早期乳児てんかん性脳症4型(Early Infantile Epileptic Encephalopathy 4:EIEE4)という診断を受けたばかりのご家族、あるいはこの疾患について情報を探されている方へ。
大切なお子さんが「てんかん性脳症」という重い病名を受け、戸惑いや不安、そして将来への懸念で胸がいっぱいになっていることとお察しします。EIEE4は、遺伝子の変化によって引き起こされる非常に稀な疾患であり、医療従事者の間でも最新の知見が常に更新されている分野です。
この記事では、EIEE4の正体、原因、そしてお子さんと共に歩んでいくための治療や管理について、4200字を超える詳細な解説をお届けします。専門的な内容も含まれますが、できるだけ噛み砕いて説明しますので、一つずつ確認していきましょう。
1. 概要:どのような病気か
早期乳児てんかん性脳症4型(EIEE4)は、生後間もない時期、あるいは乳児期の非常に早い段階で激しいてんかん発作が始まり、それに伴って知的な発達や運動機能の発達に深刻な影響を及ぼす疾患です。
現在では、遺伝子解析技術の進歩に伴い、特定の遺伝子名に基づいた「STXBP1関連脳症」あるいは「STXBP1異常症」と呼ばれることが多くなっています。
「てんかん性脳症」という言葉の意味
「てんかん」と「てんかん性脳症」は少し意味合いが異なります。
- てんかん: 脳の神経細胞が一時的に過剰に興奮することで、繰り返し発作が起こる状態です。
- てんかん性脳症: 頻発する激しいてんかん発作そのものが、脳の正常な働きを妨げ、発達の遅れや退行(今までできていたことができなくなること)を引き起こしてしまう状態を指します。
つまり、EIEE4は単に「発作が起きる病気」ではなく、脳のネットワーク形成や発達そのものに深く関わる疾患なのです。
歴史と背景
かつて、生後まもなく発症する重症てんかんは、脳波のパターンなどから「大田原症候群」や「ウエスト症候群」といった症候群名で分類されてきました。しかし、2008年に日本の研究グループによって、これらの一部が「STXBP1」という遺伝子の変異によって引き起こされることが突き止められました。これがEIEE4の発見です。
現在では、EIEE4は単一の症状を示すものではなく、幅広い発達の特性や運動障害を含む「スペクトラム(連続体)」として捉えられています。
2. 主な症状:具体的な特徴
EIEE4の症状は、てんかん発作、発達の遅れ、そして運動障害の3つの柱に分けられます。
① てんかん発作
発作は生後数日〜数ヶ月以内に始まることが一般的です。
- 強直発作(きょうちょくほっさ): 体が急に硬くなり、数秒から数十秒持続します。
- 点頭てんかん(てんとうてんかん): 頭をカクンと下げる、あるいは両手を広げるような動作を短期間に繰り返す発作です(シリーズ形成)。
- 焦点発作(しょうてんほっさ): 体の一部がピクついたり、視線が一点に固定されたりする発作です。
これらの発作は薬でコントロールしにくい「難治性(なんちせい)」であることが多く、一日に何度も繰り返される場合があります。
② 発達の遅れと知的障害
ほぼすべてのお子さんに、重度の発達遅滞が見られます。
- 運動発達: 首すわり、お座り、歩行といった基本的な運動機能の獲得が大幅に遅れる、あるいは獲得が難しい場合があります。
- 言語発達: 言葉によるコミュニケーションが困難なことが多く、指差しや表情など、非言語的なコミュニケーションが中心となることが多いです。
- 知的障害: 多くのケースで重度の知的障害を伴います。
③ 運動障害と筋緊張の異常
てんかんとは別に、神経のコントロールがうまくいかないことによる症状が現れます。
- 筋緊張低下(きんきんちょうていか): 赤ちゃんの頃、体がぐにゃぐにゃとしていて柔らかい状態(フロッピーインファント)が見られます。
- 失調(しっちょう): 体のバランスを取るのが難しく、座ったり歩いたりする際にふらつくことがあります。
- 不随意運動(ふずいいうんどう): 自分の意思とは無関係に、手足が震えたり(振戦)、くねくねと動いたりすることがあります。
④ その他の随伴症状
- 睡眠障害: 夜中に何度も目が覚める、寝付きが非常に悪いといった症状が見られることがあります。
- 自閉傾向: 目が合いにくい、特定のこだわりがあるなど、自閉スペクトラム症(ASD)に似た特徴が現れることがあります。
- 摂食嚥下障害: 飲み込みがうまくいかず、むせやすい、食事が進まないといった問題が生じることがあります。
3. 原因:STXBP1遺伝子の役割
EIEE4の直接的な原因は、第9番染色体にあるSTXBP1遺伝子の変異です。この遺伝子が脳の中でどのような役割を果たしているかを知ることは、病気を理解する上で非常に重要です。
神経伝達の「ゲートキーパー」
私たちの脳は、膨大な数の神経細胞(ニューロン)が電気信号を送り合うことで情報を伝えています。この信号が隣の細胞に伝わる場所を「シナプス」と呼びます。
神経細胞の末端には、神経伝達物質(メッセージを運ぶ化学物質)が詰まった「カプセル(小胞)」が待機しています。信号が来ると、このカプセルが細胞の膜と合体(融合)し、中身が外に放出されることでメッセージが伝わります。
STXBP1遺伝子から作られるタンパク質(Munc18-1)は、このカプセルが膜と合体するプロセスを助ける、いわば「ゲートキーパー(門番)」のような役割を担っています。
遺伝子変異で何が起きるのか
EIEE4では、このSTXBP1遺伝子に傷(変異)があるため、正常なタンパク質が半分程度しか作られなくなります(これを「ハプロ不全」と呼びます)。
門番が足りなくなると、神経伝達物質の放出がスムーズに行かなくなります。脳内の「興奮させる信号」と「抑制する(落ち着かせる)信号」のバランスが崩れ、脳が慢性的なパニック状態に陥ることで、激してんかん発作や発達の停滞が引き起こされるのです。
なぜ変異が起きたのか
多くの場合、この変異は「de novo(新規変異)」と呼ばれ、ご両親のどちらにも変異はなく、受精卵が作られる過程で偶然発生したものです。
重要: 妊娠中の生活習慣や食事、育て方などが原因で起きるものではありません。誰のせいでもなく、医学的に防ぐことができない偶発的な出来事です。
4. 診断と検査:正確な評価のために
診断は、症状の観察と精密な検査を組み合わせて慎重に行われます。
① 脳波検査
てんかんに特有の異常な電気活動を調べます。
- 抑制・バースト(Suppression-burst): 高い波(バースト)と、平坦な波(抑制)が交互に現れる特徴的なパターン。大田原症候群で見られます。
- ヒプスアリスミア: 非常に乱れた、高電圧の異常波。ウエスト症候群で見られます。
② 遺伝子検査
診断を確定させるための最も重要な検査です。
- 次世代シーケンシング(NGS): 血液から抽出したDNAを解析し、STXBP1遺伝子に変異があるかどうかを確認します。現在は、多くの関連遺伝子を一度に調べる「パネル検査」や、すべての遺伝子を調べる「全エキソーム解析」が行われます。
③ 画像検査(MRI)
脳の形に異常がないかを調べます。EIEE4の場合、初期のMRIでは目立った異常が見られないことも多いですが、成長とともに脳の容積がわずかに小さく見える(脳萎縮)ことがあります。
④ 発達評価
臨床心理士や小児科医が、お子さんの視線、手の動き、音への反応などを細かく観察し、現在の発達段階を評価します。これは治療方針や療育の計画を立てるための基準となります。

5. 治療と管理:多角的なアプローチ
現在、STXBP1遺伝子の異常そのものを修正する根本的な治療法は確立されていません。しかし、症状を和らげ、お子さんの可能性を広げるための「チーム医療」が行われます。
1. てんかん治療(薬物療法)
発作を抑えるために、抗てんかん薬(AED)を使用します。
- 主な薬剤: フェノバルビタール、バルプロ酸、レベチラセタム、ゾニサミド、ビガバトリンなどが、症状に合わせて組み合わされます。
- ACTH療法: ウエスト症候群(点頭てんかん)の症状がある場合、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の注射治療が行われることがあります。
2. 食事療法(ケトン食療法)
薬だけでは発作が止まりにくい場合、脂肪を多く、炭水化物を極端に少なくした特殊な食事「ケトン食」を行うことがあります。脳のエネルギー源を糖からケトン体に変えることで、発作が抑制されるケースがあります。
3. 外科的治療
脳深部刺激療法や迷走神経刺激療法(VNS)といった、体に小さなデバイスを植え込んで電気刺激を送る治療法が検討されることもあります。
4. リハビリテーション(療育)
脳が柔軟な乳幼児期からリハビリを開始することが、発達を促す上で極めて重要です。
- 理学療法(PT): 体の動かし方、姿勢の保ち方を練習し、運動機能の維持・向上を図ります。
- 作業療法(OT): 手先の動きや、おもちゃを使った遊びを通じて、認知や感覚を刺激します。
- 言語聴覚療法(ST): 飲み込みの練習や、絵カード等を使ったコミュニケーションの練習を行います。
5. 日常生活の管理
- 睡眠管理: 睡眠不足は発作を誘発しやすいため、睡眠リズムを整えることが大切です。
- 感染症対策: 発熱によって発作が悪化することが多いため、予防接種や手洗い、うがいなどの基本的な対策を徹底します。
6. 最新の研究と未来への展望
科学の進歩により、EIEE4(STXBP1関連脳症)に対する新しい治療の研究が加速しています。
- シャペロン療法: 遺伝子の変異によってうまく形が作れないタンパク質を、薬の力で助けて正しく機能させる研究。
- 遺伝子治療: ウイルスなどを使って、正常なSTXBP1遺伝子を脳細胞に届ける研究。
- ASO療法(アンチセンスオリゴ核酸): 遺伝子の読み取り方を工夫し、足りないタンパク質を増やす手法。
これらの多くはまだ臨床試験(治験)の段階ですが、かつて「治らない」と言われていた病気に対して、具体的なアプローチが開発されつつあることは大きな希望です。
7. まとめ
EIEE4(早期乳児てんかん性脳症4型)は、STXBP1遺伝子の変異による、脳の神経伝達のアンバランスが根本にある疾患です。
- 発症: 乳児期の早い段階で激してんかん発作が始まる。
- 特性: 重度の発達遅滞、知的障害、運動障害(筋緊張低下や失調)を伴う。
- 原因: ほとんどが偶然に起きたSTXBP1遺伝子の変異。
- 治療: 発作のコントロール、食事療法、そして早期からの継続的なリハビリが中心。
8. 家族へのメッセージ
「EIEE4」という名前を聞き、お子さんの未来が、あなたの思い描いていたものとは違う形に見えているかもしれません。暗いトンネルの中にいるような、出口のない不安を感じて当然です。
しかし、知っておいていただきたいことがあります。
お子さんは成長します
定型的な発達とはスピードも形も違いますが、お子さんは必ず成長します。初めて目が合った瞬間、わずかに指が動いた瞬間、あなたの声に微笑みを返した瞬間。その一歩一歩は、他の何物にも代えがたい、尊い成長の証です。
専門家のチームがいます
あなたは一人でこの病気と戦う必要はありません。小児神経科医、リハビリ専門職、看護師、そして福祉の専門家たちがチームとなって、お子さんとご家族を支えます。遠慮なく助けを求め、彼らの知識を借りてください。
同じ仲間がいます
世界中でSTXBP1関連脳症と向き合う家族が繋がっています。家族会やSNSなどを通じて、日常の工夫や最新情報を交換し、喜びや悩みを分かち合うことができます。「一人ではない」ということは、大きな心の支えになります。
あなた自身を大切にしてください
お子さんをケアするご家族の心身の健康が、何よりの土台になります。眠れない夜や、心が折れそうな日もあるでしょう。そんな時は、無理をせず「休憩」をとってください。公的な福祉サービス(レスパイトケア)を利用することも、お子さんのための立派な選択肢です。
お子さんのキラキラした瞳や、温かい手のぬくもり。病気というフィルターを通さず、一人の素晴らしい人間として、お子さんと向き合う時間を大切にしてください。その愛情は、お子さんにとって最高の栄養になります。
