クニエスト異形成症という、おそらく初めて耳にするような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「骨の成長に関わる生まれつきの病気です」と説明を受け、さらに「背が伸びにくいです」や「網膜剥離に注意が必要です」といった話をされて、小さなお子さんの体になにが起きているのか、これからどうなってしまうのかと、計り知れない不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は非常に稀な疾患であるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報は限られており、専門的な医学用語ばかりで理解するのが難しいと感じることもあるかもしれません。
クニエスト異形成症は、1952年にヴィルヘルム・クニエスト博士によって初めて報告された骨系統疾患です。
骨系統疾患とは、骨や軟骨の成長や形成に生まれつきの変化がある病気の総称です。
この病気は、体の土台となるコラーゲンというタンパク質、その中でも特に軟骨や眼球に多く含まれる「II型コラーゲン」を作る遺伝子に変化が起きることで発症します。
そのため、骨の成長だけでなく、目や耳にも特徴的な症状が現れるのが大きな特徴です。
非常に希少な疾患であり、100万人に1人程度の発生頻度とも言われています。そのため、専門医であっても頻繁に出会う病気ではありません。
しかし、この病気は「II型コラーゲン異常症」というグループに属しており、類似の疾患との比較などから、治療や管理の方法は確立されつつあります。
知的な発達に関しては、基本的には正常であることが多く、適切な医療的サポートを受けることで、学校に通い、社会で活躍されている患者さんがたくさんいらっしゃいます。
まず最初にお伝えしたいのは、適切な医療的介入と、周囲の理解があれば、お子さんの未来は決して暗いものではないということです。
お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。
病気の定義
クニエスト異形成症は、骨の端にある骨端と呼ばれる部分と、背骨である脊椎の形成に変化が生じる脊椎骨端異形成症の一種です。
その中でも、II型コラーゲンという物質の異常によって引き起こされるII型コラーゲン異常症というグループに分類されます。
このグループには、他にもスティックラー症候群や先天性脊椎骨端異形成症などが含まれますが、クニエスト異形成症は、胴体の短縮や関節の腫大といった特徴的な症状の組み合わせで診断されます。
なぜ「スイスチーズ」と呼ばれるのか
この病気の病理組織、つまり軟骨の組織を顕微鏡で見ると、非常に特徴的な所見があります。
軟骨の基質の中に、大きな穴がたくさん空いているように見えるのです。
これがまるで穴あきチーズのように見えることから、スイスチーズ軟骨と呼ばれています。
これは、軟骨を作るためのコラーゲンの網目が弱く、構造を保てずに隙間ができてしまっている状態を表しています。
この弱い軟骨が、骨の成長や関節の機能に影響を与えているのです。
全体的な特徴
主な特徴は、著しい低身長、背骨の曲がりなどの脊柱変形、関節がゴツゴツとして大きくなる関節腫大、そして近視や網膜剥離といった眼の症状です。
生まれた時から体が小さく、手足も短いという特徴がありますが、顔立ちや関節の特徴などは成長とともにはっきりしてくることもあります。
主な症状
クニエスト異形成症の症状は、骨格だけでなく、目や耳、口の中など全身に及びます。
症状の程度には個人差がありますが、多くの患者さんに共通するポイントについて詳しく見ていきましょう。
1. 骨格と成長の特徴
最も目立つ症状であり、生活への影響も大きい部分です。
著しい低身長
胴体(体幹)と手足の両方が短くなるタイプの低身長です。
生まれた時の身長も平均より低く、その後の成長も緩やかです。
最終的な成人の身長は、100センチメートルから145センチメートル程度になることが多いですが、個人差が大きいです。
ダンベル状の骨
レントゲンを撮ると、太ももの骨(大腿骨)などの形が、鉄アレイやダンベルのように両端が大きく、真ん中がくびれた形に見えることがあります。これはこの病気の診断において非常に重要なサインです。
関節の腫大と拘縮
膝や肘、指の関節が、骨端(骨の端っこ)の拡大によってゴツゴツと大きく見えます。これを関節腫大と呼びます。
また、関節の動きが制限され、完全に伸びきらない、あるいは曲がりきらないといった関節拘縮が見られることが多いです。
指の関節も節くれ立って見えることがあり、これを指節間関節腫大と呼びます。
脊柱変形(側弯症・後弯症)
背骨が左右に曲がる側弯症や、後ろに曲がって猫背のようになる後弯症が高い頻度で見られます。
これは、背骨の形が平らになる扁平椎という変化によるものです。
背骨の変形が進むと、胴体が短く見える(短胴)原因となり、心臓や肺の機能を圧迫することもあるため、定期的なチェックが必要です。
2. 顔貌と口の中の特徴
クニエスト異形成症には、共通するお顔立ちの特徴があります。
平坦な顔貌
顔の中央部分が平らで、鼻の付け根が低い鞍鼻と呼ばれる特徴が見られることがあります。
また、目が少し飛び出しているように見えることもあります。
口蓋裂(こうがいれつ)
口の中の天井部分が割れている口蓋裂を合併することがあります。
また、顎が小さいために舌が喉の奥に落ち込みやすいピエール・ロバン連鎖という状態が見られることもあります。
これにより、生まれた直後に呼吸が苦しくなったり、ミルクが飲みにくかったりすることがあります。
3. 眼の症状(視力を守るために最重要)
骨の症状と同じくらい、あるいはそれ以上に注意が必要なのが目の症状です。
II型コラーゲンは眼球の中にある硝子体というゼリー状の組織の主要な成分だからです。
強度近視
幼少期から強い近視が見られることが多いです。
網膜剥離
眼球の内側の膜である網膜が剥がれてしまう網膜剥離のリスクが非常に高いです。
硝子体の構造が弱く、液状化しやすいために、網膜を引っ張ってしまうことが原因です。
網膜剥離は痛みなく進行し、放置すると失明につながるため、定期的な眼底検査が絶対に欠かせません。
水晶体亜脱臼・白内障
眼のレンズである水晶体がずれたり、濁ったりすることがあります。
4. 聴覚の症状
難聴
伝音性難聴(音を伝える部分の問題)や、感音性難聴(神経の問題)を合併することがあります。
耳小骨などの形成不全や、中耳炎を繰り返すことが原因となる場合があります。
言葉の発達に影響するため、早期の検査と対応が必要です。
5. 運動発達
首すわり、お座り、歩行などの運動機能の発達は、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。
これは、骨や関節の問題によるものであり、知的な遅れによるものではありません。
歩き始めが2歳から3歳頃になることもありますが、多くのお子さんが独歩を獲得します。
歩き方は、股関節や膝関節の影響で、体を左右に揺らすような特徴的な歩き方になることがあります。

原因
なぜ、骨が伸びなかったり、網膜が剥がれやすかったりするのでしょうか。その原因は、体の組織を支える重要なタンパク質の設計図にあります。
COL2A1遺伝子の変異
クニエスト異形成症の原因は、第12番染色体にあるCOL2A1(シーオーエルツー・エーワン)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、II型コラーゲン(タイプツー・コラーゲン)というタンパク質を作る設計図です。
II型コラーゲンの役割
私たちの体には様々な種類のコラーゲンがありますが、II型コラーゲンは主に以下の場所に存在しています。
軟骨:骨が成長するための土台であり、関節のクッションです。
硝子体:眼球の中を満たしているゼリー状の物質です。
内耳:音を感じる器官の一部です。
II型コラーゲンは、3本の鎖がらせん状に絡まり合って、強靭なロープのような構造を作ります。
これが軟骨や眼球の形を保つための骨組みとして機能しています。
何が起きているのか(ドミナント・ネガティブ効果)
クニエスト異形成症では、COL2A1遺伝子の変異により、作られるコラーゲンの鎖の一部に傷がついた状態になります。
問題なのは、この傷ついた鎖が、正常な鎖と一緒に絡まり合ってしまうことです。
3本のうち1本でも不良品が混ざると、完成したコラーゲンのロープ全体が弱くなったり、うまく網目構造を作れなくなったりしてしまいます。
これをドミナント・ネガティブ効果(阻害効果)と呼びます。
正常なコラーゲンが半分あるだけでは不十分で、不良品が混ざることで全体の構造が壊れてしまうため、軟骨がスカスカ(スイスチーズ状)になったり、眼球の中身が不安定になったりするのです。
特に、クニエスト異形成症では、この3本の鎖が組み上がる領域(ドメイン)に変異が起きることが多いとされています。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のCOL2A1遺伝子に変異があれば発症します。
親から子への遺伝
ご両親のどちらかがクニエスト異形成症である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。
突然変異
しかし、クニエスト異形成症の患者さんのほとんどは、ご両親はこの病気ではなく、ご本人の代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異によるものです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察、レントゲン検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 臨床診断とレントゲン検査
医師は、身長の伸び悩みや、関節の腫れ、顔立ちの特徴などを診察します。
そして、診断の決定的な根拠となるのがレントゲン検査です。
大腿骨のダンベル状変形。
背骨(椎体)が平べったくなり、さらに縦に割れ目が入っているように見える冠状裂という所見。
骨盤の形の変化。
手足の骨端(骨の端)の遅れや変形。
これらの特徴的な骨の形が見られる場合、クニエスト異形成症が強く疑われます。
2. 遺伝学的検査
確定診断のために最も確実な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してCOL2A1遺伝子に変異があるかを調べます。
似たような症状を持つ他のII型コラーゲン異常症(脊椎骨端異形成症先天型など)と区別するためにも役立ちます。
3. 眼科検査
診断時および診断後は定期的に必ず行います。
視力検査だけでなく、散瞳(瞳孔を開く目薬を使用)して眼底検査を行い、網膜の状態や硝子体の状態を詳しく調べます。
4. 聴覚検査
難聴の有無を調べるために行います。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復してコラーゲンを正常にする根本的な治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療やケアを行うことで、機能を維持し、生活の質を高めることは十分に可能です。
治療は、整形外科、眼科、耳鼻科、小児科、歯科などがチームを組んで行います。
1. 眼科的管理(失明予防)
最も重要な管理の一つです。
強度近視に対しては、眼鏡やコンタクトレンズで矯正します。
網膜剥離に対しては、早期発見が何より重要です。剥離が起きる前の裂け目(網膜裂孔)の段階で見つかれば、レーザー治療で進行を食い止めることができます。
万が一剥離してしまった場合は、硝子体手術やバックリング手術などの専門的な手術が必要になります。
「目が見えにくい」「視野が欠ける」「黒い点が見える(飛蚊症)」といった訴えをお子さんができないこともあるため、症状がなくても半年に1回程度の定期検診を欠かさないことが大切です。
2. 整形外科的管理
脊柱変形の治療
側弯症や後弯症に対しては、進行を防ぐための装具(コルセット)を使用することがあります。
変形が強く進行する場合や、神経症状が出る可能性がある場合は、背骨を金属で固定する手術(脊椎固定術)を検討します。
首の骨(頚椎)が不安定な場合は、首の神経を守るために特に慎重な管理が必要です。
関節の治療
関節の拘縮に対しては、理学療法(リハビリ)を行い、可動域を保つようにします。
足の変形(内反足など)がある場合は、ギプス矯正や手術を行うことがあります。
変形性関節症による痛みが強い場合は、将来的に骨切り術や人工関節置換術などが行われることもあります。
3. 口蓋裂と呼吸の管理
口蓋裂がある場合は、形成外科で閉じる手術を行います。これにより、言葉の発音や食事がスムーズになります。
顎が小さくて呼吸が苦しい場合(ピエール・ロバン連鎖)は、うつ伏せ寝の指導や、必要に応じて舌を固定する手術、あるいは気管切開などが行われることもありますが、成長とともに顎が大きくなり改善することも多いです。
4. 聴覚の管理
中耳炎になりやすいため、耳鼻科でのケアを継続します。
難聴がある場合は、補聴器を使用し、言葉の発達をサポートします。
5. 生活環境の調整
低身長や関節の動きの制限に合わせて、生活環境を工夫します。
踏み台の利用、洋服の直し、学校での机や椅子の調整などです。
学校生活では、体育の授業での配慮(首への負担がかかるマット運動の禁止など)や、黒板が見えにくい場合の座席の配慮などを先生と相談します。
まとめ
クニエスト異形成症についての解説をまとめます。
- 病気の本質: COL2A1遺伝子の変異により、II型コラーゲンの構造が弱くなる病気です。軟骨と眼球に強く影響が出ます。
- 主な特徴: 著しい低身長、ダンベル状の骨、関節の腫大、脊柱変形、強度近視、網膜剥離のリスクなどが特徴です。
- 知的な発達: 基本的に正常であり、通常の学校教育や社会生活が可能です。
- 管理の要点: 整形外科による骨と関節のケアに加え、眼科による定期的な網膜チェックが失明を防ぐために極めて重要です。
- 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
