「うちの子、目線が合いにくい?」その違和感を見逃さないで。“見る力”と発達の深い関係【YouTube解説】

こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。

NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。

「なんとなく、子どもと目線が合いにくい気がする」

「絵本を読んでいるときの目の動きが、少しぎこちないかも?」

子育ての中で感じる、そんな“ささいな違和感”。

「まだ小さいから」「そのうちできるようになる」と自分に言い聞かせつつも、心のどこかで不安を感じているお母さん、お父さんは少なくありません。

もちろん、子どもの発達には大きな個人差があります。しかし、中にはその違和感が、発達障害や学習障害LD)のサインであるケースも存在します。

実は、子どもの「目の動き」は、脳の発達と深くリンクしています。

「読み書きが苦手」「集中力がない」と誤解されがちな行動の裏には、実は視力(見え方)ではなく、**「視機能(目の使い方)」**の問題が隠れていることがあるのです。

今日は、子どもの視線からわかる“発達の気づき”と、家庭でできる具体的なサポート方法「ビジョントレーニング」について、実際の症例データも交えながら詳しく解説していきます。


1. 「やる気がない」の裏にある本当の原因

「ふりがなを振っても一文字ずつしか読めない」

「カタカナは読めるのに、書くのが極端に苦手」

小学校に入学して授業が始まると、こうした悩みを持つ親御さんが増えてきます。

先生からは「もっと集中しましょう」「家で練習させてください」と言われ、子ども自身も一生懸命やっているのにできない……。その結果、「自分はダメなんだ」と自信を失ってしまう。これは非常に辛い悪循環です。

まず最初にお伝えしたいのは、これは決して「努力不足」ではないということです。

脳の情報処理の仕方や、「目の使い方」に特性があることで、文字の読み書きにつまずいている可能性があるのです。

小学2年生・A君のケース

ここで、ある男の子の事例をご紹介しましょう。

A君は小学2年生。通常の学級に通っており、学校の健康診断(視力検査など)では特に問題を指摘されていませんでした。しかし、授業が進むにつれて、読み書きの課題で深刻なつまずきが見られるようになりました。

  • 漢字にふりがなをつけても、一文字ずつたどるようにしか読めず、文全体の意味をつかめない。
  • カタカナを読むことはできるが、書こうとすると手が止まってしまう。
  • 教科書の行を読み飛ばしたり、同じ行を何度も読んでしまったりする。

「視力は良いはずなのに、なぜ?」

専門家による詳細なチェックを行った結果、A君の「認知特性」と「目の使い方」に、はっきりとした特徴があることが分かりました。

得意と苦手のデコボコ(認知プロフィール)

検査結果を見ると、A君には明確な「強み」と「弱み」がありました。

【強み(得意なこと)】

  • 視覚-運動協応:見て真似る、手を使って作業をするのが得意。
  • 全体と部分の把握力:絵や図を見て、全体像を理解する力が高い。
  • 短い指示の理解:シンプルに「これをして」と言われれば、すぐに対応できる。

【弱み(苦手なこと)】

  • 聴覚短期記憶:耳で聞いた情報を一時的に覚えておくのが苦手。
  • 複雑な指示の理解:話が長くなると混乱してしまう。
  • 順序づけ:手順を追って整理するのが苦手。

そして、学習のつまずきに直結していた最大の問題が、以下の「目の使い方」でした。

【視機能(目の使い方)の問題点】

  • 追従性眼球運動の拙劣さ:動くものを目で追ったり、文字の列を目で追う動きがスムーズでない。これが行の読み飛ばしや読み戻しの原因でした。
  • 行間ジャンプの失敗:ある行から次の行へ、視線をパッと移動させることがうまくできない。
  • 輻輳(ふくそう)不全:近くのものを見る時に、両目を内側に寄せる力が弱い。そのせいで文字が二重に見えてしまい、読むだけで激しく疲れてしまう。

A君にとって、教科書を読むことは、二重に見える文字を必死に追いかけ、迷子にならないように視線をコントロールし続けるという、過酷な作業だったのです。これでは内容を理解するどころではありません。

「集中力がない」のではなく、「見えにくさ」と戦っていたのです。


2. 目の使い方のトレーニング「ビジョントレーニング」とは?

「目の使い方が悪いなら、どうすればいいの?」

そこで有効なのが、**『ビジョントレーニング』です。

これは、単に視力(1.0や1.5といった数値)を良くするものではなく、「見る力(入力)」「脳での処理(情報処理)」「体への出力(アウトプット)」**という一連の流れをスムーズにするためのトレーニングです。

家庭でも遊び感覚で取り入れられるものが多く、以下の3つのポイントを重点的に鍛えます。

① 見る力を高める(眼球運動)

  • 追従性眼球運動:動くものを目でゆっくり追いかける力。文字をスムーズに追うために必要です。
  • 跳躍性眼球運動:ある一点から別の一点へ、視線を素早くジャンプさせる力。黒板とノートを交互に見たり、行を変えたりする時に使います。
  • 両眼のチームワーク:両目をバランスよく使い、対象物に焦点を合わせる力。

【トレーニング例】

親指を立てて顔の前で動かし、顔を動かさずに目だけで追う「指追い運動」など。

② 視覚的な認識力を高める(視空間認知)

  • 形や大きさを見分ける力。
  • 背景の中から必要な情報を見つけ出す力。
  • 形と意味を結びつける力。

【トレーニング例】

間違い探し、迷路、形合わせパズル、フラッシュカード(絵と文字をセットで覚える)など。

③ 目と体の連携を高める(視覚-運動協応)

  • 目で見た情報に合わせて、手や体を動かす力。
  • 文字を枠の中に収めて書く、ボールをキャッチする、ハサミを使うなどの動作に関わります。

【トレーニング例】

お手本を見ながら図形を描き写す、キャッチボール、塗り絵(枠からはみ出さないように塗る)など。


3. たった6週間で劇的変化!データで見るトレーニング効果

「でも、そんな簡単なトレーニングで本当に変わるの?」

そう思われるかもしれません。しかし、継続的なトレーニングの効果はデータとして明確に現れています。

先ほどのA君のようなケースで行われた、6週間のビジョントレーニングの経過データを見てみましょう。

数字が証明する「成長」

項目実施前2週間後4週間後6週間後
文字の認識60%75%85%95%
漢字の読み・書き40%55%70%85%
行間ジャンプ50%65%80%90%
目の動き55%70%80%90%

(※数値は課題達成率やスムーズさの指標)

いかがでしょうか。

開始前は半分程度しかできていなかった課題が、6週間後には9割近くできるようになっています。

特に注目すべきは**「行間ジャンプ」と「目の動き」の改善です。目が思い通りに動くようになったことで、結果として「文字の認識」や「漢字の読み書き」のスコアも連動して上がっています。

これは、「見るための土台」が整ったことで、学習能力が開花した**ことを示しています。


4. 発達障害への効果はあるのか?実際の改善事例

さらに気になるのは、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)といった発達障害を持つお子さんへの効果です。

もちろん、ビジョントレーニングは発達障害そのものを「治す」治療法ではありません。しかし、発達障害に伴う「生きづらさ」や「学習の困難」を軽減する手段として、非常に大きな可能性を持っています。

読み書き困難を持つ男の子の事例(半年間の追跡)

ある研究では、読み書きに著しい困難を持つ小学2年生の男の子(発達特性あり)に対し、彼の「得意(見て真似る力)」を活かした個別支援とビジョントレーニングを行いました。

1回90分、計20回のトレーニングを約6ヶ月かけて行った結果は、驚くべきものでした。

項目指導前指導後
カタカナ書き取り0%80%
漢字読み取り16%95%
音読(400字)測定不能(諦め)262秒(完読)

指導前は、400字の文章を読むことすら苦痛で途中で諦めてしまっていた子が、半年後には最後まで読み切れるようになり、漢字の読み書きもほぼマスターしました。

なぜここまで変われたのか?

この変化の理由は、単に「読むスピードが上がった」だけではありません。

目と脳の連携がスムーズになったことで、文字を一文字ずつの「点」ではなく、意味のある「線(文)」として捉えられるようになったのです。

意味が分かれば、読むことが楽しくなります。

「読めた!」「書けた!」という成功体験は、失いかけていた自信を取り戻させ、学習への意欲を劇的に向上させました。

家庭ですぐできる!5つの実践テクニック

研究でも推奨されている、家庭や学校で取り入れやすい具体的な工夫をご紹介します。

  1. カード化
    ひらがなや漢字を、関連するイラストと一緒にカードにします。「形」と「意味」をセットで視覚的に覚えることで、定着しやすくなります。
  2. 五十音マップの掲示
    部屋の壁に五十音表を貼り、いつでも全体を見渡せるようにします。文字の位置関係を空間的に覚える助けになります。
  3. 短い指示と即時フィードバック
    「これやって、あれやって」と重ねず、「まずはこれを見て」と一つずつ指示を出します。できたらその場ですぐに褒めることで、達成感を積み上げます。
  4. 視線トレーニング(眼球運動)
    親御さんがペンや指を動かし、お子さんが顔を動かさずに目だけで追う遊びを取り入れます。1日数分でも、読みのスムーズさが変わってきます。
  5. 音読ルーティン
    いきなり一人で読ませず、まずは親御さんが読んで聞かせたり、一緒に声を合わせて読んだり(並行読)してから、一人で読むようにします。リズムをつかむことで読みやすくなります。

本日のまとめ

今日は、「子どもの目線の違和感」をテーマに、視機能と発達の関係についてお話ししました。

最後に、大切なポイントを振り返りましょう。

1. 「見えにくさ」が隠れているかもしれない

読み書きが苦手、集中力がない、目線が合わない。その背景には、視力ではなく「目の使い方」の問題が隠れていることがあります。これは本人の努力不足ではありません。「見え方の違い」に気づいてあげることが、支援の第一歩です。

2. ビジョントレーニングで「土台」を作る

見る力、目の動き、目と体の連携を鍛えるビジョントレーニングは、学習の土台を作ります。家庭で遊び感覚で取り入れられる方法も多く、継続することで確実な変化が期待できます。

3. 「できた!」の経験が子どもを伸ばす

発達障害の特性があっても、適切なトレーニングと環境調整を行えば、読み書きの能力は大きく伸びます。できないことを叱るのではなく、学びやすい環境を整え、小さな成功体験を積み重ねさせてあげてください。

もし、お子さんの目の動きや学習の様子に「あれ?」と思うことがあれば、一度専門機関(眼科や発達支援センターなど)に相談してみるのも良いでしょう。

「見る力」を整えることは、単に勉強ができるようになるだけでなく、お子さんが世界をよりクリアに、安心して捉えられるようになるための、大切なプレゼントです。

焦らず、比べず、お子さんのペースで。

今日の気づきが、未来の笑顔につながることを願っています。