「1型」「2型」「3型」の3つに分類されています(コーエンによる分類)。
ご自身のお子さんがどのタイプに当てはまるかを知ることが、今後の治療方針を理解する上で非常に重要です。
共通する特徴
タイプに関わらず、多くの方に見られる共通のサインがあります。
幅広い親指と足の親指
これがファイファー症候群を診断する上で、他のよく似た病気(クルーゾン症候群やアペール症候群など)と区別する最大の手がかりです。
手足の親指が太く、幅広くなっており、時には外側に向かって曲がっていることがあります。
中顔面低形成(ちゅうがんめんていけいせい)
顔の中央部分(目の下から上あごにかけて)の骨の成長がゆっくりなため、顔が少し奥まったように見えます。
これにより、相対的に目が飛び出ているように見えたり(眼球突出)、鼻が低く見えたりします。
1型(Type 1):軽症型
「古典的ファイファー症候群」とも呼ばれます。
頭の形
縫合の癒合により、頭が前後に短く、上に高い形(短頭・尖頭)になることが多いですが、変形の程度は比較的軽いです。
顔貌
中顔面の低形成(くぼみ)は軽度から中等度です。
発達・知能
知的な発達は正常であることがほとんどです。
予後
適切な時期に手術などを行えば、予後は非常に良好です。大人になって社会生活を送り、家庭を持つ方もたくさんいらっしゃいます。
2型(Type 2):重症型(クローバー葉頭蓋)
3つのタイプの中で最も症状が重いタイプです。
クローバー葉頭蓋(ようずがい)
複数の縫合が早期に閉じてしまうことで、頭がおでこと両サイドに盛り上がり、正面から見ると三つ葉のクローバーのような形になります。
眼球突出
目が大きく飛び出しており、まぶたを閉じることが難しい場合があります(角膜を守るケアが必要です)。
肘の関節癒合(アンキローシス)
肘の関節が固まっていて、曲げ伸ばしができない、あるいは動きが制限されているのが2型の大きな特徴です。
呼吸器・神経系
気道の狭さによる呼吸障害や、水頭症(脳室に水が溜まる)などの合併症が多く見られます。
発達
知的発達の遅れを伴うことが多いですが、早期からの適切な治療と療育により、発達を促すことができます。
3型(Type 3):重症型(クローバー葉頭蓋なし)
2型と同様に症状は重いですが、頭の形が異なります。
頭の形
クローバー葉頭蓋にはなりません。頭は前後に非常に短い(短頭)などの変形が見られます。
その他の症状
2型と同じく、著しい眼球突出や、肘の関節癒合などが見られることがあります。
呼吸器や神経系の合併症のリスクも高く、慎重な管理が必要です。
その他の合併症(全タイプ共通の可能性)
難聴(伝音性難聴が多い)
睡眠時無呼吸症候群(いびき、呼吸が止まる)
噛み合わせの問題(反対咬合など)
原因
なぜ、このような骨の成長の変化が起きるのでしょうか。原因は、骨の形成に関わる遺伝子の変化にあります。
FGFR遺伝子の変異
ファイファー症候群の主な原因は、「FGFR1(エフジーエフアールワン)」または「FGFR2」という遺伝子の変異です。
FGFRとは
「線維芽細胞増殖因子受容体(Fibroblast Growth Factor Receptor)」の略です。
この遺伝子は、骨や軟骨の細胞に対し、「成長しなさい」「分化しなさい(骨になりなさい)」という指令を受け取るアンテナのような役割をしています。
何が起きているのか
遺伝子に変異が起きると、このアンテナの感度が高くなりすぎたり、スイッチが入りっぱなしになったりします。
すると、まだ成長すべき時期なのに「もう骨になって固まりなさい」という指令が過剰に出てしまい、頭の骨の継ぎ目(縫合)が予定よりも早く閉じてしまうのです。
手足の骨にも同様の影響が出て、親指が太くなるなどの特徴が現れます。
遺伝子と病型の関係
1型:主にFGFR1遺伝子の変異、またはFGFR2遺伝子の変異によって起こります。
2型・3型:ほぼ全てがFGFR2遺伝子の変異によって起こります。
遺伝について
ファイファー症候群は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとります。
親から子への遺伝
ご両親のどちらかがファイファー症候群である場合、お子さんに遺伝する確率は50%です。1型の方のお子さんは、やはり1型になる傾向があります。
突然変異(de novo変異)
2型や3型の患者さんのほとんど、そして1型の患者さんの多くは、ご両親はファイファー症候群ではなく、受精卵ができる過程で偶然起こった「突然変異」によるものです。
特に、お父さんの年齢が高い場合に突然変異のリスクが少し上がることが知られていますが、これは誰のせいでもありません。
「妊娠中の生活が悪かった」といったことは一切関係ありません。
次のお子さんが同じ病気になる確率は、ご両親が未発症であれば、一般のご家庭とほとんど変わりません。

診断と検査
診断は、特徴的な身体所見の観察と、画像検査、遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 身体所見
幅広い親指・足の親指
特徴的な顔貌
頭の形
これらを確認することで、クルーゾン症候群などの他の病気と区別し、ファイファー症候群を疑います。特に親指の特徴は重要です。
2. 画像検査
頭部CT検査(3D-CT)
最も重要な検査です。頭蓋骨の形を立体的に映し出し、どの縫合が閉じているか、手術が必要かどうかを詳しく調べます。
頭部MRI検査
脳の形や、水頭症の有無(脳室の大きさ)、脳の奇形(キアリ奇形など)がないかを確認します。
手足のレントゲン
指の骨の形や、肘の関節の状態を確認します。
3. 遺伝学的検査
血液を採取し、DNAを解析してFGFR1またはFGFR2遺伝子に変異があるかを調べます。
確定診断のために行われますが、必須ではありません(臨床症状だけで診断がつくことも多いです)。
治療と管理
ファイファー症候群の治療は、長期間にわたる計画的な管理が必要です。
脳神経外科、形成外科、矯正歯科、眼科、耳鼻科、小児科、リハビリテーション科などがチームを組んで(チーム医療)、お子さんの成長に合わせて最適な治療を行います。
治療の主な目的は以下の3つです。
- 脳の機能を守る(頭蓋内圧を下げる)
- 呼吸や食事の機能を守る
- 見た目を整え、社会生活を送りやすくする
1. 脳と頭蓋骨の治療
頭蓋形成術(ずがいけいせいじゅつ)
狭くなった頭蓋骨を広げ、脳への圧迫(頭蓋内圧亢進)を取り除く手術です。
時期:重症度によりますが、生後数ヶ月〜1歳頃に行われることが多いです。
方法:
後頭蓋拡大術:後ろ側の骨を広げる手術。
骨延長法(ディストラクション):骨に延長器を取り付け、毎日少しずつネジを回して骨を広げる方法。体への負担が少なく、大きく骨を広げられるため、現在では主流の治療法の一つになっています。
VPシャント術
水頭症があり、脳圧が高い場合は、余分な水を他へ流すチューブを入れる手術を行うことがあります。
2. 顔面と呼吸の治療
中顔面短縮や気道の狭さに対して行われます。
ル・フォーIII型骨切り術(Le Fort III)
顔の骨を中段から切り離し、前に引き出す手術です。
これにより、奥まっていた顔を前に出し、気道を広げて呼吸を楽にし、目の突出を改善します。
時期:学童期以降に行われることが多いですが、呼吸状態が悪い場合はもっと早期に行うこともあります。
骨延長法を用いることが一般的です。
モンオブロック(Monobloc)骨切り術
おでこと顔の骨を一体として前に出す手術です。
気管切開
2型や3型で、生まれた直後から呼吸が苦しい場合、命を守るために一時的に喉に穴を開ける(気管切開)ことがあります。顔の骨を広げる手術をして呼吸が楽になれば、カニューレ(管)を抜くことができます。
3. 目と耳のケア
眼科
目が閉じにくい場合は、乾燥による角膜の傷を防ぐため、点眼薬や軟膏、就寝時のアイパッチなどを使用します。顔の手術を行うことで改善します。
耳鼻科
難聴がある場合は、補聴器を使用したり、中耳炎の治療を行ったりします。言葉の発達のためには、聞こえのケアは非常に重要です。
4. 手足の治療
親指の形や、肘の固まりに対して、日常生活での使いやすさを向上させるための手術を行うことがあります。
リハビリテーション(作業療法・理学療法)も重要です。
5. 歯科矯正
上あごが小さいため、歯並びが悪くなりやすいです。成長に合わせて矯正治療を行います。
まとめ
ファイファー症候群についての解説をまとめます。
病気の本質
FGFR遺伝子の変異により、頭や手足の骨の成長指令が過剰になる先天性の疾患です。
主な特徴
頭蓋骨縫合早期癒合による頭の変形、中顔面の低形成、幅広い親指・足の親指が特徴です。
3つの病型
1型は軽症で予後良好。2型(クローバー葉頭蓋あり)と3型は重症で、呼吸や脳の管理が重要です。
治療の進歩
骨延長法などの技術により、脳を守り、顔立ちを整え、呼吸を楽にすることができるようになっています。
チーム医療
多くの専門家が連携して、成人になるまで長期的にサポートします。
