過成長症候群および脳形成異常(Overgrowth syndrome and/or cerebral malformations)

医者

「過成長症候群および脳形成異常」という、少し複雑で聞き慣れない診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「身体の一部が大きく成長する特徴があります」や「脳の形に少し特徴があります」といった説明を受け、MRI画像を見せられたとき、大きな驚きと戸惑いを感じられたことと思います。

特に、脳に関することや、身体の左右差といった目に見える症状があると、「将来どうなるのだろう」「治るのだろうか」と深い不安を抱かれるのは当然のことです。

この診断名は、一つの特定の病気を指すこともありますが、多くの場合、身体や脳の細胞が通常よりも活発に増えてしまう体質を持つ「疾患のグループ」を指して使われます。

近年、遺伝子研究の飛躍的な進歩により、これまで「原因不明」とされていた多くのケースで、原因となる遺伝子が見つかるようになってきました。原因がわかることで、新しいお薬による治療の可能性も開かれてきています。

この記事では、この疾患グループについて、どのようなものなのか、身体や脳に現れる特徴、原因となる遺伝子の仕組み、そしてこれからの生活で何に気をつければよいのかを、専門用語をできるだけ噛み砕いて詳しく解説します。

まず最初にお伝えしたいのは、この診断を受けたお子さんの症状の程度は本当に十人十色であるということです。

重い症状がある子もいれば、少し身体が大きいだけで元気に学校に通っている子もいます。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この診断名に含まれる2つの言葉の意味を理解しましょう。

過成長症候群とは

身体全体、あるいは身体の一部が、標準的なサイズよりも大きく、早く成長する状態を指します。例えば、片方の足だけ、特定の指だけ、あるいは頭だけが大きいといったケースです。

これは単に「背が高い」というだけでなく、細胞が増えるスピードや量が多いことによって起こる医学的な状態です。

脳形成異常とは

お母さんのお腹の中で赤ちゃんが育つ過程で、脳の形や構造が標準とは異なる形で作られることを指します。

脳のシワが多かったり少なかったり、脳全体が大きかったり、片方だけ大きかったりする状態が含まれます。

なぜこの2つがセットなのか

実は、私たちの身体の中で「細胞よ、増えなさい」「成長しなさい」という命令を出している遺伝子は、身体の骨や筋肉だけでなく、脳の神経細胞にも同じように命令を出しています。

そのため、成長の命令を出す遺伝子に変化が起きると、身体が大きくなると同時に、脳も大きく、あるいは分厚くなり、脳の形に特徴が出ることが多いのです。

どのような病気か一言で言うと

「生まれつき、細胞を増やすスイッチが入りやすくなっているために、身体の一部や脳が通常よりも大きく、または特徴的な形に成長する疾患グループ」です。

代表的な疾患名

このカテゴリーに含まれる具体的な病名として、以下のようなものが挙げられます。診断書にはこちらの名前が書かれているかもしれません。

  • MCAP症候群: 巨脳症や毛細血管の奇形を伴う病気です。
  • MPPH症候群: 巨脳症に加え、脳のシワが細かい多小脳回、指が多い多指症などを伴う病気です。
  • 片側巨脳症: 脳の片側だけが大きく成長する病気です。
  • PROS: PIK3CA関連過成長スペクトラムと呼ばれる、特定の遺伝子変異による一連の疾患群です。
  • 結節性硬化症: 一部の症状が重なるため、鑑別が必要なことがあります。

主な症状

症状は、身体のどの部分の細胞で「成長スイッチ」が強く入っているかによって、全く異なります。

全身に症状が出る子もいれば、指先だけ、あるいは脳だけに症状が出る子もいます。

1. 脳・神経系の症状

ご家族が最も心配される部分かと思います。脳の形成異常に伴って、以下のような症状が出ることがあります。

巨脳症

頭の大きさである頭囲が、同じ年齢のお子さんの平均よりも大きくなります。

脳の実質、つまり中身が増えている場合と、脳室と呼ばれる水が溜まる部屋が大きくなっている場合があります。

脳の形の特徴

MRI検査で見つかることが多い特徴です。

  • 多小脳回: 脳の表面のシワが、通常よりも細かく、たくさんある状態です。
  • 厚脳回: 脳のシワが少なく、分厚くなっている状態です。
  • 片側巨脳症: 右脳か左脳のどちらか片方だけが大きく成長している状態です。
  • 異所性灰白質: 神経細胞が本来あるべき場所とは違う場所に留まっている状態です。

てんかん発作

脳の神経細胞の並び方や繋がりに特徴があるため、電気信号が乱れやすく、てんかん発作を起こすことがあります。けいれんや、ボーッとする発作など症状は様々です。

生後間もなくから発症することもあれば、成長してから出ることもあります。薬でコントロールできる場合もあれば、なかなか止まらない難治性の場合もあります。

発達の遅れ

首すわり、お座り、言葉などの発達がゆっくりになることがあります。

程度は個人差が大きく、軽度の遅れで通常の学校生活を送る子もいれば、手厚いサポートが必要な子もいます。

2. 身体の過成長・左右差

身体の一部が大きく成長することがあります。

局所的な過成長

  • 片方の足だけが太い、あるいは長い。
  • 片方の手だけが大きい。
  • 指が太い、あるいは長い。

このように、身体の左右で大きさが違う非対称性がよく見られます。靴のサイズが左右で違うこともあります。

多指症・合指症

手や足の指の本数が多かったり、くっついていたりすることがあります。

3. 皮膚の症状

毛細血管奇形

皮膚に、赤っぽい網目状の模様や、赤ワインのような色のアザが見られることがあります。

特に、おでこや鼻の下、体幹などに見られることが多いです。

これは、血管を作る細胞も増えやすくなっているために起こります。

皮膚の肥厚

皮膚が厚く、柔らかく、プヨプヨとした感触になることがあります。

足の裏などに深いシワができたりすることもあります。

4. その他の症状

腫瘍のリスク

細胞が増えやすい体質であるため、一部の過成長症候群、例えばベックウィズ・ヴィーデマン症候群などでは、小児期に腎臓などの腫瘍ができやすいリスクがあることが知られています。

ただし、すべての過成長症候群でリスクが高いわけではありません。主治医と相談し、必要であれば定期的なエコー検査などを行います。

低血糖

生まれた直後に、血糖値が下がることがあります。特に身体が大きい赤ちゃんの場合に見られます。

原因

なぜ、細胞が増えすぎてしまうのでしょうか。その原因は、細胞の中にある信号伝達の仕組みに関わる「遺伝子」の変化にあります。

PI3K-AKT-mTOR経路の異常

少し難しい専門用語になりますが、この病気を理解する上でとても重要なキーワードです。

私たちの細胞の中には、外部からの栄養などの刺激を受けて、「成長しなさい」「分裂しなさい」という命令を細胞の核である司令塔に伝えるための、リレーのような伝達経路があります。

これを「PI3K-AKT-mTOR(ピーアイ・スリー・ケイ、アクト、エムトール)経路」と呼びます。

通常、この経路には適切なブレーキがかかっていて、必要な分だけ成長するようになっています。

しかし、この経路に関わるPIK3CA、AKT3、MTORといった遺伝子に変異が起きると、ブレーキが壊れたり、アクセルが踏みっぱなしの状態になったりします。

その結果、細胞が必要以上に増殖し、過成長や脳の形成異常が引き起こされるのです。

モザイク変異という仕組み

この病気のもう一つの大きな特徴は、「モザイク変異」という現象が多く見られることです。

通常、遺伝病というと、親から子へ受け継がれるものや、身体の全部の細胞に遺伝子の変化があるものを想像します。

しかし、過成長症候群の多くは、受精卵が細胞分裂を始めて、身体を作っていく途中で、たまたま1つの細胞に遺伝子の変化、つまり突然変異が起こります。

その「変化した細胞」から分裂してできた細胞だけが、「成長しやすい性質」を持ちます。

一方で、変化する前の細胞から分裂した細胞は、「普通の性質」を持ちます。

つまり、一人の人間の中に、「普通の細胞」と「成長しやすい細胞」が、まるでモザイクタイルのように混在しているのです。

これが、「身体の一部だけが大きい」「脳の片側だけが大きい」という症状が出る理由です。

また、血液検査だけでは遺伝子の変化が見つからず、皮膚などの患部を調べないと診断がつかないことがあるのも、このためです。

遺伝について

非常に重要な点ですが、上記のような「モザイク変異」によって起こる場合、この病気はご両親から遺伝したものではありません。

ご両親の遺伝子に異常があるわけではありません。

したがって、「妊娠中のお母さんの行動が悪かった」とか「家系のせい」といったことは一切ありません。誰のせいでもない、生命の神秘的なプロセスの中で偶然起きた変化です。

また、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のご家庭とほとんど変わりません。

ただし、一部のタイプでは遺伝する可能性もありますので、詳しくは遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。

医者

診断と検査

診断は、症状の観察、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。

1. 画像検査

脳のMRI検査は必須です。

脳の大きさ、シワの状態、左右差、異所性灰白質の有無などを詳しく調べます。

また、全身のCTやMRIで、内臓の大きさや脂肪組織の増え方をチェックすることもあります。

2. 臨床診断

身体測定を行い、頭囲、身長、手足の長さなどを詳しく測ります。

皮膚のアザの有無や、指の特徴などを観察します。

これらの特徴の組み合わせから、診断を推測します。

3. 遺伝学的検査

確定診断のために行われますが、少し特殊な難しさがあります。

血液検査

血液中のDNAを解析します。MPPH症候群など、全身に遺伝子変化があるタイプであれば、血液検査で見つかります。

組織検査

PROSなどのモザイク変異の場合、血液中の細胞には異常がないことが多いため、血液検査では「異常なし」と出てしまうことがあります。

その場合、手術などで切除した皮膚や脳の一部などの組織や、唾液などを使って遺伝子検査を行うことで、初めて診断がつくことがあります。

最近では、高感度な次世代シーケンサーという技術を使って、わずかな変異を見つけることができるようになってきています。

治療と管理

以前は、症状に対する対症療法しかありませんでしたが、近年、原因となる経路に直接作用するお薬が登場し、治療の景色が変わりつつあります。

1. てんかんの治療

抗てんかん薬

発作の種類に合わせて、お薬を調整します。

外科手術

片側巨脳症や、限局した形成異常があり、そこから発作が出ていることが明らかな場合、その部分を切除したり離断したりする外科手術が検討されることがあります。早期に手術を行うことで、その後の発達が良くなるケースもあります。

2. 整形外科的な治療

脚長差への対応

左右の足の長さに違いがある場合、靴の中敷きであるインソールや、靴底を高くする補高を行ってバランスをとります。

差が大きい場合は、成長期に長い方の足の骨の成長を一時的に止める手術や、短い方の足を伸ばす手術などを行うこともあります。

側弯症

背骨の曲がりがある場合は、コルセットや手術で対応します。

3. 脳神経外科的な治療

水頭症

脳室が大きくなりすぎて脳を圧迫する場合は、余分な水を流すシャント手術などを行うことがあります。

大後頭孔狭窄

小脳の一部が圧迫されているキアリ奇形などの場合、骨を削って広げる手術を行うことがあります。

4. 薬物療法(新しい治療)

これが最近の大きなトピックです。

mTOR阻害薬

過剰に働いているmTORの働きを抑えるお薬です。代表的なものにシロリムスがあります。もともとは免疫抑制剤として使われていましたが、過成長や血管奇形、てんかん発作の抑制に効果があることがわかってきました。

PI3K阻害薬

PIK3CA遺伝子変異がある場合、その働きを直接抑えるお薬です。アルペリシブなどが知られています。海外ではPROSに対して承認されており、日本でも治験や人道的見地からの使用が進められています。

これらのお薬は、過成長を劇的に縮小させたり、痛みや発作を改善したりする可能性がありますが、副作用の管理も必要なため、専門医による慎重な投与が必要です。

5. リハビリテーション

運動発達や言葉の発達を促すために、早期から理学療法、作業療法、言語聴覚療法といったリハビリを行うことは非常に重要です。

身体の使いにくさがあっても、その子なりの方法で動けるようにサポートします。

まとめ

過成長症候群および脳形成異常についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: 細胞の増殖・成長に関わる遺伝子の変異により、身体や脳の一部が過剰に成長してしまう疾患グループです。
  • 主な特徴: 巨脳症、脳のシワの異常、てんかん、身体の左右非対称な過成長、皮膚の毛細血管奇形などが特徴です。
  • 原因: 多くは受精後の細胞分裂中に起こるモザイク変異、つまり突然変異であり、親からの遺伝ではありません。
  • 診断: MRIでの脳の形状確認と、場合によっては患部の組織を用いた遺伝子検査が必要です。
  • 治療の進歩: てんかんの外科手術や、原因遺伝子に作用する新しいお薬である分子標的薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。

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