「NIPT(新型出生前診断)は、13番・18番・21番染色体だけ調べれば十分」
「それ以外の検査は推奨しない」
これまで、日本の産婦人科学会や医学会認定施設では、このようなスタンスが長く貫かれてきました。しかし、その常識が大きく覆るかもしれないニュースが飛び込んできました。
2025年度から、日本医学会が認証する全国の大学病院など14施設で、「全染色体」を対象としたNIPTの臨床研究が始まるというのです。
これは、日本の出生前診断のあり方が変わる大きな転換点と言えます。
今回は、ヒロクリニック・岡弘医師が、このニュースの裏側にある医学的な意味と、専門医だからこそ指摘できる「検査の本当の価値」について解説します。
先日、毎日新聞に掲載された記事に、多くの医療関係者が目を疑いました。
『NIPT、全染色体検査へ拡大。2025年度から臨床研究開始』
これまで日本医学会や産婦人科学会は、「基本の3つの染色体(13, 18, 21トリソミー)以外を調べることは、臨床的な意義が薄く、妊婦さんの混乱を招く」として、検査項目を厳しく制限してきました。認定施設で検査を受ける場合、性別すら教えてもらえないのが通例でした。
それが一転、全染色体領域への拡大を検討し始めたのです。
岡医師は、このニュースに対して「驚きとともに、ようやく時代が追いついてきたという感慨がある」と語ります。
岡医師が特に注目したのは、このニュースを報じたのが「毎日新聞」だったという点です。
「実は、毎日新聞社さんは伝統的にNIPTに対して慎重、あるいはネガティブなスタンスを取ることが多いメディアです。私たちのような認可外施設に対しても厳しい目を向けがちな彼らが、今回のような『検査拡大』の動きをニュースとして取り上げたこと自体が、時代の変化を象徴しています」
これまで「やる必要がない」「無駄だ」と切り捨てられていた検査が、公式に「研究する価値がある」と認められた。これは、日本の周産期医療において画期的な出来事です。
「全染色体検査ができるようになるなら、全部調べられて安心!」
そう思う方も多いでしょう。しかし、岡医師はここで冷静な医学的視点を提示します。
「単に『全染色体の数の異常(トリソミー)』を調べるだけなら、実はあまり意味がありません」
どういうことでしょうか?
人間の染色体は1番から22番までの常染色体と、性染色体(X, Y)で構成されています。
現在主流の検査対象である「21番(ダウン症)」「18番」「13番」は、染色体が3本になっても(トリソミーになっても)、赤ちゃんがお腹の中で成長し、生まれてこられる可能性が高い染色体です。
しかし、他の染色体、例えば「1番染色体」や「2番染色体」などが3本になってしまう(フル・トリソミー)ような重篤な異常が起きた場合、その受精卵は着床しなかったり、ごく初期に流産してしまったりすることがほとんどです。
つまり、「生まれてくる可能性が極めて低い染色体の異常」を必死に調べても、臨床的なメリット(事前に知って準備する意義)は少ないのです。
岡医師は、「もし今回の研究が、単に『1番から22番までの数が3本あるかどうか』だけを見るのであれば、それは研究としての価値は低いと言わざるを得ない」と指摘します。
では、全染色体を調べることに意味はないのでしょうか?
いいえ、そうではありません。全染色体を調べることの真価は、**「微小欠失(びしょうけっしつ)」や「部分重複(ぶぶんちょうふく)」**といった、より細かい異常を見つけることにあります。
染色体そのものが丸ごと1本増えるのではなく、**「染色体の一部が欠けている(1本しかない)」とか「一部だけ増えている(3本ある)」**というケースがあります。
これを「部分欠失」や「部分トリソミー」と呼びます。
この場合、致命的なダメージではないため、赤ちゃんは流産せずにお腹の中で育ち、生まれてきます。しかし、染色体の一部が欠損していることで、生まれつきの心疾患や、発達障害、知的障害などを抱えることが多くあります。
代表的なものが、22番染色体の一部が欠ける「22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)」です。
「フル・トリソミー(3本ある状態)は生存できなくても、部分的な異常であれば生まれてくるケースがあります。そうした疾患を事前に見つけ、産後の治療や療育の準備につなげること。それこそが、全染色体検査を行う『本当の価値』です」(岡医師)
もし、大学病院などが始める研究が、こうした「微小欠失」や「構造異常」まで視野に入れたものであるならば、それは極めて有意義であり、日本の医療レベルを底上げする素晴らしい取り組みになると岡医師は期待を寄せます。
今回のニュースにある「全染色体への拡大」には、もう一つ重要な要素が含まれていると考えられます。
それは、「性染色体(X, Y)」の検査です。
これまで日本の認定施設では、男女の産み分けに繋がるという懸念から、性別に関わる性染色体の検査はタブーとされてきました。
しかし、性染色体の数に異常がある場合、以下のような疾患が生じます。
これらの疾患は、ダウン症などに比べると症状が軽度であったり、見た目では分からなかったりすることも多いですが、不妊治療が必要になるなど、人生設計に関わる重要な特徴を持っています。
これらも「生存可能」な疾患であるため、NIPTで事前に知ることは、親御さんの心構えや、将来のお子さんへの医学的サポートを考える上で非常に価値があります。
「全染色体へ拡大するということは、必然的にこの性染色体の異常(異数性)も調べることになるでしょう。これは、今まで『知らせない』という方針だった日本の医療界において、大きな進歩です」
今回のニュースは「新しい試み」として報じられましたが、実はヒロクリニックのような専門施設(認可外施設)にとっては、**「何を今さら」**というのが正直な感想でもあります。
なぜなら、ヒロクリニックでは何年も前から、全染色体検査、微小欠失検査、性染色体検査を提供し続けてきたからです。
「妊婦さんが知りたい情報はすべて提供する」「海外のスタンダードに合わせる」という方針のもと、すでに膨大な数の検査実績とデータを持っています。
岡医師は動画の最後で、こう呼びかけています。
「もし、大学病院の研究チームが、微小欠失や部分重複といった『本当に意味のある領域』まで踏み込んで研究されるのであれば、私たちはその知見を共有し、協力することを惜しみません」
ヒロクリニックが提携している東京衛生検査所には、すでに日本人のNIPTに関する膨大なビッグデータが蓄積されています。これらをアカデミア(大学などの研究機関)と共有することで、日本の出生前診断の精度はさらに向上し、より多くの妊婦さんに安心を届けられるはずです。
これまでは、「認定施設では限られた検査しか受けられない」「詳しく知りたければ認可外に行くしかない」という、ある種のねじれ構造が日本のNIPTにはありました。
しかし、今回の「全染色体検査への拡大」というニュースは、その垣根が少しずつ取り払われ、妊婦さんが**「知る権利」**をより行使しやすい環境へと変わっていく兆しと言えるでしょう。
重要なのは、「検査項目が増えること」そのものではなく、**「その検査で何が分かり、どう役立つのか」**を正しく理解することです。
こうした医学的な本質を知った上で、検査を受けるかどうか、どの施設で受けるかを選択することが大切です。
医療は日々進歩しています。古い常識にとらわれず、最新のデータと正しい知識を持って、赤ちゃんと向き合う準備を進めていきましょう。
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