こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。
NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。
「妊娠検査薬で陽性が出た。あんなに嬉しかったのに、また……」
「体外受精で良い受精卵ができたはずなのに、着床しない。あるいは着床してもすぐに流れてしまう」
妊娠まではたどり着ける。けれど、その先の「赤ちゃんと対面する未来」が、指の間からすり抜けていくような感覚。
流産や死産、あるいは反復する着床不全。こうした経験は、言葉では言い表せないほどの深い悲しみと、「なぜ私だけ?」という答えのない問いを心に残します。
「私の体が悪いのかな」
「あの時、無理をしたからじゃないか」
どうか、ご自身を責めないでください。
実は、その原因の一つに、あなたの体が本来持っている**「免疫システム」**が深く関わっている可能性があるのです。
今日は、婦人科領域の専門的なテーマである「不育症」と、そこに関わる「免疫(TH1/TH2)」の働きについて、ヒロクリニック大宮駅前院の婦人科医・花澤先生との対話をもとに、最新の医学的知見を分かりやすく解説していきます。
まず、「不育症」という言葉の定義から整理していきましょう。
不妊症が「妊娠が成立しない状態」であるのに対し、不育症は**「妊娠は成立するけれど、継続ができず、流産や死産を繰り返してしまう状態」**を指します。
医学的な定義では、「流産や死産が2回以上続いた場合」を不育症と診断することが一般的です。これを「反復流産」と呼び、3回以上続く場合を「習慣流産」と呼びます。
しかし、最近の医療現場では、回数だけで機械的に判断することは少なくなっています。
たとえ流産が1回だけであっても、あるいは体外受精での着床障害(化学流産など)が続いている場合であっても、患者様が次の妊娠に対して強い不安を感じているならば、早めに検査や治療を検討すべき──。それが現代の考え方です。
「なぜ育たないのか?」
その原因は多岐に渡りますが、統計的なデータ(内訳)を知ることで、現状を客観的に捉えることができます。
このように、原因は一つではありません。
しかし、検査をしても「異常なし(原因不明)」と言われてしまう約25%の方々の中に、実は**「免疫のバランス」**の問題を抱えている方が少なくないことが分かってきています。
ここからは、今回のメインテーマである「免疫」について深掘りしていきましょう。
私たちの体には、ウイルスや細菌などの「異物」が侵入してきた時、それを攻撃して排除しようとする免疫システムが備わっています。これがなければ、私たちはすぐに病気になってしまいます。
妊娠という現象を免疫学的に見ると、非常に特殊で不思議なことが起きています。
お腹の中の赤ちゃん(受精卵)は、お母さんの遺伝子を半分持っていますが、残りの半分は**「お父さんの遺伝子」です。
つまり、お母さんの体から見れば、赤ちゃんは「半分は自分、半分は他人(異物)」**という存在なのです。
通常、体に異物が入れば免疫が攻撃を仕掛けます。臓器移植をした際に拒絶反応が起きるのと同じ理屈です。
しかし、妊娠においては、この拒絶反応が起きては困ります。
そこで、女性の体は妊娠すると、素晴らしい適応能力を発揮します。免疫システムに一時的にブレーキをかけ、攻撃をやめて、赤ちゃんを「受け入れる」モードに切り替えるのです。これを医学的には「免疫寛容(めんえきかんよう)」と呼びます。
この免疫のバランス調整の主役となるのが、ヘルパーT細胞という免疫細胞の2つのタイプ、**「TH1」と「TH2」**です。
通常、私たちの体の中ではTH1とTH2がバランスを取り合っています。
しかし、妊娠が成立すると、赤ちゃんを異物として攻撃しないように、体は自然と**「TH2(守る免疫)」を優位**にさせ、「TH1(攻撃する免疫)」を抑え込もうとします。
これが正常な妊娠のメカニズムです。
ところが、何らかの原因でこのシフトチェンジがうまくいかず、「TH1(攻撃)」が強いままの状態が続いてしまうことがあります。
するとどうなるでしょうか?
免疫システムが、せっかく着床した受精卵を「排除すべき異物」と誤認し、攻撃を仕掛けてしまうのです。
これが、免疫異常による不育症や着床障害の正体の一つと考えられています。
「免疫が原因かもしれない」と思ったら、血液検査で「TH1/TH2比」を調べることができます。
この数値が何を意味するのか、正しく理解しておきましょう。
血液中のTH1細胞とTH2細胞の比率を見ます。
簡単に言えば、「攻撃部隊(TH1)と守備部隊(TH2)のどちらが優勢か」という力関係を見る数値です。
ここで注意していただきたいのは、この数値が高かったからといって、「絶対に妊娠できない」というわけではないということです。
人間の体は複雑で、数値だけで全てが決まるわけではありません。
しかし、「高いリスクを抱えている可能性がある」という重要なサインであることは確かです。
このサインを見逃さず、適切なサポート(治療)を行うことで、妊娠継続の可能性を高めることができる──。検査の意義はそこにあります。
「私の免疫が赤ちゃんを攻撃していたなんて……」
そう知ってショックを受ける方もいるかもしれません。しかし、原因が分かったということは、**「打つ手がある」**ということです。
原因不明のまま暗闇を歩くよりも、ずっと希望に近い場所にいます。
現在、免疫バランスや血液凝固の問題に対しては、以下のような治療法が確立されつつあります。
「低用量アスピリン」を服用する治療です。
血小板の働きを抑えて血液をサラサラにし、胎盤の中に微細な血栓(血の塊)ができるのを防ぎます。これにより、赤ちゃんへの血流(酸素と栄養のライン)を確保し、育ちやすい環境を整えます。
アスピリンよりも強力に血液凝固を防ぐ「ヘパリン」という薬剤を、ご自身で注射(自己注射)する治療です。
特に「抗リン脂質抗体症候群」の方や、血栓のリスクが高いと判断された場合に、アスピリンと併用して行われることが多いです。
プレドニゾロンなどのステロイド薬を服用する治療です。
ステロイドには炎症を抑え、免疫の過剰な働きを鎮める作用があります。これによって、TH1(攻撃部隊)の暴走を抑え、受精卵が着床・継続しやすい環境を作ります。副作用を考慮し、必要な時期に短期間だけ使うことが一般的です。
もともとは臓器移植の拒絶反応を抑えるために使われていた「タクロリムス」という薬を、不育症に応用する治療法です。
TH1細胞の働きをピンポイントで抑える効果が期待されており、特にTH1/TH2比が高い方への新たな選択肢として注目されています。専門的な管理が必要ですが、高い効果が報告されているケースも増えています。
今日は、不育症と免疫の深い関係についてお話ししました。
最後に、大切なポイントを振り返りましょう。
1. 不育症は「繰り返す悲しみ」ではない
流産や死産を繰り返す不育症。その原因は胎児の染色体だけでなく、親側の免疫や血液の問題であることも多いです。原因不明の25%の中にも、解決の糸口は隠れています。
2. 妊娠は「許容」のシステム
お母さんの体にとって、赤ちゃんは「半分異物」。本来なら攻撃してしまうところを、免疫が「守るモード(TH2優位)」に切り替わることで妊娠は継続します。この切り替えがうまくいかないと、自分の免疫が赤ちゃんを攻撃してしまうことがあります。
3. 検査でリスクを可視化する
TH1/TH2比を調べることで、ご自身の免疫バランスを知ることができます。数値が高いことは「妊娠できない」宣告ではなく、「治療が必要なサイン」です。
4. 治療法はある
アスピリン、ヘパリン、ステロイド、タクロリムスなど、免疫や血流をコントロールする治療法は進化しています。適切な介入があれば、多くの方が元気な赤ちゃんを抱く未来にたどり着いています。
もし、あなたが流産を経験し、「私の体が赤ちゃんを拒絶したんだ」と自分を責めているとしたら、どうかその考えを手放してください。
あなたの免疫は、あなた自身の体をウイルスや病気から守ろうとして、必死に働いていただけなのです。
それは、あなたの体が健康で、生命力が強い証拠でもあります。決して「欠陥」ではありません。
ただ、妊娠という特別な時期には、その「強さ」を少しだけ調整してあげる必要があります。
医療はその調整をお手伝いすることができます。
「原因が分からない」という不安の中にいるなら、一度専門医に相談し、免疫の検査を受けてみてはいかがでしょうか。
その一歩が、未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にするための、大きな転機になるかもしれません。
私たちは、あなたの「次の一歩」を、医学の力で全力で支えます。
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