KBG症候群(KBG Syndrome)

医療

KBG症候群という、おそらく初めて耳にするような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「ANKRD11という遺伝子に変化があります」や「永久歯が大きくなる特徴があります」といった専門的な話をされて、まだ具体的なイメージが湧かずに戸惑っていらっしゃるかもしれません。

特に、この病気は1975年に報告されたものの、遺伝子の原因が特定されたのは2011年と比較的最近であるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が少なく、海外の情報ばかりで不安を感じていらっしゃる方も多いことでしょう。

KBG症候群は、ヘルマン博士らによって報告された先天性の疾患です。

病名のKBGとは、最初に報告された3つの家系の家族のイニシャル(Kさん、Bさん、Gさん)をとって名付けられました。

以前は非常に稀な疾患と考えられていましたが、近年の遺伝子解析技術の進歩により、実はこれまで原因不明の発達遅滞とされていた方の中に、KBG症候群の方が多く含まれていることがわかってきています。そのため、診断される患者さんの数は世界中で急速に増えています。

この病気の大きな特徴として、永久歯の前歯が大きいこと、低身長、骨格の特徴、そして発達のゆっくりさなどが挙げられます。

また、ADHDなどの行動特性を持つこともありますが、多くの患者さんはとても愛嬌があり、親しみやすい性格をしていると言われています。

診断を受けたばかりの今は、将来への不安でいっぱいかもしれません。しかし、この病気は生命に関わるような重篤な内臓の病気を合併することは比較的少なく、適切なサポートを受けることで、地域社会の中で豊かな生活を送っている方がたくさんいます。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病気の定義

KBG症候群は、複数の臓器や体の部位に特徴が現れる多発奇形症候群の一つであり、知的障害や発達の遅れを伴う遺伝性疾患です。

原因は、第16番染色体にあるANKRD11遺伝子の機能不全です。

この遺伝子がうまく働かないことで、顔立ち、歯、骨、脳の発達などに影響が出ます。

発見の歴史と頻度

1975年に報告されましたが、長らく原因遺伝子が不明でした。

2011年にANKRD11遺伝子の変異が原因であることが突き止められてから、診断技術が飛躍的に向上しました。

正確な発生頻度はまだわかっていませんが、これまで考えられていたよりも頻度が高い疾患である可能性が指摘されています。

性別による差はなく、男の子も女の子も同じように発症します。

全体的な特徴

最も有名な特徴は、永久歯の上あごの前歯が非常に大きい巨歯症と呼ばれる症状です。

しかし、これは乳歯の時期には目立たず、生え変わりの時期になって初めて気づかれることが多いです。

その他、低身長や、言葉の遅れ、少し不器用な面などが見られますが、症状の重さは人によって全く異なります。

同じ遺伝子の変化を持っていても、ほとんど症状がない軽症の方から、手厚いサポートが必要な方まで様々です。

主な症状

KBG症候群の症状は、顔や歯の特徴、骨格の特徴、神経発達の特徴の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではありませんが、代表的なものについて詳しく見ていきましょう。

1. 歯と顔貌の特徴

KBG症候群の診断において、最も重要な手がかりとなるのがお顔と歯の特徴です。

巨歯症(きょししょう)

この病気の最大の特徴です。上あごの真ん中の2本の前歯、すなわち上顎中切歯の幅が広くて大きいことが特徴です。

男性では幅10ミリメートル以上、女性では幅9.7ミリメートル以上ある場合に巨歯と判断されることが多いですが、顔とのバランスで大きく見えることもあります。

重要なのは、これが永久歯の特徴であるということです。乳歯の段階では気づかれないことが多く、小学校低学年くらいの生え変わりの時期に「あれ?前歯が大きいな」と気づかれることがよくあります。

また、歯の表面に小さな突起があるマンメロンという状態が長く残ることもあります。

特徴的なお顔立ち

顔の形は逆三角形で、おでこが広く、あごに向かって細くなっていく傾向があります。

眉毛が濃く、一直線に近い形をしていたり、左右がつながり気味だったりすることがあります。

鼻の付け根が高く、鼻先が少し上を向いていることもあります。

耳の位置が目よりも低い位置にあることもあります。

これらの特徴は成長とともに変化し、その人なりの個性として定着していきます。

2. 骨格と成長の特徴

体の成長や骨の形にも影響が出ることがあります。

低身長

患者さんの約半数からそれ以上に、低身長が見られます。

生まれた時の身長や体重は平均的なことが多いですが、幼児期から学童期にかけて身長の伸びが緩やかになり、同年代の子よりも小柄になる傾向があります。

成人になっても、平均身長より低いまま経過することが多いですが、成長ホルモン治療が効果的な場合もあります。

骨年齢の遅れ

手のレントゲンを撮ると、実際の年齢よりも骨の成長具合が若い骨年齢遅延が見られることがよくあります。

これは、体がゆっくりと成長していることを示しており、思春期が遅く来る傾向とも関連しています。

脊椎や手足の特徴

背骨が曲がる側弯症や、背骨の形そのものに変化が見られることがあります。

また、手の小指が短い短指症や、小指が内側に曲がっている内反指が見られることもあります。

肋骨の数が通常より少ない、あるいは多いといった変化が見られることもあります。

3. 神経発達と知的な特徴

ご家族が日常生活で最もサポートを必要とする部分かもしれません。

発達の遅れ

首すわり、お座り、歩行などの運動発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

少し不器用さがあり、運動が苦手な場合があります。

言葉の遅れ

言葉が出始めるのが遅く、話し始めても流暢に話すまでに時間がかかることがあります。

しかし、こちらの言っていることを理解する力は比較的良好な場合が多く、コミュニケーション意欲は高いお子さんが多いです。

知的障害

軽度から中等度の知的障害が見られることが多いです。

しかし、中には知的障害を伴わず、通常の学級で学習しているお子さんもいます。

学習のペースはゆっくりですが、着実に積み重ねていくことができます。

4. 行動と精神面の特徴

KBG症候群のお子さんには、いくつかの行動特性が見られることがあります。

ADHD(注意欠如・多動症)

落ち着きがない、集中力が続かない、衝動的に動いてしまうといったADHDの特性を持つお子さんが比較的多く見られます。

じっとしているのが苦手で、興味のあることに次々と飛びついてしまうことがあります。

自閉スペクトラム症(ASD)

対人関係の難しさや、こだわり行動といった自閉スペクトラム症の特性が見られることもあります。

親しみやすい性格

ADHDなどの特性がある一方で、基本的には人懐っこく、社交的な性格のお子さんが多いと言われています。

人との関わりを楽しみ、愛嬌のあるキャラクターで周囲から愛される存在になることが多いです。

5. その他の合併症

てんかん

患者さんの数割に、てんかん発作が見られます。

多くは小児期に発症しますが、抗てんかん薬でコントロールできる場合がほとんどです。

難聴

中耳炎を繰り返しやすいことによる伝音性難聴や、音を感じる神経の問題による感音性難聴が見られることがあります。

摂食障害

乳児期にミルクを飲む力が弱かったり、離乳食の進みが悪かったりすることがあります。

心疾患

先天性の心疾患を合併することがありますが、重篤なものは少ないと言われています。

原因

なぜ、前歯が大きくなったり、背が低くなったりするのでしょうか。その原因は、体の設計図の調整役に生じた変化にあります。

ANKRD11遺伝子の変異

KBG症候群の原因は、第16番染色体にあるANKRD11(アンカードイレブン)という遺伝子の変異、または欠失です。

この遺伝子は、アンキリンリピートドメイン含有タンパク質11という長い名前のタンパク質を作る設計図です。

染色体の微細欠失(16q24.3欠失)

遺伝子の文字が変わってしまう変異だけでなく、ANKRD11遺伝子がある「16q24.3」という場所がごっそりと抜け落ちてしまう欠失によってもKBG症候群は起こります。

この場合、ANKRD11以外の隣接する遺伝子も一緒に失われることがあるため、症状が少し異なる場合がありますが、基本的にはANKRD11の機能が失われることが主な原因です。

ANKRD11の役割

ANKRD11タンパク質は、クロマチン制御因子と呼ばれる重要な役割を担っています。

私たちの体を作る遺伝子は、普段はヒストンという糸巻きに巻き付いてコンパクトに収納されています(これをクロマチン構造と呼びます)。

遺伝子が働くためには、この糸巻きが緩んで、設計図が読み取れる状態になる必要があります。

ANKRD11は、この「遺伝子の読み取りやすさ」を調節する、いわばオーケストラの指揮者のような役割をしています。

特に、脳の神経細胞の発達や、骨や歯の形成に関わる遺伝子たちの働きをコントロールしていると考えられています。

何が起きているのか(ハプロ不全)

KBG症候群では、2つあるANKRD11遺伝子のうちの片方が壊れたりなくなったりすることで、正常なタンパク質の量が半分になってしまいます。これをハプロ不全と呼びます。

指揮者が一人欠けてしまうことで、脳や骨を作るための指令がうまく伝わらなくなり、発達の遅れや特徴的な身体症状が現れると考えられています。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のANKRD11遺伝子に異常があれば発症します。

しかし、KBG症候群の患者さんの多くは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

一方で、症状が軽微で気づかれていなかった親御さんから遺伝するケースもあります。診断がついた後によく見てみたら、実はお母さんも前歯が大きくて小柄だった、ということがわかることもあります。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断

医師は診察で、以下の特徴を確認します。

大きな永久歯の前歯(巨歯症)。

特徴的なお顔立ち。

低身長や骨年齢の遅れ。

発達の遅れや知的障害

手の骨の特徴。

特に、「巨歯症」と「発達の遅れ」などの主要な症状が揃っている場合にKBG症候群が疑われます。

しかし、乳幼児期はまだ永久歯が生えていないため、見た目だけで診断するのは難しいことが多いです。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

遺伝子パネル検査・全エクソーム解析

最近は、発達の遅れなどの症状がある場合に、多くの遺伝子を一度に調べる網羅的な検査が行われることが増えています。

これにより、KBG症候群が疑われていなかったお子さんでも、偶然ANKRD11遺伝子の変異が見つかり診断に至るケースが増えています。

これは診断の旅(診断がつかずに病院を回ること)を終わらせる大きな力となっています。

染色体マイクロアレイ検査

16q24.3領域の欠失を調べる検査です。

遺伝子そのものの変異ではなく、染色体の欠失が疑われる場合に行われます。

3. 全身の評価検査

診断がついた後は、合併症がないか全身をチェックします。

歯科診察:歯の大きさや噛み合わせを確認します。

手のレントゲン:骨年齢を評価します。

心エコー検査:心臓の奇形がないか調べます。

脳波検査:てんかんの有無を調べます。

聴覚・眼科検査:難聴や視力の問題を調べます。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変異を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

治療は、小児科、歯科、整形外科、児童精神科、リハビリテーション科などがチームを組んで行います。

1. 歯科・矯正治療

KBG症候群において、歯科の管理は非常に重要です。

前歯が大きいことによる見た目の問題や、歯並びの悪さ、噛み合わせの問題に対して、矯正治療を行います。

歯が大きいことで顎のスペースが足りなくなることがあるため、計画的な治療が必要です。

また、虫歯になりやすいこともあるため、定期的な歯科検診とフッ素塗布などが推奨されます。

2. 成長とホルモン治療

低身長に対しては、成長ホルモンの分泌を調べる検査を行うことがあります。

もし成長ホルモンの不足が確認された場合は、成長ホルモン補充療法が行われます。

また、ホルモン不足がなくても、SGA性低身長などの基準を満たせば治療の対象になることがあります。

治療によって身長の伸びが改善する例も報告されています。

3. リハビリテーション(療育)

発達の遅れに対して、早期からの療育が推奨されます。

理学療法(PT)

運動の不器用さやバランス感覚の弱さに対して、体を動かす楽しさを感じながら運動機能を高める訓練を行います。

作業療法(OT)

手先の細かな作業や、日常生活動作の練習を行います。

書字や着替えなどの苦手さをサポートする道具の提案も行います。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対して、コミュニケーションの支援を行います。

言葉だけでなく、ジェスチャーや絵カードなどを使って「伝わる喜び」を育てていきます。

4. 行動面のサポートと教育

ADHDや自閉スペクトラム症の特性がある場合は、環境調整が大切です。

集中しやすい静かな環境を作ったり、予定を見える化して安心感を与えたりする工夫が役立ちます。

必要に応じて、集中力を高めるお薬や、衝動性を抑えるお薬を使用することもあります。

学校生活では、特別支援学級や通級指導教室など、お子さんの特性に合わせた環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、本人のペースに合わせた学習支援を行います。

親しみやすい性格を活かして、集団生活の中で社会性を育むことができます。

5. てんかんと聴覚の管理

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬を服用してコントロールします。

難聴がある場合は、中耳炎の治療をしっかり行ったり、必要に応じて補聴器を使用したりします。

定期的な聴力検査を忘れないようにしましょう。

まとめ

KBG症候群についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: ANKRD11遺伝子の変異により、遺伝子の働きを調節する指揮者が不足し、全身の発達や形成に影響が出る先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 永久歯の大きな前歯、特徴的なお顔立ち、低身長、発達の遅れなどが特徴です。
  • 性格と行動: ADHDなどの特性を持つことがありますが、基本的には社交的で親しみやすい性格のお子さんが多いです。
  • 原因: 多くは突然変異によるものであり、親のせいではありません。
  • 管理の要点: 歯科矯正、成長のフォロー、療育、行動面のサポートが中心となります。

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