顕微授精と染色体異常の真実 – 不妊治療専門医が語るPGT-Aの重要性【YouTube解説】

   

〈質問者〉
「ひろし先生、顕微授精って…針で精子を卵子に“打ち込む”って聞いてちょっと怖いんですけど…。そんな物理的に手を加えて、赤ちゃんに染色体の異常とか起きたりしないんですか?」

〈先生〉
「ご心配、ごもっともです。でもまず安心してほしいのは
顕微授精そのものが“染色体異常を起こす”という科学的根拠はありません(もし根拠があれば変更)

背景説明:顕微授精とは

  • ICSI(Intracytoplasmic Sperm Injection)は、1個の精子を直接卵子に注入して受精を促す方法。
  • 主に重度の男性不妊(乏精子症、無精子症など)に対して行われます。

〈質問〉
ネットで“顕微授精の赤ちゃんは異常が多い”って見るのは…?

〈先生〉
それもよくある誤解なんです。実際には、顕微授精を選ぶカップルの背景に、染色体異常のリスクを持っている人が多いため、そう“見える”んですね。


🧬 染色体異常との関係

〈質問〉
実際、“顕微授精の子は異常が多い”って言われる理由ってあるんですか?

❗混同されやすい点:

  • 一部の研究で、ICSI児の染色体異常率がやや高いと報告されたことがあります。
  • しかしそれは「ICSIという技術自体が異常を起こした」という意味ではなく、
    ➤ 実際には不妊の原因(特に男性因子)に染色体異常が関係していることが多く、
    ➤ その背景がICSI後の児に反映されている可能性が高いのです。

〈質問者〉
じゃあ、世界的にも“ICSIそのものが危ない”ってわけではないんですね?

✅ 科学的コンセンサス:

研究内容結論
大規模追跡調査(例:欧州ART研究)ICSI児の染色体異常率は自然妊娠と大差なし。差がある場合も、男性不妊背景が要因と結論づけられている。
日本産婦人科学会の見解顕微授精そのものが染色体異常を直接引き起こすわけではない。
ASRM(米国生殖医学会)「ICSIによる遺伝的リスクは、適応となった不妊の背景疾患によるものであることが多い」

👶 染色体異常リスクを下げるためには?

〈質問〉

では染色体異常のリスクを下げるにはどうすればいいのですか?

方法説明
PGT-A(着床前染色体異数性検査)ICSI後の胚盤胞に対して染色体検査を行い、正常胚を選んで移植
父親の遺伝子検査(例:Y染色体微小欠失、核型)男性不妊の背景にある遺伝的要因を事前に調べる
母体年齢への配慮卵子の加齢により染色体異常率は上昇するため、年齢因子も考慮する必要あり


つまり、“針で刺すから壊れる”というイメージは、実際の医療現場とはだいぶズレがあります。

質問者
そもそも、普通の体外受精と顕微授精って何が違うんですか?

ひろし先生
いい質問ですね。

🧬 顕微授精(ICSI)とは

顕微授精とは、たった1個の精子を、細いガラス針で直接卵子の中に注入することで受精させる方法です。体外受精の一種ですが、自然受精とは異なり「受精を人為的に確実に起こさせる」技術です。


✅ 顕微授精の目的

項目内容
主な適応男性不妊(重度の乏精子症、無精子症、精子運動不良など)体外受精で受精障害があった場合
目的通常の受精が困難な場合に、確実に1対1で受精を成立させる
開始時期1992年にベルギーで初めて成功して以降、世界中で一般的な方法となった

🔬 手技の流れ(簡略化)

〈質問者〉

顕微授精のながれですか?

  1. 採卵(卵巣刺激後に卵子を取り出す)
  2. 精子の準備(通常は精子を洗浄・選別。TESEなど外科的採取もあり)
  3. 顕微鏡下で卵子の透明帯を固定
  4. 1本の精子を極細のガラス針で卵子内へ注入
  5. 受精が確認されれば、数日後に胚移植(ET)または凍結保存

🔹 通常の体外受精(IVF)では精子と卵子を同じ皿に置いて自然に受精させますが、ICSIでは直接注入します。


📊 顕微授精の成績(一般的目安)

項目成功率(目安)
受精率約70〜80%程度
胚発生率受精卵のうち50〜70%が胚盤胞に成長
妊娠率(胚移植あたり)約20〜40%(年齢により大きく異なる)

【質問】

顕微授精のメリットは何ですか?

✅ メリット

メリット内容
男性不妊への対応極端に少ない・運動しない精子でも使える
受精障害を回避IVFで受精しなかった場合の対策に
精巣内精子(TESE)にも対応可射精できない場合や無精子症でも治療が可能

【質問者】

では逆にデメリット…はありますか?

⚠️ デメリット・注意点

項目内容
技術的に高度高度な操作・機器・熟練技術が必要
費用が高い通常のIVFよりも高額(1回数十万円)
染色体異常の懸念ICSI自体が異常を起こすのではなく、男性不妊の原因に染色体異常があることが多い(Y染色体微小欠失など)
精子の選別が限られる「見た目」で選ぶしかなく、自然選択のプロセスがないため、質の担保には限界も

〈質問者〉
メリットも多いけど、やっぱり費用とか、技術の難しさもあるんですね。


🔍 どんな人に向いている?

〈質問者〉

顕微授精はどんなかたに向いているでしょうか?

  • 精子が少ない・運動しない
  • 以前に体外受精で受精しなかった
  • 精子を手術で採取(TESE)している
  • 高齢・卵子の質が気になる方で、より確実な受精を希望

異常率が高くなる?

〈質問者
「でも、針で刺すって聞くと…“卵子が壊れちゃうんじゃ?”って心配になります。」

〈先生
「確かに、針を卵子に刺したら壊れちゃいそうなイメージはありますよね。
ただ実際は、卵子の細胞膜を丁寧に穿刺する極めて繊細な技術で、安全性は確立されています。
物理的な圧力で染色体が“バラバラになる”ようなことは、基本的にはありません。」

✅ **顕微授精(ICSI)では、精子の「核」だけでなく、精子全体(頭部+尾部)をそのまま卵子に注入します。


🔍 詳細な説明

👇 ICSIで卵子に注入される精子の構造:

部位含まれる内容ICSIでの処理
精子頭部DNA(父方ゲノム)、アクロソームそのまま注入される
中片部ミトコンドリア(鞭毛運動用)✅ 一緒に入るが、発生にほぼ関与しない
尾部(鞭毛)運動のための構造✅ そのまま注入されるが、後で分解される

〈質問〉

顕微授精って“精子の核”だけじゃなくて、尾っぽとか、ミトコンドリアも精子まるごと全部入れちゃうんですか?

💡 核だけを注入しない理由:

  • 精子の「核(DNA)」だけを取り出して注入する技術は基本的に行われていません
  • 技術的にも困難であり、精子頭部にある「プロタミンとヒストンの置換」「脱凝縮」などの生理プロセスが必要なため、構造をそのまま利用するのが自然です。

✅ 卵子の中で何が起こるか?

〈質問者〉
精子が入ったあとの卵子の中では、どんな反応が起きるんですか

  1. 精子が注入される
  2. 卵子内の酵素により精子尾部・ミトコンドリアは分解される
  3. 精子の核が脱凝縮され、卵子の核と融合(前核形成)
  4. 受精卵(2前核期)が形成される

❗ 補足:ミトコンドリアはどうなる?

〈質問者〉
精子のミトコンドリアってどうなるんですか?

  • 精子のミトコンドリア(父由来)は卵子内で分解され、子には受け継がれません
  • 人のミトコンドリアDNAは母系遺伝のみで、これは精子注入後に精子ミトコンドリアが選択的に消去されるためです。

〈質問者〉

卵子ってそんなに大きいんですね。どのくらい違うんですか?

対象大きさの目安
ヒトの赤血球約 7〜8 μm
ヒト精子頭部:約 5 μm(尾部を含めても 50〜60μm程度)
ヒト卵子約 120 μm(精子の約20倍)

質問者
「じゃあ、なんで“顕微受精は異常が多い”みたいに言われることがあるんでしょうか?」