「放射線」はなぜ怖い?妊娠中のレントゲンや原発事故の影響を、医学とデータの視点で正しく読み解く【YouTube解説】

こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。

NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。

「放射線」

この言葉を聞いたとき、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか?

目に見えない恐怖、細胞を壊す危険なもの、あるいは原発事故の記憶……。

特に、お腹に新しい命を宿している妊婦さんや、これから妊娠を考えている方にとって、放射線の影響は非常にデリケートで不安なテーマだと思います。

「妊娠に気づかずレントゲンを撮ってしまった」

「医療検査の放射線は赤ちゃんに影響しないの?」

「過去の原発事故で、奇形児が増えたという噂は本当?」

ネット上には様々な情報が溢れていますが、極端な恐怖を煽るものや、逆に根拠なく安全だと言い切るものも少なくありません。

大切なのは、イメージで怖がることではなく、**「正体」を知り、「量」を把握し、「リスク」**を正しく見積もることです。

今日は、そもそも放射線とは何なのか、なぜ生き物に悪影響を与えるのか、そして妊娠中の検査や福島原発事故の実際のリスクについて、科学的な根拠と共にじっくりと解説していきます。


1. そもそも「放射線」と「放射能」は何が違う?

ニュースや病院でよく耳にする「放射線」と「放射能」。

この2つを同じ意味だと思っている方は意外と多いのですが、厳密には全く異なる言葉です。まずはこの基本から整理しましょう。

「飛んでくるエネルギー」と「出す能力」

わかりやすく例えるなら、「懐中電灯」と「光」の関係に似ています。

  • 放射線:懐中電灯から出ている**「光(エネルギー)」**そのもの。
  • 放射能:懐中電灯が光を出す**「能力」**のこと。
  • (ちなみに「放射性物質」は、懐中電灯そのものを指します)

医学的・物理学的に言うと、**放射線とは「エネルギーを持って空間を飛ぶ粒子や電磁波」**のことです。

一方、**放射能とは「放射線を出す力(能力)」**のことを指します。

「放射能が漏れる」というニュースは、「放射線を出す能力を持った物質(放射性物質)が外に出た」という意味になります。

放射線の種類と「イオン化」

では、放射線はどのように発生するのでしょうか?

すべての物質は「原子」からできていますが、中には状態が不安定な原子が存在します。この不安定な原子が、安定した状態になろうとして変化するときに、余分なエネルギーを外に放出します。これが放射線の正体です。

放射線にはいくつか種類があり、それぞれ性質が異なります。

  • 粒子線(α線、β線など)
    アルファ線やベータ線は、目に見えない極小の「粒」が飛んでいる状態です。これらは物質に衝突すると、その原子を弾き飛ばしたり、壊したりして「イオン化(電離)」という現象を引き起こします。透過力(突き抜ける力)は弱く、紙一枚や薄いアルミ板で止まるものもあります。
  • 電磁波(γ線、X線など)
    ガンマ線や、医療で使われるエックス線は、光の仲間である「波」です。非常に高いエネルギーを持っており、貫通力が強いのが特徴です。体を通り抜けて骨や臓器の様子を映し出すことができるのは、この貫通力を利用しているからです。

私たちは常に浴びている

「放射線=人工的に作られた危険なもの」と思っていませんか?

実は、私たちは生まれた瞬間から、もっと言えば人類が誕生するずっと前から、日常的に放射線を浴び続けています。

  • 宇宙から降り注ぐ「宇宙線」
  • 大地(岩石や土)に含まれる放射性物質からの放射線
  • 空気中に漂うラドンなどのガス
  • 食べ物(カリウム40など)に含まれる微量な放射性物質

これらを**「自然放射線」と呼びます。

世界平均で年間約2.4ミリシーベルトの自然放射線を浴びていますが、私たちは普通に健康に暮らしています。つまり、「放射線がある=直ちに危険」というわけではなく、「浴びる量が許容範囲内かどうか」**が重要なのです。


2. なぜ放射線は生き物に悪影響を与えるのか?

「放射線を浴びると体に悪い」というのは感覚的に知っていても、具体的に体の中で何が起きているのかを知る人は少ないかもしれません。

キーワードは、生命の設計図である**「DNA」**です。

細胞レベルで起きている破壊

私たちの体は約37兆個の細胞でできており、その一つひとつに遺伝情報であるDNAが入っています。

放射線が体を通過するとき、その強力なエネルギーで細胞内の原子や分子を弾き飛ばします(イオン化)。これがDNAにダメージを与えるのです。

破壊のパターンは大きく分けて2つあります。

  1. 直接作用
    放射線がDNAの鎖を直接切断してしまうパターン。
  2. 間接作用
    私たちの体の約60〜70%は水でできています。放射線がこの「水分子」に当たると、活性酸素などの反応性の高い物質(フリーラジカル)が生まれます。この物質がDNAを攻撃して傷つけるパターン。

壊れても「直す力」がある

「DNAが切れるなんて恐ろしい!」と思いますよね。

しかし、私たちの体はそこまで弱くありません。実は、日常生活のストレスや代謝、紫外線、自然放射線などによって、DNAは毎日傷ついています。それでも私たちがすぐに病気にならないのは、細胞に**「修復能力」**が備わっているからです。

少量の放射線によってDNAが少し傷ついたとしても、修復酵素という働き手がすぐに飛んできて、元通りに直してくれます。

問題になるのは、**「修復能力を超えるほどの大量の放射線を、一度に浴びた場合」**です。

修復が追いつかなかったり、間違った修復(修復ミス)が起きたりすると、細胞が死滅したり、あるいはがん細胞へと変化したりするリスクが生まれます。

つまり、放射線の影響を考えるときは、「浴びたかどうか(0か100か)」ではなく、**「どのくらいの量を、どのくらいの時間で浴びたか」**が全てなのです。


3. 妊娠中の医療検査(X線・CT)は本当に大丈夫?

ここからが、多くの妊婦さんが最も心配されるテーマです。

「妊娠中にレントゲンを撮っても大丈夫ですか?」

「妊娠に気づかずCT検査を受けてしまいました……」

こうした相談は、医療現場でも非常に多く寄せられます。

医療被ばくの実際

結論から申し上げますと、通常の診療で行われるX線検査やCT検査で、お腹の赤ちゃんに影響が出る(奇形や障害が発生する)可能性は、極めて低いと断言できます。

なぜなら、医療で使われる放射線量は、胎児に影響が出るとされる基準値(しきい値)よりも、はるかに少ないからです。

【放射線量の目安】

  • 胸部レントゲン(X線):約 0.01〜0.1 mSv(ミリシーベルト)
  • 頭部CT検査:約 2.0 mSv
  • 腹部・骨盤CT検査:約 10.0 mSv

【胎児への影響が出る基準値(しきい値)】

  • 国際放射線防護委員会(ICRP)などの国際基準では、**「100 mSv(ミリシーベルト)」**未満の被ばくでは、胎児への奇形発生率の増加は認められないとされています。(※より安全サイドに立った基準として「50 mSv」未満では影響が確認されていないというデータもあります)

見ていただくと分かる通り、レントゲン1枚で0.1 mSv、CT検査でも数mSv〜10 mSv程度です。これは、胎児に影響が出始めるとされる100 mSvというラインには全く届きません。

1回や2回の検査を受けたからといって、赤ちゃんに障害が出るようなレベルではないのです。

「時期」による感受性の違い

ただし、胎児の成長段階によって、放射線への「感受性(影響の受けやすさ)」は変化します。

  • 妊娠ごく初期(受精〜3週目頃)
    「All or None(全か無か)」の時期です。もし大量の放射線を浴びてダメージを受けた場合は流産してしまいますが、生き残った場合は完全に修復され、奇形などの影響を残さずに成長します。この時期に医療用の微量な放射線を浴びても、基本的に心配はいりません。
  • 器官形成期(妊娠4週〜15週頃、特に8〜15週)
    赤ちゃんの臓器が作られる大切な時期で、放射線に対する感受性が最も高くなります。この時期に「100 mSvを超えるような大量被ばく」をすると、小頭症や精神発達遅滞などのリスクが上がるとされています。しかし、先ほどお話しした通り、通常のレントゲンやCTで100 mSvを超えることはまずありません。

医師への申告は忘れずに

リスクが極めて低いとはいえ、被ばくは少ないに越したことはありません。

妊娠中、あるいは妊娠の可能性がある場合は、必ず医師や放射線技師に伝えてください。

  • お腹を鉛のエプロン(防護衣)で覆う
  • 撮影範囲を必要最小限にする
  • MRIや超音波など、放射線を使わない検査で代用できないか検討する

このように、医療現場ではリスクをゼロに近づけるための最大限の配慮が行われています。逆に言えば、医師が「レントゲンやCTが必要」と判断した場合は、検査を受けずに病気を見逃すリスクの方が、母子にとって危険な場合が多いのです。


4. 福島原発事故と「奇形児」の噂をデータで検証する

最後に、東日本大震災の福島第一原発事故について触れなければなりません。

ネット上ではいまだに「事故の影響で奇形児が増えた」といった、根拠のない噂を目にすることがあります。

医学的なデータに基づいて、冷静に検証しましょう。

一般住民の被ばく量はどのくらいだったか?

原発事故の放射線と聞くと、とてつもない量を想像されるかもしれません。

しかし、実際に福島の方々(一般住民)が受けた被ばく量は、平均で**約1〜10 mSv(ミリシーベルト)**程度であったと推計されています。

先ほどの表を思い出してください。

  • 福島事故の一般住民の被ばく量:1〜10 mSv
  • 医療用CT検査(1回):約2〜10 mSv

驚かれるかもしれませんが、事故当時に住民の方が受けた放射線量は、病院でCT検査を1回受けるのと同程度、あるいはそれ以下だったのです。

CT検査を受けた後に「奇形児が生まれるかもしれない」とパニックになる人はほとんどいませんよね。それと同じレベルの線量で、先天異常が増加することは科学的に考えにくいのです。

「奇形児は増えたのか?」への回答

結論として、福島原発事故による放射線被ばくが原因で、先天異常(奇形)や遺伝的影響が増加したという事実は確認されていません。

これは、国連科学委員会(UNSCEAR)などの国際機関も報告書で認めている事実です。

なぜなら、胎児に影響が出るとされる「100 mSv」というラインに比べて、実際の被ばく量が圧倒的に少なかったからです。

広島・長崎の原爆のような、一瞬で数千ミリシーベルトを浴びる「急性・高線量被ばく」とは、状況が全く異なります。

微量の放射線であれば、私たちの細胞が持つDNA修復能力が十分に機能するため、健康被害にはつながらないのです。

医療被ばくと原発事故の違い

ここで改めて、医療被ばくと事故による被ばくの違いを整理しましょう。

  • 量と時間
    原爆などは短時間に致死的な量を浴びますが、医療や今回の事故(住民エリア)での被ばくは、DNA修復が追いつく範囲内の「低線量」です。
  • 管理された安全性
    医療現場では、放射線技師が厳密に線量を計算し、必要な部位だけに絞って照射します。利益(診断・治療)がリスクを上回る場合にのみ使用される「命を守るための放射線」です。

本日のまとめ

今日は「放射線」という、見えなくて怖いと思われがちなテーマについてお話ししました。

最後に、大切なポイントを振り返りましょう。

1. 放射線は「量」がすべて

放射線は自然界にも存在し、私たちは常に浴びています。「あるかないか」ではなく、「体に害が出る量(しきい値)を超えているか」が重要です。

2. 医療用検査(X線・CT)は心配なし

通常のレントゲンやCT検査の線量は、胎児に影響が出るとされる基準(100 mSv)をはるかに下回っています。1回や2回受けたからといって、赤ちゃんに障害が出ることはまずありません。もちろん、不要な検査は避けるべきですが、必要な検査を過度に恐れる必要もありません。

3. 福島での先天異常の増加は確認されていない

一般住民の被ばく量はCT検査と同程度であり、医学的に見て胎児への影響が出るレベルではありませんでした。根拠のない噂に惑わされないようにしましょう。

4. 放射線は「敵」ではなく「道具」

放射線は、DNAを傷つける性質を持っていますが、私たちの体にはそれを直す力があります。そして人間は、その性質をうまくコントロールして、病気を見つけたり(検査)、がん細胞を退治したり(治療)する技術を編み出しました。

正しく使えば、放射線はあなたの命を守る強力な味方になります。

妊娠中は、ホルモンバランスの影響もあり、普段よりも不安になりやすいものです。

「ネットの情報が怖くてたまらない」

「どうしても検査の影響が心配」

そんな時は、一人で抱え込まず、主治医や私たち専門家に相談してください。

データに基づいた正しい知識は、きっとあなたの不安を解消する「お守り」になるはずです。

これからも、未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にするために、正しい医療情報をお届けしていきます。