お子様が「裂手・裂足症」、あるいはその中でも特定のタイプである「3型(SHFM3)」という診断を受けたとき、ご家族は驚き、戸惑い、そして「将来、手を使って生活できるのだろうか」という深い不安を感じられたことでしょう。
この疾患は、手や足の指の形に生まれつきの特徴を持つものですが、現代の形成外科手術やリハビリテーションの技術は非常に進歩しています。多くのお子様が、自分の手を器用に使いこなし、勉強し、スポーツを楽しみ、自立した社会生活を送っています。
概要:どのような病気か
裂手・裂足症(Split-hand/foot malformation: SHFM)は、手や足の中央部分の指(中指など)が形成されず、その部分がV字型に深く裂けているような形になる、生まれつきの四肢(手足)の疾患です。
「3型(SHFM3)」とは?
裂手・裂足症には、原因となる遺伝子の場所によっていくつかのタイプ(1型〜6型など)があります。
今回解説するSHFM3は、「10番染色体」の特定の場所に変化があるタイプです。
- 特徴: 他のタイプに比べて、他の臓器の合併症(口唇裂や皮膚のトラブルなど)が少なく、手足の症状だけ(非症候性)であることが多いのが特徴です。
- 頻度: SHFM全体としては約1万〜2万人に1人の割合で見られますが、SHFM3はその中の一つのタイプであり、希少な疾患と言えます。
別名について
医学書やインターネットでは、以下のような名称で呼ばれることがありますが、すべて同じ疾患群を指します。
- 裂手症(Cleft hand)
- 欠指症(Ectrodactyly)
- 以前は「ロブスター爪(Lobster claw)」という表現が使われることもありましたが、現在では患者様の心情に配慮し、差別的なニュアンスを避けるため、この言葉は使われなくなっています。医学的にも「裂手・裂足症」が正式名称です。
主な症状
SHFM3の症状は、左右の手足で違うこともあれば、同じタイプでも個人差が非常に大きいのが特徴です。
1. 手の症状(裂手)
手の形には様々なバリエーションがあります。
- 中心列の欠損:
最も典型的な症状です。中指(第3指)の指や骨が欠損し、手のひらの中央がV字に深く切れ込んでいます。 - 合指症(ごうししょう):
残っている指同士がくっついている状態です。例えば、親指と人差し指、あるいは薬指と小指が癒合していることがあります。 - 指の数:
指が1本〜2本しかない場合もあれば、見た目は4本〜5本あるけれど形が特徴的である場合など、様々です。 - 機能面:
見た目の特徴はありますが、親指と小指が残っている場合などは、「挟む」「掴む」といった動作が驚くほど器用にできることが多いです。
2. 足の症状(裂足)
手と同様の変化が足にも見られることがあります。
- 足の指の欠損・癒合:
足の中央の指がなく、深い切れ込みがあります。 - 歩行への影響:
足の指の形に特徴があっても、かかとや足首の骨格がしっかりしていれば、歩行にはほとんど影響がないケースが大半です。通常の靴を履けることも多いですし、インソール(中敷き)で調整することもあります。
3. SHFM3特有の傾向(重要)
他のタイプの裂手症(例えばSHFM1やEEC症候群など)では、皮膚の乾燥、髪の毛が薄い、歯の欠損、口唇口蓋裂などを合併することがあります。
しかし、**SHFM3は、一般的に「手足以外の症状(合併症)が少ない」**とされています。
これは、SHFM3の原因が皮膚や歯の形成に関わる遺伝子(TP63など)ではなく、別の場所にあるためです。
※ただし、個人差があるため、念のため全身のチェックは行われます。
原因:なぜ起きたのか
ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、「妊娠中の薬や食べ物、生活習慣が原因ではない」ということです。
1. 10番染色体の「重複」(10q24 duplication)
SHFM3の直接的な原因は、ヒトの細胞にある46本の染色体のうち、「10番染色体」の長腕(q24領域)が微細に重複していることです。
- 重複(Duplication):
通常は2本(父から1本、母から1本)であるはずの遺伝情報(設計図)の一部が、コピーされて余分に増えている状態です。 - BTRC遺伝子 / POLL遺伝子など:
この重複している領域には、手足の形成に関わる遺伝子(BTRC, POLL, FBXW4など)が含まれています。これらの遺伝子の量が増えることで、胎児期の手足の形成シグナルが変化し、指が分かれるプロセスに影響が出ると考えられています。
2. 遺伝の形式(常染色体顕性遺伝)
SHFM3は、「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとることが多いです。
- 親から子へ:
親御さんのどちらかが同じ遺伝子の重複を持っている場合、50%の確率でお子様に受け継がれます。 - 突然変異(de novo):
ご両親は遺伝子変化を持っておらず、お子様の代で初めて発生した突然変異である場合もあります。
3. 表現度の差異(症状の個人差)
ここが遺伝の難しいところであり、希望でもあります。
同じ遺伝子の重複を持っていても、症状の出方は家族内でも大きく異なります。
- 親御さんは「少し親指が短いだけ」で気づいていなかったのに、お子様にははっきりとした裂手が出る。
- 逆にお子様の症状は非常に軽い。
このように、遺伝子の変化があっても症状の重さは人それぞれであることを「表現度の差異」と呼びます。
診断と検査
通常、生まれた時の手足の特徴から医師が疑いを持ち、レントゲン撮影や遺伝学的検査を行うことで確定診断に至ります。出生前診断(エコー検査)で見つかることもあります。
1. 身体診察とレントゲン検査
整形外科医や形成外科医が、手足の骨の数や形、関節の状態を詳しく調べます。
- どこの骨が足りないか
- どこの骨が癒合しているか
- 横向きの骨(横指骨)がないか
これらを確認し、手術の計画を立てるための基本情報とします。
2. マイクロアレイ染色体検査 (CMA)
SHFM3の確定診断に最も有効な検査です。
従来の顕微鏡検査(G分染法)では、10q24領域のような小さな重複は見逃されてしまうことがありました。マイクロアレイ検査はDNAレベルで染色体の量を調べるため、「10番染色体のq24領域が増えている(重複している)」ということを正確に検出できます。
※SHFMには他のタイプもあるため、この検査で「3型(10q24重複)」と確定することは、合併症の予測や遺伝カウンセリングにおいて非常に重要です。
治療と管理:これからのロードマップ
裂手・裂足症の治療のゴールは、「見た目を整えること」だけでなく、「日常生活で使いやすい手足を作ること(機能再建)」にあります。
1. 手の手術(機能再建と整容)
手の形や機能に応じて、形成外科医と相談しながら手術計画を立てます。一般的には、道具を使い始める1歳〜2歳頃に最初の手術を行うことが多いです。
- 裂隙の閉鎖(Snow-Littler法など):
V字に開いている手のひらの部分を閉じ、手の幅を適切な広さに整えます。これにより、見た目が自然になり、物を掴みやすくなります。 - 合指症の分離:
くっついている指を切り離し、それぞれの指が独立して動くようにします。 - 横指骨の切除:
指の間に横向きの骨がある場合、指が開くのを邪魔してしまうため、これを取り除きます。 - 指の移行術:
指の数が少ない場合、残っている指の位置を移動させて、「親指」と「他の指」でしっかりつまめる(対立運動ができる)ように再建します。
2. 足の手術
足の手術は、主に「靴が履けること」「安定して歩けること」を目的に行われます。
- 裂隙の閉鎖:
足の幅が広すぎて靴が履きにくい場合、幅を縮める手術を行います。 - 機能重視:
手ほど細かい動きは求められないため、歩行に問題がなければ手術をしないという選択肢もあります。
3. リハビリテーション(作業療法・理学療法)
手術と同じくらい大切なのが、リハビリです。
- 作業療法 (OT):
遊びを通じて、手や指の使い方を練習します。ボタンかけ、スプーン操作、ハサミの使用など、年齢に応じた課題に取り組みます。 - 自助具の活用:
必要に応じて、持ちやすいスプーンや、書きやすい鉛筆ホルダーなどの道具(自助具)を活用し、「自分でできる」自信を育てます。
4. 義手の検討
指の欠損が多い場合などは、装飾用の義手や、機能的な義手の使用を検討することもありますが、多くのお子様は自分の残存機能を最大限に活用して、義手なしで生活されています。

成長に伴う課題と心のケア
SHFM3は、知的な遅れを伴わないことが多いため、お子様自身が成長とともに「自分の手足が人と違う」ことに気づき、悩む時期が来ます。
1. 幼児期(〜就学前)
- 「魔法の手」:
自分の手について「どうして?」と聞いてきたら、「○○ちゃんの手は、特別に作られた魔法の手なんだよ」「神様からの贈り物だよ」といった、ポジティブな言葉で説明してあげてください。 - 機能の獲得:
この時期は、手術とリハビリで「できること」がどんどん増える時期です。成功体験を積み重ねることが大切です。
2. 学童期(小学校〜)
- 周囲の目:
学校生活では、友達からの質問や視線に直面します。「生まれつきこういう形なんだ。でも、ゲームもできるしボールも投げられるよ」と、堂々と説明できるようなシナリオを親子で練習しておくと安心です。 - 体育や音楽:
鉄棒やリコーダーなど、工夫が必要な場面が出てきます。先生と相談し、補助具を使ったり、評価方法を調整してもらったりするなどの「合理的配慮」を求めましょう。
3. 思春期
- 外見への悩み:
見た目へのコンプレックスが強くなる時期です。再手術で見た目を修正したいという希望が出ることもあります。本人の気持ちに寄り添い、医師と相談する機会を設けましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 普通に生活できますか?
A. はい、大半のお子様が通常の学校に通い、自立した生活を送っています。指の数が少なくても、残った指を器用に使って、パソコン操作、車の運転、料理、楽器演奏などをこなす方はたくさんいます。
Q. SHFM3は他のタイプより軽いのですか?
A. 一般的に、SHFM3は手足以外の合併症(口唇裂や重い内臓疾患など)が少ない傾向にあるため、その点では「非症候性(手足に限局している)」として安心材料にはなります。ただし、手足の変形の程度自体は軽度から重度まで様々です。
Q. 次の子に遺伝しますか?
A. 親御さんが同じ10q24重複を持っている場合、次のお子様に遺伝する確率は50%です。親御さんが持っていない(突然変異)場合は、確率は非常に低くなります。詳細なリスクについては、遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。
まとめ
ここまでの重要ポイントを振り返ります。
- 裂手・裂足症3型(SHFM3)は、10番染色体の重複(10q24 duplication)による先天性の手足の疾患です。
- 特徴は、手足の中央列の欠損や合指症ですが、手足以外の合併症は少ない傾向にあります。
- 治療は、形成外科手術による機能再建と整容、そして作業療法などのリハビリが中心です。
- 予後は良好で、多くの方が工夫しながら社会生活を送っています。
- 心のケアとして、幼少期からの自己肯定感の育成と、周囲への説明の準備が大切です。
家族へのメッセージ
診断を受けた直後、ご家族は「五体満足に産んであげられなかった」と、深い自責の念に駆られているかもしれません。赤ちゃんの小さな手を見て、涙することもあるでしょう。
しかし、先輩家族や当事者の方々はこう言います。
「この手は、私の個性であり、人生を切り拓いてきた相棒です」
SHFM3のお子様たちは、驚くべき適応能力を持っています。
大人が「できないだろう」と思うことも、自分なりのやり方(ユニークな持ち方や体の使い方)を見つけ出し、軽々と乗り越えていきます。その姿は、周囲の人間に勇気と感動を与えてくれます。
手術をする医師、リハビリを行う療法士、そして学校の先生。あなたの周りには、お子様の成長を支えるチームがいます。
「手足の形が違う」ことは、隠すべきことでも、恥じるべきことでもありません。それは、その子のアイデンティティの一部です。
どうか、その小さな手をたくさん握り、たくさん愛してあげてください。
お子様が「自分の手が好き」と思える日は、必ず来ます。焦らず、一緒に成長していきましょう。
