妊娠中に薬は飲める?病気と治療の基礎知識

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妊娠中の薬の使用は胎児への影響が心配されます。本記事では安全性分類、病気の治療方針、NIPTなど出生前検査との関連まで専門的に解説します。

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妊娠中に体調を崩した際、「薬を飲んで大丈夫?」と悩む妊婦さんは多くいます。薬には胎児に影響を及ぼすものがありますが、病気を放置することもまた危険です。特に高熱や感染症、持病の悪化は流産早産のリスクを高める可能性があります。本記事では、妊娠中の薬の安全性の考え方、主な病気と治療方針、安全性カテゴリー分類、そして出生前診断NIPT)との関係までをわかりやすく解説します。加えて、自治体の医療費助成制度や、よくある疑問にもQ&A形式でお答えします。

1. 妊娠中の薬の使用はなぜ注意が必要か

妊娠中の体は、母体と赤ちゃんの両方を守るためにとても繊細なバランスの上にあります。特に妊娠初期から中期にかけては、胎児が急速に成長し、脳や心臓、手足などの主要な臓器が作られていきます。この時期に母体が摂取した薬の成分は、胎盤を通して赤ちゃんに届きやすく、場合によっては臓器の形成に影響を与えてしまうことがあります。

中でも妊娠4〜12週は「臓器形成期」と呼ばれ、薬による影響がもっとも大きいとされる時期です。この時期に特定の薬を使用すると、先天異常(奇形)や発達の遅れといったリスクが高まることがわかっています。ただし、すべての薬が危険というわけではなく、種類や量、使用する時期によって影響の度合いは異なります。

一方で、「薬を飲むのは怖いから」と病気を放置してしまうのも危険です。例えば高熱が続けば胎児に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり、早産流産のリスクを高めてしまう可能性があります。糖尿病や高血圧などの持病が悪化すると、胎盤機能に影響が出て赤ちゃんの発育不全につながることもあります。

つまり、妊娠中に大切なのは「薬を完全に避けること」ではなく、「必要なときに、安全性が確認された薬を正しく使うこと」です。自己判断で薬をやめたり、市販薬を勝手に服用したりするのではなく、必ず主治医や薬剤師に相談して、母体と胎児の両方にとって最も安全な治療を選んでいくことが求められます。

2. 妊娠中に使える薬と避けるべき薬

2-1 安全性カテゴリー(FDA分類例)

カテゴリー意味
A妊婦での安全性が確認されている葉酸サプリ、ビタミンB群
B動物実験で安全、ヒトで有害性なしペニシリン系抗生物質、アセトアミノフェン
C動物で有害性あり、ヒトで不明一部の抗てんかん薬、NSAIDs(初期・中期)
D胎児へのリスクがあるが利益が上回る場合使用ワルファリン(特殊条件下)
X胎児への危険性が明らかで禁忌経口避妊薬、特定の抗がん剤

※日本ではFDA分類を参考にしつつ、国内ガイドラインで判断します。

2-2 よく使われる薬の例

妊娠中に使用される薬には「比較的安全に使えるもの」「注意が必要なもの」「避けるべきもの」があります。それぞれの特徴を理解しておくと安心です。

比較的安全な薬

  • アセトアミノフェン(解熱・鎮痛薬)
    妊娠中でも比較的安全とされ、発熱や頭痛、関節痛などの症状に使われます。短期間・適正量の使用であれば胎児への影響は少ないと考えられています。
  • セフェム系抗生物質
    細菌感染に用いられる抗生物質の一種で、安全性が高く妊婦にも広く処方されます。

注意が必要な薬

  • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
    妊娠初期から中期では比較的安全とされる場合もありますが、妊娠後期に使用すると胎児の動脈管を早期に閉鎖してしまう恐れがあります。そのため使用時期に強い制限があります。
  • 一部の降圧薬
    高血圧の治療に使われる薬の中には胎児に影響を及ぼす可能性があるものもあり、妊娠中は薬の種類を慎重に選ぶ必要があります。

避けるべき薬

  • ACE阻害薬(降圧薬の一種)
    胎児の腎臓や発育に深刻な影響を与えるため、妊娠中は禁忌とされています。
  • ワルファリン(抗凝固薬)
    胎児の発達異常を引き起こすリスクがあるため、妊婦には使用されません。代わりにヘパリンなど、妊娠中でも比較的安全な薬が選ばれます。
  • 高用量ビタミンA
    サプリメントや健康食品の形でも過剰に摂取すると、胎児に奇形のリスクを高めることが知られています。

サプリ・漢方薬について

「自然のものだから安心」と思われがちですが、サプリや漢方薬の中にも胎児に影響を与える成分が含まれることがあります。自己判断での服用は避け、必ず医師や薬剤師に確認することが大切です。

3. 妊娠中によくある病気と治療方針

妊娠中はホルモンバランスの変化や免疫力の低下、血液や代謝の変化などによって、普段より病気にかかりやすくなります。また、妊娠をきっかけに症状が強く出たり、持病が悪化したりすることもあります。主な病気とその治療方針は以下の通りです。

妊娠高血圧症候群

妊娠中期以降に血圧が高くなり、むくみやたんぱく尿を伴うことがあります。重症化すると母体や胎児に危険が及ぶため、降圧薬を妊娠中でも比較的安全とされる種類に切り替えて使用します。安静や塩分制限も治療の一部です。

妊娠糖尿病

妊娠によるホルモンの影響で血糖値が上がりやすくなります。放置すると巨大児や早産のリスクが高まります。基本は食事療法で血糖をコントロールし、必要に応じてインスリン治療を行います(経口の糖尿病薬は多くが使用できないため注意が必要です)。

甲状腺機能異常

甲状腺ホルモンが多すぎても少なすぎても、母体や胎児の発育に悪影響を及ぼします。妊娠に安全な抗甲状腺薬甲状腺ホルモン補充薬を選び、母体の状態を安定させることが大切です。

感染症(風疹・トキソプラズマなど)

妊娠中に感染すると胎児に障害を残すリスクがあります。必要に応じて抗ウイルス薬や抗菌薬を慎重に投与します。妊婦健診での感染症チェックや、日常生活での予防が特に重要です。

どの病気においても最優先されるのは「母体の安定化」です。その上で、胎児への影響が少ない薬や治療法を選び、母子ともに安全を守ります。

4. 妊娠中の薬とNIPTの関係

NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液を採取して胎児の染色体異常ダウン症候群など)のリスクを調べる検査です。採血だけで行えるため母体への負担が少なく、近年利用する妊婦さんが増えています。

薬の服用自体は、NIPTの検査精度に直接影響を与えることはありません。つまり、薬を飲んでいるから検査結果が不正確になるといった心配は基本的にありません。

ただし、病気や治療歴は妊娠全体の管理に大きく関わる要素です。例えば妊娠初期に重い感染症を治療した場合や、持病のコントロールのために薬を継続している場合、医師は胎児の発育や臓器形成をより詳しく確認する必要があると判断することがあります。その際、NIPTに加えて精密超音波検査や追加の血液検査を勧められることもあります。

つまり、薬の使用とNIPTは「直接的に影響するものではない」けれど、「妊娠管理の流れの中で互いに関連してくる存在」だと言えます。母体の治療経過を正しく伝えることで、医師は検査の必要性や時期を含めた全体的な判断ができ、結果的により安心した妊娠生活につながります。

妊婦

5. 自治体の妊婦医療費助成制度

妊娠がわかると、役所で母子健康手帳(母子手帳)を受け取ることになります。このとき一緒に配布されるのが、妊婦健康診査受診票(補助券)です。これを使うと、定期的な妊婦健診や血液・尿検査などにかかる費用の多くが自治体によって助成されます。自己負担を大幅に減らせるため、妊婦さんと赤ちゃんの健康を守るうえで欠かせない制度です。

自治体によっては、基本的な健診費用だけでなく、B型肝炎や梅毒、HIVなどの感染症検査妊娠高血圧症候群妊娠糖尿病といった妊娠合併症に関する追加検査についても一部補助が行われる場合があります。住んでいる地域によって助成内容や回数が異なるので、母子手帳交付時や自治体の公式サイトで必ず確認しましょう。

一方で、NIPT(新型出生前診断)は基本的に公費の対象外で、受検する場合は自費となります。ただし例外的に、一部の自治体や大学病院などの研究機関では、臨床研究の一環として費用の助成や割引を行っている場合があります。こうした制度を利用できるかどうかは、受検前に自治体の保健センターや検査機関に問い合わせて確認しておくと安心です。

6. Q&A:妊娠中の薬に関するよくある疑問

Q1. 風邪薬は飲んでも大丈夫?
A. 成分によります。アセトアミノフェンは比較的安全ですが、NSAIDsは妊娠後期に注意が必要です。必ず医師の診察を受けてください。

Q2. サプリは安全?
A. 葉酸や鉄分は推奨されますが、高用量ビタミンAや一部ハーブは危険です。必ず成分を確認し、医師に相談しましょう。

Q3. NIPTは薬を飲んでいても受けられる?
A. 基本的に問題ありません。ただし母体の健康状態によっては他の検査も併用する場合があります。

まとめ

妊娠中は、薬の影響が赤ちゃんに及ぶ可能性があるため注意が必要です。しかし「薬は危ないから飲まない」と自己判断で治療を避けることは、母体にも胎児にも大きなリスクとなります。高熱や感染症、持病の悪化を放置すると、流産早産や胎児の発育不全につながることもあるからです。

大切なのは「薬を避ける」ことではなく、安全性が確認された薬を正しく使うことです。さらに、必要に応じてNIPTや精密超音波などの検査を組み合わせることで、母子の状態を総合的に評価し、より安心して妊娠生活を送ることができます。

また、多くの自治体では妊婦健診や検査を支援する助成制度があります。こうした制度をうまく活用することで、経済的な負担を軽くしながら適切な医療を受けられます。

最終的に大切なのは、一人で判断せず、医師や薬剤師と相談して最適な治療・管理を選ぶことです。正しい知識とサポート体制を味方にして、安心して妊娠期間を過ごしましょう。

妊娠中の薬の使用は胎児への影響が心配されます。本記事では安全性分類、病気の治療方針、NIPTなど出生前検査との関連まで専門的に解説します。

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