ディジョージ症候群2型(10p欠失)

子育て

お子様が「ディジョージ症候群2型(DiGeorge syndrome 2)」、あるいは「10番染色体短腕欠失(10p13 deletion / 10p14 deletion)」という診断を受けたとき、ご家族は大きな混乱と不安を感じられたことでしょう。

ディジョージ症候群って、22番染色体の病気じゃないの?」

「2型ってどういうこと?」「難聴があるかもしれないって本当?」

インターネットで検索しても、出てくる情報のほとんどは「22q11.2欠失症候群(従来のディジョージ症候群)」に関するものであり、この「10番染色体」に起因するタイプについての詳しい日本語情報は非常に少ないのが現状です。

概要:どのような病気か

ディジョージ症候群2型(DGS2)は、ヒトの細胞にある46本の染色体のうち、「10番染色体」の一部が失われている(欠失している)ことによって起こる生まれつきの疾患です。

なぜ「ディジョージ症候群」と呼ばれるのか?

もともと「ディジョージ症候群」とは、以下の3つの特徴(主徴)を持つ病気の総称でした。

  1. 心臓の奇形(円錐動脈幹異常)
  2. 胸腺の低形成(免疫力の低下)
  3. 副甲状腺の低形成(低カルシウム血症)

研究が進むにつれ、この症状を持つ人の90%以上は「22番染色体(22q11.2)」の欠失が原因であることが分かりました(これを現在は22q11.2欠失症候群と呼びます)。

しかし、残りの数%の人たちは22番染色体は正常で、代わりに「10番染色体(10p13-p14)」に欠失があることが分かりました。

症状が非常に似ているため、これを区別して「ディジョージ症候群2型」と呼んでいます。

染色体の「住所」を読み解く

  • Chromosome 10(10番染色体): ヒトの23対の染色体のうち、10番目の染色体です。
  • p(短腕): 染色体にはくびれがあり、短い方を「短腕(p)」、長い方を「長腕(q)」と呼びます。
  • 13-14(領域): 短腕の「13番」から「14番」にかけての領域が欠けていることを意味します。
  • Deletion(欠失): その部分の遺伝情報が抜け落ちている状態です。

「設計図」のページが抜けている状態

染色体を「全46巻の百科事典(体の設計図)」に例えるなら、この症候群は、「第10巻のp13-p14という章のページが抜け落ちてしまっている」状態です。

このページには、心臓や免疫系だけでなく、耳(聴覚)や腎臓の形成に関わる重要な遺伝子(特にGATA3遺伝子)が含まれています。

そのため、一般的なディジョージ症候群の症状に加えて、「難聴」や「腎臓の病気」を合併しやすいのが、この2型の大きな特徴です。

主な症状

ディジョージ症候群2型の症状は、欠失している範囲の大きさや、含まれる遺伝子によって個人差があります。ここでは代表的な症状を解説します。

1. 22q11.2欠失(1型)と共通する症状

ディジョージ症候群」として共通する症状です。

  • 先天性心疾患:
    心室中隔欠損症(VSD)、ファロー四徴症、大動脈弓離断など、心臓の血管や壁の形成異常が見られることが多いです。手術が必要になるケースが一般的です。
  • 免疫機能の低下(胸腺低形成):
    免疫細胞(T細胞)を育てる学校である「胸腺」が小さかったり、なかったりするため、感染症にかかりやすくなることがあります。
  • 低カルシウム血症(副甲状腺機能低下症):
    血液中のカルシウム濃度を調節する「副甲状腺」の働きが弱く、カルシウム値が下がってけいれん(テタニー)を起こすことがあります。

2. ディジョージ症候群2型に特有・多い症状

ここが診断や管理において非常に重要なポイントです。10p欠失特有の症状には以下があります。

  • 感音性難聴:
    内耳(音を感じる神経の部分)の発達不全により、難聴になるリスクが高いです。これは22q欠失(1型)ではあまり見られない特徴です。
  • 腎臓・尿路の異常:
    腎臓が片方しかない(腎欠損)、腎臓の形が悪い(異形成)、尿の通り道が逆流するなど、泌尿器系のトラブルを合併することが多いです。
  • HDR症候群との関連:
    実は、この10p欠失によって起きる「副甲状腺機能低下(H)」「難聴(D)」「腎形成異常(R)」の3つが揃った状態を、医学的には「HDR症候群(別名:バラカット症候群)」と呼びます。
    ディジョージ症候群2型と診断された方は、実質的にこのHDR症候群の特徴も併せ持っていることが多いです。

3. 発達と特徴的なお顔立ち

  • 精神運動発達遅滞:
    首のすわり、お座り、歩行などの運動発達がゆっくりです。
  • 知的障害:
    軽度から中等度、時には重度まで個人差があります。言葉の遅れが見られることが多いですが、これには「難聴」が隠れていて聞こえていないことが原因の場合もあるため、注意が必要です。
  • お顔の特徴:
    目が離れている(眼間開離)、耳の位置が低い、あごが小さい、鼻が上向きであるなどの特徴が見られることがありますが、成長とともにその子らしい個性に馴染んでいきます。

原因:なぜ起きたのか

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、「ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではない」ということです。

1. 突然変異(de novo変異)

ディジョージ症候群2型の多くは、「de novo(デ・ノボ)」と呼ばれる突然変異で起こります。

精子や卵子が作られる過程、あるいは受精後の細胞分裂の非常に早い段階で、偶然染色体の一部が欠落してしまったものです。

誰にでも起こりうる、自然の確率的な現象であり、防ぐことは現代の医学では不可能です。

2. 重要遺伝子:GATA3(ガタ・スリー)

10p14領域には、GATA3という非常に重要な遺伝子が含まれています。

この遺伝子は、体の様々な場所(副甲状腺、内耳、腎臓、胸腺など)を作るための「指揮者」のような役割をしています。

  • GATA3が足りない(ハプロ不全) → 指揮者がいないため、耳や腎臓、副甲状腺がうまく作られない。
    これが、難聴や腎疾患、低カルシウム血症の原因です。

3. 親の染色体転座(まれなケース)

一部のケースでは、ご両親のどちらかが「均衡型転座」という染色体のタイプを持っている場合があります。

  • 均衡型転座: 染色体の場所が入れ替わっているだけで、遺伝情報の量は変わらないため、親御さん自身は健康です。
  • しかし、お子様に染色体を受け渡す際に、バランスが崩れて「不均衡(欠失)」が生じることがあります。
    ※次のお子様を考えている場合など、必要に応じて遺伝カウンセリングで確認することができます。

診断と検査

通常、生まれた時の心疾患や低カルシウム血症によるけいれん、あるいは難聴のスクリーニングなどで医師が疑いを持ち、検査を行います。

1. マイクロアレイ染色体検査 (CMA)

現在、この症候群の確定診断に最も推奨される検査です。

従来の「FISH法(22q用)」では、22番染色体しか調べないため、10番染色体の欠失は見逃されてしまいます(陰性と出てしまいます)。

マイクロアレイ検査は、全染色体のDNA量を調べるため、「10p13-p14の範囲が欠けている」といった正確な診断が可能です。

2. 聴覚検査(ABRなど)

最重要検査の一つです。

DGS2では難聴のリスクが高いため、新生児聴覚スクリーニングをパスしていたとしても、より詳しい検査(聴性脳幹反応:ABRなど)を行うことが推奨されます。言葉の遅れの原因が「聞こえ」にある場合、早期発見が発達のカギになります。

3. 画像検査

合併症を確認するために重要です。

  • 心臓超音波(エコー)検査: 心疾患の有無を調べます。
  • 腹部エコー: 腎臓の形や数を確認します。

4. 血液検査

  • カルシウム値: 低カルシウム血症がないか確認します。
  • 免疫機能: T細胞の数などを調べ、免疫不全の程度を評価します。

治療と管理:これからのロードマップ

失われた染色体を元に戻す治療法(根本治療)は、現代の医療ではまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対する適切な医療的介入(対症療法)と療育を行うことで、お子様の生活の質(QOL)を大きく高めることができます。

1. 心疾患の治療

心臓血管外科や小児循環器科で管理します。穴を塞ぐ手術や、血管をつなぐ手術など、心臓の状態に合わせた治療が行われます。現代の心臓手術の技術は非常に進歩しており、多くのお子様が手術を乗り越えて成長しています。

2. カルシウムと免疫の管理

  • 低カルシウム血症:
    活性型ビタミンDやカルシウム剤を内服し、血液中のカルシウム濃度を正常に保ちます。これにより、けいれんを防ぎます。
  • 免疫不全:
    程度によりますが、生ワクチン(BCG、MR、水痘、おたふくなど)の接種時期や可否について、主治医と慎重に相談する必要があります。重度の場合は予防的な抗生物質の内服や、特別な管理が必要ですが、多くは成長とともに改善傾向を示します。

3. 聴覚・腎臓のケア(DGS2特有)

  • 難聴:
    難聴があると分かった場合は、早期から補聴器を使用し、音や言葉を入力することが、脳の発達にとって極めて重要です。人工内耳が適応になる場合もあります。
  • 腎臓:
    定期的な尿検査や血液検査で腎機能をチェックし、腎臓を守る生活(水分摂取、塩分制限など)を心がけます。

4. 早期療育(ハビリテーション)

脳や体の発達を促すために、専門家によるサポートを受けます。

  • 理学療法 (PT): 体幹を鍛え、運動発達を促します。
  • 言語聴覚療法 (ST): 言葉の遅れに対してアプローチします。特に難聴がある場合は、聴覚活用や視覚的コミュニケーション(サインなど)の指導が重要です。
医者

日々の生活での工夫

ディジョージ症候群2型のお子様との生活で、ヒントになるポイントをまとめました。

  • 「聞こえ」の確認:
    言葉の反応が悪い時、「性格かな?発達障害かな?」と思う前に、「もしかして聞こえにくいのかも?」と疑ってみてください。後ろから呼んでも振り向かない、大きな音に驚かないなどのサインがあれば、耳鼻科を受診しましょう。
  • 感染症対策:
    免疫機能が弱い場合があるため、手洗い・うがいを家族全員で徹底しましょう。風邪をひいた時は、早めに受診して重症化を防ぎます。
  • スモールステップ:
    周りの子と比べず、「半年前のこの子」と比べてください。発達はゆっくりですが、確実に進んでいきます。

よくある質問(FAQ)

Q. 寿命に影響はありますか?

A. 心疾患の重症度や腎臓の状態によりますが、適切な手術や管理が行われれば、長期生存が可能であり、成人して社会生活を送っている方もいらっしゃいます。

Q. 22q11.2欠失(1型)の患者会に入ってもいいですか?

A. はい、お勧めします。原因となる染色体は違いますが、「心疾患」「免疫」「カルシウム」「発達」という共通の悩みが多く、先輩家族から得られる情報は非常に役立ちます。ただし、「難聴」や「腎臓」については10p特有のリスクであることを念頭に置いて情報交換をすると良いでしょう。

Q. 次の子に遺伝しますか?

A. 親御さんの染色体検査の結果によります。両親が正常(de novo変異)であれば、次のお子様が同じ病気になる確率は一般と同じく非常に低いです(1%以下)。親御さんが均衡型転座を持っている場合は確率が変わります。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. ディジョージ症候群2型(DGS2)は、10番染色体(10p13-p14)の欠失による疾患です。
  2. 一般的なDGSの症状(心臓・免疫・Ca)に加え、感音性難聴腎疾患を合併しやすいのが最大の特徴です。
  3. 原因として、GATA3遺伝子の欠失が深く関わっており、HDR症候群と重複する概念です。
  4. 診断にはマイクロアレイ検査が有効です(通常の22qの検査では陰性になります)。
  5. 管理では、心臓・Caに加え、聴覚検査と腎臓エコーが必須です。

家族へのメッセージ

診断名を聞いた直後、ご家族は「心臓」「免疫」「腎臓」「耳」と、体のあちこちに問題がある可能性を告げられ、パニックに近い状態かもしれません。

「どうしてこんなにたくさんのことが…」と途方に暮れてしまうでしょう。

しかし、ディジョージ症候群2型は、一つひとつの症状に対して「何をすればよいか」が明確な病気です。

心臓は外科医が治してくれます。カルシウムは薬で補えます。耳は補聴器が助けてくれます。

それぞれの専門家がチームとなって、お子様の成長を支えます。

お子様は、診断名の枠には収まりません

色々なリスクがあると言われても、目の前にいるお子様は、昨日と変わらず可愛らしい我が子です。

ゆっくりですが、笑顔を見せ、ハイハイをし、おもちゃで遊びます。

病気の部分を管理しながら、その子自身の「好きなこと」「得意なこと」をたくさん見つけてあげてください。

医師、看護師、療法士、心理士、そして患者家族会。あなたの周りには、味方になってくれる人がたくさんいます。

不安なことは聞き、辛い時は吐き出し、周りを頼ってください。

お子様の笑顔を守るために、今日できるケアを一つずつ積み重ねていきましょう。私たちも、その歩みを応援しています。

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