22q11.2欠失症候群について

医者
ハート

はじめに

お子様が「22q11.2欠失症候群」という診断を受け、驚きや不安、そして「これからどうなるのだろう」という戸惑いを感じていらっしゃることと思います。

この病気は、以前は「ディジョージ症候群」や「VCFS(心臓・顔貌・皮膚症候群)」など、症状ごとに別々の名前で呼ばれていました。しかし、遺伝子研究の進歩により、これらが同じ原因(染色体の変化)であることが分かり、現在は統一して「22q11.2欠失症候群」と呼ばれています。

このガイドは、診断名に圧倒されそうなご家族が、病気の全体像を正しく理解し、お子様の成長を支えるための「地図」となるように作成しました。医学的な情報だけでなく、生活の中で大切にしてほしいポイントもまとめています。まずは深呼吸をして、一つずつ確認していきましょう。

1. 概要:どのような病気か

最も頻度の高い「染色体の微細欠失」

私たちの体は、約37兆個の細胞でできており、その核の中には「染色体」という遺伝情報の設計図が46本(23対)入っています。 22q11.2欠失症候群は、22番目にある常染色体の長腕(qアーム)の「11.2」という位置のごく一部が欠けてしまう(欠失する)ことで起こります。

  • 頻度: 約2,000人〜4,000人に1人の割合で生まれると言われており、染色体の部分的な欠失による病気の中では最も頻度が高いものです。決して「極めて稀で、誰も知らない病気」ではありません。
  • 特徴: 欠失している部分には、体の様々な器官を作るにの必要な遺伝子(TBX1など約30〜40個)が含まれています。そのため、心臓、免疫、口蓋(口の中の天井)、学習面など、体の複数の場所に症状が現れるのが特徴です。

「症状のデパート」と呼ばれる理由と多様性

この病気の最大の特徴は、「人によって症状の出方や重さが全く違う」という点です。 重い心臓病を持つお子様もいれば、大人になるまで気づかれないほど症状が軽い方もいます。同じ遺伝子の欠失を持っていても、兄弟や親子で症状が異なることも珍しくありません。

2. 主な症状(CATCH22)

この症候群の代表的な症状は、英語の頭文字をとって「CATCH 22(キャッチ・トゥエンティトゥー)」と覚えられてきました。しかし、これ以外にも多様な症状があります。

① 心疾患(Cardiac defects):約70〜80%

生まれつき心臓の構造に何らかの問題を持つことが多いです。

  • ファロー四徴症: 心臓の部屋を隔てる壁に穴が開いているなどの4つの特徴を持つ病気。
  • 大動脈弓離断、総動脈幹症: 血管のつながり方の異常。
  • 心室中隔欠損症: 心臓の壁に穴が開いている状態。
  • 対応: 多くの場合は、乳児期から幼児期にかけて手術が必要になりますが、現在の心臓血管外科の手術技術は非常に進歩しており、予後は良好なケースが多いです。

② 特徴的な顔貌(Abnormal facies):多くの患者さん

お顔立ちにいくつかの共通する特徴が見られますが、「パッと見てすぐに病気だと分かる」ほど目立つものではありません。 成長とともに目立たなくなることも多いです。

  • 耳の位置が少し低い、耳の形が特徴的。
  • まぶたが少し腫れぼったい。
  • 鼻根部(鼻の付け根)が太い、など。
  • ご家族へ: これらは「ごくわずかな特徴」であり、お子様の可愛らしさを損なうものではありません。

③ 胸腺低形成・免疫機能低下(Thymic hypoplasia):約60〜70%

胸骨の裏側にある「胸腺(きょうせん)」という臓器が小さい、または欠損していることがあります。胸腺は、体を守る免疫細胞(T細胞)を育てる学校のような場所です。

  • 症状: 風邪をひきやすい、中耳炎を繰り返す、治りにくいなど。
  • 経過: 多くの場合、成長とともに他の免疫機能が補うようになるため、極端な免疫不全が続くことは稀です。ただし、生ワクチンの接種(BCG、MR、水痘など)については主治医と相談が必要です。

④ 口蓋裂・鼻声(Cleft palate):約70%

口の中の天井部分(口蓋)に問題があることがあります。

  • 粘膜下口蓋裂: 表面の粘膜はつながっているけれど、その下の筋肉や骨が割れている状態です。見た目では分かりにくいですが、「おっぱいを飲むのが下手(鼻から漏れる)」「言葉がフガフガして聞き取りにくい(開鼻声)」といった症状で気づかれます。
  • 哺乳障害: 赤ちゃんの頃、ミルクを飲むのに時間がかかったり、むせやすかったりすることがよくあります。

⑤ 低カルシウム血症(Hypocalcemia):約50%

喉にある「副甲状腺」の働きが弱く、血液中のカルシウム濃度が下がることがあります。

  • 症状: 手足の震え、けいれん発作など。
  • 対応: 新生児期に一時的に見られることが多いですが、生涯にわたってカルシウム剤やビタミンD製剤の補充が必要な方もいます。

⑥ 発達と学習、精神面の特徴

  • 運動発達: 全体的にゆっくりな傾向があります(首すわり、歩き始めなど)。
  • 言葉: 言葉が出始めるのが遅いことが多いです。
  • 学習: 多くの患者さんで軽度の知的発達症(知的障害)や学習障害LD)が見られます。特に算数や抽象的な概念の理解が苦手な傾向があります。一方で、記憶力や言語能力(お喋り)は比較的得意な子が多いです。
  • 精神面: 不安を感じやすい、こだわりが強いなど、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDの特性を持つことがあります。また、思春期以降、統合失調症などの精神疾患を発症するリスクが一般より高いことが知られています。

⑦ その他の合併症

  • 腎臓: 片方の腎臓がない、形が違うなど。
  • 耳・鼻・喉: 中耳炎を繰り返す、難聴など。
  • 筋骨格: 側弯症(背骨が曲がる)など。

3. 原因と遺伝

なぜ起こるのか

22番染色体の欠失は、ほとんどの場合、**突然変異(de novo:デ・ノボ)**によって起こります。 精子や卵子が作られる過程、あるいは受精卵が細胞分裂を始めた直後に、偶然のエラーとして染色体の一部が失われてしまったものです。

大切にお伝えしたいこと: お母様の妊娠中の食事、運動、ストレス、薬の服用、仕事などが原因で起こったものでは決してありません。「親のせいでなった」と自分を責める必要は全くありません。

遺伝の可能性

  • 約90%: ご両親の遺伝子には異常がなく、お子様の代で初めて発生した(孤発例)ケースです。この場合、次のお子様が同じ病気になる確率は、一般の夫婦とほとんど変わりません。
  • 約10%: ご両親のどちらかが、実は軽度の22q11.2欠失症候群を持っており(診断されていないことも多い)、それがお子様に遺伝したケースです。
    • この病気は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとるため、親御さんがこの欠失を持っている場合、お子様に遺伝する確率は50%となります。

※次のお子様を希望される場合など、詳しくは臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

医者

4. 診断と検査

FISH法(フィッシュ法)

以前から行われている検査です。「22q11.2領域」があるかどうかをピンポイントで調べます。結果が出るのが比較的早いです。

マイクロアレイ染色体検査(CMA)

現在、主流となっている精密検査です。染色体の全領域を細かくスキャンします。欠失の有無だけでなく、欠失している範囲の大きさなども正確に分かります。

なぜ診断が必要なのか

「遺伝子の病気なら治らないのに、診断する意味があるの?」と思われるかもしれません。 しかし、早期に診断がつくことには大きなメリットがあります。

  1. 隠れた合併症を見つけられる: 見た目では分からない低カルシウム血症や腎臓の問題などを早期に発見し、治療できます。
  2. 適切なサポートを受けられる: 言葉の遅れや学習の困難さに対して、早期から療育的支援を開始できます。
  3. 見通しが立つ: 将来起こりうるリスク(精神面など)を知っておくことで、変化があった時にすぐに対応できます。

5. 治療と管理:年代別のポイント

染色体の欠失そのものを修復する治療法はありませんが、それぞれの症状に対する治療法は確立されています。「完治」ではなく「管理(マネジメント)」という視点で、お子様のQOL(生活の質)を高めていきます。

チーム医療が重要

心臓、免疫、内分泌、形成外科、耳鼻科、小児科、精神科、リハビリテーション科など、多くの診療科が連携してサポートします。かかりつけの小児科医を「司令塔」として、専門医と連携を取ることが大切です。

年代別のケアの目安

乳児期(0〜1歳)

  • 最優先: 心疾患の治療と手術、低カルシウム血症の管理。
  • 栄養: ミルクの飲みが悪かったり、吐き戻したりしやすいため、栄養管理を行います。
  • 感染予防: 免疫機能を確認し、必要であれば感染対策を強化します(シナジス注射など)。

幼児期(1〜6歳)

  • 言葉と聞こえ: 言葉の遅れや発音の不明瞭さ(鼻声)が気になり始めます。中耳炎による難聴がないかチェックし、必要に応じて言語聴覚士(ST)による言語療法を開始します。
  • 口蓋の手術: 粘膜下口蓋裂があり、言葉への影響が大きい場合は、手術(咽頭弁形成術など)を検討します。
  • 発達支援: 療育センターなどに通い、運動や社会性の発達を促します。

学童期(6〜12歳)

  • 学習支援: 算数や抽象的な文章題につまずくことがあります。通常の学級で通級指導教室を利用したり、支援学級を選択したりと、お子様の特性に合わせた環境調整が必要です。「怠けている」のではなく「特性」であることを学校側に理解してもらうことが重要です。
  • 足の痛み: 「足が痛い」と訴えることがありますが、成長痛や偏平足などが原因のことが多いです。整形外科でインソールを作成することもあります。

思春期・青年期(12歳〜)

  • メンタルヘルス: 不安、引きこもり、急激な性格の変化などが見られたら、早めに精神科や心療内科に相談します。
  • 脊椎側弯症: 学校検診などで背骨の曲がりがないかチェックします。
  • 移行期医療: 小児科から成人の診療科へ、スムーズに移行できるよう準備を始めます。

6. まとめ

22q11.2欠失症候群は、多様な顔を持つ病気ですが、医学的な管理法は非常によく整備されています。

  1. 全体像: 最も頻度の高い染色体微細欠失症候群です。
  2. 症状: 心臓、免疫、カルシウム、口蓋、発達など多岐にわたりますが、全員に全てが出るわけではありません。
  3. 原因: 多くは突然変異であり、親御さんのせいではありません。
  4. 対策: 症状に合わせた対症療法と、年齢に応じた療育・教育的支援で、豊かな人生を送ることができます。

7. 診断を受けたご家族へのメッセージ

「22q11.2欠失症候群」という診断名は、お子様の一部を表しているに過ぎません。 お子様は「症候群そのもの」ではなく、笑顔が素敵だったり、音楽が好きだったり、優しい性格だったりする、かけがえのない一人の人間です。

インターネットで検索すると、重篤な症状や将来の精神疾患のリスクなど、怖い情報ばかりが目に入ってくるかもしれません。しかし、インターネット上の情報は「可能性のあるすべてのこと」を羅列しているため、必ずしもあなたのお子様に当てはまるとは限りません。 実際に多くの患者さんが、手術を乗り越え、学校に通い、趣味を楽しみ、仕事をして、社会の一員として生活しています。

この病気は、比較的患者数が多いため、日本国内にもしっかりとした「親の会(家族会)」が存在します。 先輩家族の話を聞くことは、医師の説明以上に、具体的な生活のイメージや安心感を与えてくれるはずです。

  • 22ハートクラブ: 22q11.2欠失症候群の患者家族会です。交流会や勉強会を行っています。
  • 専門医のサポート: 日本にはこの症候群の診療に詳しい専門医が各地にいます。

今日、すべてのことを理解して決める必要はありません。お子様の成長に合わせて、一つひとつ課題をクリアしていけば大丈夫です。医療チームも、支援者も、そして同じ経験を持つ仲間も、みんなあなたの味方です。 お子様のこれからの人生が、たくさんの笑顔と希望で満たされることを心から応援しています。

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