お子さんやご家族が「7q欠失」という診断を受けた際、多くのご家族は「これからどうなるのか」「何をしてあげられるのか」という大きな不安に直面されます。この疾患は非常に稀な希少染色体異常であり、一般的な医療情報サイトでも断片的な情報しか見当たらないのが現状です。
しかし、近年の遺伝子解析技術(マイクロアレイ検査など)の飛躍的な進歩により、欠失している「場所」や「範囲」に基づいて、どのような症状が起こりやすいのか、どのようなサポートが必要なのかが少しずつ明らかになってきました。この記事では、診断を受けたばかりのご家族が、現状を正しく理解し、希望を持ってこれからの歩みを進めるための道標となるよう、詳細に解説します。
1. 概要:どのような病気か
染色体と「欠失」の仕組み
私たちの体は約37兆個の細胞でできており、その一つひとつの核の中に、体の設計図である「遺伝子」が収められています。この遺伝子を束ねている構造体が**染色体(せんしょくたい)**です。人間には23対(計46本)の染色体があり、それぞれに1番から22番までの番号と、性別を決める性染色体(XとY)があります。
それぞれの染色体は、中心のくびれ(中心節)を境に、短い方を「短腕(たんわん:p)」、長い方を「長腕(ちょうわん:q)」と呼びます。 「7q欠失」とは、7番目の染色体の長い方の腕(q)の一部が、何らかの理由で失われている状態を指します。
7q欠失が多様である理由
一口に「7q欠失」と言っても、失われる場所や範囲は一人ひとり異なります。
- 末端欠失(まったんけっしつ): 染色体の先端部分が失われるもの。
- 間質性欠失(かんしつせいけっしつ): 染色体の途中の部分が失われるもの。
7番染色体の長腕には、脳の発達、手足の形成、言葉の習得、内臓の働きなどに関わる多くの重要な遺伝子が含まれています。そのため、「どの地点の遺伝子が失われたか」によって、現れる症状や発達のペースが大きく異なるのがこの疾患の最大の特徴です。
2. 主な症状と特徴
7q欠失で見られる症状は多岐にわたりますが、ここでは報告されることが多い代表的な特徴を挙げます。これらはすべての人に現れるわけではなく、欠失の領域によって強弱があります。
① 発達の遅れと知的障害
最も多く見られる特徴は、全体的な発達のゆっくりさです。
- 運動発達: 首の座り、お座り、歩行などの発達がゆっくり進みます。これは、筋肉の張りが少し弱い「筋緊張低下(きんきんちょうていか)」が背景にあることが多いです。
- 知的発達: 軽度から重度まで幅がありますが、多くの場合で学習上の配慮や個別の支援が必要になります。
- 言語発達: 言葉の理解や表出(話すこと)に時間がかかる傾向があります。
② 特徴的な顔立ち(顔貌的特徴)
染色体の変化は、顔の形成にも影響を与えることがあります。これらは医学的には診断の手がかりとなりますが、お子さん自身の個性の一部でもあります。
- 耳の形や位置: 耳の位置が少し低かったり、形がわずかに異なったりする。
- 眼間解離(がんかんかいり): 両目の間隔が少し離れている。
- 広いいでこ(前頭部の突出): おでこが少し広く、前に出ている。
- 鼻の形: 鼻筋が低めであったり、鼻先が丸みを帯びていたりすることがあります。
③ 手足の異常(骨格系の特徴)
7qの特定の領域(特に7q21周辺)が欠失に含まれる場合、手足の形に特徴が出ることがあります。
- 多指症・合指症: 指の数が多かったり、隣の指とくっついていたりする。
- 裂手・裂足(れっしゅ・れっそく): 手や足の中央部分が欠損し、V字型に見える状態。
- 三節母指: 親指の骨が通常より一つ多く、他の指のように見える。
④ 内臓の合併症
- 先天性心疾患: 心臓の壁に穴が開いている(心室中隔欠損など)ことがあります。
- 泌尿生殖器の異常: 腎臓の形や、男の子の場合は精巣の位置(停留精巣)に特徴が見られることがあります。
- 成長障害: 成長ホルモンの分泌に関連し、身長の伸びが緩やかになることがあります。
3. 欠失部位による特定の症候群
7q欠失の中でも、特に重要な遺伝子が含まれる領域について解説します。
7q11.23欠失(ウィリアムズ症候群)
7q欠失の中でも最もよく知られているのが、7q11.23という領域が微細に欠失する「ウィリアムズ症候群」です。非常に社交的で人懐っこい性格、音楽への関心、心血管系の特徴などが知られています。
7q21欠失(裂手・裂足に関連)
この領域には手足の形成を司る遺伝子群があり、前述した手足の形態異常が見られる可能性が高くなります。
7q31欠失(言語発達に関連:FOXP2遺伝子)
7q31領域には、言葉の習得に極めて重要なFOXP2遺伝子が存在します。ここが欠失すると、言葉を滑らかに話すことが難しい「発語失行(はつごしっこう)」などの顕著な言語障害が現れることが知られています。
7q36欠失(SHH遺伝子と全前脳胞症)
長腕の末端に近い7q36領域には、脳や顔の中心部を作るのに重要なSHH(ソニック・ヘッジホッグ)遺伝子があります。ここが失われると、脳の形成不全(全前脳胞症)や、重度の顔面奇形を伴うことがあります。
4. 原因:なぜ起こるのか
診断を受けた際、ご両親が「妊娠中の行動が悪かったのではないか」と自責の念に駆られることがありますが、それは明確な誤解です。
突然変異(de novo変異)
7q欠失の多くは、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精卵が細胞分裂を繰り返す初期段階で、偶発的に発生する「突然変異」です。これを専門用語でde novo(デ・ノボ)変異と呼びます。 これは誰の身にも、どのような環境でも一定の確率で起こりうる自然の事象です。ご両親の年齢、食べ物、薬の服用、ストレスなどが原因で起こるものではありません。
均衡型転座の保持(稀なケース)
ごく稀に、ご両親のどちらかが「均衡型転座(きんこうがたてんざ)」という状態を持っている場合があります。これは染色体の一部が入れ替わっているものの、遺伝情報の総量に過不足がない状態です。 ご本人には症状はありませんが、次世代にお子さんが生まれる際、一部に欠失が生じて受け継がれることがあります。この可能性があるかどうかは、専門医による遺伝カウンセリングと検査によって確認できます。
5. 診断と検査
診断は、臨床的な症状(外見や発達の様子)と、精密な遺伝子検査を組み合わせて行われます。
① 染色体分染法(G-バンド法)
血液中の細胞を培養し、顕微鏡で染色体の数や大まかな形を確認します。比較的大きな欠失であればこの検査で見つけることができます。
② FISH(フィッシュ)法
特定の遺伝子領域が欠失しているかどうかを、光る試薬を使ってピンポイントで確認する検査です。ウィリアムズ症候群などの疑いがある場合に使われます。
③ マイクロアレイ検査(染色体定量的検査)
現在、最も推奨される高精度な検査です。
- 特徴: G-バンド法では見つけられないようなごく微細な欠失(マイクロデリーション)を特定できます。
- メリット: 「どの遺伝子が、どの範囲で失われているか」を詳細なデータとして得られるため、将来起こりうる合併症の予測や、適切な療育方針の決定に役立ちます。

6. 治療と管理:健やかな成長を支えるために
現在の医学では、失われた染色体そのものを元に戻す「根治的な治療法」はありません。しかし、個々の症状に合わせた適切なケア(対症療法)と早期の介入を行うことで、お子さんの可能性を最大限に引き出すことができます。
多職種による連携チーム
7q欠失のお子さんのケアには、多くの専門家が連携して関わることが重要です。
- 小児科(遺伝外来): 全体的な発育の管理と、各診療科の橋渡しを行います。
- リハビリテーション科(PT/OT/ST):
- 理学療法(PT): ハイハイや歩行などの粗大運動を助けます。
- 作業療法(OT): 手先の動きや日常生活動作を練習します。
- 言語聴覚療法(ST): 言葉の理解や発信、そして「食べる力(嚥下)」をサポートします。
- 整形外科: 手足の形態に特徴がある場合、機能維持のための手術や装具を検討します。
- 眼科・耳鼻科: 斜視や難聴の有無を定期的にチェックします。
発達支援(療育)の重要性
「療育」とは、お子さんの発達段階に合わせたトレーニングを行い、社会生活を送りやすくするための支援です。
- 個別支援計画: 園や学校と連携し、情報の視覚化(絵カードの使用など)や、落ち着ける環境作りを依頼します。
- 代替コミュニケーション: 言葉でのコミュニケーションが難しい場合は、サインやタブレット端末を使った意思伝達を積極的に取り入れることで、お子さんのフラストレーションを減らすことができます。
7. まとめ:知っておきたいポイント
- 個別性が極めて強い: 「7q欠失」という名前が同じでも、症状は一人ひとり異なります。教科書通りの症状がすべて出るわけではありません。
- ゆっくり着実に成長する: 他の子と比べるのではなく、その子自身の「昨日との違い」を見つめることが大切です。
- 早期介入の効果: 早くからリハビリや療育に取り組むことで、将来の生活の質(QOL)が大きく向上します。
- 定期的な医学的チェック: 欠失領域によっては内臓や感覚器の合併症に注意が必要ですが、定期受診で適切に管理可能です。
8. 家族へのメッセージ
診断名を聞かされた瞬間、目の前が暗くなり、将来への希望が見えなくなるような気持ちになられたかもしれません。しかし、どうか知っておいてください。
お子さんは、染色体の番号だけで決まる存在ではありません。
7q欠失のお子さんたちも、大好きな食べ物があり、楽しいことで笑い、家族との触れ合いを喜ぶ、豊かでかけがえのない個性を持った一人の人間です。発達がゆっくりであるということは、その分、お子さんができるようになった一つひとつの「できた!」を、より深く、長く家族で喜べるということでもあります。
希少疾患であるがゆえに、身近に同じ悩みを持つ人がおらず、孤独を感じることもあるでしょう。しかし、日本中、そして世界中に同じ7番染色体の特性と共に歩んでいる家族がいます。 近年は、SNSや家族会、あるいは「Unique – The Rare Chromosome Disorder Group」といった国際的な研究団体を通じて、世界中の知見や経験を共有することが可能です。
ご家族が「今できること」を一つひとつ積み重ねていくことが、お子さんにとっての最大の栄養になります。もし迷ったり疲れたりしたときは、主治医や遺伝カウンセラー、地域の相談支援員を頼ってください。
お子さんの歩みは、あなたとの絆を深める大切な時間です。私たちは、あなたとお子さんの未来が、多くの理解と優しさに包まれることを心から願っています。
