こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。
NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。
妊娠が分かったとき、あるいは将来の子どもについて考えるとき。
「自分もパートナーも健康だし、家族に大きな病気の人はいないから、生まれてくる赤ちゃんも問題はないだろう」
そんなふうに、漠然とした安心感を抱いてはいませんか?
もちろん、健康に自信があることは素晴らしいことです。
しかし実は、その**「安心感」の裏に、見落とされがちなリスクが隠れている**ことをご存知でしょうか。
たとえ両親が完璧に健康であっても、二人の遺伝子の“相性(組み合わせ)”によっては、赤ちゃんが深刻な遺伝的疾患を持って生まれてくる可能性があるのです。
今回は、健康なカップルにも平等に起こりうる「遺伝子の組み合わせによるリスク」について、医学的な根拠をもとに、最新の情報を交えながら詳しく解説していきます。
「知らなかった」で後悔しないために、ぜひ最後までお読みください。
「先生、両親が健康で、親戚にも病歴がなければ、遺伝的な病気のリスクは限りなくゼロに近いですよね?」
診察室で、このようなご質問をいただくことは珍しくありません。
しかし、答えは**「No」**です。
実際には、ご両親とも健康で、家系に遺伝病の歴史が全くないにもかかわらず、赤ちゃんに特定の遺伝性疾患が見つかるケースは、決して珍しいことではありません。
あるご家族の例をお話ししましょう。
奥様は妊娠前も妊娠中も健康そのもの。栄養管理も万全で、ストレスケアもしっかりされていました。旦那様も体力に自信があり、健康診断はいつもオールA。お互いの家族にも、遺伝性の病気の話は一切ありませんでした。
しかし、生まれてきた赤ちゃんには、重い遺伝的な疾患が見つかりました。
なぜでしょうか? お母さんの過ごし方が悪かったのでしょうか?
いいえ、違います。
原因は、ご夫婦の**「遺伝子の組み合わせ」**にありました。
ここで、衝撃的かもしれませんが、非常に重要な医学的事実をお伝えします。
私たち人間は誰でも、平均して5〜10個程度の「重い病気の原因になりうる遺伝子のエラー(変異)」を持って生まれています。
(参考:Kuhn et al., 2009, Wellcome Sanger Instituteによる大規模解析)
さらに、日本人を対象としたデータでも、**「40人に1人」**は、自分自身に症状はないけれど、特定の「病気のもとになる遺伝子」を持っているといわれています。
これは見た目の健康状態や、体力のあるなしとは全く関係がありません。進化の過程で生じた、人間なら誰しもが持っている“個性”のようなものです。
通常、このエラーを持っていても病気にはなりません(理由は後述します)。
しかし、パートナーも偶然「同じ場所」に遺伝子のエラーを持っていた場合、話は変わります。
このとき、生まれてくる赤ちゃんは、両親からそのエラーを1つずつ受け継いでしまう可能性があります。
その確率は25%。つまり、4人に1人です。
決して低い確率ではありません。
「健康だから安心」という思い込みが、この隠れたリスクを見えなくさせてしまうのです。
「親に症状がなくて、子どもだけに出るなんて、狐につままれたようだ」
そう感じるのも無理はありません。しかし、これには私たちの体の設計図である「遺伝子」の基本的なルールが関係しています。
私たちの遺伝子(常染色体)は、父親由来と母親由来のものがペアになり、2つで1組として存在しています。
多くの遺伝性の病気(常染色体劣性遺伝疾患)の場合、2つのうちどちらか1つでも正常な遺伝子があれば、機能は保たれ、病気は発症しません。
この「エラーを持っているけれど、もう片方が正常だから症状が出ない人」のことを、医学的に**「保因者(キャリア)」**と呼びます。
先ほどお話しした通り、私たちは誰もが何らかの遺伝子の保因者なのです。
問題が起きるのは、保因者同士がカップルになった時です。
ご夫婦がたまたま同じ遺伝子のエラーを持っていると、以下のパターンが生まれます。
この「4」のパターンになる確率が25%なのです。
ご両親にとっては「寝耳に水」のような出来事ですが、遺伝子のメカニズムから見れば、自然に起こりうる現象であり、決して誰かのせいではありません。
では、この遺伝的メカニズムによって引き起こされる病気には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
そして、なぜ「事前に知ること」がそれほど重要なのでしょうか。
日本には、生後数日以内の全ての赤ちゃんに行われる「新生児マススクリーニング検査」があります。
これはフェニルケトン尿症などの「代謝異常」や「内分泌異常」を早期に見つけ、食事療法などで障害を防ぐための素晴らしいシステムです。
しかし、この検査にも限界があります。
血液中のタンパク質などに変化が出る病気は見つけられますが、「遺伝子そのもの」に原因がある、神経や筋肉の難病の多くは見つけることができません。
進行性の筋力低下を特徴とする難病です。
かつて治療法が未整備だった時代(1970年以前)は、平均寿命が19〜20歳ほどでした。
しかし現在では、人工呼吸器の導入や心臓・栄養管理などの多面的なケアにより、30代〜40代まで人生を歩まれる方が増えています。
「早期発見」し、適切なケアを早期から開始できるかどうかが、患者さんのQOL(生活の質)と寿命を大きく左右するのです。
特に注目していただきたいのが、**「脊髄性筋萎縮症(SMA)」**という病気です。
これは、筋肉を動かす神経がうまく働かなくなり、重症の場合は生後まもなく自発呼吸ができなくなることもある深刻な疾患です。
しかし今、この病気には**「遺伝子治療薬(製品名:ゾルゲンスマ)」**という画期的な治療法が存在します。
これは、AAV9というウイルスの殻を使って、足りていない正常な遺伝子(SMN1遺伝子)を体の中に届けるという、夢のような治療薬です。
発症して神経が失われてしまってからでは、効果は限定的になります。
つまり、「症状が出る前(あるいは直後)」に遺伝子検査でリスクを知り、即座に治療を行えば、障害の発症そのものを防いだり、進行を劇的に抑えたりできるのです。
「知ること」が、文字通り赤ちゃんの命と未来を救う時代になっているのです。
他にも、ゴーシェ病やポンペ病など、早期治療が鍵となる遺伝性疾患は数多く存在します。
「怖い病気の話ばかりで不安になってしまった」
そう思われるかもしれません。しかし、私が伝えたいのは恐怖ではなく、**「対策がある」**という希望です。
ご両親が特定の遺伝子の「保因者(キャリア)」であるかどうかを、事前に調べる検査です。
「親の検査だから、赤ちゃんには関係ないのでは?」
これはよくある誤解です。この検査は、未来の赤ちゃんのリスクを予測し、守るための検査です。
もし検査の結果、ご夫婦ともに同じ因子の保因者であることが分かった場合、以下のような選択肢を検討する「時間」が生まれます。
何も知らずに出産を迎え、発症してから慌てて原因を探すのと、あらかじめリスクを知って万全の体制で迎え入れるのとでは、赤ちゃんの予後は全く異なります。
アメリカやヨーロッパでは、このキャリアスクリーニング検査は「プレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)」の一環として、非常に一般的です。
ACOG(米国産婦人科学会)なども、希望する全てのカップルに情報提供すべきと推奨しています。
一方、日本ではまだ認知度が低く、「遺伝子検査=怖いもの」というイメージが先行しているのが現状です。
しかし、検査は決して「不安になるためのもの」ではありません。
**「見えないリスクを見える化し、選べる未来の選択肢を増やすためのもの」**なのです。
今日は、健康な夫婦にも潜む「遺伝的リスク」についてお話ししました。
最後に、大切なポイントを振り返りましょう。
1. 「健康だから大丈夫」は通用しない
私たちは誰でも、平均して5〜10個の重篤な疾患に関わる遺伝子変異を持っています。これは生物としての宿命であり、避けることはできません。
2. 夫婦の「組み合わせ」がカギ
パートナーと偶然同じ変異を持っていた場合、25%の確率でお子さんが発症します。これは誰にでも起こりうる確率です。
3. 早期発見が命を救う時代へ
SMA(脊髄性筋萎縮症)の特効薬「ゾルゲンスマ」のように、発症前に治療できれば未来が変わる病気があります。知ることは、治療へのパスポートです。
4. 検査は「愛」の形
キャリアスクリーニング検査は、痛みもなく簡単に受けられます。妊娠前、あるいは妊娠初期にリスクを知ることで、赤ちゃんを迎えるための最善の準備が可能になります。
遺伝子のことは難しく、目を背けたくなるテーマかもしれません。
しかし、正しい知識を持つことは、あなたと、あなたの愛する赤ちゃんの笑顔を守る最強の盾になります。
「もっと早く知っておけばよかった」と後悔する人が一人でも減るように。
もしご興味があれば、専門のカウンセリングを受けてみることをお勧めします。
ヒロクリニックでも、専門医がデータに基づいた丁寧な説明を行っています。あなたの不安を、安心に変えるお手伝いをさせてください。
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