お子さまが「22q13欠失症候群」、あるいは「フェラン・マクダーミド症候群(Phelan-McDermid Syndrome)」と診断され、聞き慣れない言葉に不安を感じていらっしゃるかもしれません。
結論からお伝えします。この病気は22番染色体の長腕末端(22q13)が欠けることで、脳の発達に関わるSHANK3遺伝子がうまく働かなくなり起こる染色体疾患です。筋緊張の弱さや言葉の遅れ、自閉スペクトラム症に似た行動が特徴ですが、症状の重さや組み合わせは一人ひとり異なります。
この記事では、原因となる染色体の変化から、混同されやすい「22q13重複症候群」との違い、症状、遺伝形式、出生前診断・NIPTとの関係、確定診断までの流れ、治療とご家族への支援までを整理します。米国国立衛生研究所(NIH)のGARD・MedlinePlus、日本の遺伝性疾患情報GRJ、公益社団法人日本産科婦人科学会(JSOG)などの公的機関・学術情報にもとづいてお伝えします。断片的な情報に振り回されず、一つずつ確認していきましょう。
💡 この記事でわかること
- 22q13欠失症候群(フェラン・マクダーミド症候群)がどのような染色体の変化なのか
- 混同されやすい「22q13重複症候群」との違い
- 筋緊張低下・言葉の遅れ・痛覚鈍麻を中心とした主な症状の頻度
- 遺伝形式(デノボと家族内伝達)と次のお子さまへの影響の考え方
- 出生前診断・NIPTでこの病気が対象になるかならないか
- 診断後の治療方針とご家族への支援の選択肢

1. 22q13欠失症候群(フェラン・マクダーミド症候群)とは
22番染色体の長腕末端(22q13)が欠けることで、脳の発達に関わるSHANK3遺伝子の働きが低下し、様々な症状が現れる染色体疾患です。
私たちの体の細胞には46本(23対)の染色体があり、22番染色体の長腕末端に位置するSHANK3遺伝子は、神経細胞同士がつながる「シナプス」を形作るための設計図です。米国国立衛生研究所(NIH)の希少疾患情報センターGARDによると、この欠失によって発達の遅れ・知的障害・言語障害といった中核症状が引き起こされます。
米国の遺伝学情報サイトMedlinePlusによれば、世界で2,200人を超える方がこの診断を受けています。日本の遺伝性疾患情報GRJ(遺伝性疾患情報リソース)は、22q13.3の微小欠失について「知的障害を示す患者に見られるサブテロメア領域の染色体不均衡のなかで2番目に多い」と紹介しています。まれな病気ではありますが、決して前例のない病気ではありません。
正確な発生頻度は、まだ分かっていません。症状が自閉スペクトラム症や知的障害と重なるため、診断がついていない方も少なくないと考えられています。知的障害や自閉スペクトラム症のある方のうち、約1〜2%がこの症候群にあたるという研究報告もあります。
呼び名について
以前は「22q13欠失症候群」と呼ばれていましたが、近年は発見者の名前にちなんだ「フェラン・マクダーミド症候群(PMS)」という呼称が世界的に広がっています。この記事でも両方の名称を用います。
2. 「22q13重複症候群」との違い(混同に注意)
名前が似ている「22q13重複症候群」は、22q13領域が「余分に増える」病気であり、本記事の「欠失(失われる)」症候群とは原因も症状の傾向も異なります。検査結果や記事タイトルを見比べる際は、まず「欠失」か「重複」かを確認してください。
| 比較項目 | 22q13欠失症候群(本記事) | 22q13重複症候群 |
|---|---|---|
| 染色体の変化 | 22q13領域が失われる(欠失) | 22q13領域が余分に増える(重複) |
| SHANK3への影響 | 機能低下(ハプロ不全)が中心 | 過剰発現が関与するとされる |
| 代表的な症状 | 筋緊張低下・重度の言語遅滞・自閉傾向 | 症状の幅が広く、軽度〜重度まで個人差が大きい |
| 報告数 | 世界で2,200例超(MedlinePlus) | 欠失より報告例が少ない |
どちらも22番染色体の同じ領域に関わる変化ですが、「欠ける」のか「増える」のかで見通しは変わります。関連疾患について詳しく知りたい方は、あわせてご確認ください。
3. 主な症状(頻度別に整理)
筋緊張低下と重度の言語発達遅滞がほぼ全例に見られる一方、症状の組み合わせや重さは一人ひとり大きく異なります。GARD・MedlinePlusが示す頻度の目安を表にまとめました。
| 発生頻度の目安 | 主な症状 |
|---|---|
| 95%超 | 新生児期の筋緊張低下、広汎性発達障害、発語なし〜重度の言語発達遅滞 |
| 75%超 | 肉厚で大きな手、爪の形成異常、痛覚鈍麻、自閉スペクトラム症様の行動 |
| 50%超 | 長頭、まつ毛が長い、発汗低下、哺乳障害 |
| 25%超 | 斜視、腎異常、胃食道逆流、けいれん・てんかん様発作 |
特にご家族に知っておいていただきたいのが、痛みに対する鈍感さです。転んでも泣かない、骨折や中耳炎があっても普段通りに過ごすことがあります。「泣いていないから大丈夫」と思い込まず、入浴時などに体を定期的に確認する習慣が安全につながります。
言葉の遅れについては、話すことは苦手でも、相手の言っていること(受容言語)は比較的理解できているお子さまが多いとされます。理解力と表出力のギャップを踏まえたコミュニケーション支援が、後の章で触れるAAC(拡大代替コミュニケーション)につながります。
表に挙げた症状のほかに、見落とされやすいのが睡眠の問題です。寝つきが悪かったり、夜中に何度も目を覚ましたりして、生活リズムが整いにくいことがあります。あわせて、便秘や吐き戻し、周期的に嘔吐を繰り返す症状、足などがむくみやすいリンパ浮腫、腎臓が腫れる水腎症などが見られる場合もあります。
4. 原因と遺伝形式(デノボと家族内伝達)
大半は偶発的な突然変異(デノボ)で生じますが、一部は親から受け継がれるため、次のお子さまへの影響は家系によって異なります。
デノボ(偶発的な変化)のケース
MedlinePlusによると、22q13.3の末端欠失・中間部欠失は約80%を占め、その大多数はデノボ(新生突然変異)として生じます。精子や卵子が作られる過程、あるいは受精後まもない細胞分裂の際に、偶然のエラーとして起こるものです。妊娠中の食事、運動、ストレス、薬の服用などお母様の行動が原因で起こったものでは決してありません。誰のせいでもない、自然発生的な現象です。
不均衡転座・環状染色体・家族内伝達
残り約20%は、不均衡型の染色体転座やリング染色体(環状22番染色体)などの構造変化に由来します。GRJによると、この転座に由来するケースのうち約半数はデノボで、残り約半数は「均衡型転座保因者」である親から受け継がれています。MedlinePlus全体でみると、約15〜20%が均衡型転座を持つ無症状の親から遺伝すると報告されています。遺伝形式は常染色体顕性遺伝(一つの親から一組の変化を受け継ぐ形式)に分類されます。ごくまれに、無症状のモザイク(一部の細胞だけに変化がある状態)を持つ母親からの遺伝例も報告されています。
私自身、外来で希少な染色体疾患のお子さまを持つご家族から、次子について相談を受けることがあります。ご両親の染色体検査の結果が分かるだけでも、次の妊娠に向けた見通しを立てやすくなると感じています。次のお子さまへの影響が気になる場合は、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングをご検討ください。
5. 出生前診断・NIPTとの関係
一般的な基本NIPTが調べるのは21・18・13トリソミーという染色体の「数」の変化が中心で、22q13欠失のような微小欠失は対象に含まれません。微小欠失まで対象を広げた拡大検査であっても、この領域を名指しで検査対象に含むかどうかは検査会社やプランによって異なります。
22q11.2欠失症候群のように比較的頻度が高く広く知られた微小欠失は、拡大プランの対象に含まれることが多い一方、22q13欠失症候群を含む多くの微小欠失は、検査会社ごとの対象範囲一覧を確認しないと分かりません。ご自身が検討しているプランがどの領域まで調べるものか、事前に確認してください。
私たちヒロクリニックNIPTにも、「微小欠失まで調べる検査で、聞いたことのない領域が候補に挙がったらどうすればよいか」というご相談が寄せられることがあります。まず知っていただきたいのは、NIPTはあくまで非確定的なスクリーニング検査だという点です。
公益社団法人日本産科婦人科学会のNIPTに関する指針でも、NIPTの結果はスクリーニング(非確定的)検査の範囲にとどまるとされています。GARDも、22q13欠失のリスクが高い妊娠に対する出生前診断は、絨毛検査(CVS)または羊水検査で胎児細胞を採取し、マイクロアレイ検査(CMA)やFISH法で調べる方法を挙げており、NIPTについての記載はありません。微小欠失は対象範囲が広くなるほど、陽性であっても実際に疾患を有する割合(陽性的中率)が下がりやすい傾向も知られています。
NIPTの拡大検査で微小欠失の陽性所見が出た場合、流れは次の通りです。まず遺伝カウンセリングで結果の意味を確認します。その上で、羊水検査による染色体マイクロアレイ検査(CMA)を受けるかどうかを判断します。あわてて結論を出さず、専門家と一緒に一つずつ整理してください。
6. 診断が確定するまでの流れ
確定診断には、染色体マイクロアレイ検査(CMA)という精密検査が中心的な役割を果たします。
染色体マイクロアレイ検査(CMA)
従来の顕微鏡による染色体検査(Gバンド分染法)では見つけられないような、数百kbから数Mb単位の微細な欠失を検出できる検査です。GRJは、CMAについて「感度、精度ともにより高い」検査だと位置づけています。欠失している範囲がどこからどこまでか、SHANK3が含まれているかまで詳細に分かります。羊水検査とマイクロアレイ検査の関係については羊水検査によるマイクロアレイ検査の解説記事で詳しく整理しています。
FISH法・Gバンド分染法・両親の検査
特定の領域を光らせて確認するFISH法は、2種類のプローブを併用することでほぼ100%の検出が可能とGRJは説明しています。Gバンド分染法は、欠失が2Mb以上かつ高い精度の分染レベルがある場合に限り検出できます。あわせて両親の血液検査を行うことで、デノボなのか家族内で伝わったものなのかを判別できます。
出生後の評価
診断後は、腎臓の超音波検査、脳波検査によるてんかんの有無の確認、発達検査、聴力や消化器症状のチェックを組み合わせて、お子さまの状態を総合的に把握していきます。

7. 治療とサポート(早期療育・合併症の管理)
失われた染色体やSHANK3遺伝子を元に戻す根治的な治療法はまだ確立されていませんが、早期療育と合併症管理によって、お子さまの生活の質を大きく高められます。
療育・リハビリテーション
診断がついたら、できるだけ早く療育(発達支援)を始めることが望まれます。理学療法(PT)は筋緊張低下に対して歩行や姿勢保持を支え、作業療法(OT)は手先の動きや感覚統合を助けます。言語聴覚療法(ST)では、言葉の発達だけでなく、絵カードやタブレット端末を使ったAAC(拡大代替コミュニケーション)で「伝える楽しさ」を育てます。理解力が比較的高いお子さまが多いため、こうしたツールで意思疎通がスムーズになることがよくあります。自閉スペクトラム症様の行動への向き合い方は、NIPTと発達障害の関係を整理した記事もあわせてご覧ください。
医療的な管理
- 神経内科: 脳波検査でてんかんの兆候を定期的に確認し、発作があれば抗てんかん薬でコントロールします。
- 腎臓・泌尿器科: 超音波検査で腎臓の形や機能を確認します。
- 消化器科: 胃食道逆流や便秘に対して、お薬でコントロールします。
- 睡眠・生活リズム: 寝つきや夜間の目覚めが続く場合は、メラトニンなどの睡眠を助けるお薬や、生活リズムの調整で対応します。
てんかんはおよそ4人に1人を超える頻度で報告されており、油断はできません。定期的な検診で早期に発見し、対処することが安心につながります。
日常生活での注意点
痛みに鈍感なため、大きな怪我をしていても気づかないことがあります。お風呂の時間などに体をチェックする習慣をつけてください。発汗低下により暑さに弱い体質のお子さまも多いため、夏場はこまめな水分補給と室温管理を心がけましょう。稀に、思春期や成人期、強いストレス下でこれまで出来ていたことが出来なくなる「退行」が見られることもあります。日々の小さな変化に気づけるよう、記録をつけておくと担当医への相談がスムーズです。
8. 予後と見通し
症状の組み合わせや重さに個人差が大きいため、長期的な見通しを一律に断定することはできません。心疾患や重度のてんかん、腎臓の合併症の有無が、生活の質を左右する要因の一つとされています。
基本的には進行性の病気とはされていませんが、前章で触れた通り、まれに退行が見られることがあります。多くの患者さんは成人し、家族や支援者のサポートを受けながら、療育の成果を積み重ねて生活しています。研究面では、SHANK3遺伝子の機能を回復させる薬剤や治療法の研究が世界中で進められています。
具体的には、シナプスの働きを補うインスリン様成長因子1(IGF-1)を用いた治療や、遺伝子治療の研究が海外で進んでいます。一部では治験も始まっています。まだ一般の診療で使える段階ではありませんが、将来の選択肢として期待が寄せられています。
9. ご家族への支援と、次のお子さまを考えるときに
希少疾患ゆえの孤独感は大きいものですが、遺伝カウンセリングや患者会など、頼れる場所は複数あります。
近所で同じ病気のお子さまを見つけるのは難しいかもしれません。それでも、世界的な患者団体であるPhelan-McDermid Syndrome Foundation(PMSF)や、国内でSNSなどを通じてつながる家族会の情報交換は活用できます。医療的な管理は医師や療育スタッフに任せ、ご家族の役割は、目の前のお子さまの小さな成長を一緒に喜ぶことだと私は考えています。
経済的な負担や制度面の不安を感じる方も多いはずです。日本では22q13欠失症候群は、国の指定難病や小児慢性特定疾病の対象となる場合があります。申請には重症度などの基準があるため、まずは主治医や医療ソーシャルワーカーにご相談ください。使える制度が分かるだけでも、気持ちが少し軽くなることがあります。
診断は「レッテル」ではなく、お子さまをより深く理解し、適切なサポートをするための「地図」です。痛みに気づきにくいこと、言葉が出にくい理由がわかれば、してあげられることが具体的に見えてきます。焦らず、お子さまのペースに合わせて、一日一日を大切に過ごしてください。
他の染色体微小欠失症候群について気になる方は、あわせてご確認ください。
微小欠失全般が心配な方は染色体の微細な異常がもたらすリスクについての記事も参考になります。
次のお子さまに向けてNIPTを検討する場合、微小欠失をどこまで対象に含むかでプランの内容が変わります。ご自身に合うプランが分からない場合は、プラン診断を試してみてください。お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
22q13欠失症候群とフェラン・マクダーミド症候群は同じ病気ですか。
同じ病気です。以前は「22q13欠失症候群」と呼ばれていましたが、近年は発見者にちなんだ「フェラン・マクダーミド症候群(PMS)」という呼称が世界的に広がっています。
22q13欠失症候群はNIPTでわかりますか。
標準的な基本NIPT(21・18・13トリソミー)の対象には含まれません。微小欠失まで対象を広げた拡大検査でも、名指しで対象に含むかは検査会社やプランによって異なります。NIPTは非確定的な検査のため、陽性所見が出た場合は羊水検査などの確定検査で判断します。
22q13重複症候群とは違う病気ですか。
別の病気です。本記事の欠失症候群は22q13領域が失われることで起こりますが、重複症候群は同じ領域が余分に増えることで起こります。原因も症状の傾向も異なるため、検査結果の「欠失」「重複」の表記を確認してください。
遺伝性の病気ですか。次の子にも影響しますか。
約80%を占める末端・中間部欠失の多くはデノボ(偶発的な変化)で、次のお子さまへの再発リスクは一般的に低いとされます。残り約20%は転座など構造変化に由来し、その一部は親から受け継がれます。全体では約15〜20%が均衡型転座を持つ親から遺伝すると報告されているため、遺伝カウンセリングで確認してください。
どのような検査で確定診断されますか。
染色体マイクロアレイ検査(CMA)が中心です。従来の顕微鏡検査では見逃されるような微細な欠失も発見でき、必要に応じてFISH法や両親の検査で確認します。
自閉スペクトラム症とは別の病気ですか。
別の病気です。ただしGARDによると、多くの患者さんに自閉スペクトラム症に似た対人関係の特性や感覚の偏りが見られます。行動特性への向き合い方は自閉スペクトラム症の支援と共通する部分が多く、早期の療育が助けになります。
監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、GARD・MedlinePlus・GRJ・日本産科婦人科学会などの公的機関・学会情報を参照して作成しています。記載の頻度・数値は報告例が少なく文献により幅があり、診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本小児科学会認定 出生前コンサルト小児科医/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本アレルギー学会 所属/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
