この記事のまとめ
ヌーナン症候群3型は、KRAS遺伝子の変化に関連する生まれつきの体質で、特徴的な顔立ち・低身長・先天性の心臓の病気などが見られます。症状の程度には大きな個人差があり、孤発例も少なくありません。RASオパチーという大きなグループに含まれ、CFC症候群と特徴が重なる部分もあります。診断は臨床所見・心臓や成長の評価・遺伝学的検査を組み合わせて行い、心臓のフォローや発達の支援を続けます。なおNIPTは主に21・18・13トリソミーなど特定の染色体を調べる非確定的検査で、この病気は一般的な検査対象ではありません。気になることがあれば、自己判断せず主治医や遺伝カウンセリングにご相談ください。
この記事でわかること
- ヌーナン症候群3型とは何か、KRAS遺伝子やRASオパチーとのかかわり
- 顔立ち・低身長・心臓・発達・皮膚など、主な症状と個人差の幅
- 常染色体顕性遺伝と孤発例の考え方、診断と治療・管理の流れ
- NIPTで分かる範囲と分からない範囲、出生前検査との向き合い方
医師から「ヌーナン症候群の中でもKRASという遺伝子に関連するタイプです」と説明を受け、初めて聞く言葉に戸惑っていらっしゃるかもしれません。アルファベットの並ぶ病名に、胸がざわつく気持ち。私も、ご家族の相談に立ち会うたびにその不安を感じます。
まずお伝えしたいのは、この体質は誰のせいでもないということです。そして、成長を支える手立ては数多くあります。一つずつ、落ち着いて知識を整理していきましょう。
ヌーナン症候群3型とは|KRAS遺伝子とのかかわり
ヌーナン症候群3型は、KRAS遺伝子の変化に関連するタイプで、ヌーナン症候群全体の中では比較的まれとされています。ヌーナン症候群そのものは、特徴的な顔立ち・低身長・生まれつきの心臓の病気などを主な特徴とする生まれつきの体質です。まずは全体像から見ていきます。
ヌーナン症候群は、細胞の中で成長の指令を伝える通り道に関連する体質です。この通り道はRAS/MAPK経路と呼ばれます。原因となる遺伝子はいくつも見つかっており、番号で型が分けられています。その中でKRAS遺伝子に関連するものが3型。数としては数パーセント程度とされる、少数派のタイプです。
3型は、典型的なヌーナン症候群の特徴に加えて、発達や皮膚の症状がやや目立つ傾向があると報告されています。ただし、あくまで傾向。程度には大きな幅があり、一人ひとり違います。難病情報センターなどの公的な情報でも、症状の個人差の大きさが繰り返し触れられています。
RASオパチーという大きなグループ
ヌーナン症候群は、医学的にはRASオパチーという大きなグループに含まれます。細胞の成長を調整する経路に関連する体質の総称です。KRAS遺伝子の変化は、この経路の信号の伝わり方に影響すると考えられています。
同じグループには、神経線維腫症1型など、いくつかの体質が含まれます。関連する体質については神経線維腫症1型の解説記事もあわせてご覧ください。全体像を知ると、主治医の説明がぐっと理解しやすくなります。
CFC症候群との関係
3型を理解するうえで欠かせないのが、CFC症候群との関係です。CFC症候群は、心臓・顔立ち・皮膚に特徴が出る体質を指します。KRAS遺伝子の変化は、ヌーナン症候群だけでなく、このCFC症候群にも関連することがあります。
両者は症状が重なり合い、はっきり線を引きにくいことがあります。まったく別の病気というより、連続したつながりの中にあると捉えられています。虹の色がなだらかに移り変わるようなイメージ。そのため3型は、CFC症候群に近い特徴を持つタイプと説明されることもあります。
主な症状と個人差
ヌーナン症候群3型の症状は、顔立ち・低身長・心臓・発達・皮膚など全身に及びますが、その現れ方には大きな個人差があります。すべてが一人にそろうわけではありません。ここでは代表的な特徴を、順番に見ていきます。
顔立ちの特徴
ヌーナン症候群に共通する、やわらかな印象の顔立ちが見られます。両目の間隔が広めであったり、まぶたが下がりぎみであったりすることがあります。耳の位置がやや低く、後ろに傾いて見えることも。
こうした顔立ちは、乳幼児期にはっきりしていることが多いです。成長とともに印象が変わり、大人になるにつれて目立たなくなっていくと報告されています。顔立ちの特徴が中心となる別の体質についてはナブラスマスク様顔貌症候群の解説記事も参考になります。
心臓の病気
3型では、生まれつきの心臓の病気が見られることが多いとされています。代表的なのが肺動脈弁狭窄。心臓から肺へ血液を送る弁が狭くなり、血液が通りにくくなる状態です。ヌーナン症候群でもっとも多い心臓の病気とされています。
もう一つ注意されるのが、心臓の筋肉が厚くなる肥大型心筋症です。3型では、この合併がやや見られやすいと報告されています。心臓の症状は程度に幅があるため、心エコー検査などで定期的に確認していきます。
発達と学習の個人差
ご家族がいちばん気にされるのが、発達についてです。3型では、言葉が出るのがゆっくりだったり、歩き始めなどの運動発達がおだやかだったりすることがあると言われています。他の型に比べ、発達の個人差がやや大きいとする報告もあります。
ただし、これはあくまで傾向です。標準的な発達を示すお子さんもいらっしゃいます。筋力がやわらかい筋緊張の低さが、運動発達のゆっくりさに関係することも。妊娠期の発達に関する考え方は妊娠と知的発達のリスクに関する記事でも整理しています。早い時期からの支援が、成長を後押しします。
皮膚・髪・出血のしやすさ
KRAS遺伝子は皮膚や髪の形づくりにも関連するため、3型ではここに特徴が出やすいとされます。髪が細く乾いていたり、縮れていたりすることがあります。眉毛やまつ毛が薄めのことも。皮膚は乾燥しやすく、二の腕などがざらつくことがあります。
あざができやすい、出血が止まりにくいといった、出血のしやすさが見られることもあります。手術や歯の治療の前には、この点を主治医に伝えておくと安心です。低身長や胸の形の特徴が見られることもあり、成長のフォローとあわせて確認していきます。

原因と遺伝の考え方
ヌーナン症候群3型は、KRAS遺伝子の変化が細胞の成長の指令に影響することに関連し、多くは親から受け継いだものではない孤発例です。遺伝の形式を知っておくと、次のお子さんのことを考えるときの手がかりになります。順に見ていきます。
KRAS遺伝子は、細胞に「成長しなさい」という指令を伝える役目を担います。ふだんは必要なときだけ働きます。遺伝子に変化があると、この調節がうまくいかず、指令が過剰に伝わりやすくなると考えられています。その積み重ねが、心臓や皮膚、発達などの特徴につながるとされています。
この体質は常染色体顕性遺伝という形式をとります。以前は顕性遺伝と呼ばれていました。親のどちらかが同じ体質を持つ場合、お子さんに受け継がれる可能性は50パーセントとされています。数字だけを見ると不安になるかもしれません。
ただ、実際にはご両親に同じ特徴がなく、お子さんで初めて遺伝子の変化が起こる孤発例が多いと報告されています。精子や卵子ができる過程で偶然に生じる変化。妊娠中の生活やストレスが原因ではありません。誰のせいでもない、という点を心に留めてください。
診断とNIPTで分かること・分からないこと
ヌーナン症候群3型の診断は臨床所見・心臓や成長の評価・遺伝学的検査を組み合わせて行い、一般的なNIPTはこの病気の検査対象ではありません。検査で分かる範囲には限りがあります。まず、その線引きをはっきりさせておきましょう。
ヌーナン症候群3型の診断では、まず特徴的な顔立ちや成長の様子を確認します。心臓の状態は心エコー検査や心電図検査で調べます。そのうえで、確定のために遺伝学的検査を行います。血液からDNAを解析し、関連する遺伝子の変化を確認する検査です。
ヌーナン症候群には関連する遺伝子が複数あります。そのため、複数の遺伝子をまとめて調べる方法がとられることが一般的です。遺伝学的検査は結果の受け止めに配慮が必要なため、遺伝カウンセリングとあわせて進めます。
NIPTはこの病気の検査対象ではありません
ここは、とても大切な点です。NIPTは、主に21・18・13トリソミーなど、特定の染色体の数の変化を調べる非確定的な検査です。母体の血液に含まれる、赤ちゃん由来のDNAのかけらを分析する仕組みになっています。
一方で、ヌーナン症候群3型はKRAS遺伝子という単一の遺伝子の小さな変化に関連します。染色体の本数の増減とは、仕組みが異なります。そのため、この病気は一般的なNIPTの検査対象には含まれていません。NIPTで「異常なし」でも、この体質の有無が分かるわけではない、という点を知っておいてください。
NIPTはあくまで非確定的な検査です。結果が示す意味や限界についてはNIPTの検査結果の見方に関する記事で詳しく整理しています。確定診断が必要な場合は、羊水検査などの確定的検査が行われます。検査の目的と範囲を理解して選ぶことが、納得につながります。
治療と管理・成長のサポート
ヌーナン症候群3型の管理は、心臓の定期的なフォロー・発達や成長の支援・日常の健康管理を組み合わせて、生活の質を支えることが中心になります。体質そのものを変える治療は、今のところ確立されていません。それでも、できることはたくさんあります。順に見ていきます。
心臓の症状は、程度に応じて対応します。軽い肺動脈弁狭窄は経過観察が中心。狭くなり方が強い場合は、カテーテルによる治療や手術が検討されます。肥大型心筋症があるときは、心臓の負担をやわらげる薬を使うことも。定期的な心エコー検査で、変化を見守っていきます。
発達の支援は、早く始めるほど力になります。体のバランスや筋力を養う理学療法、手先の動きや日常動作を練習する作業療法、言葉や食事の練習を助ける言語聴覚療法などがあります。就学の時期には学校と連携し、お子さんに合った学びの場を選びます。発達支援に関する公的な情報は国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センターも参考になります。
低身長に対しては、一定の基準を満たす場合に成長ホルモンを補う治療が検討されます。日本では、ヌーナン症候群に対する成長ホルモン治療が保険で受けられます。ただし心臓の状態によっては慎重な判断が必要です。主治医とよく相談して決めてください。皮膚の乾燥には毎日の保湿が支えになります。
指定難病や医療費の助成、療養に役立つ情報は難病情報センターにまとまっています。使える制度を知っておくと、暮らしの負担が軽くなります。
出生前検査との向き合い方
出生前検査を受けるかどうかに、決まった正解はなく、迷いながら考えること自体が自然な過程です。ご夫婦で気持ちを話し合い、納得できる形を選んでいくことが何より大切です。ここでは、検査との向き合い方について考えます。
私は相談の場で、迷いを言葉にできること自体が大きな一歩だと感じています。受ける・受けないのどちらを選んでも、そこには家族の物語があります。実際にXでも、迷いをそのまま綴る声が見られます。@p_sh7pipiさんは、結局受けるかどうかウジウジ悩んでいる、受けるも受けないも正解はないと書いていました。その揺れる気持ちは、とても自然なものです。
そして、話し合いの末にたどり着く答えは、人それぞれです。@8a0iceNrs25さんは、夫と一緒に医師の話を聞き、最終的に受けないと決めたと綴っていました。「素敵な覚悟ですね」と言ってもらえて嬉しかった、という言葉が印象に残ります。受けない選択もまた、しっかり考え抜かれた尊い決断です。どちらの声にも、深い思いがこもっています。
大切なのは、検査で何が分かり、何が分からないのかを知ったうえで選ぶことです。NIPTは対象の染色体に絞った非確定的検査で、単一の遺伝子に関連するこの病気は対象外でした。検査ごとの目的の違いはダウン症と出生前検査に関する記事でも解説しています。妊娠や出産に関わる専門的な情報は日本産科婦人科学会の発信も心強い味方です。
迷ったときは、一人で抱え込まないでください。遺伝カウンセリングでは、専門家と一緒に気持ちを整理できます。分からないことは、遠慮なく聞いてください。
よくある質問
Q. ヌーナン症候群3型はどのくらいまれな体質ですか?
ヌーナン症候群そのものは、およそ1000人から2500人に1人ほどとされています。その中でKRAS遺伝子に関連する3型は、数パーセント程度とされる少数派のタイプです。まれではありますが、決して珍しすぎる体質ではありません。症状の程度には大きな個人差があります。気になることは主治医にご相談ください。
Q. NIPTでヌーナン症候群3型は分かりますか?
一般的なNIPTは、主に21・18・13トリソミーなど特定の染色体の数を調べる非確定的検査です。ヌーナン症候群3型はKRAS遺伝子という単一の遺伝子の変化に関連するため、一般的なNIPTの検査対象には含まれていません。NIPTで異常がなくても、この体質の有無が分かるわけではありません。確定には遺伝学的検査などが必要です。
Q. 親に同じ特徴がなくても子どもに起こりますか?
起こることがあります。ヌーナン症候群では、ご両親に同じ特徴がなく、お子さんで初めて遺伝子の変化が生じる孤発例が多いと報告されています。精子や卵子ができる過程で偶然に生じる変化で、妊娠中の生活やストレスが原因ではありません。誰のせいでもない体質です。ご心配なときは遺伝カウンセリングをご利用ください。
Q. CFC症候群とはどう違うのですか?
KRAS遺伝子の変化は、ヌーナン症候群にもCFC症候群にも関連することがあります。両者は症状が重なり合い、はっきり線を引きにくいことがあります。まったく別の病気というより、連続したつながりの中にあると捉えられています。診断名は、症状の様子や遺伝学的検査の結果をもとに、主治医が総合的に判断します。
Q. どのような支援や制度を利用できますか?
心臓のフォロー、発達を支える療育、成長のサポートなどを、状態に合わせて組み合わせます。発達障害情報・支援センターや難病情報センターでは、支援や医療費助成の情報がまとまっています。就学時には学校との連携も役立ちます。使える制度を早めに知っておくと、暮らしの負担が軽くなります。まずは主治医や自治体の窓口にご相談ください。
Q. 出生前検査を受けるか迷っています。どう考えればよいですか?
受けるも受けないも、決まった正解はありません。迷うこと自体が自然な過程です。まず、検査で何が分かり、何が分からないのかを知ることから始めてください。ご夫婦で気持ちを話し合い、納得できる形を選ぶことが大切です。遺伝カウンセリングでは専門家と一緒に整理できます。一人で抱え込まず、ご相談ください。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
