なぜパニックになるの?自閉スペクトラム症(ASD)の子どもが“見ている世界”と私たちにできること【YouTube解説】

こんにちは、未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする「おかひろし」です。

このコラムでは、NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けしています。

子育てをしていると、「どうしてうちの子は、こんなに些細なことで泣くんだろう?」「なぜ、何度言っても伝わらないんだろう?」と悩み、途方に暮れてしまうことはありませんか?

スーパーマーケットに行くと必ず癇癪(かんしゃく)を起こす、教室でじっと座っていられない、目が合わない…。

実はその行動の裏には、「子どもが見ている世界」が、私たち大人とは全く違っているという事実が隠されているかもしれません。

今回は、**【自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちが“見ている世界”】**をテーマに、彼らが感じている感覚の世界を紐解き、親御さんが今日からできる具体的なサポート方法について、医学的な視点から詳しく解説していきます。


1. 同じ場所にいても「違う世界」に住んでいる?

まず、皆さんに知っていただきたい大前提があります。

私たちが日常的に見ている風景、聞いている音、感じている肌触り。これらは全員が同じように感じていると思っていませんか?

実は、「感覚」というのは非常に個人的なものです。

特に、自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ子どもたちにとっては、私たちが「普通」だと感じて見過ごしている景色が、全く違う強烈な刺激として脳に届いていることがあります。

視力ではなく「脳の画像処理」の違い

「見え方が違う」と言うと、「視力が悪いということですか?」と質問されることがよくあります。

答えは「いいえ」です。眼球そのものの機能(視力)には問題がないことがほとんどです。

重要なのは、**「目から入った情報を、脳がどう処理しているか」**という点です。

人間の脳は、目から入ってくる膨大な視覚情報を、無意識のうちに整理・統合しています。必要な情報だけをピックアップし、不要な情報は背景として処理する。これを瞬時に行っているのです。

しかし、ASDのお子さんの脳では、この情報処理のフィルター機能が私たちと異なります。

これを**「感覚処理障害(SPD)」**と呼ぶこともありますが、同じASDでも、感覚が極端に敏感な「過敏」タイプもあれば、逆に鈍感な「鈍麻(どんま)」タイプもあり、さらにはその日の体調によって揺れ動くこともあります。

今日はその中でも、特に生活への影響が大きい**「視覚(見え方)」**に焦点を当ててみましょう。


2. 具体的にどう違う? ASDの子どもが見る「4つの視覚世界」

ASDの子どもたちが体験している視覚的な世界とは、具体的にどのようなものでしょうか?

医学的な特徴と、それが引き起こす具体的な「困りごと」を照らし合わせて解説します。

① ディテール・フォーカス(細部への過剰な注目)

私たち大人は、部屋に入ったとき「教室だな」「リビングだな」と、まず全体像を把握します(全体視)。

しかし、ASDのお子さんの多くは、**「細部(ディテール)」**が先に飛び込んできます(局所視)。

  • 見えている世界:
    先生が黒板の前に立って話していても、その全体像よりも「先生の服のボタンの光沢」や「黒板の隅にある小さなひっかき傷」、「壁のシミの形」などが、カメラのズーム機能を使ったかのように強烈に目に飛び込んできます。
  • 困りごと・行動:
    全体を見ることが後回しになるため、状況把握が遅れます。「話を聞いていない」「指示に従わない」と誤解されがちですが、本人は一生懸命「見えているもの」を処理している最中なのです。

② フィルター機能の不全(ノイズが消えない)

通常、私たちは会話をする際、相手の顔に集中し、背景のポスターや窓の外の景色は「気にならない背景(ノイズ)」として処理します。

しかし、ASDのお子さんには、「視界に入るすべてのもの」が「主役」として同じ強さで飛び込んでくることがあります。

  • 見えている世界:
    教室の掲示物、揺れるカーテン、蛍光灯のわずかなチラつき、友達の鉛筆の動き…。これら全てが「見てくれ!」と主張してくるような、情報過多のカオス状態です。
  • 困りごと・行動:
    情報量が多すぎて脳がパンクし、集中力が続きません。スーパーマーケットやショッピングモールなどの商品が陳列され、色が溢れている場所でパニック(メルトダウン)を起こしやすいのも、この視覚的な情報洪水が原因の一つです。

③ 動きや光への「過敏性」

蛍光灯の光を「突き刺さるように痛い」と感じたり、人混みの動きを「襲ってくる波」のように感じたりすることがあります。

  • 見えている世界:
    LEDの光がストロボのように点滅して見えたり、白い紙と黒い文字のコントラストが強すぎてチカチカして読めなかったり(アーレン症候群のような症状)します。また、体育の授業などで複数の子どもがランダムに動く状況は、予測不能な物体の乱舞に見え、恐怖を感じます。
  • 困りごと・行動:
    明るい場所を嫌がって帽子を目深にかぶる、体育館や人混みで動けなくなる、あるいは逆に興奮して走り回る。これらは、不快な視覚刺激から身を守ろうとする防御反応かもしれません。

④ 顔認識・視線処理の困難さ

「目を見て話しなさい」というのは、学校や家庭でよく言われるしつけです。しかし、ASDのお子さんにとって、人の目を見ることは、私たちが想像する以上にハードルの高い行為です。

  • 見えている世界:
    人の目や表情は、常に微細に変化する「情報量の塊」です。目を見ることで脳の処理キャパシティがいっぱいになり、相手の話している内容(聴覚情報)が入らなくなってしまうことがあります。
  • 困りごと・行動:
    会話中に視線をそらす、横を向いて話す。これは「無視している」のではなく、**「視線を外すことで視覚情報を遮断し、あなたの話を聞くことに集中しようとしている」**という、彼らなりの適応戦略である可能性が高いのです。

3. その行動は「わがまま」ではない

ここまで解説してきたように、ASDのお子さんが見せる「不可解な行動」の多くは、性格やしつけの問題ではなく、**「脳の感じ方・見え方の違い」**に起因しています。

  • 落ち着きがない ⇒ 視覚的なノイズが多すぎて、安心できる場所を探しているのかも?
  • 話を聞かない ⇒ 先生の顔を見ることに必死で、耳への注意が向かないのかも?
  • 場所見知りが激しい ⇒ 初めて見る場所の「情報の洪水」に圧倒されているのかも?

彼らにとって、私たちが暮らす「普通の環境」は、常にまぶしすぎたり、うるさすぎたり、情報が多すぎたりする、非常に過酷なサバイバル環境である可能性があるのです。

それを「我慢が足りない」「努力で直せ」と言うのは、視力が悪い子に「気合で遠くを見ろ」と言うのと同じくらい酷なことかもしれません。

「本人の努力」ではなく、「環境の調整」こそが必要不可欠なのです。


4. 支援のコツ:世界の「解像度」を合わせる5つの柱

では、具体的にどのような環境づくりや接し方が有効なのでしょうか?

難しく考える必要はありません。大切なのは、**「大人がほんの少し歩幅を合わせ、彼らの見ている世界の“解像度”に環境を調整する」**ことです。

ここでは、すぐに実践できる5つの柱をご紹介します。

① 「シングル・タスク」での提示(課題の工夫)

一度にたくさんの情報を見せないことが鉄則です。

  • NG: ごちゃごちゃしたプリント、口頭での長い指示。
  • OK: 「今やるべき1問」だけが見えるように他を紙で隠す。指示は「まずはこれ」と一つずつ。
  • 効果: 視覚的な迷子が減り、驚くほどスムーズに取り組めるようになります。

② 「見本」を見せる(視覚的構造化)

「ちゃんとして」「きれいに片付けて」という曖昧な言葉は、ASDの子には伝わりにくいものです。

  • 工夫: 完成形の写真を見せる。「靴はここに置く」という足跡マークを玄関に貼る。
  • 効果: 「正解」が目で見てわかるため、安心して行動できます。

③ 「ノイズ」を減らす(環境の引き算)

集中してほしい場所(勉強机や教室の黒板周り)から、刺激を減らします。

  • 工夫: 勉強中は机の上の不要なものを箱にしまう。壁のポスターを剥がすか、布で隠す。部屋の照明を、刺激の強い昼光色から、落ち着く電球色に変える。
  • 効果: 脳に入ってくる情報量が適正化され、疲れにくくなります。

④ 「逃げ場所」と「防御アイテム」の容認(感覚サポート)

刺激に耐えられなくなった時の対処法を用意します。

  • 工夫: サングラスやキャップの着用を認める(光対策)。イヤーマフや耳栓の使用を許可する(音対策)。「疲れたらトイレの個室で3分休んでいい」というルールを作る。
  • 効果: 「辛くなったら自分で対処できる」という安心感が、パニックを未然に防ぎます。

⑤ 変化への「予告」(見通しの確保)

急な予定変更は、彼らの頭の中にある「映像(イメージ)」を崩壊させるため、強い苦痛を伴います。

  • 工夫: 「今日はいつもと違う道を通るよ」「あと10分で終わりだよ」と、事前に(できれば絵や文字で)伝える。
  • 効果: 心の準備ができ、パニックを回避できます。

5. うちの子はどう? すぐできる「見え方ミニ・チェック」

自閉症の診断はついていないけれど、もしかして特性があるのかも?」

そう感じた方は、以下のミニ・チェックを試してみてください。お子さんの「苦手」の正体が見えてくるかもしれません。

自閉症の“見え方”チェックリスト】

  1. 強い光や特定の模様を「まぶしい」「怖い」と嫌がることがある
  2. 教室や部屋で、掲示物が少ない場所や壁際の席の方が落ち着く
  3. 人と話すとき、視線をそらした方が内容をよく理解しているようだ
  4. 「あれもこれも」と指示されると固まるが、手順を1つずつ紙に書くと動ける
  5. ショッピングモールや人混みに行くと、急に不機嫌になったり走り出したりする

★判定のヒント

上記の項目のうち、2つ以上に当てはまる場合、視力そのものに問題がなくても、「見え方の処理(視覚情報処理)」に特性がある可能性があります。

それはつまり、**「環境調整さえすれば、今よりもっと生きやすくなる」**というポジティブな発見でもあります。

「うちの子は、情報が入りすぎて困っていたんだ」

そう気づくだけで、親御さんのイライラは「どう工夫してあげようか」という前向きな思考に変わるはずです。


6. よくある質問:NIPTと発達障害の関係

当クリニックはNIPT(新型出生前診断)を行っていますが、発達障害に関連してよくいただくご質問があります。

Q. NIPT出生前診断)で、発達障害(ASDやADHD)はわかりますか?

A. 現時点では、基本的にわかりません。

NIPTは、赤ちゃんの染色体の数(21トリソミーなど)や構造の変化を調べる検査です。

一方で、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDなどの発達障害は、多くの遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発生するものであり、特定の染色体異常だけが原因ではありません。

したがって、現在の一般的なNIPT検査で「将来発達障害になるかどうか」を判定することはできません。

Q. 遺伝するのでしょうか? 親として責任を感じます。

A. 親御さんの育て方や愛情不足が原因ではありません。

ASDには遺伝的な要因が関与していることは分かっていますが、それは「親のせい」ということではありません。身長や体質が遺伝するように、脳のタイプの傾向が受け継がれることがある、という自然な現象です。

「私のせいで…」と自分を責めるよりも、「この子の脳のタイプには、どんな環境が合うのかな?」と、未来に向けた環境づくり(「メガネ」を選んであげるような感覚)にエネルギーを注ぐことが、お子さんの笑顔につながります。


まとめ:あなたは、お子さんの最高の理解者になれる

本日は、「自閉スペクトラム症の子どもが見ている世界」について解説しました。

私たち大人にとっての「当たり前」は、彼らにとっての「当たり前」ではありません。

彼らは、情報の洪水のなかで、必死にバランスを取ろうと頑張っています。

大切なのは、彼らを無理やり「普通」の枠に当てはめることではありません。

「まぶしいなら、サングラスをかけよう」

「情報が多いなら、隠してあげよう」

そうやって、私たちが環境の側を調整し、世界の解像度を彼らに合わせてあげること。

それが、真の意味での「支援」です。

環境が変われば、行動が変わります。

行動が変われば、お子さんの表情が変わり、親子の笑顔が増えていきます。

「ちょっと気になるな」と思ったら、まずは今日ご紹介した小さな工夫から始めてみてください。