「Neurodevelopmental disorder with neonatal respiratory insufficiency, hypotonia, and feeding difficulties」という、非常に長く、そして赤ちゃんの命に関わる言葉が並んだ診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による病気です」と説明を受け、NICU(新生児集中治療室)で懸命に生きようとするお子さんの姿を見守りながら、計り知れない不安と孤独の中にいらっしゃることと思います。特に、「呼吸不全」や「哺乳障害」といった言葉は、親御さんにとって非常に重く響くものです。
この長い病名は、医学的な特徴をそのまま記述した正式名称ですが、世界的には原因となる遺伝子の名前をとって「PURA(プラ)症候群」と呼ばれることが一般的です。
また、英語の病名の頭文字をとってNEDRIHF(ネドリフ)と略されることもあります。
この病気は、PURAという遺伝子に変化が起きることで、脳や神経の発達に影響が出る生まれつきの体質です。
「呼吸不全、筋緊張低下、哺乳障害」という名前がついている通り、生まれた直後から体が柔らかく(フニャフニャしていて)、呼吸をしたりミルクを飲んだりすることが苦手なのが最大の特徴です。
非常に希少な疾患であり、2014年に初めて報告されたばかりの新しい病気です。そのため、日本語での詳しい情報はまだ少なく、診断を受けても具体的な生活のイメージが湧きにくいかもしれません。
しかし、近年遺伝子検査の技術が進歩したことで、この診断を受けるお子さんが世界中で増えてきており、「PURA Syndrome Foundation」などの国際的な家族会も活動しています。
まず最初にお伝えしたいのは、お子さんは診断名のついた「症例」ではなく、生きる力を持った一人の人間だということです。
ゆっくりではあっても、お子さんは確実に成長していきます。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この長い病名がどのような意味を持っているのか、そしてどのような病気なのかを理解しましょう。
病名の意味とPURA症候群
この病名は、生まれたばかりの赤ちゃんに見られる主な3つの特徴を組み合わせたものです。
- 新生児呼吸不全(Neonatal respiratory insufficiency):
生まれた直後から、自分で十分に息をするのが難しい状態です。息が止まってしまう(無呼吸)ことや、呼吸が浅い(低換気)ことがあります。 - 筋緊張低下(Hypotonia):
筋肉の張りが弱く、体が柔らかい状態です。抱っこするとフニャッとしたり、手足の動きが少なかったりします。 - 哺乳障害(Feeding difficulties):
おっぱいを吸う力が弱い、飲み込むのが苦手などの理由で、口からミルクを飲むのが難しい状態です。
これらに加えて、神経発達障害(Neurodevelopmental disorder)、つまり言葉や運動の発達がゆっくりであるという特徴があります。
これらをまとめて、PURA遺伝子の変異によって引き起こされる一連の症状として、PURA症候群と呼びます。
希少疾患としての位置づけ
この病気は非常に稀で、正確な患者数はわかっていませんが、世界で数百人程度が報告されています。
しかし、これまで「原因不明の重度発達遅滞」や「原因不明の筋緊張低下」とされていたお子さんの中に、検査技術の進歩によって新たにPURA症候群と診断されるケースが増えています。
主な症状
PURA症候群の症状は、生まれた直後の新生児期の特徴と、その後の成長過程で見られる特徴に分けられます。
症状の程度には個人差がありますが、多くの患者さんに共通してみられるサインについて詳しく見ていきましょう。
1. 新生児期〜乳児期の特徴(命を守るためのケア)
生まれた直後から生後数ヶ月の間は、以下の3つの症状への対応が中心となります。
重度の筋緊張低下(フロッピーインファント)
ほぼ全てのお子さんに見られます。
筋肉に力が入らず、だらんとしている状態です。
「泣き声が弱い」「抱っこしても体がしっかりしない」といった様子が見られます。
この体の柔らかさが、呼吸や哺乳の難しさにもつながっています。
呼吸の問題
多くのお子さんが、生まれた直後に呼吸のサポートを必要とします。
息が止まってしまう無呼吸発作や、呼吸が浅くて体の中の二酸化炭素が溜まってしまう低換気が見られます。
一時的に人工呼吸器が必要になることもありますが、成長とともに呼吸の状態は安定していく傾向があります。ただし、風邪をひいた時や睡眠中には注意が必要です。
哺乳の難しさ
お口の周りの筋肉や、飲み込むための筋肉が弱いため、ミルクを吸う力や飲み込む力が弱いです。
また、間違って気管に入ってしまう誤嚥のリスクもあります。
そのため、鼻からチューブを通してミルクを入れる経管栄養などが必要になることが多いです。
過剰な睡眠(傾眠傾向)
赤ちゃんが起きている時間が短く、授乳の時間になっても起きない、刺激してもすぐに寝てしまうといった様子が見られることがあります。
2. 神経発達の特徴
成長とともに、発達のゆっくりさが明らかになってきます。
知的発達の遅れ
中等度から重度の知的障害が見られることが多いです。
言葉の理解や表出(お話しすること)はゆっくりです。
言葉が出ない(非言語)お子さんも多いですが、身振りや絵カード、視線入力装置などを使ってコミュニケーションをとることができます。
運動発達の遅れ
首すわり、お座り、歩行などの運動のマイルストーンが大幅に遅れます。
多くのお子さんは、歩行器や車椅子などを使って移動します。
独歩(一人歩き)ができるようになるお子さんもいますが、その時期は個人差が大きいです。
3. てんかん発作
患者さんの約半数に、てんかん発作が見られます。
発作のタイプは様々で、体が一瞬ビクッとするミオクロニー発作や、全身が硬直する発作、あるいは「点頭てんかん(ウエスト症候群)」のような発作が見られることもあります。
発作は乳児期から幼児期に始まることが多く、お薬でコントロールできる場合もあれば、なかなか止まらない難治性の場合もあります。
発作のように見えなくても、ボーッとする時間が長い場合などは、脳波検査で確認することが大切です。
4. その他の特徴
顔貌の特徴
特徴的と言えるほどはっきりしたものではありませんが、お顔の筋肉が弱いことによる表情の少なさ(仮面様顔貌)や、口が開いている、上唇が富士山のような形をしている、といった傾向が見られることがあります。
視覚の問題
斜視(視線が合わない)や、遠視・近視などの屈折異常が見られることがあります。
また、目は見えていても脳での処理がうまくいかない皮質視覚障害(CVI)を持つお子さんもいます。
骨格の問題
背骨が曲がる側弯症や、股関節脱臼になりやすい傾向があります。これは筋肉の緊張が低いことと関係しています。
体温調節の難しさ
体温が低くなりやすかったり、環境の温度に合わせて体温調節するのが苦手だったりすることがあります。
原因
なぜ、筋肉が柔らかくなったり、呼吸がうまくできなかったりするのでしょうか。その原因は、細胞の働きを調節する重要なタンパク質の不足にあります。
PURA遺伝子の役割
この病気の原因は、第5番染色体(5q31.3領域)にある**PURA(プラ)**という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、「Pur-alpha(プラ・アルファ)」というタンパク質を作る設計図です。
Pur-alphaタンパク質は、細胞の中で非常に多忙な「現場監督」のような役割を果たしています。
- DNAやRNAの管理: 遺伝情報のコピーや読み出しを助けます。
- 脳の発達: 神経細胞が増えたり、成熟したりするのを助けます。
- ミエリンの形成: 神経の周りにある絶縁体(ミエリン)を作るのを助けます。これにより、神経の信号が素早く伝わるようになります。
何が起きているのか
PURA遺伝子に変異が起きると、このPur-alphaタンパク質が十分に作られなかったり、形がおかしくなって働けなくなったりします。
専門的には「ハプロ不全(片方の遺伝子が働かないことで量が足りなくなる状態)」が主な原因と考えられています。
脳や神経を作る現場監督が足りなくなるため、神経細胞のネットワークがうまく作られなかったり、神経の信号伝達が遅くなったりします。
その結果、筋肉への命令がうまく伝わらずに体が柔らかくなったり、脳の発達がゆっくりになったりすると考えられています。
遺伝について
この病気は**常染色体顕性遺伝(優性遺伝)**という形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のPURA遺伝子に変異があれば発症します。
しかし、PURA症候群の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。
ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる**新生突然変異(de novo変異)**のケースが圧倒的に多いです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。
診断と検査
診断は、症状の観察だけでは難しく、遺伝学的検査によって確定されます。
特に、脊髄性筋萎縮症(SMA)やプラダー・ウィリ症候群など、他の「体が柔らかくなる病気」との区別が重要です。
1. 臨床診断
医師は診察で以下の点を確認します。
- 生まれた時からの重度の筋緊張低下があるか。
- 呼吸の問題や哺乳障害があるか。
- 特徴的な顔立ちや、過眠傾向があるか。
- 脳波やMRIで特徴的な所見があるか。
2. 脳MRI検査
脳の構造に大きな奇形があることは少ないですが、ミエリン化遅延といって、脳の白質部分の発達が年齢に比べてゆっくりであるという所見が見られることがよくあります。これは診断の重要な手がかりになります。
3. 遺伝学的検査
確定診断のために最も重要な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してPURA遺伝子に変異があるかを調べます。
最近では「全エクソーム解析」といって、すべての遺伝子を網羅的に調べる検査で見つかることが増えています。
これにより、他の類似した疾患を否定し、PURA症候群であることを確定させることができます。

治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。
治療は、小児科、小児神経科、呼吸器科、リハビリテーション科などがチームを組んで行います。
1. 呼吸と栄養の管理(最も大切)
新生児期から乳児期にかけての最優先事項です。
呼吸管理
無呼吸がある場合は、酸素を投与したり、鼻マスクによる人工呼吸(CPAPなど)を行ったりします。
成長しても、風邪をひいた時などは呼吸が悪くなりやすいため、早めの受診や吸引などのケアが必要です。
栄養管理
口から安全に飲めるようになるまでは、経管栄養(鼻チューブ)や、お腹に直接栄養を入れる胃ろうを使用します。
胃ろうは「かわいそう」と思われるかもしれませんが、鼻チューブの不快感がなくなり、お口のリハビリに集中できるため、お子さんの発達にとってプラスになることが多い選択肢です。
嚥下訓練(飲み込みの練習)を行い、ゼリーなど少しずつ口から食べる楽しみを増やしていきます。
2. リハビリテーション(療育)
お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。
理学療法(PT)
体の中心(体幹)をしっかりさせ、お座りや立位の練習を行います。
足や背中が変形しないように、ストレッチや装具の作成も行います。
作業療法(OT)
手先の感覚を育て、おもちゃを持ったり、スイッチを押したりする練習をします。
食事や着替えなどの日常生活動作の自立を目指します。
言語聴覚療法(ST)
コミュニケーション能力の向上を目指します。
言葉だけでなく、視線入力装置やタブレット端末などの**AAC(拡大代替コミュニケーション)**を活用することで、お子さんの「伝えたい」という気持ちを引き出します。
摂食指導もSTの重要な役割です。
3. てんかんの治療
てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。
発作のタイプに合わせてお薬を選び、発作をコントロールします。
難治性の場合は、ケトン食療法などの食事療法が効果を示すこともあります。
4. 整形外科的ケア
側弯症や股関節脱臼のチェックを定期的に行います。
進行を防ぐために、コルセットや特別な椅子(座位保持装置)を使用します。
5. 教育と生活のサポート
就学時には、特別支援学校など、お子さんの特性に合わせた手厚い教育環境を選ぶことが大切です。
医療的ケア(吸引や注入など)が必要な場合も、看護師が配置されている学校が増えています。
地域での生活を支えるために、訪問看護や放課後等デイサービスなどの福祉サービスを積極的に利用しましょう。
まとめ
PURA症候群(NEDRIHF)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: PURA遺伝子の変異により、脳や神経の発達に必要なタンパク質が不足することで起こる先天性の疾患です。
- 主な特徴: 新生児期の重度の筋緊張低下、呼吸不全、哺乳障害が特徴で、その後は知的・運動発達の遅れが見られます。
- 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
- 管理の要点: 呼吸と栄養の確実な管理、てんかんのコントロール、早期からのリハビリテーション、そしてコミュニケーション支援が中心となります。
