ムコ多糖症II型はどんな病気?
質問者
“ムコ多糖症II型”について教えていただきたいんですが、そもそもどんな病気なんでしょうか?
先生
正式には“ムコ多糖症II型”ですが、一般的には“ハンター症候群”と呼ばれることが多いです。医療現場や患者家族の間でも、“ハンター症候群”の呼び名が使われることがあります。
生まれてすぐは健康に見えるので見逃されやすいのですが、2〜4歳ごろになると発達の遅れや身体の異常が少しずつ現れます。『言葉がなかなか出てこない』『よく動くけどどこか不器用』といったサインが見え始め、少しずつ症状がでてきます。
質問者
なるほど…。じゃあ、症状は発達だけじゃなくて体のいろんなところに影響するんですか?「だんだん症状が出てくるんですね」
先生
主な症状に知的障害や言葉の遅れ、骨や関節の硬さ、心臓・呼吸器のトラブル、さらに独特な顔貌の変化が出てきます。症状が多方面にわたるため、診断までに時間がかかることも少なくありません。
ムコ多糖症の中でもII型は比較的多く、グラフを見ていただいて分かる様に日本人においてもムコ多糖症全体の半分以上がII型の患者さんだと報告されています。希少な病気だと思われますが、確かに日本の中でも患者さんが暮らしている病気なんです。

| 項目 | 内容 |
| 病名 | ムコ多糖症II型(ハンター症候群) |
| 発症時期 | 2〜4歳ごろから症状が出始める |
| 主な症状 | 発達・骨関節・心肺・耳鼻・顔貌など全身 |
| 日本での頻度 | ムコ多糖症全体の中では比較的多い |
質問者
一つの臓器だけでなく、全身に影響が出るんですね。
先生
その通りです。だから“全身性の病気”と呼ばれています。
質問者
先生、この病気は遺伝するんですか?
先生
ムコ多糖症は“遺伝子の変化”が原因で起こる病気です。
まず、イラストをご覧ください。
人間の体は細胞でできています。その細胞の核の中にはDNAという長い物質があり、そこに“遺伝子”が存在します。DNAは普段は糸のように広がっていますが、細胞が分裂するときにギュッと凝縮して“染色体”の形になります。
先生
はい。ムコ多糖症という病気は、この染色体にある“酵素をつくる遺伝子”に変化が生じて起こります。体の中では古い物質を分解して処理するために酵素が働いていますが、遺伝子に異常があるとその酵素が作れなくなり、分解できなくなった“ムコ多糖”が体の中に蓄積してしまうんです。その結果、肝臓や脾臓が腫れたり、骨や関節が硬くなったり、心臓や呼吸器にも影響が出る。つまり、根本的な原因は“酵素を作る遺伝子の異常”なんです。
質問者
酵素が作れなくなることが根本的な原因なんですね。でも、全部のムコ多糖症が同じ仕組みなんですか?
先生
実はムコ多糖症にもいくつか型があります。Ⅱ型、つまりハンター症候群は“X染色体”に関わるため“X連鎖性遺伝”という仕組みで伝わり、男女で発症の仕方が変わります。
男の子はX染色体を1本しか持っていません。そのたった1本に異常があると代わりがないので、必ず症状が現れます。一方、女の子はX染色体を2本持っているので、片方に異常があってももう片方が正常なら補うことができ、基本的には発症しません。ただし、キャリアとして次の世代に遺伝子を伝える可能性があるんです。
質問者
じゃあ、Ⅱ型以外のムコ多糖症はどうなんですか?
先生
Ⅱ型以外のⅠ型やⅢ型などは“常染色体劣性遺伝”という形になります。

発見が難しい理由
【質問者】
この病気って、やっぱり発見が難しいんですか?
【先生】
実は、ムコ多糖症II型は“非常に見逃されやすい病気”なんです。
その理由は初期の症状がとても“小児ではよくある症状”に見えるからなんです。たとえば、お腹の張り、鼻からのミルク逆流、繰り返す中耳炎や耳だれ、体の硬さや関節の可動域の制限、度重なるヘルニア手術経験、特徴的な顔つきや手の形など。
こうした症状はどれも、乳児や小児では“珍しいものではない”んです。『お腹が張りやすいのは体質かな』『中耳炎は小さい子に多いから』と、そんなふうに考えられてしまうんです。
実際に、日本の小児科医でも『ムコ多糖症II型だとすぐに気づける医師は少ない』とされています。診断が平均で数年遅れるケースもあるほどです。
【質問者】
なるほど…確かに、赤ちゃんや小さい子って、そういうトラブルってよくありますもんね。
【先生】
そうです。だからこそ、“ひとつの症状だけで判断するのは難しい”んです。
ところが、もし“複数の症状が同時に出ている”なら、注意が必要です。たとえば『耳のトラブルが多くて』『しかも関節が硬く』『さらにヘルニアの手術を何度も受けている』そういうときは、ムコ多糖症を疑うヒントになるんです。
【質問者】
なるほど…。でも、そんな症状を親が見抜くのは大変じゃないですか?
【先生】
実際には“親御さんの直感”がとても大切です。『普通と違う気がする』『何か引っかかる』そんな感覚はとても大切で、実際に診断のきっかけになることも少なくありません。ムコ多糖症II型の診断は、家族の声から始まるケースが多いんです。
早く診断がつけば、治療にいち早くつなげることができますし、医療費助成や福祉の支援制度を利用することもできます。逆に診断が遅れると、症状が進行してから治療を始めることになり、できることが限られてしまいます。
【質問者】
海外ではどうなんですか?日本より早く見つけられる仕組みがあるんでしょうか?
【先生】
はい。実は海外では、すでに“新生児スクリーニング”という仕組みの中でムコ多糖症を検査に組み込んでいる国もあります。日本でも一部の地域で導入が進んでいて、血液の一滴から将来の病気を早期に見つける動きが広がりつつあるんです。
【質問者】
先生、ムコ多糖症って遺伝の病気だということは分かりましたけど、事前に調べる方法はあるんですか?
【先生】
はい、あります。実はムコ多糖症は、ヒロクリニックが提供している“228種類の劣性遺伝子検査”の中でも調べることができます。
ハンター症候群のムコ多糖症Ⅱ型だけでなく、サンフィリッポ症候群のⅢ型、ライソゾーム病のⅨ型 も対象になっています。
【質問者】
それぞれどういう遺伝子が関係しているんですか?
【先生】
Ⅱ型はX染色体上の IDS遺伝子、Ⅲ型は SGSH・NAGLU・HGSNAT・GNS など複数の遺伝子、Ⅸ型は HYAL1遺伝子 の変化によって起こることが分かっています。
| 型(タイプ) | 原因となる主な遺伝子 | 特徴 |
| Ⅱ型(ハンター症候群) | IDS(X染色体上) | X連鎖性。主に男児に発症 |
| Ⅲ型(サンフィリッポ症候群) | SGSH、NAGLU、HGScNAT、GNS | 複数の遺伝子が関与。中枢神経症状が主体 |
| Ⅸ型(ライソゾーム病) | HYAL1 | ライソゾームに蓄積する酵素の欠損。関節・骨格に症状 |
この検査は、国際的にも非常に重要視されていて、米国産科婦人科学会(ACOG)や米国人類遺伝学会(ASHG)でも“広く情報提供すべき”と推奨されているものなんです。
【質問者】
なるほど…。検査って難しいんでしょうか?
【先生】
検査の方法も簡単で、お父さんとお母さんそれぞれの口腔粘膜、つまり頬の内側をこすって細胞を採取し、その遺伝子を調べます。
こうした検査を行うことで、“将来のリスクを事前に知ることができる”というのはとても大きな意味があります。病気が発症してから気づくのではなく、妊娠前や妊娠早期に知ることで、準備や医療の選択肢を広げることができるんです。
治療法について
【質問者】
この病気って、治る可能性はあるんですか?
【先生】
残念ながら、ムコ多糖症II型は“完治が難しい進行性の難病”です。
ただし、だからといって諦めてはいけません。
医療はこの数十年で大きく進歩してきました。治せなくても、病気の進行を抑える治療法や、生活の質を高める療法が確実に増えているんです。今日はその代表的な治療を3つ、詳しくご紹介します。
【質問者】
具体的にどんな治療法があるんでしょうか?
【先生】
まずは基本となる治療、”酵素補充療法”です。
これは、不足している酵素を定期的に点滴で体に入れる方法です。週に1回などの頻度で通院し、酵素を注入していきます。これにより、体に蓄積しているムコ多糖を少しずつ分解できるようになり、臓器の負担を和らげる効果が期待されます。
【質問者】
点滴で酵素を補うんですね。ほかの治療はあるんですか?
【先生】
次に、”造血幹細胞移植”です。
これはドナーから骨髄や臍帯血の幹細胞を移植することで、患者さんの体の中で“新しい酵素を作れる細胞”を増やしていく方法です。体全体に効果が期待されますが、脳への影響はまだ限定的とされています。
また、移植には拒絶反応や重い合併症のリスクも伴いますので、実施には非常に慎重な判断が必要です。適応できる患者さんは限られていますが、治療の選択肢のひとつとして存在しています。
【質問者】
確かに移植と聞くとリスクがありそうですね。では、最近の新しい治療にはどんなものがあるんですか?
【先生】
そして最近注目されているのが”脳室内酵素補充療法”です。
これはイラストのように頭蓋内の“脳室”にカテーテルを通し、酵素を直接注入する治療です。これまで脳に届きにくかった酵素をダイレクトに届けられるため、知的障害や行動障害の進行抑制が大きく期待されています。
日本でも臨床研究が進み、実際に治療を受けられる医療機関が増えつつあります。これまで“脳の症状は抑えられない”とされていた時代から、大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。
【質問者】
完治は難しくても、今の医療では“進行を抑えて、より良く生きる”ことができるってことなんですね。
なんだか希望が持てました。
【先生】
はい。大切なのは、“できるだけ早い段階でこの病気に気づくこと”です。
そして、一歩でも早く、適切な医療と支援につなげてあげること。それが、お子さんの未来を大きく変える可能性につながります。
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