こんにちは、未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする「おかひろし」です。
妊活中の方や、妊娠を希望される方々の間で、まことしやかに囁かれている噂があります。
「毎日ヨーグルトを食べると、妊娠しやすくなるらしい」
「乳酸菌を摂ると、赤ちゃんができやすい体になる」
一見すると、単なる健康法のように聞こえますが、実はこれ、医学的にもあながち間違いではない部分と、大きな誤解が含まれている部分があります。
最近の研究で、女性の「膣内環境(膣フローラ)」が、受精卵の着床や妊娠の継続に深く関わっていることが分かってきました。そして、その鍵を握るのが「乳酸菌(ラクトバチルス)」です。
今回は、少し言いにくいけれど非常に大切な「膣内の菌」の話、そして「ヨーグルトと妊娠の関係」について、最新の医学的データをもとに徹底解説します。
まず、私たちの体における「正常な状態」を知ることから始めましょう。
腸内フローラ(腸内細菌叢)という言葉は有名になりましたが、女性の膣内にも**「膣内フローラ」**が存在します。
健康な女性の膣内では、**「ラクトバチルス属(Lactobacillus)」**という善玉の乳酸菌が圧倒的多数(90%以上)を占めています。
このラクトバチルスは、ただそこに居るだけではありません。非常に重要な2つの働きをしています。
つまり、ラクトバチルスが豊富な膣内は、雑菌による炎症(細菌性膣症など)や性感染症から守られている「鉄壁の要塞」なのです。
では、この「膣内環境」と「妊娠」にはどのような関係があるのでしょうか?
近年の不妊治療の研究分野では、この関連性が大きな注目を集めています。
いくつかの研究報告によると、**「ラクトバチルスが優勢な(90%以上を占める)膣環境を持つ女性は、そうでない女性に比べて、体外受精での胚着床率や妊娠継続率が高い」**という傾向が示されています。
なぜ膣の菌が、子宮での妊娠に関係するのでしょうか?
従来、子宮内は無菌だと考えられてきましたが、現在では子宮内にも微量の菌が存在し、膣内の菌が子宮へと移動(上行)している可能性が指摘されています。
膣内のバランスが崩れ、雑菌(ガードネラ菌など)が増えて「細菌性膣症」の状態になると、炎症性サイトカインという物質が発生します。この炎症が子宮内膜にも波及し、受精卵が着床しにくい環境を作ったり、早産のリスクを高めたりするのではないかと考えられています。
つまり、「乳酸菌そのものが妊娠させる」のではなく、**「乳酸菌が守る『炎症のないクリーンな環境』が、赤ちゃんを迎えるのに適している」**というのが医学的な見解です。
ここで、多くの方が疑問に思う点について触れておきましょう。
「口から食べた乳酸菌(ヨーグルトなど)は、どうやって膣に届くの?」
口から入った菌は、胃酸の攻撃を受け、腸へと達します。そこから血管を通って膣に行くわけではありません。
実は、解剖学的な構造が関係しています。
女性の体は、肛門と膣、尿道が非常に近い位置にあります。
そのため、排便時や下着の中での摩擦などを通じて、腸内にいる細菌が会陰部(皮膚)を伝い、膣内へと移動することがあります。
これは悪い菌だけの話ではありません。例えば、大腸菌が尿道に入れば膀胱炎になりますが、逆に**「腸内で良い乳酸菌が増えれば、それが膣周辺にも定着し、膣内環境に良い影響を与える可能性がある」**というルートも理論上はあり得るのです。
一部のプロバイオティクス(経口サプリメント)の研究では、特定の乳酸菌を摂取した後、膣内からも同じ菌株が検出されたという報告があり、この「腸から膣への移動」は科学的にも支持されています。
ここまでの話を聞くと、「じゃあ、毎日スーパーのヨーグルトを食べれば妊娠できるんだ!」と思うかもしれませんが、ここに大きな落とし穴があります。
一般的なヨーグルトに含まれているのは、主に以下の菌です。
一方、健康な膣内で主役となっているのは、以下の菌です。
名前が似ていますが、これらは種類が異なります。
ブルガリクス菌などは、膣内には本来定着しにくい菌種です。そのため、市販のヨーグルトを食べることで腸内環境(便秘解消など)が良くなることはあっても、それがそのまま「膣内のクリスパタス菌」を増やすことには直結しないと考えられています。
インターネット上には「ヨーグルトを直接膣に塗る・入れる」という民間療法が書かれていることがありますが、これは絶対にやめてください。
現在、不妊治療の現場では「ラクトフェリン」や「乳酸菌の膣錠(サプリ)」が推奨されることがありますが、その効果はどこまで証明されているのでしょうか?
現時点での結論としては、**「不妊治療としての確実な効果(妊娠率を劇的に上げる効果)は、まだ証明されていない」**というのが正直なところです。
ガイドライン上でも、膣内へのプロバイオティクス投与は標準治療とはされていません。統計的に有意な差が出なかったという研究報告も多くあります。
ただし、「細菌性膣症(おりものの異常やにおいの原因)」の治療や再発予防に関しては、特定の乳酸菌製剤(Lactin-Vなど)が有効であるというデータが出てきています。
「妊娠させる薬」ではありませんが、**「妊娠を邪魔するトラブル(細菌性膣症)を防ぐ」**という意味で、膣内環境を整えることには一定の意義があると言えるでしょう。
特別なサプリメントを飲む前に、まずは日常生活で「自分の持っている良い菌」を殺さないことが大切です。
膣フローラを乱してしまうNG行動と、推奨されるケアをご紹介します。
日本人は清潔好きですが、膣の中まで洗うのは逆効果です。
洗浄力の強いボディソープで洗ったり、ビデ(膣内洗浄)を頻繁に使いすぎると、大切なラクトバチルスまで洗い流してしまいます。
また、自浄作用のある粘液も流れてしまい、かえって雑菌が入りやすくなります。
風邪などで抗生物質(抗菌薬)を飲むと、悪い菌だけでなく、体の良い菌も死滅します。抗生物質を飲んだ後にカンジダ膣炎になりやすいのはこのためです。
必要な時はしっかり飲むべきですが、自己判断での乱用は避けましょう。
膣の状態は、ホルモンバランス(エストロゲン)の影響を強く受けます。
エストロゲンが十分に分泌されると、膣の壁が厚くなり、乳酸菌の餌となるグリコーゲンが増えます。
睡眠不足や過度なストレス、喫煙はホルモンバランスを乱し、結果として膣環境を悪化させます。規則正しい生活は、遠回りのようで一番の近道です。
もしサプリメントを取り入れるなら、「なんとなくヨーグルト」ではなく、**「ラクトバチルス・クリスパタス菌」**など、膣内に本来存在する菌株が含まれているものを選ぶのが理にかなっています。
ただし、あくまで「補助的な食品」として捉え、過度な期待はしすぎないようにしましょう。
今回のポイントをまとめます。
もし、「おりもののにおいが気になる」「色がいつもと違う」といった症状がある場合は、フローラが乱れて細菌性膣症やカンジダになっている可能性があります。
自己判断でケアをする前に、まずは婦人科で適切な検査を受けることをお勧めします。
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