遺伝子検査の結果報告書に記された「Intellectual developmental disorder, autosomal dominant 7(MRD7)」という長い英語の診断名、あるいは「DYRK1A遺伝子の変異」という結果を見て、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「頭が小さくなりやすい傾向があります」や「言葉の発達がゆっくりになります」といった話をされて、聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。
特に、「7型」という番号がついた診断名は、医学的な分類のための名称であり、一般的な病名として耳にすることはまずありません。インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、海外の専門的な論文ばかりが出てきて、途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。
まず最初に、言葉の整理をさせてください。
この「常染色体顕性知的発達障害7型」は、近年では原因となる遺伝子の名前をとってDYRK1A関連症候群(DYRK1A-related syndrome)という名前で呼ばれることが一般的になってきています。
これは、第21番染色体にあるDYRK1A(ディルクワンエー)という遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。
小頭症(頭のサイズが小さいこと)や、知的発達の遅れ、特徴的なお顔立ちなどを主な特徴とします。
非常に希少な疾患ですが、近年の遺伝子解析技術(全エクソーム解析など)の進歩により、これまで原因不明の発達遅滞とされていた方の中に、この病気の方が多く含まれていることがわかってきました。そのため、診断される患者さんの数は世界中で少しずつ増えています。
まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。
お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。
病名の意味と「優生(優性)」について
検索されたキーワードに「優生遺伝」とありましたが、これは医学用語の「優性遺伝」のことだと思われます。
現在、日本医学会では差別的な意味合いや、「優れている」という誤解を避けるため、「優性遺伝」を「顕性遺伝(けんせいいでん)」、「劣性遺伝」を「潜性遺伝(せんせいいでん)」と言い換えるようになっています。
したがって、この病気の正式名称は「常染色体顕性知的発達障害7型」となります。
ここでの「顕性」とは、「優れている」という意味ではなく、「両親から受け継ぐ2つの遺伝子のうち、片方に変化があれば症状として現れる(隠れずに表に出る)」という遺伝の形式を表しているに過ぎません。
つまり、「知的発達障害を引き起こす遺伝子変異の中で、7番目に登録された顕性遺伝のタイプ」という意味です。
DYRK1A関連症候群の特徴
MRD7の原因遺伝子はDYRK1Aです。
この遺伝子は、脳の神経細胞の発達や成長に非常に重要な役割を果たしています。
この病気の大きな特徴は、全体的な発達の遅れに加えて、小頭症(頭囲が小さいこと)が高い頻度で見られることです。
また、てんかんや摂食障害(ミルクが飲みにくい、食事が進まない)などを合併することもあります。
自閉スペクトラム症のような行動特性を持つことも多く、人との関わり方にその子なりの特徴が見られることがあります。
希少疾患としての位置づけ
正確な発生頻度はわかっていませんが、知的障害を持つ方全体の中で、このDYRK1A変異が原因である割合は0.1パーセントから0.5パーセント程度と言われており、非常に稀な病気です。
しかし、小頭症を伴う知的障害の中では比較的頻度の高い原因の一つとして注目されています。
主な症状
DYRK1A関連症候群(MRD7)の症状は、身体的な特徴、発達の特徴、そして行動面の特徴の3つに大きく分けられます。
すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。
1. 身体的な特徴(小頭症と顔貌)
出生時や乳幼児期から気づかれることが多い特徴です。
小頭症(しょうとうしょう)
この症候群の最も代表的な特徴の一つです。
頭囲、すなわち頭の周りの長さが、同年代の平均に比べて小さい状態を指します。
生まれた時から小さい場合もあれば、生まれた時は平均的でも、その後の頭の成長が緩やかになり、徐々に小頭症が明らかになる場合もあります(後天性小頭症)。
頭が小さいことは、脳の容量が小さいことを反映していますが、必ずしも知的能力と完全に比例するわけではありません。
華奢な体つきと低身長
全体的に小柄で、痩せ型の体型をしているお子さんが多いです。
身長の伸びが緩やかで、低身長の基準に該当することもあります。
骨格が細く、華奢な印象を与えることがあります。
特徴的なお顔立ち
成長とともに、この症候群に特有のお顔立ちが見られることがあります。
目が奥まっていて(眼球陥凹)、眼差しが深い印象を与える。
鼻が短く、鼻の穴が少し上を向いている。
耳の位置が低く、形がシンプルである。
あごが小さく、後ろに下がっている(小顎症)。
上唇が薄い。
これらは「DYRK1A顔貌」と呼ばれることもありますが、ご家族に似ている部分も当然あり、愛らしい個性の一部です。
2. 神経発達と知的な特徴
ご家族が最も心配される点の一つかと思います。
精神運動発達遅滞
首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。
歩き始めが1歳半から数歳になることもありますが、多くのお子さんが独歩(一人歩き)を獲得します。
歩行は少し不安定で、足を広げて歩く失調性歩行と呼ばれる特徴が見られることがあります。
言語発達の遅れ
言葉の発達には、特有の傾向があります。
こちらの言っていることを理解する力(受容言語)に比べて、自分で言葉を話す力(表出言語)がより強く影響を受ける傾向があります。
言葉が出始めるのが遅く、話し始めても単語が中心だったり、発音が不明瞭だったりすることがあります。
しかし、言葉は出なくても、身振りや表情、絵カードなどを使ってコミュニケーションをとる意欲は持っていることが多いです。
中等度から重度の知的障害が見られることが多いですが、軽度のお子さんもいます。
学習には時間がかかりますが、それぞれのペースで学び、できることを増やしていくことは十分に可能です。
3. 行動面・精神面の特徴
DYRK1A関連症候群では、自閉スペクトラム症(ASD)と診断されるような行動特性がよく見られます。
自閉的傾向
視線が合いにくい、特定の物事に強いこだわりを持つ、同じ動作を繰り返す(常同行動)、変化を嫌うといった特徴が見られることがあります。
手を叩く、体を揺らすといった動きがよく見られることもあります。
不安と多動
新しい場所や環境に対して強い不安を感じたり、じっとしているのが苦手で動き回ってしまったりする(多動・衝動性)ことがあります。
一方で、慣れた環境や人に対しては、人懐っこく接することもあります。
4. 摂食・消化器の問題
乳幼児期から続く、ご家族にとっての大きな悩みの一つになりやすいのが食事の問題です。
哺乳・摂食障害
赤ちゃんの頃はミルクを吸う力が弱かったり、飲み込むのが下手だったりすることがあります。
離乳食が始まってからも、固形物を噛むのが苦手だったり、特定の食感や味を嫌がったり(偏食)、食事に非常に時間がかかったりすることがあります。
体が大きくなりにくい原因の一つに、この食事の問題が関係していることがあります。
消化器症状
便秘や、食べたものが胃から食道へ戻ってしまう胃食道逆流症などが見られることがあります。
5. その他の合併症
てんかん
患者さんの約半数以上に、てんかん発作が見られます。
乳幼児期に発症する熱性けいれんから始まり、その後てんかんと診断されるケースや、点頭てんかん(ウエスト症候群)のようなタイプを発症するケースもあります。
多くは抗てんかん薬でコントロールを目指しますが、調整が必要な場合もあります。
眼科・耳鼻科的問題
視力の問題(遠視、乱視、斜視など)や、視神経の異常が見られることがあります。
また、中耳炎を繰り返しやすいことによる難聴などにも注意が必要です。
骨格・筋骨格系の問題
背骨が曲がる側弯症や、足の変形(偏平足など)、関節が硬くなる拘縮が見られることがあります。
原因
なぜ、頭が小さくなったり、言葉が遅れたりするのでしょうか。その原因は、脳の発達をコントロールする重要な酵素の不足にあります。
DYRK1A遺伝子の役割
この病気の原因は、第21番染色体にあるDYRK1A(Dual-specificity tyrosine phosphorylation-regulated kinase 1A)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、リン酸化酵素(キナーゼ)というタンパク質を作る設計図です。
DYRK1Aキナーゼは、脳の神経細胞が増えたり、成熟したり、正しい場所に移動したりする過程で、非常に重要な役割を果たしています。いわば、脳を作る工事現場の現場監督のような存在です。
ハプロ不全(量が足りない)
DYRK1A関連症候群では、2つあるDYRK1A遺伝子のうちの片方が変異して機能しなくなることで、作られる酵素の量が半分になってしまいます。これをハプロ不全と呼びます。
脳を作るための監督が半分しかいないため、神経細胞の数が増えにくかったり(これが小頭症につながります)、神経回路のつながりがうまくいかなかったりして、発達の遅れや知的障害が起こると考えられています。
ダウン症候群との関係
実は、DYRK1A遺伝子は、ダウン症候群(21トリソミー)とも深い関係があります。
ダウン症候群では、21番染色体が3本あるため、DYRK1A遺伝子の量が通常よりも多くなっています(過剰発現)。
一方、DYRK1A関連症候群(MRD7)では、逆にDYRK1A遺伝子の働きが不足しています。
つまり、この遺伝子は多すぎても少なすぎても、脳の発達に影響を与えるという、非常に繊細なバランス調整を行っている遺伝子なのです。
遺伝について(顕性遺伝と突然変異)
この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のDYRK1A遺伝子に変異があれば発症します。
しかし、この病気の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。
ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。
1. 臨床診断の難しさ
小頭症や発達の遅れは、他の多くの病気でも見られる症状です。
そのため、顔立ちの特徴や経過だけでDYRK1A関連症候群と診断することは非常に難しく、遺伝子検査が行われるまでは「原因不明の知的障害」や「小頭症」とされることがよくあります。
2. 遺伝学的検査
確定診断のために最も確実な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してDYRK1A遺伝子に変異があるかを調べます。
特定の遺伝子を狙って調べる検査もありますが、最近では次世代シーケンサーという技術を使って、発達障害に関連する多くの遺伝子を一度に網羅的に調べる全エクソーム解析などの検査が行われることが増えています。
これにより、偶然DYRK1A遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースが増えています。
3. 画像検査
脳のMRI検査
脳の構造に大きな異常がないかを確認します。
DYRK1A関連症候群では、全体的に脳が小さい(小頭症)以外に、脳幹や小脳が小さい、脳梁が薄い、皮質のしわが少ないなどの特徴が見られることがありますが、決定的な診断根拠となる特有の異常パターンがあるわけではありません。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。
1. リハビリテーション(療育)
お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。
理学療法(PT)
体のバランス感覚を養い、お座りや歩行などの運動機能を高める訓練を行います。
歩行が不安定な場合は、足に合ったインソール(中敷き)や靴を使用することで、安定性が増すことがあります。
作業療法(OT)
手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。
日常生活動作として、着替えや食事、道具の使い方の練習をします。
感覚過敏がある場合は、感覚統合療法などを取り入れて、感覚の受け取り方を調整する練習を行うこともあります。
言語聴覚療法(ST)
コミュニケーション能力の向上を目指します。
言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。
「伝えたい」という気持ちを引き出し、周りがそれを受け止めることで、コミュニケーションの意欲が育ちます。
また、摂食指導(食べる練習)もSTの重要な役割です。噛む力や飲み込む力に合わせて、食事の形態や介助方法をアドバイスします。
2. 合併症の管理
てんかんの治療
てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。
脳波検査の結果や発作のタイプに合わせてお薬を選び、発作をコントロールします。
食事と栄養の管理
体重が増えにくい場合は、高カロリーの栄養補助食品を利用したり、食事の回数を増やしたりする工夫をします。
極端に食事が進まない場合や、誤嚥のリスクが高い場合は、経管栄養(鼻からのチューブや胃ろう)を検討することもありますが、これはお子さんの成長と体力を守るための選択肢の一つです。
眼科・耳鼻科・歯科のケア
定期的な検診を行い、視力や聴力の問題があれば眼鏡や補聴器などで対応します。
歯並びや虫歯のリスクもあるため、歯科でのケアも大切です。
3. 教育と生活のサポート
就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。
個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。
自閉的傾向や不安が強い場合は、見通しを持たせるための視覚的な支援や、落ち着ける環境づくりが役立ちます。
まとめ
知的発達障害7型(MRD7/DYRK1A関連症候群)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: DYRK1A遺伝子の変異により、脳の発達に必要な酵素が不足し、小頭症や発達の遅れが起こる先天性の疾患です。
- 主な特徴: 小頭症、華奢な体つき、特徴的な顔立ち、言葉の遅れ(特に話すこと)、知的障害、自閉的行動特性などが特徴です。
- 原因: 親からの遺伝ではなく、突然変異によるものが大半です。「顕性遺伝」という形式をとります。
- 治療: 根本治療はありませんが、療育、てんかん管理、摂食指導によって、生活の質を向上させることができます。
- 予後: ゆっくりですが確実に成長します。多くの患者さんが家族とのコミュニケーションを楽しみ、愛されて生活しています。
