トーランス型扁平椎致死性骨異形成症(Platyspondylic Lethal Skeletal Dysplasia, Torrance type)という、非常に長く、聞き慣れない診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師からこの病名を告げられたとき、特にその中に含まれる「致死性(Lethal)」という言葉の重みに、目の前が真っ暗になるような衝撃を受けられたことと思います。
インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、古い医学論文や専門用語ばかりが出てきて、不安と孤独を感じていらっしゃるかもしれません。
この病気は、世界的に見ても非常に報告数が少ない「超希少疾患」の一つです。
しかし、原因となる遺伝子のことや、体のなかで何が起きているのかは、医学の進歩によって詳しく分かってきています。
ご家族の不安が少しでも和らぎ、お子さんの状態を理解するための一助となれば幸いです。
概要:どのような病気か
まず、この複雑な病名を分解して、どのような意味が込められているのかを理解しましょう。
病名の意味
Platyspondylic(プラティスポンディリック/扁平椎):背骨の一つひとつの骨(椎体)が、平べったくなっている状態を指します。
Lethal(リーサル/致死性):生命を維持するのが非常に難しい、重篤な状態であることを意味します。これは医学的な分類用語として使われていますが、必ずしも「全例がすぐに亡くなる」という意味だけではありません(後ほど詳しく解説します)。
Skeletal Dysplasia(スケルタル ディスプラジア/骨異形成症):骨や軟骨の成長や形に異常が生じる病気の総称です。
Torrance type(トーランス型):いくつかのタイプがある中で、特定の特徴を持つタイプにつけられた名前です(最初に報告された患者さんにちなむなどの理由で分類されています)。
どのような病気か一言で言うと
「生まれつき軟骨や骨の形成に問題があり、特に手足が短く、背骨が平らになり、胸が小さくなることで呼吸が難しくなる、非常に稀な骨の病気」です。
医学的な分類
この病気は、「II型コラーゲン異常症(Type II collagenopathy)」というグループに含まれます。
軟骨を作るための重要な成分である「II型コラーゲン」に異常があるため、骨の伸びが悪くなったり、形が変わったりします。
同じグループには、軟骨無形成症とは異なる「軟骨低形成症」や、「先天性脊椎骨端異形成症」などが含まれますが、トーランス型はその中でも症状が重い部類に入ります。
発生頻度
非常に稀な疾患であり、正確な頻度はわかっていませんが、100万人に1人以下のレベルと考えられています。
主な症状
症状は、お母さんのお腹の中にいる時(胎児期)のエコー検査や、生まれた直後の身体所見、レントゲン検査で見つかります。
1. 骨格の特徴
全身の骨に特徴的な変化が現れます。
著しい四肢短縮(マイクロメリア)
腕や足が、胴体に比べて非常に短くなります。
特に、腕の付け根や太もも(近位部)だけでなく、腕全体、足全体が短くなる傾向があります。
扁平椎(へんぺいつい)
この病気の名前の由来でもあります。背骨(脊椎)の骨が、通常よりも薄く、平べったくなっています。
レントゲンで見ると、まるでウエハースのように薄く見えることから、「Wafer-like vertebral bodies(ウエハース状の椎体)」と表現されることがあります。これがトーランス型の診断における非常に重要なサインです。
胸郭低形成(きょうかくていけいせい)
肋骨が短いため、胸郭(胸のかご)が小さく狭くなっています。胸がお腹よりも小さく見えることがあります。
骨盤の形
骨盤の骨(腸骨)が小さく、形が変わっています。
2. 呼吸器の症状(生命予後に関わる最も重要な点)
この病気が「致死性」と呼ばれる最大の理由は、呼吸の問題にあります。
肺低形成
胸郭が小さく狭いため、その中にある肺が十分に成長するスペースがありません。そのため、肺自体が小さく未熟な状態(肺低形成)になります。
気道の軟化
気管などの空気の通り道を支える軟骨も弱いため、呼吸をするたびに気道が潰れてしまい、空気を出し入れするのが難しくなることがあります(気管軟化症)。
生まれた直後から、自力で十分な呼吸をすることが難しく、多くの赤ちゃんですぐに人工呼吸器によるサポートが必要になります。
3. 顔貌の特徴
お顔立ちにも、この病気特有の特徴が見られることがあります。
おでこが出ている(前頭部突出)。
鼻の根元が低い(鼻根部陥凹)。
下あごが小さい(小顎症)。
目が少し離れている。
口蓋裂(口の中の天井が割れている)を合併することもあります。
これらは、「ピエール・ロバン連鎖」と呼ばれる一連の症状として現れることもあります。
4. その他の症状
お腹がぽっこりしている
胸が小さいため、相対的にお腹が大きく見えたり、肝臓などが触れやすかったりすることがあります。
羊水過多
妊娠中、赤ちゃんが羊水を飲み込む力が弱かったり、胸が圧迫されていたりすることで、羊水が増えることがあります。

原因
なぜ、このような骨や軟骨の成長障害が起きるのでしょうか。原因は、たった一つの遺伝子の変化にあります。
COL2A1遺伝子の変異
トーランス型扁平椎致死性骨異形成症の原因は、第12番染色体にある「COL2A1(コルツーエーワン)」という遺伝子の変異です。
II型コラーゲンの役割
COL2A1遺伝子は、「II型コラーゲン」というタンパク質を作る設計図です。
コラーゲンにはたくさんの種類がありますが、II型コラーゲンは、主に「軟骨」や「眼の硝子体(眼球の中のゼリー状の部分)」を作るための、鉄筋コンクリートの鉄筋のような役割をしています。
骨は、もともと軟骨が置き換わってできるものです(軟骨内骨化)。
そのため、II型コラーゲンに異常があると、軟骨がうまく作られず、結果として骨も成長できなくなってしまうのです。
何が起きているのか
トーランス型では、COL2A1遺伝子の特定の部分(Cプロペプチド領域など)に変異が起きることが多いと報告されています。
この変異により、異常なコラーゲンが作られます。困ったことに、この異常なコラーゲンは、正常なコラーゲンの働きまで邪魔をしてしまいます(ドミナント・ネガティブ効果)。
さらに、異常なコラーゲンが軟骨細胞の中に溜まってしまい、軟骨細胞自体を弱らせてしまうことも原因の一つと考えられています。
遺伝について
この病気は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとります。
ほとんどが「突然変異」
「遺伝」という言葉がつきますが、トーランス型の患者さんのほとんど(ほぼ全員)は、ご両親から遺伝したのではなく、受精卵ができる過程で偶然起こった「突然変異(de novo変異)」によるものです。
ご両親の遺伝子に異常があるわけではありません。
したがって、「妊娠中のお母さんの行動が悪かった」「食べ物が悪かった」「ストレスのせい」といったことは一切ありません。誰のせいでもない、生命の神秘的なプロセスの中で偶然起きた変化です。
また、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のご家庭とほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。
診断と検査
診断は、出生前診断で見つかることもあれば、生まれた後の身体所見とレントゲン検査で判明することもあります。
1. 出生前診断(超音波検査・エコー)
妊娠中期以降のエコー検査で、以下のような特徴が見られた場合に疑われます。
手足の骨が極端に短い(重度の四肢短縮)。
胸郭が狭い。
羊水過多。
エコー検査だけでは「骨系統疾患の疑い」まではわかりますが、「トーランス型」という確定診断までは難しいことが多いです。
2. 出生後の画像診断(レントゲン検査)
生まれた後に全身のレントゲンを撮ることで、診断がより確実になります。
トーランス型を診断する決め手となるのは、以下の所見です。
扁平椎(椎体が非常に薄い)。
長管骨(腕や足の骨)の端っこ(骨幹端)が広がっていたり、不規則な形をしていたりする。
骨盤の形の特徴。
これらの特徴的な骨の形から、医師は「トーランス型」を疑います。
3. 組織学的検査(軟骨の顕微鏡検査)
もし可能であれば、軟骨の一部を顕微鏡で調べることで、軟骨細胞の中に異常なコラーゲンが溜まっている様子などが確認でき、診断の助けになります。
4. 遺伝学的検査
確定診断のために行われます。
血液を採取し、DNAを解析してCOL2A1遺伝子に変異があるかを調べます。
これにより、他のよく似た骨系統疾患(アコンドロジェネシス2型や、重症の脊椎骨端異形成症など)と区別することができます。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変異そのものを治して、骨や軟骨を正常に作り直すような根本的な治療法はまだ確立されていません。
治療の目的は、お子さんの苦痛を取り除き、生命を維持するためのサポート(対症療法)が中心となります。
1. 呼吸管理(最優先事項)
生まれた直後から、呼吸のサポートが不可欠です。
人工呼吸器:気管内挿管(口や鼻から管を入れる)を行い、人工呼吸器につなぎます。
高い圧力をかけないと肺が広がらないことが多いため、高度な呼吸管理が必要です。
気管切開:長期的な管理が必要になる場合、喉に穴を開けて管を入れる手術を検討することもあります。
2. 緩和ケア・看取りという選択
「致死性」という診断名の通り、胸郭低形成と肺低形成が非常に重度の場合、現代の高度な医療をもってしても、長期間の生存が難しいケースが少なくありません。
その場合、お子さんに苦痛を与えないことを最優先にし、ご家族との穏やかな時間を大切にする「緩和ケア(コンフォートケア)」を選択することも、尊重されるべき一つの治療方針です。
無理な延命処置を行わず、抱っこしたり、お風呂に入れたりして、人間らしい時間を過ごすことを目指します。
3. 長期生存の可能性について
ここが非常に重要な点ですが、「致死性」という名前がついていても、症状の重さには個人差があります。
近年の医学文献では、トーランス型と診断された(あるいはトーランス型に特徴的な遺伝子変異を持つ)お子さんの中に、新生児期を乗り越え、乳児期、幼児期へと成長している例がわずかながら報告されています。
もし呼吸状態が安定し、成長できた場合には、以下のような管理が必要になります。
整形外科的な管理
首の骨の不安定性(環軸椎亜脱臼):首の神経が圧迫されないか注意深く観察します。
背骨の曲がり(側弯・後弯):コルセットや手術が必要になることがあります。
関節の痛みや変形への対応。
眼科・耳鼻科の管理
強度近視や網膜剥離のリスクがあるため、定期的な眼科検診が必要です。
難聴や中耳炎を合併することもあります。
まとめ
トーランス型扁平椎致死性骨異形成症(PLSD-T)についての解説をまとめます。
病気の本質
COL2A1遺伝子の変異により、軟骨(II型コラーゲン)が正常に作られず、骨の成長が阻害される病気です。
主な特徴
著しい手足の短さ、平らな背骨(扁平椎)、小さな胸郭が特徴です。
最大の課題
小さな胸と未熟な肺による呼吸不全が、生命予後を左右します。
診断
レントゲンでの「ウエハース状の椎体」などの特徴と、遺伝子検査で診断されます。
治療と予後
呼吸管理が中心となります。重篤な場合が多いですが、長期生存の報告もあり、個々の状態に合わせた慎重な判断が必要です。
