妊婦さんと赤ちゃんを守るRSウイルスワクチン「アブリスボ」の驚くべき効果と安全性【YouTube動画解説】

1. RSウイルスとは?

【質問者】
「そもそもRSウイルスって、どんなウイルスですか? 名前は聞いたことあるけど、ただの風邪みたいなものなんじゃないですか?」

【先生】
「確かに、大人にとっては軽い風邪症状で済むことも多いです。鼻水や咳、ちょっとした発熱程度で終わる場合も多いですね。でも、生後数ヶ月の赤ちゃんにとっては、RSウイルスは“ただの風邪”ではありません。場合によっては命に関わるほど重症化することもあるんです。」

【質問者】
「そんなに違うんですか? どうして赤ちゃんだと危険なんですか?」

【先生】
「大きな理由は二つあります。まず、赤ちゃんは気道がとても細く、炎症や分泌物が少し増えるだけで呼吸が苦しくなってしまうこと。もう一つは、免疫機能がまだ未熟で、ウイルスと戦う力が弱いからです。そのためRSウイルスは、特に生後6ヶ月未満の赤ちゃんで細気管支炎肺炎を引き起こしやすくなります。」

▼ RSウイルスによる影響(世界・米国データ)

  • 生後6ヶ月未満:感染したうち2〜3%が細気管支炎などで重症化
  • 米国では毎年約20万〜80万人の乳児が入院
  • 死亡率は極めて低いが、重症化した場合は集中治療が必要になるケースもある
  • 乳児の入院原因の第1位がRSウイルスという年もある

【質問者】
「そんなに多くの赤ちゃんが入院してるんですね…。流行するのは冬だけじゃないんですか?」

【先生】
「以前は冬の感染症というイメージが強かったのですが、近年は夏でも流行が見られるようになってきています。これはコロナ禍による生活習慣の変化や国際的な人の移動の影響で、ウイルスの流行時期がずれてきたと考えられています。つまり、1年中注意が必要なウイルスになってしまったんです。RSウイルスは飛沫感染や接触感染で広がります。くしゃみや咳で飛んだウイルスはもちろん、ドアノブやおもちゃに付着したウイルスも感染源になります。しかもウイルスは物の表面で数時間以上生存することがあるため、手洗い・消毒・おもちゃの清掃など日常的な対策が重要です。」

【質問者】
「夏にもかかりやすいって思ってたより、ずっと怖いウイルスなんですね…。」

【先生】
「はい。特に生後半年までの赤ちゃんや早産児、心臓や肺に持病があるお子さんは重症化しやすいので、周囲の大人がしっかり予防することが何より大事です。」

【質問者】
「赤ちゃんが感染したら、どういう症状に注意すればいいんですか?」

【先生】
「初期は鼻水・軽い咳・微熱など風邪に似ています。でも、呼吸が早くなったり、胸やお腹が大きくへこむ“陥没呼吸”が見られたら要注意。ミルクの飲みが悪くなったり、顔色が青白くなることも危険サインです。このような場合はすぐに医療機関を受診してください。」

【質問者】
「妊婦さんがワクチンを打って赤ちゃんを守ることはできるんですか?」

【先生】
「そうです。実は2023年に新しく登場した妊婦さん向けのRSウイルスワクチンがあるんです。名前は『アブリスボ(Abrysvo)』といって、妊娠中に接種することで、お母さんの体内にRSウイルスに対する抗体が作られます。そして、その抗体が胎盤を通して赤ちゃんに移行するんです。」

【質問者】
「へぇ!じゃあ赤ちゃんは生まれた瞬間から守られているってことですか?」

【先生】表あり↓
そうなんです。赤ちゃんは生後すぐには自分でワクチンを打てませんし、免疫も未熟です。でも、お母さんから受け取った抗体のおかげで、特に生後数ヶ月の最も危険な時期にRSウイルスから守られるんです。

▼ ワクチンの効果(臨床試験・実地データ)

効果指標成績・効果率
生後0〜6ヶ月までの入院予防効果約77%(45〜90% CI)
生後3ヶ月までの重症RSV予防約82%(95%CI超)
病院受診を伴うRSV予防約65.5〜69%
実地現場(英国・NHS):接種による入院率減少約72%減少

アブリスボは“赤ちゃんに直接ワクチンを打てない時期をカバーできる唯一の方法”とも言えます。特に早産児や心肺にリスクのある赤ちゃんを守るためにも有効なんです。」

【質問者】
「なるほど…。赤ちゃんが自分で守れないなら、お母さんが先に守ってあげるってことなんですね。」

【先生】
「そうです。まさに“母から子への最初のプレゼント”とも言えますね。」

3. 接種するタイミングと安全性

【質問者】
「妊婦さんって、いつ、どうやって打つんですか?妊娠中ってワクチンにすごく気をつけないといけないイメージがあります」

【先生】
「そうですよね。妊娠中は、打っていいワクチンと避けるべきワクチンが明確に分かれています。たとえば、麻疹・風疹ワクチン水痘(水ぼうそう)ワクチンは“生ワクチン”なので、妊娠中は接種できません。でも、アブリスボ(RSウイルスワクチン)は生ワクチンではなく、“組換えタンパク質ワクチン”といって、不活化ワクチンに近いタイプです。生きたウイルスを使っていないので、妊娠中でも接種可能なんです。推奨されているのは妊娠24〜36週の間です。この期間に打てば、出産までにしっかり抗体ができて、赤ちゃんに移行します。中でも32〜34週頃が特に効果的と言われています。それは、抗体が胎盤を通って赤ちゃんに移行するピークが妊娠後期にあるからです。抗体移行は妊娠28週ごろから本格的に始まり、34週ごろにピークを迎えます。だから、このタイミングでお母さんの抗体を高めておくと、生まれてきた瞬間から赤ちゃんを守る準備が整うんです。」


【質問者】
「でも…妊娠中に打つワクチンって、副反応や赤ちゃんへの影響はあるんですか?」

【先生】
「その点については、臨床試験や実際の接種データから、胎児に重大な悪影響が出たという報告は現在のところありません。主な副反応は、接種部位の痛み・赤み、軽い発熱や倦怠感などで、ほとんどが数日でおさまります。重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)は非常にまれです。ただ、すべての妊婦さんが同じではないので、持病やアレルギー歴、これまでのワクチン反応歴によっては注意が必要な場合もあります。接種前に必ず主治医に相談し、自分に合ったタイミングで打つことが大事です。妊娠後期は出産の準備だけでなく、赤ちゃんの免疫の準備期間でもあります。そのサポートとして、このワクチンはとても意味があるんですよ。」

4. どんな人に特におすすめ?

【質問者】
「どんな妊婦さんが特に接種すべきなんですか?」

【先生】
「もちろん妊娠中の方全員にメリットがありますが、特におすすめしたいのは次のような方です。」

① 上にお子さんがいる方(特に保育園・幼稚園に通っている)
「小さなお子さんはRSウイルスにかかりやすく、しかも症状が軽くてもウイルスをたくさん排出します。保育園や幼稚園は集団生活のため、ほぼ毎年のようにRSの流行があり、家庭に持ち帰ってくることも珍しくありません。
上の子が感染して軽い咳や鼻水だけで済んでも、生まれたばかりの赤ちゃんにうつると、重症化して入院が必要になるケースもあります。」

② 秋〜冬に出産予定の方
「RSウイルスは1年中見られるようになってきていますが、やはり秋〜冬は流行のピークになりやすい季節です。特に11〜1月は乳児の入院例が増える傾向があります。この時期に出産予定の場合、産後すぐの時期が流行シーズンと重なるため、予防のメリットがより大きくなります。」

こういった条件に当てはまる方は、産婦人科でぜひ相談してほしいですね。RSウイルスは生後数か月の赤ちゃんにとって本当に脅威ですし、お母さんがワクチンで守ってあげられる数少ない病気の一つなんです。

【質問者】
「たしかに…上の子が園児だと、“持ち帰るかも”ってかなりリアルに想像できますね。」

【質問者】
「RSウイルスワクチンの費用って、どのくらいなんですか?結構高そうなイメージがあります…」

【先生】
「はい、現時点(2025年8月)では、日本では妊婦向けRSウイルスワクチン『アブリスボ(Abrysvo)』に公費助成はほとんどありません。そのため保険適用外の自費診療になり、費用は1回あたりおおむね30,000円〜38,000円ほどかかります。
接種は1回のみで、筋肉注射です。まだ新しいワクチンなので、全国一律の公費制度は整っていません。ただし、自治体によっては独自に助成制度を設けているところがあります。例えば、子育て支援に積極的な自治体では“乳児の入院予防”を目的に、接種費用の半額〜全額を助成してくれるケースもあります。
  助成対象は『妊娠中の母親』または『生後すぐの赤ちゃんを持つ保護者』として設定される場合が多いので、必ずお住まいの市区町村の公式サイトや保健センターに確認するのがおすすめです。」


【質問者】
日本ではまだ高いですが、世界ではどうでしょうか?

【先生】
「海外では事情が違います。たとえばアメリカやイギリスでは、妊婦へのRSワクチンが国の推奨ワクチンに組み込まれていて、公費負担または保険適用されるため、ほとんど自己負担なしで受けられる場合が多いんです。
  日本でも今後、普及やデータ蓄積が進めば、同じように公費化される可能性はあります。」

【質問者】
「赤ちゃんの命や健康を守るワクチンなら、日本でも早くそうなってほしいですね。」

【先生】
「そうですね。現状では費用がネックで見送る方もいますが、流行期に重症化して入院すると、その医療費や家族の負担は計り知れません。費用とリスクを天秤にかけて、検討していただくのが良いと思います。」

6. 接種を迷っている妊婦さんへのアドバイス

【質問者】
「効果や安全性はわかってきたけど…やっぱり新しいワクチンって少し不安もあって、決断できなくて…」

【先生】
「とても自然なことです。ワクチン接種は“誰かに押し付けられるもの”ではなく、情報を知ったうえでご自身とご家族で決めるべきことです。
迷っているときは、次の3つの視点で考えてみてください。」

1. 赤ちゃんが感染した場合のリスクと比較する
RSウイルスは、特に生後6ヶ月未満の赤ちゃんにとって重症化リスクが高く、気管支炎や肺炎で入院することもあります。ワクチンの副反応リスクと、感染時のリスクを比較するのが大切です。

2. 出産時期と流行期の重なり
秋〜冬に出産予定なら、流行期と新生児期が重なります。この場合はメリットがより大きくなります。

3. 家族・環境の感染リスク
上の子が保育園に通っている、同居家族が外での接触が多い場合は、赤ちゃんにウイルスが持ち込まれる可能性が高くなります。

不安はあるかもしれませんが、赤ちゃんにとっても大事な問題です。心配な時は主治医の先生に相談してください。