ヌーナン症候群10型(LZTR1遺伝子変異)

赤ちゃん

ヌーナン症候群10型、あるいはLZTR1遺伝子の変化によるヌーナン症候群という診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「ヌーナン症候群の中でも、LZTR1という遺伝子に原因があるタイプです」と説明を受け、初めて聞く病名やアルファベットの羅列に、戸惑いや不安を感じていらっしゃるかもしれません。

特に、LZTR1という遺伝子は、ヌーナン症候群の原因として特定されたのが比較的最近であるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が少なく、「どんな病気なのかよくわからない」という不安が強いのではないかと推察します。

ヌーナン症候群は、体の形作られ方や成長に関わる遺伝子の変化によって起こる生まれつきの体質です。

その中でも今回解説する10型、つまりLZTR1遺伝子に変異があるタイプは、近年の遺伝子解析技術の進歩によって見つかるようになった新しい分類の一つです。

このタイプの大きな特徴は、典型的なヌーナン症候群の症状を持ちながら、遺伝の仕方にいくつかのパターンがあることや、心臓の筋肉が厚くなる肥大型心筋症のリスクが比較的高い傾向があることです。

情報が少ないことは不安の種になりがちですが、医学の世界ではこの型に関する理解が急速に深まっており、適切な管理法も共有されつつあります。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名がついたということは、お子さんの体を守るための「地図」を手に入れたということです。

何に気をつければいいのかがわかれば、先回りして対策をとることができます。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そしてLZTR1遺伝子変異にはどのような特徴があるのかを理解しましょう。

ヌーナン症候群とは

ヌーナン症候群は、特徴的なお顔立ち、低身長、生まれつきの心臓の病気、胸郭の変形などを主な特徴とする疾患です。

およそ1000人から2500人に1人くらいの割合で生まれると言われており、小児科領域では比較的よく知られた疾患の一つです。

この病気は、細胞の中にある情報の通り道であるRAS/MAPK経路というシステムに関わる遺伝子の変化によって引き起こされます。

10型(LZTR1遺伝子変異)の特徴

ヌーナン症候群の原因遺伝子はこれまでにいくつも見つかっており、それによって1型、2型といった番号が振られています。

その中でLZTR1遺伝子に変異があるものを10型と呼びます。

10型は、ヌーナン症候群全体の中では比較的稀なタイプと考えられていましたが、最近の調査では、これまで原因不明とされていた患者さんの中からLZTR1変異が多く見つかっており、実際にはSOS1変異やRAF1変異に次いで重要なタイプであると認識され始めています。

10型の特徴として、以下のような傾向が挙げられます。

顔立ちは典型的なヌーナン症候群の特徴を持っている。

心臓の病気として、肥大型心筋症が見られる頻度が比較的高い(RAF1変異の5型ほどではないが、注意が必要)。

遺伝の形式として、親から子へ伝わる優性遺伝だけでなく、両親が保因者である場合に発症する劣性遺伝のパターンをとることがある(これは他の多くのヌーナン症候群にはない大きな特徴です)。

知的な発達に関しては、正常範囲の方から軽度の遅れがある方まで様々ですが、重度の障害を伴うことは比較的少ないと言われています。

RASオパチーというグループ

この病気は、医学的にはRASオパチー、別名ラスオパチーという大きなグループに含まれます。

これは、細胞の増殖や成長をコントロールするRAS/MAPK経路に異常がある病気の総称です。

LZTR1遺伝子の変化は、この経路のスイッチを調節する機能に影響を与えることで、体の様々な部分の発達に関与します。

主な症状

10型の症状は、全身の様々な場所に現れます。

LZTR1遺伝子変異を持つ患者さんによく見られる特徴について、心臓の症状を中心に詳しく見ていきましょう。

1. 心臓の症状

10型の患者さんにとって、最も注意深く観察し、管理が必要なのが心臓です。

肥大型心筋症

10型において注意が必要な合併症の一つです。

これは、心臓の筋肉、特に全身に血液を送り出す左心室の壁が、通常よりも分厚くなってしまう病気です。

筋肉が分厚くなると、心臓の部屋が狭くなって血液が十分に溜められなかったり、血液の出口が狭くなって流れが悪くなったりすることがあります。

多くの場合はお薬や生活管理でコントロールできますが、定期的な検査で進行がないかをチェックすることが非常に重要です。

肺動脈弁狭窄症

心臓から肺へ血液を送る血管の出口にある弁が狭くなる病気です。

ヌーナン症候群全体で最も多い心疾患であり、10型でもよく見られます。

その他の心疾患

心房中隔欠損症などの穴が開く病気や、僧帽弁の異常などが見られることもあります。

2. お顔立ちの特徴(顔貌)

ヌーナン症候群に共通する、愛らしく特徴的なお顔立ちが見られます。

両目の間隔が広く離れている眼間開離や、まぶたが下がっている眼瞼下垂が見られることがあります。

目は少し下がり気味で、アーモンドのような形をしていることが多いです。

耳の位置が少し低く、後ろに傾いていたり、耳のふちが厚かったりすることがあります。

鼻の根元が低く、鼻先が丸かったり上を向いていたりすることもあります。

これらのお顔立ちは、乳幼児期にはっきりしていますが、成長とともに顔つきが変わり、大人になると目立たなくなっていくのが一般的です。

3. 成長と体格

低身長

ヌーナン症候群の主要な症状の一つです。

生まれた時の身長や体重は正常範囲であることが多いですが、生後数ヶ月から成長のペースが緩やかになり、平均より低くなることがあります。

10型においても低身長は見られますが、適切な時期に成長ホルモン治療を行うことで、身長を伸ばすサポートが可能です。

胸郭の変形

胸の形に特徴が出ることがあります。

胸の真ん中が凹んでいる漏斗胸や、逆に出っ張っている鳩胸が見られることがあります。

また、乳首の間隔が離れていることも特徴の一つです。

4. 知的発達と神経系

発達に関しては個人差があります。

10型のお子さんの多くは、知的な発達が正常範囲内、あるいは軽度の遅れで済みます。

言葉が出るのが少し遅かったり、運動発達(歩き始めなど)がゆっくりだったりすることはよくありますが、適切な療育やサポートを受けることで、通常の学級で学ぶお子さんもたくさんいます。

ただし、稀に重い心臓の病気を合併している場合や、遺伝の形式が特殊な場合(劣性遺伝など)には、発達への影響が少し強く出ることもあります。

5. その他の症状

皮膚の特徴

カフェオレ斑と呼ばれる茶色いあざや、ほくろが多く見られることがあります。

出血傾向

血が止まりにくい、あざができやすいといった傾向が見られることがあります。血液を固める因子が少なかったり、血小板の機能が弱かったりするためです。

腫瘍のリスクについて

少し専門的な話になりますが、LZTR1遺伝子の変異は、シュワン腫症という良性の神経腫瘍ができやすい体質と関連することが知られています。

しかし、これは主に大人になってからの話であり、ヌーナン症候群として診断されたお子さんですぐに腫瘍ができるという意味ではありません。

将来的な健康管理の一つとして、頭の片隅に置いておく程度で大丈夫です。

医者

原因

なぜ、心臓が分厚くなったり、身長が低くなったりするのでしょうか。その原因は、細胞の中の信号伝達を調節する遺伝子の変化にあります。

LZTR1遺伝子の変異

ヌーナン症候群10型の原因は、第22番染色体にあるLZTR1遺伝子の変異です。

他のヌーナン症候群の原因遺伝子(PTPN11やSOS1など)は、細胞のアクセルを踏む役割をしているものが多いですが、このLZTR1遺伝子は少し違った役割を持っています。

何が起きているのか

LZTR1遺伝子は、細胞の中で「不要になったタンパク質に目印をつけて、分解工場へ送る」という掃除屋さんのような役割を担っています。専門的にはユビキチンリガーゼ複合体の一部として働きます。

特に、RASという細胞増殖のスイッチとなるタンパク質を分解し、スイッチをオフにするにことに関わっていると考えられています。

LZTR1遺伝子に変異があると、この掃除屋さんの機能が低下します。

すると、分解されるべきRASタンパク質が細胞の中に溜まってしまい、結果として「スイッチが入りっぱなし」の状態になります。

細胞に対して成長や変化の命令が過剰に送られ続けることで、心臓の筋肉が厚くなったり、顔の形成が変わったりすると考えられています。

遺伝について(ここが10型の特殊な点)

ヌーナン症候群の多くは「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとりますが、10型(LZTR1変異)は少し複雑です。

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)のパターン

多くの10型の患者さんはこのパターンです。

ご両親のどちらかが10型である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。

また、ご両親は遺伝子変異を持っておらず、お子さんの代で初めて変化が起きる突然変異のケースも多くあります。

常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)のパターン

LZTR1変異においては、このパターンの報告があります。

ご両親はそれぞれ「保因者」として変異遺伝子を1つずつ持っていますが、発症はしていません。

お子さんが、ご両親から変異した遺伝子を1つずつ、合計2つ受け継いだ場合にのみ発症します。

この場合、ご両親は健康なのに、兄弟姉妹で発症する可能性があります。

また、このパターンの場合、心臓の症状などが重くなりやすい傾向があるという報告もあります。

ご自身のケースがどちらに当てはまるかは、遺伝学的検査の結果と、ご家族の病歴を合わせて、遺伝カウンセラーや専門医が判断します。

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察、心臓の詳しい検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。

1. 臨床診断

医師は診察で以下の点を確認します。

特徴的なお顔立ちがあるか。

身長や体重の増え方はどうか。

心雑音がないか。

家族に似た症状の人がいるか。

2. 画像検査・生理検査

心エコー検査

10型の診断と管理において最も重要な検査です。

心臓の壁の厚さ、弁の動き、血液の流れなどを詳しく調べます。特に肥大型心筋症の兆候がないかを入念にチェックします。

心電図検査

心臓のリズムや、心臓への負荷の状態を調べます。

3. 遺伝学的検査

確定診断のために行われます。

血液を採取し、DNAを解析してLZTR1遺伝子に変異があるかを調べます。

ヌーナン症候群には多くの原因遺伝子があるため、次世代シーケンサーという最新の技術を使って、関連する遺伝子を一度にまとめて網羅的に調べることが一般的になっています。

遺伝子が特定されることで、これが10型(LZTR1変異)であることが確定し、遺伝形式(優性か劣性か)の推定や、将来の健康管理に役立てることができます。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療やサポートを行うことで、健康を維持し、生活の質を高めることができます。

1. 心臓の治療と管理

肥大型心筋症

最も重要な管理ポイントです。

軽度で症状がない場合は、定期的な心エコー検査を行い、壁の厚さが進行していないかを経過観察します。

症状がある場合や進行が見られる場合は、心臓の負担を減らすお薬(β遮断薬など)を使用します。

重症の場合は手術が検討されることもありますが、多くの場合は内科的な管理でコントロールを目指します。

肺動脈弁狭窄症

狭窄が強い場合は、カテーテル治療や手術が行われます。

2. 成長ホルモン療法

低身長があり、一定の基準を満たす場合は、成長ホルモンを注射で補充する治療が検討されます。

日本では、ヌーナン症候群に対する成長ホルモン治療が保険適用となっています。

これにより、身長の伸びを促し、最終身長を高くする効果が期待できます。

ただし、肥大型心筋症がある場合は、心臓への影響を慎重に見極めながら治療を行う必要があります。主治医とよく相談して決定します。

3. 発達支援と療育

発達の遅れがある場合は、早期から療育を受けることが推奨されます。

理学療法:体のバランス感覚や筋力を養い、歩行などの運動発達を促します。

作業療法:手先の器用さや、食事・着替えなどの日常動作の練習をします。

言語聴覚療法:言葉の遅れや発音の練習をします。

就学時には学校と連携し、必要であれば学習のサポートや環境調整を行います。心臓の状態によっては、激しい運動を控える必要があるため、学校側へ正しく伝えることが大切です。

4. 定期的なフォローアップ

眼科検診:視力や斜視のチェック。

耳鼻科検診:中耳炎になりやすい傾向や、難聴の有無のチェック。

血液検査:易出血性のチェックなど。

ライフステージごとの見通し

乳幼児期

心臓の検査が中心になります。

哺乳が弱い、体重が増えないといった悩みがある場合は、栄養指導を受けます。

発達の遅れに気づいた場合は、療育をスタートさせます。

学童期

学校生活が始まります。

心臓の状態に合わせて、体育の授業や部活動での運動量を調整します。

学習面でのサポートが必要かを見極め、学校と相談します。

低身長に対する成長ホルモン療法を行うことが多い時期です。

思春期・成人期

最終的な身長が決まる時期です。

二次性徴(体の大人への変化)は通常通り訪れます。

大人になっても定期的な心臓の検診は続けます。

職業選択や結婚など、社会生活を送る上での相談も重要になります。LZTR1変異に関連するシュワン腫症などのリスクについても、成人期以降に一度専門医と相談しておくと安心です。

まとめ

ヌーナン症候群10型(LZTR1遺伝子変異)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: LZTR1遺伝子の変異により、細胞内の信号調節(掃除屋さんの機能)がうまくいかなくなっているRASオパチーの一つです。
  • 主な特徴: 典型的なヌーナン症候群の特徴に加え、肥大型心筋症のリスクが比較的高い傾向があります。
  • 遺伝の特殊性: 親から子へ伝わる優性遺伝だけでなく、両親が保因者である劣性遺伝のパターンをとることがあります。
  • 管理の要点: 定期的な心臓のチェック、成長のサポート、そして発達に合わせた療育が中心となります。

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