こんにちは、未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする「おかひろし」です。
赤ちゃんの誕生は、家族にとって何よりの喜びです。しかし、ふとした瞬間に「あれ?」と首をかしげてしまうような出来事が起こることがあります。
その一つが、**「赤ちゃんの血液型」**にまつわるミステリーです。
「夫はO型、私はAB型。なのに、生まれた子供がAB型だった…?」
「両親ともにO型なのに、子供がA型?」
中学校の理科で習った遺伝の法則を思い出すと、「ありえない組み合わせ」に見えるこの現象。もしこのような事態に直面したら、多くの人は混乱し、「病院で取り違えがあったのでは?」「まさか、親子ではないのでは?」と不安な想像をしてしまうかもしれません。
しかし、慌てないでください。
実はこれ、**医学的には「十分にあり得ること」**なのです。
今回は、一見すると「事件」のように思える血液型の矛盾について、その裏に潜む遺伝子のトリック(シスAB型など)や、現代医学における正しい親子関係の確認方法について、詳しく解説していきます。
まずは基本の「ルール」を確認しましょう。
私たちが普段使っているA型、B型といった血液型(ABO式血液型)は、両親から受け継ぐ遺伝子の組み合わせによって決まります。これを**「メンデルの法則」**と呼びます。
血液型には、検査で見える**「表現型(A・B・O・AB)」と、体の中に隠れている「遺伝子型」**の2つの側面があります。
血液型の遺伝子は、A、B、Oの3種類があり、これらが2つセットになって血液型を決定します。
ここでのポイントは、**「Oの遺伝子は、AやBと一緒にいると隠れてしまう(潜性遺伝)」**という性質です。そのため、「AO」の組み合わせでも検査上は「A型」として判定されます。
子供は、父親と母親からそれぞれ1つずつ遺伝子をもらいます。
例えば、「A型(AO)」の父と、「B型(BO)」の母から生まれる子供をシミュレーションしてみましょう。
このように、両親の遺伝子型によっては、4種類すべての血液型が生まれる可能性があります。
逆に、遺伝子の法則上「絶対に生まれない組み合わせ」も存在します。
【教科書的な「ありえない」組み合わせの例】
これが、私たちが学校で習った常識です。しかし、生命の神秘は時にこの教科書のルールを飛び越えることがあります。それが**「例外的な血液型」**の存在です。

「AB型の父と、O型の母から、AB型の子が生まれた」
一昔前なら「親子関係がない」と断定されてしまったかもしれないこのケース。現在では、**「シスAB型(cis-AB型)」**という特殊な血液型が存在することが解明されています。
通常のAB型(トランスAB型)の人は、一方の染色体に「A遺伝子」、もう一方の対になる染色体(ペア)に「B遺伝子」を持っています。
子供にはこのどちらか片方しか渡せないので、必ず「A」か「B」のどちらか一方だけが受け継がれます。だから、AB型の親からO型(OO)やAB型は生まれないとされてきました。
しかし、「シスAB型」は構造が違います。
なんと、1本の染色体の上に「A遺伝子とB遺伝子の両方」が乗っているのです。
例えば、お父さんが「シスAB型(AB / O)」で、お母さんが「O型(O / O)」だったとします。
お父さんからは、以下のどちらかの遺伝子が子供に渡されます。
もし「1」が渡された場合、子供はお母さんからの「O」と合わさって「AB / O」となります。この場合、血液型検査ではAとBの両方の反応が出るため、**表現型は「AB型」となります。
つまり、「AB型の父とO型の母から、AB型の子供が生まれる」**という、本来ありえないはずの現象が起こるのです。
「シスAB型」は世界的に見ても非常に珍しい血液型ですが、実は日本や韓国などの東アジア地域では、比較的発見頻度が高いと言われています(それでも数千〜数万人に1人レベルの稀なケースです)。
決して「異常」や「病気」ではありませんが、輸血の際などに注意が必要になることがあるため、知っておくことは非常に重要です。
「シスAB型」以外にも、血液型の常識を覆す例があります。それが**「ボンベイ型」**です。
通常、A型やB型の物質を作るためには、土台となる「H抗原(H物質)」というものが必要です。
しかし、極めて稀に、この土台となる「H抗原」を作れない遺伝子を持つ人がいます。
たとえ遺伝子の中に「A」や「B」の設計図を持っていたとしても、土台がないためA型物質やB型物質が作られず、検査をすると反応が出ないため**「O型」と判定されてしまいます。**
もし、この「見かけ上のO型(本当はB遺伝子を持っているボンベイ型)」の人が子供を作ると、子供にはしっかりと「B遺伝子」が受け継がれます。
その結果、**「両親はO型なのに、子供はB型」**というミステリーが発生するのです。

こうした「特殊な血液型」の存在が一般に知られていなかった時代、多くの悲劇が起きました。
血液型の不一致だけを理由に、妻の不貞を疑ったり、病院での取り違えを疑って訴訟になったり、親子関係が破綻してしまったりしたケースが現実にあったのです。
かつての裁判では、「血液型の法則に合わない=親子ではない」という単純な図式で判決が下されることもありました。しかし、現代の科学はそれが間違いである可能性があることを証明しています。
はっきり申し上げます。血液型だけで親子関係を確定、あるいは否定することはできません。
血液型はあくまで赤血球の表面にある「糖鎖」のタイプを見ているに過ぎず、遺伝情報のほんの一部です。例外や突然変異の可能性を完全に排除することはできないのです。
もし、血液型の不一致で親子関係に疑問を持った場合、現代で最も確実な解決策は**「DNA型鑑定」**です。
DNA鑑定では、個人の識別において指紋のようにユニークな「STR(Short Tandem Repeat)」と呼ばれる領域などを数十箇所比較します。
突然変異などの例外も考慮に入れた上で解析を行うため、その精度は99.99%以上。
「シスAB型」のような特殊なケースであっても、遺伝子の配列を直接調べることで、間違いなく親子であることを科学的に証明できます。
現在では、家庭裁判所での調停や、入国管理局への申請など、法的な親子関係の証明には血液型ではなくDNA鑑定が必須とされています。
余談ですが、最近の産院では、生まれたばかりの赤ちゃんの血液型検査を行わないことが増えているのをご存知でしょうか?
「記念に知りたいのに」と思う親御さんも多いですが、これには医学的な理由があります。
新生児期は、血液型を決定する反応(抗原や抗体)がまだ未熟で弱いため、検査結果が不正確になりやすいのです。
「A型だと言われていたのに、小学生になって再検査したらO型だった」というような混乱を避けるため、そして採血による赤ちゃんへの負担を減らすために、あえて検査をしない方針をとる医療機関が増えています。
正確な血液型を知るのは、小学校入学前などのある程度成長したタイミングでも遅くはありません。
今回のポイントをまとめます。
私たちの体を作る遺伝子の世界は、まだまだ奥深く、不思議に満ちています。
「生まれたはずのない血液型」という“事件”は、実は生命の多様性が生んだ“サプライズ”なのかもしれません。
もし、血液型や遺伝のことで不安を感じたり、家族の中で疑問が生じたりしたときは、一人で悩まずに専門家に相談してください。
NIPT(新型出生前診断)をはじめとする遺伝子検査の専門クリニックとして、私たちは「正確なデータ」に基づいた情報提供を通じて、ご家族の絆と安心を守るお手伝いをしています。
科学の力は、疑うためではなく、大切な絆を証明し、安心するためにあるのです。
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