メンケ・ヘネカム症候群1型という、非常に稀で聞き慣れない診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による病気です」と説明を受け、さらに「CREBBPという遺伝子が原因です」や「ルビンシュタイン・テイビ症候群と兄弟のような関係にある病気ですが、少し違います」といった専門的な話をされて、まだ具体的なイメージが湧かずに戸惑っていらっしゃるかもしれません。
特に、この病気は2018年頃に疾患概念が確立されたばかりの新しい病気であるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、「これからどうなってしまうのか」「他に同じ病気の人はいるのか」という孤独や不安を感じていらっしゃるかもしれません。
この病気は、オランダの医師であるメンケ博士とヘネカム博士によって報告されました。
生まれつきの遺伝子の変化によって、知的な発達のゆっくりさや、頭が小さめであること、そして食事の際の飲み込みにくさなど、全身に様々な特徴が現れる体質です。
原因となるCREBBP遺伝子は、有名なルビンシュタイン・テイビ症候群という病気の原因としても知られていますが、メンケ・ヘネカム症候群1型は、その中でも遺伝子の「特定の場所」に変異があるタイプとして区別されています。
非常に希少な疾患ですが、近年の遺伝子解析技術の進歩により、診断される患者さんが世界中で少しずつ増えてきています。
診断がついたことは、お子さんを理解し、適切なサポートを行うための第一歩です。
まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの可能性を限定するものではないということです。
お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。
病気の定義
メンケ・ヘネカム症候群1型は、CREBBP遺伝子の変異によって引き起こされる先天性の多発奇形症候群および神経発達障害です。
英語ではMenke-Hennekam Syndrome 1と表記され、略してMKHK1と呼ばれることがあります。
主な特徴としては、重度の知的障害、出生時からの小頭症すなわち頭のサイズが小さいこと、自閉スペクトラム症のような行動特性、そして摂食障害すなわちミルクや食事がうまく摂れないことなどが挙げられます。
ルビンシュタイン・テイビ症候群との関係
この病気を理解する上で、ルビンシュタイン・テイビ症候群(RSTS)との関係を知っておくことが非常に重要です。
RSTSは、幅広の親指や特徴的なお顔立ちを特徴とする有名な疾患であり、その原因の多くはCREBBP遺伝子の変異です。
では、なぜ同じ遺伝子なのに病名が違うのでしょうか。
それは、変異が起きている「場所」が違うからです。
CREBBP遺伝子の中でも、エクソン30またはエクソン31という特定の部分に変異が起きると、RSTSの典型的な特徴である幅広の親指などが見られず、かわりに小頭症や自閉的な傾向が強く出ることがわかってきました。
そこで、この特定のタイプを、発見者の名前をとってメンケ・ヘネカム症候群1型として区別するようになったのです。
つまり、遺伝子的には兄弟のような関係ですが、現れる症状のパターンが異なるため、別の名前がつけられています。
メンケ・ヘネカム症候群の分類
原因遺伝子によって2つの型に分けられています。
メンケ・ヘネカム症候群1型(MKHK1):CREBBP遺伝子の特定の部分(エクソン30または31)の変異が原因です。
メンケ・ヘネカム症候群2型(MKHK2):EP300遺伝子の変異が原因です。
今回解説するのは、このうちの1型(CREBBP遺伝子変異)についてです。
発生頻度
非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、世界で数十例から百例程度が報告されている段階です。
しかし、診断技術の普及に伴い、これまで原因不明の発達遅滞とされていたお子さんの中から、新たに診断されるケースが増えています。
主な症状
メンケ・ヘネカム症候群1型の症状は、神経の発達に関わるものから、身体的な特徴まで多岐にわたります。
症状の程度には個人差がありますが、多くの患者さんに共通して見られるサインについて、詳しく見ていきましょう。
1. 神経発達の特徴
ご家族が最も気にかけられるのが、発達のゆっくりさや行動の特徴です。
知的発達の遅れ
多くの場合、中等度から重度の知的障害が見られます。
物事を理解したり、学習したりするペースはゆっくりです。
言葉の遅れも顕著で、お話しできる単語が限られる場合や、言葉が出ない場合もあります。
しかし、言葉以外の方法(身振りや表情など)でのコミュニケーションは可能なことが多いです。
自閉スペクトラム症(ASD)の傾向
対人関係の難しさや、こだわり行動といった自閉スペクトラム症の特徴が見られる頻度が、ルビンシュタイン・テイビ症候群に比べて高いと言われています。
視線が合いにくい、特定のおもちゃに強い執着を示す、手をひらひらさせるなどの常同行動が見られることがあります。
また、感覚過敏として音や光、触られることを嫌がる傾向を持つお子さんもいます。
運動発達の遅れ
首すわり、お座り、歩行などの運動のマイルストーンが遅れる傾向があります。
筋肉の張りが弱い低緊張が見られることもあり、これが運動発達の遅れに影響しています。
2. 身体的な特徴
お顔立ちや頭の形に特徴が見られることがあります。
小頭症
この病気の大きな特徴の一つです。
生まれた時、あるいは生後間もなくから、頭囲すなわち頭の周りの長さが平均よりも小さくなる傾向があります。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の患者さんでも小頭症は見られますが、メンケ・ヘネカム症候群1型の方がより頻度が高く、程度も強い傾向があると言われています。
お顔立ちの特徴
特徴的と言えるほどはっきりしたものではありませんが、以下のような傾向が見られることがあります。
眉毛が濃い、あるいはアーチ状である。
目が少し離れている、あるいは目が小さい。
鼻が短く、鼻先が上を向いている。
人中すなわち鼻の下の溝が短い。
上唇が薄い。
耳の位置が低い、あるいは形が変わっている。
口蓋が高い位置にある(高口蓋)。
低身長
身長の伸びが緩やかで、同年代の平均よりも低くなる低身長が見られることがあります。
3. 摂食・消化器の症状
生活の中でケアが必要になる重要なポイントです。
摂食障害(哺乳困難)
乳児期に、ミルクを吸う力が弱かったり、飲み込むのが苦手だったりすることがよくあります。
体重が増えにくく、経管栄養すなわち鼻からチューブを通してミルクを入れる方法などのサポートが必要になることもあります。
成長しても、固形物を噛んで飲み込むのが苦手な場合があり、食事の形態に工夫が必要なことがあります。
胃食道逆流症
飲んだミルクや食べたものが胃から食道へ逆流しやすく、頻繁に吐いてしまったり、胸焼けで不機嫌になったりすることがあります。
4. 手足の特徴(RSTSとの違い)
ここが診断の分かれ目となります。
ルビンシュタイン・テイビ症候群(RSTS)では、親指や足の親指が非常に幅広く、平べったい形をしているのが最大の特徴です。
一方、メンケ・ヘネカム症候群1型では、この「幅広い親指」という特徴が見られない、あるいは非常に軽度です。
指が少し短かったりすることはありますが、パッと見てわかるような大きな特徴ではないことが多いです。
5. その他の症状
視覚・聴覚
斜視や屈折異常としての遠視や近視、あるいは難聴が見られることがあります。
定期的な検診でチェックすることが大切です。
てんかん発作
患者さんの一部に、てんかん発作が見られます。
発作のタイプは様々ですが、お薬でコントロールできる場合も多いです。
脳波検査で確認を行います。
クリプトルキズム(停留精巣)
男の子の場合、精巣が陰嚢の中に降りてこないことがあります。
反復感染
風邪をひきやすかったり、中耳炎を繰り返したりすることがあります。
免疫の働きに軽度の問題がある可能性も示唆されています。

原因
なぜ、発達がゆっくりになったり、頭が小さくなったりするのでしょうか。その原因は、細胞の中で遺伝子の働きを調節する重要なタンパク質の変化にあります。
CREBBP遺伝子の役割
メンケ・ヘネカム症候群1型の原因は、第16番染色体にあるCREBBPという遺伝子の変異です。
この遺伝子は、「CBP」というタンパク質を作る設計図です。
CBPタンパク質は、細胞の中で「ヒストンアセチルトランスフェラーゼ」という酵素として働いています。
少し難しい言葉ですが、これは「遺伝子のスイッチを入れるための鍵」のような役割を果たしています。
私たちの体には2万個以上の遺伝子がありますが、それらは普段、ヒストンという糸巻きのようなタンパク質に巻き付いてコンパクトに収納されています。
CBPタンパク質は、このヒストンに目印(アセチル基)をつけることで、巻き付いたDNAを緩め、必要な遺伝子を読み取れる状態、つまりスイッチONの状態にします。
これをクロマチンリモデリングと呼びます。
エクソン30と31の重要性
CREBBP遺伝子は非常に大きな遺伝子ですが、メンケ・ヘネカム症候群1型を引き起こす変異は、この遺伝子の中の「エクソン30」または「エクソン31」という特定の部分に集中しています。
この部分は、CBPタンパク質の機能の中でも特に重要な役割を果たしている場所だと考えられています。
他の場所の変異であればルビンシュタイン・テイビ症候群になりますが、この特定の場所が変化することで、より重度の知的障害や自閉傾向、小頭症といった特徴的な症状のセットが現れるのです。
これを遺伝子型と表現型の相関と呼びます。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のCREBBP遺伝子に変異があれば発症します。
しかし、メンケ・ヘネカム症候群の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。
ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。
1. 臨床診断
医師は診察で以下の点を確認します。
- 中等度から重度の知的発達の遅れがあるか。
- 自閉的な行動傾向があるか。
- 生まれた時からの小頭症があるか。
- 摂食の問題があるか。
- ルビンシュタイン・テイビ症候群に似ているが、親指の特徴がはっきりしないか。
これらの特徴が揃っている場合、メンケ・ヘネカム症候群が疑われます。
2. 遺伝学的検査
確定診断のために最も重要な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してCREBBP遺伝子に変異があるかを調べます。
特に、エクソン30または31に変異があるかどうかが、1型と診断するためのポイントになります。
最近では全エクソーム解析といって、すべての遺伝子を網羅的に調べる検査で見つかることが増えています。
これにより、EP300変異(MKHK2)なのか、CREBBP変異(MKHK1またはRSTS)なのかをはっきりさせることができます。
3. 画像検査
脳のMRI検査を行うことがあります。
脳の構造に大きな奇形があることは少ないですが、脳梁が薄い、脳全体のボリュームが小さいといった所見が見られることがあります。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。
治療は、小児科、小児神経科、リハビリテーション科、耳鼻科、眼科などがチームを組んで行います。
1. リハビリテーション(療育)
この病気のお子さんにとって、最も重要で中心となるケアです。早期からの開始が推奨されます。
理学療法(PT)
体のバランス感覚を養い、お座りや歩行などの運動機能を高める訓練を行います。
低緊張がある場合は、姿勢を保つための練習や、筋肉の発達を促す遊びを取り入れます。
作業療法(OT)
手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。
食事や着替えなどの日常生活動作の自立を目指します。
感覚過敏がある場合は、感覚統合療法などを通じて、感覚の受け取り方を調整する練習をすることもあります。
言語聴覚療法(ST)
コミュニケーション能力の向上を目指します。
言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。
また、食事の飲み込みに問題がある場合は、摂食指導を行います。安全に楽しく食べるための食事形態や介助方法をアドバイスします。
2. 摂食・栄養の管理
体重が増えにくい場合や、飲み込みが難しい場合は、栄養管理が必要です。
高カロリーのミルクや栄養補助食品を利用したり、必要に応じて経管栄養を行ったりして、十分な栄養を確保します。
胃食道逆流症がある場合は、授乳後の姿勢を工夫したり、胃酸を抑えるお薬を使ったりします。
3. 合併症の管理
てんかん
発作がある場合は、抗てんかん薬を使用してコントロールします。
眼科・耳鼻科
定期的な検診を行い、斜視や難聴があれば早期に対応します。眼鏡や補聴器が必要になることもあります。
感染症対策
風邪をひきやすい場合は、手洗いや人混みを避けるなどの予防策を心がけ、体調が悪い時は早めに受診します。
4. 教育と生活のサポート
就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。
個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。
自閉スペクトラム症の特性がある場合は、見通しを持たせるための視覚的な支援や、落ち着ける環境づくりが役立ちます。
放課後等デイサービスなどの福祉サービスを利用することで、社会性を育む機会を増やすことができます。
まとめ
メンケ・ヘネカム症候群1型(MKHK1)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: CREBBP遺伝子の特定部分(エクソン30/31)の変異により、遺伝子のスイッチを入れる働きが変化することで起こる先天性の疾患です。
- 主な特徴: 重度の知的発達の遅れ、小頭症、自閉スペクトラム症の傾向、摂食障害などが特徴です。
- RSTSとの違い: ルビンシュタイン・テイビ症候群と兄弟関係にありますが、幅広の親指などの特徴が目立たず、小頭症や自閉的な傾向が強いことが診断のポイントとなります。
- 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
- 管理の要点: 早期からの療育(PT, OT, ST)、栄養管理、合併症のケア、そして個性に合わせた教育的支援が中心となります。
