クーレン・デ・ブリース症候群(KdVS)徹底ガイド

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クーレン・デ・ブリース症候群という、おそらく初めて耳にするような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「17番染色体の一部が欠けています」や「KANSL1という遺伝子に変化があります」といった専門的な話をされて、まだ具体的なイメージが湧かずに戸惑っていらっしゃるかもしれません。

特に、この病気は2006年に発見されたばかりの比較的新しい疾患概念であるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が少なく、海外の情報ばかりで不安を感じていらっしゃる方も多いことでしょう。

クーレン・デ・ブリース症候群は、オランダのデビッド・クーレン博士とバート・デ・ブリース博士によって報告された先天性の疾患です。

以前は「17q21.31微細欠失症候群」という、染色体の場所を示す名前で呼ばれていましたが、現在では発見者の名前をとってクーレン・デ・ブリース症候群、略してKdVSと呼ばれることが一般的になっています。

この病気の大きな特徴として、発達のゆっくりさや筋緊張の低下が見られる一方で、多くの患者さんが非常に社交的で、笑顔が多く、親しみやすい性格をしているという点が挙げられます。

その屈託のない笑顔は、ご家族や周囲の人々を明るくする力を持っています。

非常に希少な疾患ですが、遺伝子検査(特にマイクロアレイ検査)の技術が進歩したことで、診断される患者さんが世界中で増えてきています。

また、てんかんなどの合併症に対する管理法や、発達を促すための療育プログラムも整いつつあります。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、ゆっくりでも確実に成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病気の定義

クーレン・デ・ブリース症候群は、第17番染色体の長腕にある「17q21.31」という特定の領域に変化が生じることで起こる先天異常症候群です。

具体的には、この領域がごっそりと抜け落ちてしまう微細欠失、あるいはこの領域に含まれるKANSL1という重要な遺伝子に変異が起きることで発症します。

これにより、身体的な特徴、知的な発達の遅れ、筋緊張低下など、全身に様々な影響が現れます。

歴史と頻度

2006年に初めて報告された新しい疾患です。

発生頻度は、およそ1万6000人に1人から5万5000人に1人程度と推定されていますが、軽症の場合は診断されていないこともあるため、実際にはもう少し多い可能性もあります。

性別による差はなく、男の子も女の子も同じように発症します。

全体的な印象

多くの患者さんは、乳児期には哺乳の力が弱く、体が柔らかいフロッピーインファントとしての特徴を示します。

成長とともに、言葉の遅れや運動発達の遅れが目立つようになりますが、性格は明るく、人とのコミュニケーションを好む傾向があります。

てんかんや心疾患などの合併症を伴うこともありますが、生命に関わるような重篤な状態になることは比較的少なく、適切な管理下で元気に生活している方がたくさんいます。

主な症状

クーレン・デ・ブリース症候群の症状は、顔立ちの特徴、発達の特徴、そして合併症の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

1. 特徴的なお顔立ち(顔貌)

ご家族や医師が「何か特徴があるかな?」と気づくきっかけになることが多いサインです。

成長とともに変化し、その子なりの個性となっていきますが、以下のような共通した傾向が見られることがあります。

顔の形と額

顔全体が面長な印象を与えることがあります。

おでこが広く、高い位置にあるように見えます。

目と鼻

まぶたが少し腫れぼったい、あるいは目が細い眼瞼裂狭小が見られることがあります。

鼻は、先端が少し洋梨のように丸く膨らんでいる洋梨状鼻や、鼻の穴の間の壁が下に伸びているといった特徴が見られることがあります。

耳と口

耳の位置が少し低かったり、耳の形が変わっていたりすることがあります。

下唇が少し厚く、外側にめくれているような形をしていることも特徴的です。

これらの特徴は、決してネガティブなものではなく、KdVSのお子さんたちが持つ愛らしい共通点として捉えられています。

2. 神経発達と知的な特徴

ご家族が最も気にかけられる点かと思います。

筋緊張低下(フロッピーインファント)

生まれた直後から乳児期にかけて、全身の筋肉の張りが弱い状態が見られます。

抱っこした時に体がフニャッとしていたり、首がすわるのが遅かったりします。

この筋緊張の弱さは、哺乳のしにくさや、その後の運動発達の遅れに影響します。

運動発達の遅れ

首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れます。

歩き始めが2歳から4歳頃になることもありますが、多くのお子さんが独歩を獲得します。

関節が柔らかい関節弛緩が見られることも多く、独特の歩き方をすることがあります。

言語発達の遅れ

言葉の理解に比べて、言葉を話すこと(表出)が特に苦手な傾向があります。

これは、口の周りの筋肉を動かす運動企画の問題(口腔顔面失行)が関係していると言われています。

「あー」「うー」といった声は出るものの、意味のある単語が出るまでに時間がかかることがあります。

しかし、身振りやサイン、絵カードなどを使ったコミュニケーションはスムーズにできることが多いです。

知的障害

軽度から中等度の知的障害が見られます。

学習には時間がかかりますが、それぞれのペースで学び、成長していきます。

人懐っこい性格であるため、模倣(まねっこ)を通じた学習が得意な場合が多いです。

3. 性格と行動の特徴

KdVSの大きな特徴の一つが、その性格です。

親しみやすい性格

多くの患者さんは、非常に社交的で、初対面の人に対しても笑顔で接することができます。

ハッピーな気質を持っており、周りの人を癒やす力があります。

不安と過敏さ

一方で、変化に対して敏感だったり、大きな音が苦手だったりする一面もあります。

また、成長するにつれて、状況が読めずに不安を感じてしまうことや、注意力が散漫になるADHDのような傾向が見られることもあります。

4. その他の合併症

てんかん

患者さんの約半数に、てんかん発作が見られます。

乳児期から小児期に発症することが多く、ボーッとする発作や、全身がガクガクする発作などタイプは様々です。

多くの場合、抗てんかん薬でコントロールが可能ですが、定期的な脳波検査が必要です。

心疾患

心房中隔欠損症や心室中隔欠損症、肺動脈弁狭窄症などの先天性心疾患が見られることがあります。

多くは軽症ですが、手術が必要になる場合もあります。

腎臓・泌尿器の症状

水腎症(腎臓に尿がたまる)や、男の子の場合は停留精巣(精巣が降りてこない)が見られることがあります。

骨格の症状

背骨が曲がる側弯症や、胸の形が変わる漏斗胸、股関節脱臼などが見られることがあります。

関節が柔らかいため、脱臼や捻挫には注意が必要です。

視覚・聴覚

遠視、近視、斜視などの目の問題や、難聴が見られることがあります。

原因

なぜ、発達がゆっくりになったり、お顔立ちに特徴が出たりするのでしょうか。その原因は、体の設計図の一部が不足している、あるいは機能していないことにあります。

17q21.31領域の微細欠失

クーレン・デ・ブリース症候群の患者さんの大多数(約8割から9割)は、第17番染色体の長腕にある「17q21.31」という特定の領域が微細に欠失しています。

染色体は、遺伝子が詰まった図書館のようなものです。

この17q21.31という本棚の一部分が、ごっそりとなくなってしまっている状態です。

この欠失した部分には、いくつかの遺伝子が含まれていますが、その中でも特に重要なのが次に説明するKANSL1遺伝子です。

KANSL1遺伝子の変異

一部の患者さん(約1割から2割)では、染色体の欠失はなく、KANSL1という遺伝子そのものに小さな変異(誤字脱字のようなもの)が起きていることがわかっています。

つまり、本棚はあるけれど、重要な本の中身が読めなくなっている状態です。

染色体の欠失でも、遺伝子の変異でも、結果としてKANSL1遺伝子の働きが失われてしまうことで、KdVSの症状が現れます。

KANSL1遺伝子の役割

KANSL1(カン・エス・エル・ワン)遺伝子は、細胞の中でクロマチンという構造を調節する役割を担っています。

少し難しい話になりますが、私たちのDNAはヒストンというタンパク質に巻き付いて収納されています。

KANSL1が作るタンパク質は、このヒストンに目印をつけることで、「この遺伝子のスイッチをオンにしなさい」という指令を出す調節役(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ複合体の一部)として働いています。

つまり、KANSL1は「他のたくさんの遺伝子を働かせるためのスイッチ係」なのです。

このスイッチ係がいなくなってしまうと、脳の発達や体の形成に関わる多くの遺伝子が正しいタイミングで働けなくなり、全身に様々な症状が出ると考えられています。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方の17q21.31領域やKANSL1遺伝子に異常があれば発症します。

しかし、クーレン・デ・ブリース症候群の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクや、親御さんが17q21.31領域の逆位という特殊な構造を持っている場合があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断

医師は診察で、特徴的なお顔立ち、筋緊張低下、発達の遅れ、親しみやすい性格などを確認します。

しかし、これらの症状は他の染色体異常症候群(プラダー・ウィリ症候群や歌舞伎症候群など)とも共通する部分があるため、見た目だけで診断を確定することは難しいです。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

染色体マイクロアレイ検査(CMA)

17q21.31領域の微細欠失を調べるための第一選択の検査です。

通常の染色体検査(Gバンド法)では見逃されてしまうような小さな欠失も、この検査なら検出することができます。

KdVSの多くの患者さんは、この検査で診断がつきます。

遺伝子パネル検査・全エクソーム解析

マイクロアレイ検査で欠失が見つからなかった場合でも、症状からKdVSが強く疑われる場合は、KANSL1遺伝子そのものの変異を調べる検査を行います。

次世代シーケンサーという技術を用いて、遺伝子の配列を細かく読み取ります。

3. 全身の評価検査

診断がついた後は、合併症がないか全身をチェックします。

脳波検査:てんかんの有無を調べます。

心エコー検査:心臓の奇形がないか調べます。

腎臓エコー検査:腎臓や尿路の形を調べます。

眼科・聴覚検査:視力や聴力を調べます。

整形外科的検査:側弯症や股関節の状態を確認します。

医者

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の欠失や変異を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

治療は、小児科を中心に、神経内科、整形外科、リハビリテーション科などがチームを組んで行います。

1. リハビリテーション(療育)

KdVSのお子さんにとって、早期からの療育は非常に重要です。

理学療法(PT)

筋緊張が弱いため、体の中心(体幹)をしっかりさせ、お座りや歩行などの運動機能を高める訓練を行います。

関節が柔らかく不安定な場合は、足に合ったインソール(中敷き)や靴を使用することで、歩行が安定することがあります。

作業療法(OT)

手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。

日常生活動作(着替えや食事)の自立を目指します。

言語聴覚療法(ST)

言葉の発達支援を行います。

口の周りの筋肉の使い方が苦手な場合(口腔顔面失行)は、食べる練習(摂食指導)や、発音の練習を行います。

言葉が出にくい時期には、サイン言語(手話)や、絵カード、タブレット端末などの代替コミュニケーション手段(AAC)を積極的に取り入れることが推奨されます。

「伝えたい」という気持ちを満たすことが、言葉の発達を促す大きな力になります。

2. てんかんの管理

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。

脳波検査の結果や発作のタイプに合わせてお薬を選び、発作をコントロールします。

発作を抑えることは、脳の発達を守り、日中の活動を充実させるために重要です。

3. 定期的な健康管理

整形外科的ケア

側弯症は成長期に進行することがあるため、定期的に背骨のチェックを行います。

眼科・耳鼻科ケア

視力や聴力の変化に気づくために、定期的な検診を受けます。必要に応じて眼鏡や補聴器を使用します。

心臓・腎臓のケア

合併症がある場合は、専門医による定期的なフォローアップを続けます。

4. 教育と生活のサポート

就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。

親しみやすい性格を活かして、お友達との関わりの中で社会性を育んでいくことができます。

ただし、変化に弱い一面もあるため、スケジュールの変更を事前に伝えたり、安心できる場所を確保したりする配慮も必要です。

まとめ

クーレン・デ・ブリース症候群(KdVS)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: 17q21.31領域の欠失またはKANSL1遺伝子の変異により、遺伝子のスイッチ係が不足し、全身の発達に影響が出る先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 筋緊張低下、発達の遅れ、特徴的なお顔立ち、てんかんなどが特徴ですが、最大の特徴は「親しみやすく明るい性格」です。
  • 言葉の発達: 口を動かすのが苦手で言葉が遅れがちですが、理解力は比較的良好で、サインなどを使ったコミュニケーションが有効です。
  • 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
  • 管理の要点: 早期からの療育(PT, OT, ST)、てんかんの管理、合併症の定期チェックが中心となります。

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