「順調です」の言葉を信じていたのに…ニュースが問いかける妊婦健診の“限界”と、私たちが知っておくべきこと【YouTube解説】

こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。

NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。

妊娠中、お母さんたちが一番楽しみにしているもの。それは「妊婦健診」ではないでしょうか。

エコーに映る我が子の姿を見て、「順調ですよ」という医師の言葉に安堵する。その繰り返しが、出産への自信と希望を育てていきます。

しかし先日、Yahoo!ニュースで取り上げられたあるご家族の事例が、多くの妊婦さんに衝撃を与えました。

ずっと「順調」だと言われてきたのに、妊娠後期になって突然、赤ちゃんに重篤な異常がある可能性を告げられたのです。

中絶手術が法的に可能な時期(妊娠22週未満)を過ぎ、もはや産む以外の選択肢がない状況で突きつけられた「99.9%障害がある」という現実。

妊婦健診を受けていれば安心」

私たちは無意識にそう思い込んでいますが、実はこうしたケースは決して「まれ」ではありません。

妊婦健診には、どんなに優れた医師でも見抜けない“死角”が存在するのです。

今日はこのニュースをもとに、遺伝専門医の視点から「なぜ異常が見過ごされてしまうのか」、そして「私たちにできる事前の対策はあるのか」について、深く掘り下げて解説していきます。


1. ニュースの背景:妊娠後期まで分からなかった「スティックラー症候群」

まず、今回話題となったケースについて整理しましょう。

診断されたのは**「スティックラー症候群」**という遺伝性の疾患でした。

スティックラー症候群とは?

私たちの体を作る重要なタンパク質の一つに「コラーゲン」があります。肌の弾力に関わる成分として有名ですが、実は骨、関節、目、耳などの形成にも深く関わっています。

このコラーゲンを作る遺伝子(COL2A1など)に変異が生じると、骨格の発達不全、強度の近視、難聴、口蓋裂(口の中の天井が裂けている状態)といった様々な症状が現れます。これがスティックラー症候群です。

「手足が短い」の真実

今回のお母さんは、妊娠20週頃の健診で一度「手足が少し短いかも」と指摘を受けていました。

しかし、胎児の成長には個人差があります。その時点での短さは「個性の範囲内(成長のばらつき)」と判断され、深刻な異常とは見なされませんでした。

ところが、妊娠32週を過ぎた頃、再びエコー検査をした際に、手足の短さだけでなく、あごの小ささや全身のバランスなど、明らかな異変が見つかったのです。

この時点で初めて「何らかの症候群かもしれない」と告げられましたが、時はすでに妊娠後期。

確定診断のための羊水検査を行うにはリスクが高く、結果が出るまでの時間も足りません。結局、正式な病名が判明したのは、赤ちゃんが生まれて1年も経ってからでした。


2. なぜ妊婦健診では異常が見つけられないのか?

「毎回病院に行っているのに、なぜもっと早く分からなかったの?」

そう思うのは当然です。しかし、これには「医師のミス」という言葉では片付けられない、妊婦健診そのものの構造的な限界があります。

妊婦健診の本来の目的

そもそも妊婦健診は、「赤ちゃんの病気を発見する」ための検査ではありません。

最大の目的は、**「お母さんと赤ちゃんの命を守り、妊娠を安全に継続させること」**です。

具体的にチェックしているのは以下の4点です。

項目目的・分かること
血圧・体重妊娠高血圧症候群や急激な体重増加など、母体の危険サインを早期発見する。
子宮底長お腹の大きさを測り、羊水の量や胎児の大まかな発育を確認する。
心拍・胎動赤ちゃんが生きているか、元気に動いているかを確認する。
エコー検査頭の大きさ、大腿骨の長さ、心臓の動きなど、「形」に異常がないかを見る。

これらは全て「今、この瞬間の状態」を確認するためのものです。

医師は「心臓は動いているか?」「羊水は減っていないか?」「お母さんの血圧は大丈夫か?」という、生命維持に関わる緊急性の高いチェックを最優先で行っています。

そのため、生命に直結しない微細な形態異常や、目に見えない遺伝子の異常までは、スクリーニングの対象外となってしまうのが現状なのです。

エコー検査の限界:「形」しか見えない

超音波(エコー)検査で見えるのは、あくまで**「形(形態)」**です。

心臓に穴が開いている、指の本数が違う、といった「形の異常」はある程度分かります。

しかし、遺伝子の中に書かれた情報は映りません。

  • 筋肉の質が弱い
  • 関節がうまく動かない
  • タンパク質が作られない

こうした**「機能的・質的な異常」**は、エコーには映りません。

今回のスティックラー症候群のように、最初は正常に見えても、成長するにつれて徐々に骨の変形などの「形」としての異常が現れてくる病気の場合、妊娠中期(20週頃)のエコーでは「異常なし」と判断されてしまうのは、ある意味で避けられないことなのです。

「時間差」という落とし穴

赤ちゃんの体は、十月十日かけて完成します。

20週の時点ではまだ未完成な部分が多く、異常があっても特徴として現れていないことが多々あります。

30週を過ぎ、体が大きくなり、骨格がしっかりしてきて初めて、「あれ?バランスがおかしいぞ」と気づくことができる。

この**「症状が現れるまでのタイムラグ」**こそが、今回のような悲劇を生む最大の要因です。


3. 「知らないまま」を防ぐために。NIPT(新型出生前診断)という選択肢

妊婦健診だけでは限界がある。では、私たちはただ祈るしかないのでしょうか?

「100%防ぐ」ことは現代医学でも不可能ですが、**「少しでも早く、リスクに気づく」**ことは可能です。

そのための有効な手段が、**NIPT(新型出生前診断)**です。

NIPTで何が分かるのか?

NIPTは、お母さんの腕から採血した血液を使って、赤ちゃんのDNA(染色体)を調べる検査です。

エコー検査のような「見た目」の検査ではなく、**「遺伝子(染色体)」の情報に直接アプローチするため、体の形がまだ未完成な妊娠初期(9〜10週頃)**から受けることができます。

染色体疾患名(通称)主な特徴
21番ダウン症候群知的発達の遅れ、心疾患、特徴的な顔貌など。
18番エドワーズ症候群重篤な心疾患、発育不全、手指の重なりなど。
13番パトウ症候群脳や顔面の形成不全、多指症など。予後は厳しい場合が多い。

これらは「染色体数」の異常ですが、最近では技術の進歩により、さらに細かい遺伝子の欠失(微小欠失症候群)や、単一遺伝子疾患の一部を調べられる検査機関も増えてきています。

「早く知る」ことの本当の意味

「検査を受けて、もし陽性だったら怖い」

そう思うのは当然です。しかし、NIPTを受ける最大のメリットは、「準備の時間」を手に入れられることです。

  1. 高度な医療機関を選べる
    もし赤ちゃんに疾患の可能性が高いと分かれば、NICU(新生児集中治療室)や小児外科の専門医がいる大学病院などに転院し、出産直後から最善の治療を受けられる体制を整えることができます。
  2. 心の準備と知識の習得
    病気について学び、どのようなサポートが必要かを調べ、家族で話し合う時間を持つことができます。突然の告知でパニックになるのと、覚悟を持って迎えるのとでは、その後の育児のスタートが全く違います。
  3. サポート体制の構築
    地域の福祉サービスや親の会などと繋がり、孤立を防ぐ準備ができます。

NIPTは「命を選別する」ための検査と誤解されがちですが、本来は**「赤ちゃんを迎えるための、最善の環境を整えるための検査」**なのです。

NIPTは「確定診断」ではない

一つだけ注意していただきたいのは、NIPTはあくまで「非確定的検査(スクリーニング)」だという点です。

「陽性」と出ても、実際には赤ちゃんに異常がない(偽陽性)可能性もゼロではありません。

そのため、陽性が出た場合は必ず、羊水検査などの「確定診断」を受ける必要があります。

検査結果だけで自己判断せず、必ず専門の医師(遺伝カウンセリング)と相談しながら進めていくことが重要です。


本日のまとめ

今日は、ニュースで話題となった事例をもとに、妊婦健診の限界と出生前診断の役割についてお話ししました。

最後に、大切なポイントを振り返りましょう。

1. 妊婦健診は「万能」ではない

健診の主目的は母子の生命維持です。エコーで見えるのは「今の形」だけであり、遺伝子の異常や、成長してから現れる病気は見つけられないことがあります。

2. 異常が見えるまでには「時間差」がある

赤ちゃんの成長に伴って初めて症状が現れる病気(スティックラー症候群など)の場合、妊娠後期になるまで「順調」と診断されてしまうケースは珍しくありません。

3. 「早く知る」ためのNIPT

NIPTは妊娠初期から受けられ、エコーでは見えない染色体の情報を調べることができます。リスクを早期に把握することで、NICUの手配や心の準備など、具体的な対策を立てることが可能になります。

4. 知識は「お守り」になる

「健診を受けているから大丈夫」という過信は禁物です。検査の限界を知り、必要であればNIPTなどのプラスアルファの検査を検討すること。それが、未来のあなたと赤ちゃんを守るための、現実的な「備え」になります。

妊娠期間は、幸せと不安が隣り合わせの時間です。

「もっと早く知っていれば」と後悔するご家族を一人でも減らすために、私たちは正しい医療情報を発信し続けます。

もし検査について迷っていることがあれば、一人で抱え込まず、専門医にご相談ください。あなたの不安に寄り添い、最適な選択を一緒に考えていきましょう。