結論からお伝えします。妊娠中の薬は「全部だめ」ではなく、正しい薬を正しく選べば安全に治療できます。 自己判断でやめる方が、かえって母体にも赤ちゃんにも危険です。
私はヒロクリニックNIPTの診療現場で、発熱や持病を抱えたまま「薬が怖くて我慢していた」という妊婦さんに何人もお会いしてきました。我慢の先に高熱や感染症の悪化があり、かえって早産のリスクを高めてしまうケースも少なくありません。
この記事では、妊娠中に使える薬と避けるべき薬の違い、よくある病気の治療方針、そしてNIPT(新型出生前診断)との関係までを、公的機関の情報にもとづいて解説します。自治体の医療費助成制度やよくある疑問へのQ&Aも紹介します。
💡 この記事でわかること
1. 妊娠中の薬の使用はなぜ注意が必要か
妊娠4〜12週の「臓器形成期」は、薬による影響がもっとも大きいとされる時期です。 この時期を中心に、慎重な薬選びが必要になります。
妊娠中の体は、母体と赤ちゃんの両方を守るため、繊細なバランスの上に成り立っています。特に妊娠初期から中期は、胎児の脳や心臓、手足などの主要な臓器が急速に作られていく時期です。
この時期に母体が摂取した薬の成分は、胎盤を通して赤ちゃんに届きやすくなります。種類や量、使用時期によって影響の度合いは大きく異なるため、すべての薬が危険というわけではありません。
一方で、「薬を飲むのが怖いから」と病気を放置するのも危険です。高熱が続けば胎児への酸素や栄養が不足し、早産や流産のリスクが高まることがあります。糖尿病や高血圧などの持病が悪化すれば、胎盤機能に影響し、赤ちゃんの発育不全につながることもあります。
妊娠中に大切なのは、薬を完全に避けることではありません。必要なときに、安全性が確認された薬を正しく使うことです。自己判断でやめたり市販薬を服用したりせず、主治医や薬剤師への相談を徹底してください。
2. 妊娠中に使える薬と避けるべき薬
薬の安全性は「妊娠中は絶対禁止」ではなく、種類・量・使用時期で細かく判断されます。 まずは代表的な分類方法から見ていきましょう。
2-1. 安全性カテゴリー(FDA分類例)
米国ではかつて、薬の妊婦への安全性を5段階のカテゴリーで示す方法が広く使われていました。日本の医療現場でも、参考情報として引用されることがあります。
| カテゴリー | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| A | 妊婦での安全性が確認されている | 葉酸サプリ、ビタミンB群 |
| B | 動物実験で安全、ヒトで有害性なし | ペニシリン系抗生物質、アセトアミノフェン |
| C | 動物で有害性あり、ヒトで不明 | 一部の抗てんかん薬、NSAIDs(初期・中期) |
| D | 胎児へのリスクがあるが利益が上回る場合に使用 | ワルファリン(特殊条件下) |
| X | 胎児への危険性が明らかで禁忌 | 経口避妊薬、特定の抗がん剤 |
日本ではこのFDA分類を参考にしつつ、厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)の添付文書情報にもとづいて最終判断が行われます。PMDAは各薬の添付文書を公開しており、医療用医薬品の添付文書検索で確認することができます。
2-2. よく使われる薬の具体例
妊娠中に使用される薬には、比較的安全に使えるもの・注意が必要なもの・避けるべきものがあります。それぞれの特徴を押さえておきましょう。
比較的安全な薬
- アセトアミノフェン(解熱・鎮痛薬):妊娠中でも比較的安全とされ、発熱や頭痛、関節痛などに使われます。短期間・適正量であれば、胎児への影響は少ないと考えられています。
- セフェム系抗生物質:細菌感染に用いる抗生物質の一種で、安全性が高く妊婦にも広く処方されます。
ここで、2025年に話題になった「アセトアミノフェンと自閉症」の報道について整理しておきます。詳しい研究結果は次の見出しで解説します。
「カロナールで自閉症になる」報道の真相
妊娠中のアセトアミノフェン使用と自閉症のあいだに、因果関係を示す確かな根拠はありません。 2025年、海外の政治家の発言をきっかけに不安が広がりましたが、最新の大規模研究はこれを否定しています。
SNS上でも、この話題は薬剤師や医師のアカウントで取り上げられていました。ある薬剤師の方は次のように投稿しています。「『妊娠中にカロナールを飲むと自閉症になる』2025年のトランプ大統領の発言で不安になった方へ。薬剤師としてハッキリ言います。いちばん質の高い研究では『因果関係は否定』されています」(@sana_yaku_mama氏の投稿より)。私も診療の中で同じ質問を受けるたび、この研究データをお示ししてご説明しています。
実際に、スウェーデンで248万人超の子どもを対象にした2024年のコホート研究(Ahlqvist et al., JAMA)があります。きょうだい同士で比較する厳密な解析を行ったものです。その結果、自閉症・ADHD・知的障害のいずれについても、アセトアミノフェン使用によるリスク上昇は確認されませんでした(ハザード比0.98〜1.01)。この論文は米国国立医学図書館PubMedで確認できます。
発熱を我慢して放置するほうが、母体にも胎児にもリスクとなります。不安なときこそ自己判断で服薬をやめず、産婦人科医や薬剤師に相談してください。
注意が必要な薬
次に紹介するのは、使用時期によって注意が変わる薬です。自己判断で継続や中止をしないようにしましょう。
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):妊娠初期・中期では比較的安全とされる場合もありますが、後期に使用すると胎児の動脈管を早期に閉鎖する恐れがあります。
- 一部の降圧薬:高血圧治療薬の中には胎児に影響しうるものもあり、種類の選択には注意が必要です。
避けるべき薬
一方で、妊娠中は明確に使用を避けるべき薬もあります。代表例を確認しておきましょう。
- ACE阻害薬(降圧薬の一種):胎児の腎臓や発育に深刻な影響を与えるため、妊娠中は禁忌です。
- ワルファリン(抗凝固薬):胎児の発達異常を引き起こすリスクがあり、代わりにヘパリンなどが選ばれます。
- 高用量ビタミンA:サプリメントでも過剰摂取すると、胎児に奇形のリスクを高めることが知られています。
2-3. サプリ・漢方薬について
「自然のものだから安心」と思われがちなサプリや漢方薬にも、胎児に影響しうる成分が含まれることがあります。自己判断での服用は避けてください。必ず医師や薬剤師に確認しましょう。
3. 妊娠中によくある病気と治療方針
妊娠中どの病気でも最優先されるのは、母体の状態を安定させることです。 そのうえで、胎児への影響が少ない薬や治療法を選びます。
妊娠中はホルモンバランスの変化や免疫力の低下によって、普段より病気にかかりやすくなります。持病が悪化しやすい時期でもあります。主な病気と治療方針は次のとおりです。
妊娠高血圧症候群
妊娠中期以降に血圧が高くなり、むくみやたんぱく尿を伴うことがあります。重症化すると母体や胎児に危険が及ぶため、比較的安全とされる降圧薬に切り替えて使用します。安静や塩分制限も治療の一部です。
妊娠糖尿病
妊娠によるホルモンの影響で血糖値が上がりやすくなります。放置すると巨大児や早産のリスクが高まるため、基本は食事療法で血糖をコントロールし、必要に応じてインスリン治療を行います。経口の糖尿病薬は多くが使用できないため、注意が必要です。
インスリンは妊娠中でも使用できる治療薬の代表格です。SNSでも「妊娠中ってインスリンOKなんだ…それなら普通の風邪薬とかもOKになって欲しい😢」(@yumi_ueno0101氏の投稿より)という声が見られました。この気持ち、よくわかります。実は風邪薬もアセトアミノフェンなど選べる薬があります。我慢よりも大切なのは、早めの相談。自己判断でつらさを抱え込まないでください。
甲状腺機能異常
甲状腺ホルモンが多すぎても少なすぎても、母体や胎児の発育に悪影響を及ぼします。妊娠に安全とされる抗甲状腺薬や甲状腺ホルモン補充薬を選び、母体の状態を安定させます。
感染症(風疹・トキソプラズマなど)
妊娠中に感染すると、胎児に障害を残すリスクがあります。必要に応じて抗ウイルス薬や抗菌薬を慎重に投与します。妊婦健診での感染症チェックと、日常生活での予防が欠かせません。感染症ごとの具体的な予防策は、妊婦がかかると危険な感染症と予防策で詳しく解説しています。
4. 妊娠中の薬とNIPTの関係
薬の服用自体は、NIPTの検査精度に直接影響を与えることはありません。 ただし、病気や治療歴は妊娠管理全体に関わる大切な情報です。
NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液を採取して胎児の染色体の変化(21トリソミーなど)のリスクを調べる、非確定的な検査です。採血のみで行えるため母体への負担が少なく、近年利用する妊婦さんが増えています。

ヒロクリニックNIPTでは、国内の検査機関「東京衛生検査所」で検査を行い、最短2〜5日で結果を報告しています。検査実績は累計75,000件を超え、利用者満足度は98.8%、結果報告率は99.98%です。21トリソミー(ダウン症候群)など対象疾患については、感度99.9%以上という高い検出精度が確認されています。ただしNIPTはあくまで非確定的検査です。確定診断には羊水検査などが必要になります。
妊娠初期に重い感染症を治療した場合や、持病のコントロールで薬を継続している場合があります。こうしたとき、医師は胎児の発育や臓器形成をより詳しく確認することがあります。精密超音波検査や追加の血液検査を勧められる場合もあります。NIPTを受けるべき時期について迷ったときは、妊娠初期の不安を安心へ。NIPTを受けるべき時期と理由も参考にしてください。検査の具体的な流れはNIPTはどんな手順で検査するの?にまとめています。
薬の使用とNIPTは、直接影響し合うものではありません。しかし妊娠管理の流れの中で、互いに関連してくる存在です。母体の治療経過を正しく伝えることで、医師は検査の必要性や時期を含めた全体的な判断ができます。
5. 自治体の妊婦医療費助成制度
妊婦健診や一部の合併症検査には、自治体による医療費助成があります。 母子健康手帳と一緒に配布される受診票を活用しましょう。
妊娠がわかると、役所で母子健康手帳(母子手帳)を受け取ります。このとき配布される妊婦健康診査受診票(補助券)を使うと、定期的な妊婦健診や血液・尿検査などの費用の多くが助成されます。健診のスケジュールと内容は妊婦健診のスケジュールと内容を徹底解説で確認できます。
自治体によっては、追加の助成がある場合もあります。対象はB型肝炎や梅毒、HIVなどの感染症検査、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった合併症の検査です。住んでいる地域による違いが大きいため、母子手帳交付時やこども家庭庁の母子保健施策のページで必ず確認してください。
一方、NIPT(新型出生前診断)は基本的に公費の対象外で、受検する場合は自費となります。例外的に、一部の自治体や大学病院などの研究機関では、臨床研究の一環として助成や割引を行っている場合もあります。受検前に自治体の保健センターや検査機関へ問い合わせておくと安心です。
6. 薬に不安を感じたときの相談先
薬の不安は、一人で抱え込まず専門窓口に相談することで解決に近づきます。 まず頼れる相談先を知っておきましょう。
国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターでは、個々の薬について相談できる窓口を設けています。日本産科婦人科学会(JSOG)の情報も、治療方針を確認する際の参考になります。
かかりつけの産婦人科医や薬局の薬剤師も、日常的に相談できる身近な窓口です。お薬手帳を持参し、服用中の薬をすべて伝えることが、最初の一歩になります。持病があり妊娠を考えている方には、妊娠前からの相談も有効な備え。薬の切り替えを余裕を持って進められます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 風邪薬は飲んでも大丈夫?
成分によります。アセトアミノフェンは比較的安全とされていますが、NSAIDsは妊娠後期に注意が必要です。自己判断せず、必ず医師の診察を受けてください。
Q2. サプリは安全?
葉酸や鉄分は推奨されますが、高用量ビタミンAや一部のハーブは注意が必要です。成分を確認し、医師に相談しましょう。
Q3. NIPTは薬を飲んでいても受けられる?
基本的に問題ありません。ただし母体の健康状態によっては、他の検査も併用する場合があります。
Q4. 妊娠中にアセトアミノフェン(カロナール)を飲むと自閉症になるって本当?
いいえ。2024年の大規模なきょうだい比較研究では、因果関係は確認されていません。発熱の放置のほうがリスクとなるため、自己判断でやめず医師に相談してください。
Q5. 妊娠中に病院を受診する目安は?
38度以上の発熱が続く、強い腹痛がある、出血があるといった場合は早めの受診が必要です。迷ったときはかかりつけの産婦人科に電話で相談してください。
Q6. 持病があり妊娠を考えている場合、何から準備すればいい?
妊娠前から主治医に相談し、妊娠中でも使える薬への切り替えを検討しておくことが第一歩です。お薬手帳を最新の状態にしておくことも役立ちます。
まとめ
妊娠中は薬の影響が赤ちゃんに及ぶ可能性があるため、注意が必要です。 しかし「薬は危ないから飲まない」という自己判断は、母体にも胎児にも大きなリスクとなります。
高熱や感染症、持病の悪化を放置すると、流産・早産や胎児の発育不全につながることもあります。大切なのは薬を避けることではなく、安全性が確認された薬を正しく使うことです。
必要に応じてNIPTや精密超音波などの検査を組み合わせれば、母子の状態を総合的に評価できます。多くの自治体では妊婦健診や検査を支援する助成制度もあるため、経済的な負担を抑えながら適切な医療を受けられます。
妊娠中に大切なのは、正しい知識と早めの相談。一人で判断せず、医師や薬剤師との相談を第一歩にしてください。まずはお薬手帳を持って、かかりつけの産婦人科医に今飲んでいる薬を伝えることから始めましょう。
監修者
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック 統括院長・Labo Director(ラボディレクター)
岡山県出身。慶應義塾大学医学部卒業後、日本とアメリカの医師国家試験に合格。臨床研修後2年で医学博士を取得しました。専門職大学の客員教員を務め、日本に約20人ほどしかいないラボディレクター資格を保有しています。世界最高峰のNIPT提供を目指し、産婦人科・小児科・臨床遺伝の各専門医と連携した遺伝カウンセリングに取り組んでいます。
ヒロクリニックNIPTでは、東京衛生検査所(国内)で検査を行い、最短2〜5日で結果を報告します。妊娠中の薬や体調について迷ったときは、遺伝カウンセリングを含めてお気軽にご相談ください。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

